倉雁洋の蔵の中

まあ、そうはいってもまーたすぐ戻ってきそうな気はするんですけどねー。

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「始まりは、拙者のご先祖様でござる」
「ご先祖?」
 
 新しくお茶を入れてきて、一服。俺達は、ようやく真面目な話をし始めた。もう家に帰って来てから半刻は立った気がする。
 
「ふむ。江戸の初めのほうの話でござるが、我が戦間家のご先祖に剣の腕はカラキシだがカラクリが大の得意、という変わった方がいたでござる。名を戦間玄(いくさまげん)。変わり者でござったが、周囲の人に好かれるそれはそれは素晴らしい御仁だったそうでござる」
 
 そこで一息、司はお茶を飲む。程よい温度のそれが、司の唇を湿らせる。
 
「ところがある日、その玄様の娘がなくなってしまい……そこから歯車が狂い始めたのでござる。玄様はからくり人形を使ってその娘をよみがえらせようとして……」
「完成させたのか?」
「いや、玄様一人では結局中途半端なものしかできなかったそうでござる。自動で動く人形というところまではいったようなのでござるが、そこから先が……感情というものが備わっていなかったとか」
 
 感情のない人形、と言われて俺の背筋がひやりとした。脳裏には、あの青い髪のメイド服。首刈り人形の姿がよみがえる。ただ淡々と人の首を刈ってのけたあの人形の原点は、つまりそこなのか。
 しかし、仮にも江戸の昔。その時代でそんなロボットみたいなものを作っちまうなんて、その玄という人物は実際かなりの天才だったのではないかと思う。
 思わず考え込んでいる俺を一瞥した後、司は話を続けた。
 
「そんなある日、ヨーロッパから一人の錬金術師を名乗る男が来たのでござる。名を、三賀瑠曼(さんがるまん)。得体のしれない男だったが、その知識は本物だったそうでござる」
 
 ……三賀瑠曼ねぇ。なんかどっかで聞いたような名前のような、聞いたことがないような。何かの漫画に似たような名前があったと思ったんだが……思い出せない。
 
「……その男の協力のもと、ついに玄様は完全な人形を作り出した、と拙者には伝わっているでござる。その後玄様は亡くなり、三賀も姿を消したでござるが……」
「ござるが?」
「玄様がその研究をまとめた書物もなくなったのでござる。その書物に記されているのは自動人形の作りかた。錬金術師の手無くして完成しないとはいえ、感情がなく驚異の戦闘能力を備えたそれらは、恐ろしい兵隊となる。もし世間にその書物が渡れば、また戦乱の世を呼んでしまうかもしれないのでござるよ。時の将軍は秘密裏にその書を回収するよう、当時の御庭番と、拙者……のご先祖様に命令を下したのでござる」
 
 長いセリフを言って疲れたのか。そこで司は一息入れた。何処か、妙に感情がこもっていた気がする。
 
「記録によれば、かの戊辰戦争の裏側でも人と人形の諍いがあった……と聞くでござる。とにかく、その技術は戦間家から出たもの。故に、戦間家が止めなければならないのでござる」
 
 話が終わったのか、司はお茶でのどを潤した。……二人の間に沈黙が流れる。
 はっきり言って、俺にこいつの事情は関係ない。ただ巻き込まれちまっただけだ。しかし……。
 
「それにしても、平賀殿はなぜあの場所へ? 家の方角の真反対でござろう。コンビニに行ったとしてもあちらまでいくとは思えないでござるが……」
「……俺にもわからない」
 
 そう、俺にもわからない。なんで俺があそこであの場所に向かって行ったのか。悲鳴が聞こえたから? バカ言え、そんな熱血漢は源六だけで十分だ。俺なら当たらず触らず関わらず、さっさと離れるのが普通だろう。しかし、あの時はそうしなかった。あの感覚は……。
 
「なんか……何かに操られているような気持だった。確かに俺の脚で走っているのに、俺が動かしてるわけじゃないような。そんな微妙な感覚だったな」
「ふむ……?」
 
 思えば、あれだけ死にそうな目に会ったっていうのに、終わってみれば妙に落ち着いていた。いや、絶体絶命の時ですら妙に冷静に周りを観察していたような気がする。人形の動き、司の動き。それに、妙な男の声……。
 
「そういえば、あの声の主は何なんだ? 黒幕みたいなやつ」
「黒幕でござるか。それについては少し前から調査中でござるよ。分かっているのは、電波を使って音声を飛ばしているということ。妙な技術があるらしく、拙者の仲間達でも具体的な場所は見つかってないでござる」
「お? 仲間がいるのか?」
「……平賀殿。拙者だって別に一人で戦ってるわけじゃないでござるよ。さっき、時の将軍から拝命したといったでござろう? その時の御庭番の末裔や同じ戦間家の末裔で日本中、世界中をカバーしているのでござる。……まあ、人数が少ないため拙者が一人になることも多いのも事実でござる」
 
 司はかぶりを振る。ヤレヤレ、とでも言いたげなその仕草は――俺には別の感情が込められているように思えた。
 
「っと、話がそれてしまったでござるな。実は、巻き込まれた平賀殿には少し頼みたいことがあるのでござるよ」
「断る」
「刹那の反応速度!? もうちょっと考えてくれてもいいのではないでござるか!?」
「手伝えとかそう言うのなら、俺は断固として断るぞ。誰がいちいち危険なことに首突っ込むか」
 
 何度も言うが、そう言う熱血展開は源六を相手にでもしてくれ。確かに俺は生き残ったが、それは偶々だ。死んだあの子には悪いが、別に見ず知らずの子のために弔い合戦するつもりはない。
 そう考えての俺の拒絶反応だったが、司はため息とともに俺の言葉を否定した。
 
「そういうことなら願ったりでござるよ。拙者の頼みはまさにそれでござるからな」
「……何?」
「つまり、平賀殿には大人しくしててほしいのでござるよ。少なくとも、拙者があの人形をどうにかするまで。目撃者である平賀殿が狙われる可能性は高いでござるからな。お互いの利益に沿うでござろう?」
 
 司の提案は、確かに俺にとって願ったりかなったりだ。俺としてもそんな面倒くさいことに巻き込まれたくはない。……が、どこか引っかかる。
 
「一つ聞くけど、司。いつになったら人形を倒せるんだ?」
「……早くて、明日……もとい、今日ってところでござるな」
「おい。こっち見て話せ。んじゃ、遅かったらいつくらいなんだ?」
 
「……い、一ヶ月くらいでござるかな?」
 
「…………」
 
 俺は自分のこめかみがぴくぴくと動いていることを自覚していた。対する司は、そっぽを向いてへたくそな口笛を吹いている。……ごまかすなよ。
 
「……その間、俺にどうしろと?」
「……ぶっちゃけ、一切家から出ないでほしいでござる」
 
 司は横を向いたまま、曖昧そうな笑顔でそう言った。
 
「……できるか――――っ!!」
 
 思わず叫ぶ。コイツ、俺の生活をなんだと思ってるんだ。俺だって学校の生活があるし、買い物に行かなきゃ食いものだってなくなる。一か月もひきこもりなんてやってられるか!
 
「そ、そんなこと言っても、平賀殿を護衛できるだけの人材は割けないでござるよ。守ることができないなら、いっそ閉じこもっててほしいでござる!」
 
 頭が沸騰した俺が司の肩を掴んでがたがたと揺らすと、司は目を回しながらも答えてきた。言ってることは分かるが、納得できるか!
 
「ええい、その辺を何とかできないのか?!」
 
 俺はなおも司の体を揺らす。元々体格に差があるのだから、ふつうなら司はそのままゆすられ続けるはずだったが――コイツは、普通ではなかった。
 
「――何とも、出来ないでござる!!」
 
「……っ!」
 
 司は俺の手を力ずくではずし、叫ぶ。突然両腕が軽くなった俺はそのままバランスを崩して尻もちをついてしまった。そのまま、司が声をつむぐ。
 
「拙者だって、コレ以上被害者を出したくないでござる! でも、今動けるのが拙者だけ……! 一番被害を少なくしていくには、こうする以外に方法が無いでござる……っ!」
 
 俺は倒れたまま、司の言葉を身に受けた。理屈よりも何よりも、感情を持って振るわれる司の言葉。だからこそ、コイツの本心がよくわかった。
 ――結局、コイツは優しすぎるんだ。
 優しいから、後手にまわる。俺なんか放ってあの人形を追いかければよかったのに、それもしなかった。俺が殺された瞬間に人形を切れば良かったのに。そうすれば、これからの被害も抑えられるのに。それでも。コイツは、そうしなかった。
 
「はぁ、はぁ……」
 
 司は言いたいことを言い、肩で息をしていた。さっきまで自分が掴んでいた小さくて狭い肩が、上下に揺れている。その目は赤く、涙を流していた。
 俺は自分の手を握る。思えば、コイツが差し出した手は小さくとても男の手だとは思えなかった。その小さい手で懸命に武器を握り、人形と戦っている司。しかし今、感情をあらわにして泣いているコイツは――ただの、子どもに見えた。
 実は俺は、もう一つこの状況を何とかする方法が考え付いている。いや、恐らく司の方もそれは考えているだろう。ただ、多分コイツは絶対にそれを口にしないはずだ。コイツじゃあ、それを言えるはずがない。
 ……そして俺は、覚悟を決める。
 
「……平賀殿、分かってもらえたでござるか? 大丈夫、買い物とかなら拙者がなんとかするでござる、だから平賀殿は、」
「断る」
「っ、平賀殿!」
 
 もう一度俺を叱責しようとしたのであろう司を手で制して、俺は立ちあがって宣言した。
 
「俺もお前を手伝う。だから、お前の申し出は受け入れられない」
 
「な……平賀殿!?」
「元々、俺が狙われてる可能性が高いんだろ? なら、俺を餌にして人形を呼び出せばいい。そんで、俺が襲われたところをお前が仕留めれば万々歳だ」
 
 俺が提案したプランは、実に簡単な物。とどのつまりは釣りだ。俺と言う餌を使って人形と黒幕を釣り上げればいい。それなら俺はひきこもる必要もないし、事件も早く片がつくはず。俺も司も損をしないはずだ。
 
「しかし平賀殿、そんな事をしては万が一の時平賀殿の命も危ないでござるよ!? やっぱり、大人しくしてた方が……」
「馬鹿、そうならないように――お前がいるんだろ?」
「――っ!!」
 
 俺は自分の右手を差し出した。別に源六のように固くて武骨で、頼れるような手はしていない。それでも、一人の人間として司の前に胸を張って差し出した。
 
「言っておくがな。俺は自慢じゃないが、クラスメイトの女子より弱いんだ。しっかり守ってくれよ」
「……ハァ。本当に自慢にならないでござるな、それは」
 
 司は大きくため息をついた後、思いっきり呆れた目で俺を見てきた。まあ当然だろうな。本当に自慢にもなりやしない。
 しばらくそんな様子で司は佇んでいたが、やがて真剣な表情で俺の顔を見た。
 
「……良いのでござるな、平賀殿。今ならまだ、夢現で終わらせられるでござるよ。その道を捨ててまで、危険に身を投じる覚悟は?」
「そんなもんあるか。俺は、危険な目に会わないって信じてるからな。お前が守ってくれるんだろ」
 
 だから俺も司の目を真剣に見つめる。逃げる覚悟もしないし、危険な目に会う覚悟もいらない。俺に必要なのは、コイツを信じる覚悟って奴だろうな。
 俺の言葉に司は少しだけ頬を緩める。そして、その小さな手で俺の右手を取った。
「ならば、万事拙者に任せるでござるよ、平賀殿。これからしばらくの間、護衛をさせていただく。平賀殿には手も触れさせぬ故、ご安心召されよ」
「ああ、しばらく任せる」
「御意」
 
 俺の手と司の手ががっちりと握られる。お互い、もう緊張感や悲壮感なんてものは何処にもない。ただ穏やかに、笑顔を浮かべていた。
 
 ――ああ、やっぱりコイツはこうやって笑っている方がいい。
 
 
第三話へ続く
 
 
 
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殺人人形に歴史があったとは驚きです!

2010/10/17(日) 午後 1:25 [ ニック ]

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カリカリジョージさん。
直接首刈り人形につながるわけではないですけどね。
つつかれればメッキがはがれるような弱い歴史ですけど、「結果には原因がある」という言葉もありますし、ここで述べていない裏歴史も設定上はあります。

2010/10/17(日) 午後 5:50 倉雁 洋


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