倉雁洋の蔵の中

まあ、そうはいってもまーたすぐ戻ってきそうな気はするんですけどねー。

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「うっし、んじゃ行きますか!」

 昨日、つまりあの後。俺達は何事も無く家に帰り、無事に一夜を過ごした。俺達はまたあいつらが来ないかと心配したが、小町がそれは無いと断言してきた。

『もう、あいつらはそれどころじゃないさ』

 その言葉の通りだった。
 昨日の闇金融は、跡形もなく消え去った。後から聞いた話では、その暴力団の方でいざこざが起き、それどころの話ではなくなったためらしい。
 そういうわけで、俺は釈然としない気持ちのまま、小町の出立を見送ることになった。


 そう。
 小町は今日、また旅に出る。


 なんでだ? 何で今日何だ? もっと、長く留まってもいいんじゃないか?

「今日って日に旅立ちたいからさ。俺は気分屋だからな。その気分にならないと動きたくねぇんだよ。逆に、旅立つと決めたならその時に旅立ちたい」

 そう言って、小町はいつものようにニカッと笑った。

「お前には世話になったからな。昨日、ちゃんと恩を返せてよかった。そうだ、お袋さん」
「……なあに? 小町ちゃん」
「もし良かったら、夫との”縁”切っておくか?そうすりゃ、たぶんもうこういうことには巻き込まれなくなるぞ」

 小町が合口を取り出す。
 その提案は、俺も望むところだった。今まで何度俺が願っても、叶わなかったこと。あの男との“縁”が切れれば、きっと俺もお袋も、自由に生きられる。

「……止めておくわ。その“縁”を切ったら、もうあの人に会えないんでしょう? 確かにあの人はダメな人だけど……やっぱり、会いたくもあるから」
「そっか。んじゃしょうがねぇな」

 しかしお袋はにこやかに微笑んだまま、ただ力強く首を横に振った。
 ……俺としては今すぐその“縁”を切ってもらいたい。それでも、そのお袋の顔を見た俺は何も言えなくなった。今の俺は、その言葉が何処までも重いことを理解していた。俺が口をはさめることじゃ、ない。
 俺が微妙な表情をしていると、小町はそんな俺の心の内を見透かすように、顔を覗き込んできた。その小町の顔に、ドキリと心臓が高鳴る。

「なら、お前が強くならなきゃな。お袋さんを守りぬけるように」

 ……ああ、任せておけ。とびっきりのいい男になって、守って見せるさ。

 俺は笑いながら、それでも真剣な瞳で小町を見つめて、そう言った。小町も、そんな俺の言葉に満足そうに微笑んでくれた。

「ああ、そうしろよ。……さて、んじゃ行きますか」









「……待ってくれ!」


 後ろを向いて道を歩き出した小町を、俺は大声で引き留めていた。

「ああ? 何だ、まだ何かあんのかよ?」

 不機嫌そうに立ち止まる小町。あの男にも立ち向かう力強さを秘めた双眸に、俺は少し気押された。それでも、俺は引き留めないわけにはいかなかった。

 ……なあ、やっぱりこの町に留まらないか? 住む場所なら、うちに住めばいい。ちょっと狭いけど、前だって三人で住んでたんだ、問題ないさ。借金も無くなったし、俺ももっとバイトするから、生活だって今よりずっと良くなる。
 なあ、一緒に住まないか? その、俺は――





「――お前が、好きなんだ」





 俺の正直な感情を言葉にする。
 コイツがどんなに破天荒でも構わない。どんだけ好き勝手やってもいい。俺は、コイツの事が好きなんだ。惚れた弱みだ、何だってしてやる。

「ばーか」

 しかし、小町はその首を縦には振ってくれなかった。

「お前な、せっかくこれから立ち直れるって時に、俺みたいなお荷物しょってどうすんだよ? 言っちゃなんだが、お前のその考え方、お袋さんにそっくりだぞ?」

 そこまで言って、小町は笑った。

「そんなんじゃ、俺が求めるいい男にはまだまだ遠いな。悪いが、そんなお前とは付き合えない。他を当たってくれよな」

 言うだけ言って小町は振り返り、また歩き始める。
 そう言われた俺は、しばらく黙ってその小さくなる背中をみていた。小町が言っていることは正しい。確かに、今の俺が小町を背負うことは難しいかもしれない。
 それでも――


「なら、一年後……いや、三年後。……何年後でもいい!また戻ってきてくれ! きっと、お前にふさわしい奴になってるから!!」



 ――それでも、俺は叫ぶ。

 今まで、人生はどうにもならないと思っていた。
 どんなに働いても、奇跡は起きないと思っていた。出口は無いと思っていた。
 でも。
 コイツが来てから、奇跡は起きた。
 世界にはまだ奇跡がある。
 世界は見捨てたモノじゃない!
 なら、俺だって変って見せる!


「……だから言ってんだろ?」

 俺の叫び声を聞いた小町は、そう言って足を止め、ゆっくりと振り向いた。



「お前は、俺の好みじゃないんだよ!」



 輝く朝日の中、小町が笑う。その笑顔は、今まで見たモノの中で最高の顔だった。

 ……ああ。しょうがない。それならしょうがないな。

「ああ、しょうがないさ。……んじゃ、またな」

 そう言って、今度は振り返らずに小町は去って行った。



 小町が何者だったかなんか知らない。ひょっとしたら、俺があんまりにも否定したから、神様って奴が来たのかもしれない。まあそんなことは本当にどうでもいいけどな。

「またな……小町」

 俺はいつか来る小町との再会に向けて、昇り始めた太陽の下、一歩を踏み出した。
 
 
第一話 完
 
 
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閉じる コメント(2)

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どうも、おしんです。
ラノベと言えば非日常の中にある日常を表わしていくものが殆どですが、この話は真逆で、その些細な非日常で人を魅了するのはかなり大変なことに思えます。
その中でこの「縁」の概念。刀の仕様も良いですが、何より縁自体が非常に魅力的です。あまり飛び過ぎてもいない為、物語から浮いてるということもありません。
羨ましい限りです。
しかし、辛いことを言うなら少し軸が細いです。例えばコメディ、例えばシリアス、他にもラブやファンタジーなどなど……。それが今一つ物足りなく、最初の方については日記になってしまったように見受けられました。
コメディと仮定するなら弁天様との掛け合いの中に笑いを含ませる、シリアスなら追い込まれた具合を強調し、主人公をもっと積極的に行動させる、こうして「この小説はこういうものなんだよ!」と主張して下さると、読んでる側としては世界に入り易いです。

駄文申し訳ありません。色々感じたので書かせて頂きました。
ファンポチさせて下さいw

2010/10/12(火) 午後 8:33 [ - ]

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おしんさん。
そうですね、確かに軸というか、一本通ったものがないかもしれません。この場合は主張、一発で分かるとっつきやすさ、と言うことですかね。まず結論というか、イメージを抱きやすくする。
うん、勉強になります。
まだそのうち手直ししていくつもりですが、その時はそのあたりも注意するように心がけします。
ご助言ありがとうございました。

そしてファン登録もありがとうございます。
私は物を書き始めて日が浅く、このように「何が悪い」という点を指摘することはできませんが、純粋におしんさんの作品を楽しませてもらいますね。

2010/10/12(火) 午後 8:47 倉雁 洋


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