倉雁洋の蔵の中

まあ、そうはいってもまーたすぐ戻ってきそうな気はするんですけどねー。

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 しばらく後、俺達が立っていたのはとあるビルの前だった。

 辺りは暗い。周囲には他のビルもあるが、何処も明かりがついていなかった。街灯も、割られていたりしてまともに灯っているものはほとんどない。空は、いつものように曇りだった。……本当に、俺の人生は太陽と無縁らしい。

 とある町の闇金融。小町がその実兄から聞き出したお袋の居場所は、そこだった。そこはとある暴力団が経営に関与していることで有名で、警察も手を出せない状況だという。

 当然というかなんというか、俺の親父が金を借りていたのもそこだった。

 そのビルの前で、俺と小町は佇んでいた。自分では見えないが、俺の顔はいまかなり真っ青になっていることだろう。一方で小町の方は、いつものように不敵な笑みを浮かべていた。
 当然俺は、この少女が何をしようとしているのか理解していた。だからこそあり得ないと言いたい。

 ここに、たった二人で乗り込もうと言うのか。

 そんな事、現実的ではない。あり得ない。しかし、小町は平然と、戸惑っている俺を置いてその店へと足を進めた。

「あぁん? 嬢ちゃん、ここがどこだかわかってんのか?」
 
 さっそく、ビルの前にたむろしていたチンピラが前に出てくる。やたらと派手なシャツを着た、パンチパーマの男。明らかに、その道の人間だった。

「ああ、判ってるさ。コイツのお袋さんがここにいんだろ? 会いに来たって伝えてくれ」
「ああ!? 何言ってやがんだ、この餓鬼!」

 小町は、そんな街中で見たら思わず目をそらしてしまいそうなチンピラに、しかし平然と用件を伝えていた。その態度はあまりにも堂に入ったものであり、むしろチンピラの方が狼狽しているようだった。
 チンピラが懐から何かを取り出す。それはひと振りされると、そこそこの長さの棒になった。金属製のそれは、恐らく殴られれば骨の一つや二つが折れるかもしれない。

「痛い目見たくなきゃ、さっさと帰んな!!」

 しかしそれを目の前につきだされても、小町はなおも不敵な笑みを浮かべていた。

「悪いがな、下っ端。コイツのお袋さんがお前らの後ろにいるんだ。……会わせてもらうぞ」

 そう言って、小町は懐から何かを取り出す。
 それは、白い鞘に包まれた、短い刀。いわゆる、ドス、合口というものだった。

「テメェ、鉄砲玉か!!」

 チンピラが棒を振るう、それよりも尚速く。


 ――カチンと、澄んだ音を立てて小町の持つ合口が鳴いた。


「うおおおおおおおぉぉぉぉ!?」

 その瞬間。
 あり得ないことに、今まで地面に立っていたチンピラが、重力に逆らって上空へと飛んで行った。その有様はまるで空が地面になり、天空に向かって落ちていっているようだった。

「悪いな。お前と地面の“縁”少し切らせてもらった。まあ、完全には切れてないから、死ぬ前には降りてくるだろうさ」

 俺は上空を見上げる。叫んでいたチンピラの声は、徐々に遠のいていった。

「んあ? なに呆けてるんだよ。さっさと行くぞ」

 俺はあまりの出来事に呆然として固まったままだった。チンピラは、もう空高く『落ちて』いき、すでにその姿は見えない。
 地面との“縁”を切った、と小町は言っていた。それはまさか、地面との引力を断ち切ったというのか? そんなの非現実的すぎる。
 ……今まで見たことのない異常事態。科学があらゆることを解明していくような時代に、それを真っ向から否定する現象。俺の理解力では、到底把握しきれなかった。
 そうやって呆けていると、ドタドタという足音がビルから響いてくる。結構な人数がこちらに向かってきているようであった。

「オィィィ! どうしたぁ!?」
「どこの殴り込みじゃあ!?」

「はいはい、邪魔邪魔」

 各々が俺達を威嚇しながら、数人のチンピラがビルから下りてくる。中には、明らかに日本で禁止されているはずの飛び道具を持っているやつまでいた。
だというのに、小町はそんな得物を見ても平然と、面倒くさそうにその男たちに対峙していた。

「死にさらせぇ!!」

 パアン!
 乾いた音が響く。例の得物を持つ男が、小町に銃口を向けその引き金を引いたためだった。
 初めて聞いた、拳銃が使われる乾いた音。火薬により弾丸を飛ばし、人を傷つける武器。それは、一人の少女の命など軽く握り潰してしまうはずだったのだろう。

「俺もそれで死ねれば苦労しないんだがな」

 しかし。
 明らかに拳銃で撃たれたはずの小町は、合口を握ったまま気だるそうに立っていた。

「あのクソババァ、俺らを苦しめるためにそういった武器の類と俺らの“縁”を切ってきやがったんだよ。おかげで戦場に出ても死にやしねぇ。苦しんで生き続けろ、ってことだとさ」

 パアン! パアン!
 発砲音が続く。
 それでも小町はそんな事を気にした風もなく、何の恐れも無くそいつに近づいていく。その顔は、何処までも大胆不敵で。自分に弾丸が当らないことを完全に信じ切っている顔だった。

「さて……覚悟はいいな? 逆スカイダイビング、楽しんできな!」

 ――再び、小町の合口が鳴く。

「「ぎゃあああああぁぁ!!」」

 そうして、その場にいたチンピラ達は一人残らず空の藻屑と化していった。

「もう出てこないか。んじゃ、さっさと行くぜ」

 そう言って、ビルの中に入って行く小町。
 あり得ない。俺は今日、何度その言葉を呟いただろうか。上空を見上げても、もうチンピラ達は見えない。そこには暗い空があるだけだった。
 俺は何処か夢を見ている気持ちで、ふらふらと小町の後に着いていった。

 
(五へ続く)
 
 
 
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縁切り!?

すごい奇抜な技ですね!

しかもそれを過去に繋げて…


すごいです。

2010/9/20(月) 午前 9:05 [ ひじき数人 ]

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ひじきさん、こんにちは。
そうですね、『縁起』ってそれほど詳しくはないのですが、中々に深いテーマだと思います。で、弁天様ときたら『縁切り』で有名。なら組み合わせてみようかと……。
あんまり深く考えてないもので、褒められると照れます(笑)。

追記:お名前間違って入力していました。失礼しました。

2010/9/20(月) 午前 11:13 倉雁 洋


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