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さて、あっという間に午前中の授業が終わって今は昼休み。やっぱりと言うかなんというか、午前中の授業はほとんど寝て過ごしていた。何度か源六や田沼に起こされたらしいが全く記憶にない。
「さて、飯飯っと……って、ありゃ?」
俺は鞄の中身をあさるが、いつもの弁当箱はそこになかった。朝の出来事を思い出してみる。……ああ、台所に置きっぱなしだ。しまったな。
「あれ、平賀、お弁当は?」
「……購買か? 珍しいな……」
いつもはさっさと弁当を食べ始めている俺がそうしていないことに疑問をもったらしい田沼と源六が、机を動かしながらそう聞いてきた。そのまま俺の机も合わせて一つにする。
俺と源六、ついでに田沼はいつもこうやって昼時を過ごしていた。初めは俺と源六だけだったのだが、いつの間にか田沼が入ってきてこの形になったのだ。別に、男の友情に入ってきてどうのとは思わない。ただこんなことばっかりしていると、いつまで経っても源六と田沼がくっつかないんじゃないかと、俺は少々危惧している。
それはそれとして、このままでは俺は昼飯を食い損ねかねない。
「いや、弁当作ったんだが……忘れたっぽい。しょうがないから購買行ってくる」
この時間だとスタートダッシュの差で人気商品は売り切れてしまっているだろうが、背に腹は代えられない。俺は育ち盛りなのだ。腹が減ったままでは午後の授業を乗り切れない。
「あ、そ、それじゃあ今日私作りすぎちゃったから、これ、食べ-――」
『ブー、ブー、ブー』「あ、電話。はいはいっと」
「―――っ!」
突然かかってきた電話に、俺は自分の懐をあさって携帯を取り出す。田沼が鞄から何かを取り出そうとしたところで固まっているが、電話の相手を待たせるわけにはいかない。相手は……誰だ? 知らない番号だな。
「もしもし?」
『あ、平賀殿。拙者拙者』
ほう、拙者拙者詐欺とは新しい……って違うか。もしかしなくてもこのしゃべり方、この声。司の奴か。そう言えばあいつからもらった電話番号を、すっかり登録し忘れていた。
「司か?どうした?」
『ふむ。何、平賀殿昼食を忘れたようだったので学校まで届けに来たでござるが……どちらの教室にいるでござるか?』
「お、何? 弁当持ってきてくれたのか? スマンな。ああ、教室は2年C組で、場所は……」
これぞまさに天の助け。司に正面玄関からのこの教室の位置を伝え、電話を切る。
よかった。これで昼食代を無駄に使わないで済む。司は気がきくいい奴だなって、あ。
ふと、よく考えれば自分から受け取りに行けばよかったという事実に気づく。司が学校に入ってきたら、結構な騒ぎになってしまうんじゃないのか? ……まあもうこっちに向かっているだろうし、ここまで届けてくれるっていうならここで待ってればいいか。
そう自分を納得させた俺を、突如として凄まじい怒気が包み込んだ。身が燃えるような熱気でありながら、魂が凍りつきそうなくらいに寒い。
「ねぇ……平賀? 司さんって誰?」
俺は極力前を見ないようにしながら、震える手で携帯を懐にしまった。そのまま下を向いていると、徐々にその怒気が膨れ上がっていく。相反し矛盾したその感覚は、ただただ俺に生命の危機を伝えていた。
「ねえ平賀。その司さんって、お弁当持ってきてくれるような仲なの? だから今日お弁当持ってきてないの? もしかして……彼女さんなの?」
徐々に膨れて行く怒気は、このまま放っておけば物理的な脅威になりかねない。仕方なく、俺が観念して顔を上げると――そこには、般若がいた。
やばい。
何がやばいって田沼の目がやばい。あの首刈り人形なんて目じゃないほどの命の危険を感じる。婆ちゃん、俺何かしたっけ?
「い、いや、司はそのなんだ、親戚の子でな? 昨日うちに泊まったってだけで……彼女っていうか――」
「泊まった……っ!!? 平賀の家に!?」
俺の言葉は最後まで言い切る前に、田沼の大音量でかき消された。教室を揺るがすそのあまりの音量に、クラス中がざわめきだす。俺は、音の直撃を受けて目を回していた。
「い……いや、だから、泊まったって言っても……そいつは、男なんだ!」
「――嘘。平賀、楽しそうに電話してたもの。まるで好きな人に話しかけるみたいに」
「……マジか!?」
ショック。自分の会話なんて自分からは見えないものだが、そんな顔して話していたのか。一応相手は男なんだし、『好きな人に話しかけている』ようとか言われると色々と困る。主に、俺のアイデンティティが。
「泊まったって言ってたわよね? ……そう、とっても仲がいいのね。私がこんなにも苦労してても進展しないって言うのに、その女は……」
いけない。こいつが今何を言っているか分からないが、このまま放置したら確実にまずい。俺はおろか、司まで巻き込みかねない。
「(タスケテクレ、ゲンロク)」
「(……ムリダ、……イキロ)」
最後の頼み、大将軍源六へとアイコンタクトを送る。しかし返ってきた答えは絶望的な物だった。その源六の顔が何よりもその事を雄弁に物語っている。
……なあ、源六よ。俺とお前の出会いは小学校一年の頃、同じクラスでの事だったよな。あれから十年近く。中学校の時はお前についてって不良退治とか暴れん坊将軍とかやってたっけ。楽しかったよ。楽しかった。
だからな、源六。
頼むからそんな土気色の顔して震えてないで、俺の事を助けてくれ。
今にも拳が飛んできそうな圧力の中、俺は昔の懐かしい日々を思い出しながら源六へと最後の助けを求めた。……あ、目をそらされた。
(……ついに修羅場か……)
(むしろ今までなかったのが不思議なのよね)
(てっきり将軍と平均の殴り合いとかと思ったが……まさか平均が二股とは)
(平賀殺す……)
静かな教室のところどころからヒソヒソ話が聞こえてくる。俺とはかなりドキドキのベクトルが違うようだが、今やクラスメイトの誰もがもこの事態をドキドキしながら見守っているようだった。ああ、ちなみに『平均』は俺のあだ名だ。本当にどうでもいいことだが。
「(そう、そういうことね。私がこれだけやっても効果がなかったのはその女がいたからなのね。っふふふふ。いいわ、だったらそいつを×すれば)」
俺と源六が血の流れていない顔で震えている中、田沼は一人ブツブツと何事かを呟いていた。教室のざわめきの所為でよく聞こえないが……何か、法律とかそういう次元でやばい気がする。
「失礼するでござる。ここに平賀殿はおられるでござるか?」
そんな混沌とした中に響く、ソプラノのよく響く声。ああ、来てしまった……。
ある意味非常に空気を読み、そして非常に空気を読まないタイミングで登場したのは、ポニーテールの小柄な学ラン。肩には竹刀ケースを背負い、右手には風呂敷を持っている、若干時代錯誤の少年。
「おお、平賀殿! お弁当をお持ちしたでござるよ!」
そう言って少年――司は風呂敷を掲げながら、とことこと俺たちの机に向かってきた。その中性的な顔満面に浮かべた笑顔が、今は少し憎らしい。
司が入ってきたときから、教室から音が無くなっていた。先ほどまで騒いでいたクラスメイト達が息をのんでいるのが分かる。それはそうだろう。
これだけの美少年が現れたんだ、驚くなと言うのが難しい。しかも、現在進行形で話題の中心人物だからな。……ってアレ? そしたら今、クラスメイトの中ではこいつと俺が出来てるって話になるのか? ……勘弁してくれ。
「あ、あー、司、御苦労。ありがとうな、恩に着る」
「別に構わぬでござるよ。実は拙者も平賀殿が通う高校の中を見てみたかったでござるし、やっぱり平賀殿からあまり離れたくないでござるからな」
とびっきりの笑顔でコロコロと笑いながらそう言う司。――ああ、こいつやっぱり空気読めないやつなのか。
「……」「……」
田沼と源六、そして教室中の司以外の人間が固まっていた。……誰かこの状況を何とかしてくれ……。
(四へ続く)
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第三話の三と四が全く同じ内容ですよ〜
2010/9/10(金) 午後 7:16 [ 大和 ]
ああ、どうも(笑)
朝エラーが出まくってたからミスったんですね。
2010/9/10(金) 午後 7:24
うわぁ〜。一波乱ありそうですね。
2010/10/20(水) 午後 6:22 [ ニック ]
カリカリジョージさん、こんばんは。
一波乱と言うか何というか(笑)。
この辺はいわゆるギャグパート……なはず。
2010/10/20(水) 午後 6:30