倉雁洋の蔵の中

まあ、そうはいってもまーたすぐ戻ってきそうな気はするんですけどねー。

全体表示

[ リスト ]

※少しBLチック?
 
 
 
「大丈夫でござるか?」
 
 月光がきらめく夜。『首刈り人形』の鎌を受け止めたその小柄な少年は、少しだけ目をこちらにやってそうつぶやいた。馬の尻尾のように長い黒髪が揺れる。決して油断のない整った横顔に、俺は自分の状況を忘れてただただ見ほれていた。
 
「……あ、ああ」
 
 俺はかろうじて、うめくように答えた。もしかして俺はもう死んでいて、この少年は天使か何かなのだろうか。そう思ってしまうほどだったが、浅く切られた胸の痛みが、俺がまだ生きていることを――彼が、現実に存在していることを伝えてくる。
 
「そうでござるか。――すぐ片付ける故、少し待っていてほしいでござる」
 
 そう言って、にこやかに笑って前を向く少年。その言葉に、俺は頷くしかできなかった。
 人形と少年。人形の方は突然の闖入者に対しても、その無表情を貫き通している。対する少年の表情は、真剣そのもの。人形の動きに集中し、その隙を探っているようだった。
 両者の距離は互いに必殺の領域。どちらかがその武器を引き、相手を切り裂こうとすればその間に自分が切られてしまう。それほどに、両者は均衡していた。
 刹那とも万ともとれる時間が流れる。その均衡が崩したのは、突然のノイズ音だった。
 
『(――ザ、ザザザ―)……!』
 
 その音に合わせるように、人形が動く。己の武器である鎌を放り出し、人にはあり得ない速度で少年と距離を取った。少年が一拍遅れて刀を振るったが、それはただ人形のスカートを掠める程度にしかならなかった。
 
「――りょうかいしました。いちど、きかんします」
 
 大きく距離を開けた人形はそう二言三言呟くと、闇の中に身をひるがえして消えて行った。少年はそのまま刀を構え続けたが、完全に人形の気配が消え去ったことを感じ取ったのか、やがてその構えを解いて刀を鞘におさめた。その背中は、何処となく悔しそうでもある。
 
「っち! 出来ればここで終わりにしたかったでござるが。……そう、うまくいかないでござるな。なにはともあれ、一人でも助けられたなら良しとするでござるか」
 
 一言つぶやくと、少年はその刀を白い竹刀ケースへと収める。ジッパーを閉めてしまえば、それが真剣だと看破できる人間もいないだろう。肩に担げば、もうただの剣道少年にしか見えなくなった。……若干、竹刀ケースのサイズが大きいのか不格好であるが。
 
「さて……改めて。拙者、故あってあのようなモノを追いかけている、戦間司(いくさまつかさ)と申すものでござる。以後、良しなに」
「あ、ああ、俺は平賀均(ひらがひとし)、よろしく……」
 
 少年が差し出した手は小さい。恥ずかしながら、俺はその手をとってようやく立ち上がることができたのだった。脚は少しだるいが、動かせるようにはなっている。胸の傷も、見た目よりは大丈夫なようだった。もう血も流れていない。
 そうやって俺が自分の体の動きを確かめていると、少年――司がクスクスと笑っていることに気がついた。俺はその視線になんだか恥ずかしくなり、顔を向ける。
 
「ふむ、異常事態に巻き込まれた割には意外と冷静でござるな。では平賀殿、」
「なあ、さっきのあれはいったい――?」
「――いろいろと聞きたいことはあるでござろうが、まずはここを離れるでござるよ。このままでは拙者、首刈り事件の犯人にされてしまうでござる故」
 
 そう言われて、俺は自分と周囲を交互に見渡す。胸を切られた少年(俺)。首のない少女の死体、日本刀を持った少年(司)。……確かに、状況証拠は十分な気がする。
 首を縦に振った俺に、司はこぼれるような笑顔をみせた。
 
「物分かりがよくて助かるでござる。では、さっさと行くでござるよ。平賀殿、歩けるでござるか?」
 
 俺は脚を交互に動かしてみる。……動かせると言うだけで、歩くのはどうも難しいようだな。いまいち、バランスが取れない。
 
「ふむ。では拙者の肩をつかむでござる」
 
 とてとてと俺の横に立ち、竹刀ケースをかけていない方の肩を差し出す司。
 ここで一つ。
 俺の身長は大体百七十センチってとこだ。で、そんな俺の頭と司の頭はおおよそ三十センチくらい離れている。何が言いたいかといえば、つまり。
 
「……小さいな」
 
 コイツ、大体百四十センチくらいか? 肩を借りようにも、身長差があってどうにもうまくいきそうにない。よくもまあ、肩を貸すとか言ったもんだ。
 
「ち!小さいのではない! 拙者が普通で、お主らが大きくなっただけでござる!」
 
 どうも本人もその点を凄く気にしているらしい。『小さい』と言われた司は、さっきまでの笑顔はどこへやら。顔を真っ赤にして怒っていた。
 ……俺の中の嗜虐心がむくむくと首をもたげてくる。何これ、すっごくいじめたい。
 
「いや、それってお前が成長してないってことだろ?」
「そうではない! そうではないござる!」
「いやいや、謙遜すんなよ。いいか、小さいって事はステータスなんだって誰かも言ってたさ。きっと、お前は意味があってそのサイズなんだよ」
「その台詞もその台詞ですっごいムカつくでござる! 拙者、そっちだって小さくな……もとい、身長だって小さくないでござるよ!」
「へぇ。確か、高校生の平均身長って百七十センチくらいだったか? 俺がそれくらいだからよく覚えてるぜ。ん? お前何センチ?」
「うぎーーー!」
 
 おうおう、両手を上げて怒ってますよ。やべえ、すごく楽しい。さっきまで絶体絶命だったことが嘘だと思うくらい、落ち着く。もうちょっといじりたいんだが……。
 ちらりと首を傾ける。暗がりで見えないが、そこにあるはずなのは……一つの、少女だった物。さすがに、死体のそばでのんびりしてるわけにはいかないか。司の言うとおり、さっさと移動した方がいいだろう。
 
「わかったわかった。とにかく、さっさと行こうぜ。まだ足がうごかないから、肩……もとい、頭貸してくれ」
「肩! 肩貸すでござる! だから頭に手を置かないでほしムギュ!」
 
 まだぷんぷんしている司の頭に手を置き、なんとか歩く。少し歩くと、そこに見慣れたビニールの残骸があった。俺が買ってきたやつだな。おっと、チャンピ○ンは斬られたけど、プリンは何とか無事だったか……回収回収っとと。
 こぼれた物を拾い、切り裂かれて役に立たなくなったビニール袋を拾おうとした瞬間、ひときわ強い風が俺を撫でた。その風に乗って、ビニール袋が舞っていく。
 そのビニール袋は一度俺達の後ろへと流れた後、ただ上へ、上へと昇って見えなくなった。
 
 
 
「ふむ、ここが平賀殿の邸でござるか。……なかなか立派でござるな」
「古いだけさ。さ、とりあえずあがれよ」
 
 あの場から少し離れたところで安全を確認し、俺は司の手当てを受けた。司の見立てでは、皮と肉が少し斬れているくらいで消毒して包帯まいとけばとりあえず大丈夫だということらしい。手慣れているのか、テキパキと司が手当てしてくれたおかげですぐに終わった。
 ……いや、あんな切れ味いい鎌で斬られたのにこれだけの傷ってのもすげえな。やっぱあれか、懐に雑誌入れておけば鉄砲の弾も防げるっていうのは都市伝説じゃなかったのか。チャンピ○ンまじ凄いっす。
 と、まあそんなわけで、司に礼をしつつ詳しい事情の説明をしてもらうために、さっさと帰宅したってわけだ。
 
「ちょっと待っててくれ、今お茶入れてくる」
「お構いなく、でござるよ」
 
 一応そこそこに歩ける程回復した俺は、司を居間に残して台所に向かう。お茶の入れ方は婆ちゃんからみっちり教わってきた。何でも、爺ちゃんが大好きだったんだとか。その頃は、お茶だけにいつまでもお熱いことで、なんてくだらないことを考えていたが意外にこれが役に立つ。俺の周りの爺さんズとのコミュニケーションには欠かせないからな。
 そうこうしているうちにお茶の準備はできたが……はて。お茶受けがないな。いいや、さっき無事だったプリンを出してやろう。一個二百八十円の高級品だぞ。ま、司には命も助けられてるしそれくらいいだろ。
 
 俺がお茶とプリンをお盆に乗せて居間に戻ると、司は礼儀正しく待っていた。よくもまぁ、この長い時間を正座してまてるな。俺だったらすぐに音を上げるぞ。
 そんな事を考えながら、司の前にお茶を置いていく。
 
「ほい、おまたせ。んで、食い物がないんで、これで勘弁な」
「いやいや、そこまで気にしなくても……プリン!」
「おおう!」
 
 緑茶にプリン。ある意味ツッコミ待ちのボケみたいなもんだったが、司には関係なかったらしい。目の前にプリンを置こうとした瞬間、高速でひったくられてしまった。プリンを見つめている司の目がきらきらしてる。
 
「ふむふむ、しかもこれはなかなかの上物! 平賀殿、本当にくれるのでござるか!?」
「あ、ああ。遠慮なく……っ!」
 
 その瞬間、俺、閃く。
 
「待て!」
「!!?」
 
 おお、ピタッと動きとめやがった。
 いや、司がプリンを求めてる姿が尻尾の生えた子犬みたいに見えたから、もしやと思ったんだが……これは効果抜群みたいだな。明らかにこらえられない様子で、俺の事を見つめている。瞳もなんだか潤んでいるし、本物の子犬みたいだ。
 
「……」
「…………!!」
「…………………」
「………………………!!」
 
 さっきは正座しながら少なくない時間を待ってたっていうのに……たった十秒が何でこんなにつらそうなんだ、この駄犬は。んん? この……っていかん! 何をやってるんだ俺は。このままじゃかなり危ない人じゃないか!
 
「……よし」
「いただきます!!」
 
 俺が色々と顔から火が出そうな気持ちでゴーサインを出すと、司は一気にプリンのふたを取って食べ始めた。待たされていたせいか、本当に幸せそうである。
 そんな司とは反対に、俺は床に手を着けて沈んでいた。俺が実はSっぽかったのはこの際いい。今まで自分では知らなかったが、新たな一面として受け入れてやろう。
 だがしかし。野郎相手にノリノリって、俺って奴は……。ただでさえ源六とアレな噂が流れてるって話なのに、まさか本当に俺……いやいやいや、俺はノーマルだノーマルだ、巨乳のお姉さんが好きな普通の高校生だ!
 俺は自分の禁断の扉が開けられてしまったかもしれない恐怖に怯え、畳の上をゴロゴロと転がる。その間も司は幸せそうな笑顔のままプリンを貪っていやがった。
 結局、プリンを食べ終えた司が真面目な顔して話を始めようとするまで、俺は転がり続けたのである。
 
 
(二へ続く)
 
 
 
  にほんブログ村に参加しています。面白ければワンクリックお願いします。
https://novel.blogmura.com/ ←にほんブログ村 小説ブログ

閉じる コメント(8)

顔アイコン

時代ものかと思ったら違うんですね(^^;
私も、一応小説は書いて出してますが、ここまで旨くは出来てないなぁ(>_<)

2010/9/9(木) 午後 2:26 [ - ]

顔アイコン

飛鳥さん、いらっしゃいませ。
そうですね、自分が書くのは基本的に現代物です。時代劇物も好きですが、自分で書くには知識不足が目立っちゃって中々難しいんですよね。
おほめいただきありがとうございます。少し前にとある大手の掲示板で文章力が低いって言われまして。そう言う点結構意識してます。
これからも楽しませられるよう頑張っていきますね。
飛鳥さんの小説も、今度読ませてもらいます。

2010/9/9(木) 午後 2:30 倉雁 洋

顔アイコン

どうも!

ここまで読みましたが、結構楽しめたし怖かったです。
これからどうなるのやら・・・。

2010/9/11(土) 午後 1:29 [ ニック ]

顔アイコン

こんにちわ、カリカリジョージさん。
楽しんでいただけたようで嬉しい限りです。
でも、あくまでも処女作なのであまり期待しないでくださいね(笑)

2010/9/11(土) 午後 1:31 倉雁 洋

顔アイコン

嬉しいコメントありがとうございます。これからも宜しくお願いします。八王子は暑くなってきました。

2010/9/11(土) 午後 3:27 [ 清水太郎の部屋 ]

顔アイコン

? えと、清水太郎の部屋……さん?
ちょっとコメントの意味が分からないのですけど……。ブログはお伺いしましたが、コメントは残していないのですが……?

でも、まぁこれも一つの縁です。こちらにまで赴きいただき、ありがうございました。これからよろしくお願いします。

2010/9/11(土) 午後 3:45 倉雁 洋

おおっ!!平賀さんは同性愛者でしたか(^^;まあ、それもひとつの形ということで暴走しなければ問題は無いかな?巨乳の女の子が好きなんですね(^^;微乳の女の子もなかなか好きだったりしますが(^^;好みでしょうか?

そして、事件の真相が次回明らかになりますね♪この司の正体と首狩り人形の正体。次回も必見ですね♪

ではでは、傑作ポチです。

2010/10/29(金) 午後 4:59 クール

顔アイコン

クールさん。
あー、まだ真相までは遠いんですよ。説明ではありますけど。
物語的に、そうホイホイ出すわけにもいかないので……。

2010/10/29(金) 午後 5:02 倉雁 洋


.

ブログバナー

倉雁 洋
倉雁 洋
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で特産品がお手元に
11/30までキャンペーン実施中!
数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事