倉雁洋の蔵の中

まあ、そうはいってもまーたすぐ戻ってきそうな気はするんですけどねー。

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「ふわぁああ、ああ」
「平賀殿、眠たそうでござるな」
 
 司と手を取り合った後、緊張が緩んだせいか大きなあくびをする。時計を見てみれば、すでに丑の刻を回っていた。明日も高校があるし、眠たくなるのも当然だろう。
 
「さて……んじゃ話もまとまったし、さっさと寝るか。司の部屋は客室でいいよな?」
「はい……って、はいいいい!?」
 
 俺があくびを噛み殺しながらも客室の準備をしに行こうとすると、司が素っ頓狂な声を上げて驚いていた。近所迷惑になりそうなくらいの音量に、俺の眠気も吹っ飛ぶ。
 
「何だ、どうしたんだ!?」
「せ、拙者もここで寝ろと!?」
「……いや、護衛なんだからそのほうがいいと思うんだが……外に宿とってあるのか? でもどっちにしろ今日はもう遅いだろ、泊まってけよ」
 
 妙にうろたえる司を見て、俺は合点する。確かに人形を追っているという割に、司は何の荷物も持っていない。宿とかセーフハウスとかそういうところに置いてあるのかもしれないな。とはいえ、さすがにこの時間。強いとはいえ、見た目は中学生くらいの少年なのだ。外に出したら警察の厄介になりかねない。
 
「あ、そ、その申し出はありがたいのでござるが、その……」
 
 俺の視線を受け、歯切れ悪く答える司。
 妙な奴だ。これくらいの年齢なら、護衛関係云々を除いたとしても男友達の家に泊まるくらい普通だろうに。それともアレか? 何か泊まりたくない理由でもあるのか?
 
「服とかなら俺の貸すぞ。かなり大きいかもしれないが、それぐらいなら何とかなるだろ」
「ち、違うでござる」
「そんじゃ、飯か? 言っちゃなんだが俺の料理は結構うまいんだぞ?」
 
 伊達に一年と半年を自炊してるわけじゃない。滅多にやらないが、特に土鍋を使って炊き上げた米は絶品だ。米にうるさい源六の奴に結婚してくれとまで言わせたからな。当然、全力で断ったが。
 
「それはちょっと魅力的だけど、そういうわけでもないでござる!」
 
 司は顔を真っ赤にして否定する。衣でもなく、食でもない。後は住くらいだけど……家は確かに古ぼけてるが住めないわけじゃない。女じゃあるまいし、家で泊まるくらい別に……。
 ……女?
 
「な、何でござるか?」
 
 俺は改めて司の事を観察してみる。つややかに黒い髪はしなやかに伸び、それを後ろでポニーテールにしている。身長はおよそ百四十センチ。手足や腰回りなど、全体的に細身で小柄。服装は学ラン。
 結論。男か女かわからない。
 
「その、なんだ。お前男だよな?」
 
 すっかり男だと思っていた俺は、心の中で万が一の覚悟をしながらストレートに問いかける。もしコイツが女だったら……いや、別にどうというわけでもないんだけど。そうだったとしても俺の好みの対極にあるわけだし。ただ、女を一晩泊めたとなるとばれた時の世間体が気になるわけで。
 
「――お、男でござるよ! ……わかったでござる、一晩世話になるでござる!」
 
 そんな俺の微妙な心境を知ってか知らずか、司は真っ赤なまま俺の言葉を力強く否定した。男であることを疑われたのが癇に障ったのか、司はそっぽを向いて怒る。やはりこの外見で女扱いされるんだろうな。
 ……それなら結局、何が嫌だったんだろうかとも思わなくもないが、まあ本人も吹っ切れたみたいだしべつにいいだろう。
 
「……OK、それじゃ客間の方を用意してくるから、シャワーでも浴びて待ってろ。服ならお前が入ってる間に持って来てやるから。タオルは脱衣所にあるもんを適当に使ってくれ」
「う、うむ……その……平賀殿?」
「なんだ?」
「覗かないでござるな?」
「……誰が覗くかっ!?」
 
 さすがに男の風呂を覗く趣味はない。俺はその場に司を置いて、さっさと客間へと向かった。
 ちなみに。
 その後、シャワーを浴びた司は俺のジャージを見事に着こなしていた。濡れた髪はさすがにまとめずに、長髪のまま流している。上半身は大きめのTシャツの上にジャージ。下は――
 
「……何でズボンはいてないんだ……?」
「サ、サイズが合わなくてずり落ちてくるのでござる! あんまり見ないでほしいでござるよ!」
 
 ――上半身のジャージが大きくて下着は見えないが、司はズボンをはいていなかった。本当に鍛えているのかわからない白い脚が眩しい。
 そのままさっさと寝ると部屋に行ってしまったが……その後にシャワーを浴びた俺が悶々としていたのも、仕方ない話だろう。
 色々な意味で、妙に疲れた一日だった。
 
 
 
「はぁ……」
 
 翌日……というか、その日の朝。俺は一人台所に立ち朝餉の支度をしていた。
 俺の朝は早い。学校まで少し距離があるため、大体毎日五時半くらいには起きだして飯を作っている。
 一応休みの日にバイトをしているし、婆ちゃんの遺産もそこそこあるのだが、節約できるところは節約していくのが俺のポリシー。弁当も毎日作っている。
 昨夜はさすがにいつもより遅く寝たとはいえ、その生活リズムを変える気はない。
 
「っと、今日は二人分だったな」
 
 朝二人分の食事が食卓に上るのは本当に久しぶりだ。フライパンの中のウインナーを炒めながら、ひと際小柄な少年の事を思い浮かべる。妙な人形を追っているという少年。その腕は細く、ても小さく、そして脚も折れてしまいそうなほど華奢で……。
 
「――ってオイ俺! 寝ぼけるな、正気に戻れ! あいつは男で、巨乳のお姉さんでもない! 迷うなよ、俺!」
 
 卵焼きにつけるつもりだった大根をガシガシとおろしながら、必死に煩悩を振りはらう。どうも夜中のジャージ姿? を見てからおかしい。これじゃまるで、あいつに恋してるみたいじゃないか。
 大根が下ろされる音とともに、心が静かになってくる。そうそう、この感じ。ただ無心に手を動かせば、脳裏に――
 
『平賀殿……』
 
「だーっシャー!」
ドゴン!「ゴフ!」
 
 ――脳裏に、上半身裸の司が思い浮かんだ瞬間、俺全力で自分の顔を殴っていた。かなり痛いが、おかげで眠気も覚めそうだ。頭を振って妄想の残照を振りはらう。意味深に胸を隠しているあいつの映像が、細切れになって流れた。
 
「ふむぅ……ひらがどの? なにやらさわがしいでござるが……」
 
 そうやって必死に猛る心を静めていた俺の背後から、司の声が響いた。ただしその発音がおかしい。どうもまだ眠っているような感じである。自制に成功した俺が油断して後ろを振り返ると――
 
「だーっシャー!」
ドゴンドゴン! 「ガフッ! ……効いたぜ……!」
 
 ――やっぱりズボンをはいていない司が立っていた。昨夜は着ていたジャージの上も、寝るために脱いだのか今はTシャツ一枚という艶姿である。おかげで、俺は再び自分の顔面に本気パンチを叩き込む羽目になった。
 
「すう……すう……」
 
 そしてそのまま、電池が切れるように床で丸まって眠る。その格好は際どいなんてもんじゃない。ギリギリだ。俺の位置からかろうじて見えていないだけという感じである。長い黒髪が放射線状に広がり、傍目にはTシャツだけの女の子が寝ているようにしか見えない。
 
「せめて、学ランに着替えてから来てくれ……」
 
 俺は切実そう思う。とはいえ、このまま司を放って置くわけにもいかない。はっきり言って邪魔だし、……目の毒だ。
 俺は恐る恐る司を抱きあげる。最深の注意を払って万が一にも下が見えてしまわないように気をつけながら、客間へと司を運んで行く。
 
「ふむぅ……」
 
 布団の中に突っ込まれた司が幸せそうに呟くの聞いて、俺は盛大なため息をつくのであった。
 
 
 
「というわけで、俺は学校に行くつもりだがお前はどうするんだ?」
「もぐもぐ……ふむ、拙者も付いていきたいところでござるが……さすがに、学校の中までは大丈夫でござろう。拙者はその間に仲間と連絡を取ってくるでござる。もし何か事があったら連絡してくだされ」
 
 弁当を作り終え、朝餉を今に運んで並べてる頃には司も起きだしてきた。その表情は眠たそうではあるが、さっきのように寝ながら歩いてくるというわけではない。服装はもちろん学ランである。安心すると同時に、ちょっとだけさびしく思ったのは……秘密だ。
 そのまま、飯を食べながら本日の予定について話し合う。協力すると言ったからには、お互いの関係は密にしておかなければならない。そういうわけで、司は自分の携帯電話の番号、アドレスが書かれた紙を渡してきた。
 
「了解。……そういえばお前って携帯持ってんだよな。なんか意外な気がする」
「ふむ……拙者もあまり必要ないのでござるが、どうしても持って行けという奴がいるので仕方なしに持ち歩いているのでござるよ。まぁ今回は役に立ちそうでござる」
 
 実際、この妙に古ぼけたしゃべり方をする少年が携帯電話を使いこなしているイメージはあまり湧かない。とはいえこの情報社会。携帯電話が無いと仲間内で困るのだろう。
 しかし、『奴』……? 若干嫌そうな顔をしてるし、親しくない相手なのか?
 
「誰なんだ? その携帯を持たせた奴って?」
「簡単にいえば、拙者と同じ一族の者でござるよ。世の中が変わっても人形と戦い続ける、頼もしい同士達なのでござるが……」
 
 味噌汁をすすりながら、苦々しそうに司は言葉を続ける。
 
「この携帯を渡したやつはなんていうか、その、面倒くさい奴でござってな。拙者のことをショタだなんだと言って追いまわしてくるのでござるよ。この携帯も本来は一族の技術がふんだんに使われている高性能な物なのでござるが……」
 
 前に調べた時には超高感度盗聴器と同じく超高感度・半永久稼働盗撮カメラが着けられてたでござる、と司はつづけた。それはもう、立派な犯罪者ではないだろうか。
 ……どうしよう、そいつにむかつくと同時に俺もその映像が見てみたくなってきた。むしろ、その技術を使って是非とも綺麗なお姉さんの生態を……。
 
「言っておくでござるが」
 
 突然の冷気。目の前の司から発せられるとてつもなく冷やかな目線に、俺の頭は一気に冷める。
 
「その時は受け取った瞬間にバラしたでござる故、そんなモノは残ってないでござるよ。その技術も厳重に封印させてもらったでござる」
 
 眼だけが笑わずに、しかしにっこりと笑う司。
 その表情に、俺は人類の希望が一つ潰えたことを知った。
 
 
(二に続く)
 
 
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閉じる コメント(6)

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平賀君もなんというか男なんですね。
その…、まぁ、理由は言えないですけど。

2010/10/18(月) 午後 7:03 [ ニック ]

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カリカリジョージさん。
まぁ、男の子ですから(笑)。

2010/10/18(月) 午後 7:07 倉雁 洋

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ここまで読ませていただきました。
はじめまして、蒼霜と言う者です。

司くん大好きです!!
すごく好みですぅ!!
これからも楽しみに読み進めていこうと思います!

2010/12/12(日) 午後 5:22 [ 蒼霜 ことり ]

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蒼霜さん。
初めまして、倉雁です。

読んでくださってありがとうございます!
拙い文章ですが、楽しんで下されば幸いです。
いつでも遊びに来て下さいね!

2010/12/12(日) 午後 5:39 倉雁 洋

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平賀くんは偉いですね〜
節約を心がけるとは・・・

平賀君の妄想がかわいかったです☆

2010/12/18(土) 午後 3:29 [ セツ ]

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セツさん。
お読みいただきありがとうございます。
平賀君もお年頃ですので、まあ色々と(笑)。
節約を心がけるのは、一応一人で暮らしているからですかね。
後はおばあちゃんから色々と言われたとか?(笑)。

2010/12/18(土) 午後 5:35 倉雁 洋


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