倉雁洋の蔵の中

まあ、そうはいってもまーたすぐ戻ってきそうな気はするんですけどねー。

全体表示

[ リスト ]

「本当に買い出しはいいの?」
「ああ、別にすぐになくちゃいけないってものもないからな。明日の休みにでも行けばいいだろ」
「……それじゃ、今日無理に引きとめる必要なかったんじゃない?」
「そうかもな。でも司も楽しんでたし、それならそれでいいだろ」
「平賀……司君には甘いのね」
 
 仕事をこなしている俺達の元に乱入してきたのは、うちのクラスの担任だった。曰く、緊急の職員会議で校内の生徒を帰すことが決定したらしい。例の事件が隣町で発生したため、教師の間でも緊張が広がっているようだった。
 他の生徒、特に女性とは先生たちが手分けして家まで送ることになっているらしい。田沼については、俺達――というか源六がしっかりと送っていくことになった。武道も修めている源六はこういうところでも頼りにされている。
 そういうわけで俺達は中途半端な仕事を切り上げ、四人で田沼を送ることになった。当然、皆で買い出しに行く暇はない。田沼はそのことを申し訳なさそうに謝っていたが、事態が事態だ。そればかりは仕方ない。
 
「こっちの方は久しぶりに来たな。来る度にビルが増えてる気がするぞ」
「一応、民間企業参入の発展都市モデルだとからしいからね。うちの理事長が何枚も噛んでるって話だけど……」
 
 俺や源六が住んでいる北側の町は昔ながらの家や建物が多い。何でも、最初にこの町を作った人たちが住んでいたのがそちら側だったのだそうだ。その後、日本の発展とともに少しずつ南側の開発が進んで、今や立派な地方都市として発展していったのである。
 田沼が住んでいるのはその南側の一画だった。高校からビジネス街を抜け、真新しいマンションが立ち並ぶ場所がある。そこに田沼の家がある。俺達は四人で連れ添って、そこを目指していた。
 ショッピングモールやゲームセンターなどがある通りを歩く。いつもなら、俺達と同じように高校生が暇を持て余しているはずなのに、今日はその数もまばらだった。町全体から人が少なくなったような気がする。
 
「……やっぱり、皆家の中にいるかな」
「さあな。俺達だけならそんなこと気にせず遊びに――って、あ」
「……均」
 
 思わず口を滑らせた俺を源六が窘める。田沼は俺の言葉に対し、曖昧に笑っていた。
 
「いいわよ、松平。やっぱり、私がいなければよかったんだしね。……あーあ、私も男に生まれればよかったな。そうすれば司君や松平みたいに、平賀と一緒に遊びに行けるのに」
「何言ってんだよ、もう男みたいなもんだろってヘブロ!!」
「平賀殿。口は災いのもとでござるよ? というか、今の発言でそこに突っ込むところがダメダメでござる。もっと空気を読むでござるよ」
「……」
 
 田沼に殴られた頬が痛む。いくらなんでも男呼ばわりはまずかったか。でもこの拳が男に殴られた時よりも痛いのは事実である。……しかし司、お前に空気が読めない呼ばわりはされたくない。
 
「拙者としては、むしろ田沼殿がうらやましいのでござるがな」
「……? そう?」
「そうでござるよ。こうやって、気のいい仲間と一緒に学校に行って、恋をして。そしていつか子どもを産んで育てて、共に歩いていく。そうした普通だけど素晴らしい日常があるでござる。そんな人間らしい暮らしが、拙者にはうらやましくて仕方ないでござるよ」
 
 司が自嘲気味に笑う。それを言われた田沼も聞いていた源六も、その表情に言葉を無くしていた。俺でさえそうなんだ、仕方ないだろう。
 俺は一応、司の事情をある程度知っている。だからこそ、その言葉の意味も何となくわかる。もうこいつは、普通の恋愛をして普通の人生を送ることはできないのだろう。
 しかし――本当にコイツのこの笑顔はそれだけなのか? そりゃ、俺だって司のすべてを知っているわけじゃない。ただ、何かこいつが重要なことを意図して隠していような気がして、酷く心に引っかかった。
 
「――平賀殿」
「? どうした……っ!」
 
 唐突に司が顔を入れ替える。緩んでいた瞳をキュッと締めて、その真摯な瞳で俺を見つめてきた。その変化に、思考がそれていた俺は一瞬対応が遅れる。
 一気に緊張感を高めて、俺は周囲を見渡す。通りにいるのは俺達と同じ学生や屋台の主人。買い物をしている夫婦や、サラリーマンなどがあちこちに散らばっている。
 俺は神経を集中して、出来る限り辺りを伺った。もちろん俺に気配を探るなんていう便利なスキルは存在しない。それでも出来る限り注意深く観察し、音を拾って行った。
 
 この中に、あの『首刈り人形』が紛れ込んでいるのか。
 
 司は真剣な表情で俺を見つめ続けている。コイツがこんなに緊張しているということは、やっぱり敵がいるということなんだろう。心なしか、竹刀ケースに意識を持っていってる気もする。それは戦闘態勢へと移行しようとしているのではないだろうか。
 ……ダメだ、俺には何処に人形がいるのか分からない。どうする、このまま田沼達と別れて何処か人気のないところに行くか。それとも知らないふりをして誘い出すか。
 
「司、どうするんだ?」
「……望むところでござるよ。今の拙者なら、いくらでも行けるでござる」
 
 俺の問いに、司が大きくうなずいて答えた。俺と司のそのやり取りに田沼が目を丸くしている。俺達の会話に含まれるシリアスな空気について行けてないのだろう。源六は俺と同じように周囲を探っていた。あまり巻き込みたくはないが、最悪源六に田沼を連れて逃げてもらいたい。
 
「しかし、良く分かったでござるな、平賀殿」
「いや、正直まだ分からない。だから、どうするか――」
 
 俺が司に指示を求めるよりも早く――
 
「拙者がたこ焼きを食べたいって。いや、平賀殿はエスパーか何かでござるか?」
 
 ――司はそんな事ををのたまりやがった。
 
「……は?」
「ふむ。やはりこの時間になると小腹がすくでござるな。ソースの匂いが香ばしいでござるよ」
 
 言われてみれば、遠くの屋台から微かに焼けたソースの匂いが漂っている。視覚、聴覚は研ぎ澄ませていたが、まさか嗅覚に反応していたとは。さすが人形狩りのプロ。目の付け所が違う。
 
「ってい!」
「あた!? 平賀殿、何でござるか!? 拙者、何かまずいことでも?!」
「うるさい、この合法ショタが! 俺のシリアスを返せ!」
「ご……!? いくら平賀殿でも言っていいことと悪いことがあるでござるよ!?」
 
 司が涙目になって抗議してくるが、知ったことか。俺が気合入れて敵を探している間、コイツはずっとたこ焼きを見てたのかよ。俺の格好いい覚悟とか、色々な物を返せ!
 
「……いいじゃない、食べて行きましょうよ? それくらいの道草だったらいいでしょ?」
「さすが田沼殿! 話が分かるでござる。いっそ、田沼殿の家に厄介になりたいでござるな!」
「あはは、司君くらいなら弟って事で家族も認めてくれそうね。それはそれとして、行きましょ?」
「はいでござるー!」
 
 司と田沼は二人連れ添ってたこ焼きの屋台へと向かって行く。確かに、その二人は仲の良い兄妹のようだった。一方で、一人取り残された俺はみじめな気分を味わっている。俺か? 空回りして悪いのは、俺なのか?
 
「……均」
「源六……俺、何かまずかったか?」
「……いや、お前は正しかった。そんな事より……お前、何を隠している?」
 
 源六がその厳つい顔を引き締め、今度こそシリアスに聞いてくる。その目は本気で俺の事を心配してくれていた。そのことに、少しだけ俺の胸が熱くなる。
 
「ごめん、源六。お前でもそれは言えない」
 
 だから俺は、これ以上何も言えない。言ってしまえば、何でも背負いこんじまうこいつは、必ず俺の荷物も持とうとする。さすがにそれだけは避けなければならない。こいつの妹に怒られちまうからな。
 
「……なら、俺が勝手にしゃべろう。均、お前の行動は例の『首刈り人形』の噂に関係あるのか?」
「……」
「……そうか。命の危険があるんだな?」
「……」
「……はぁ。何と言うか、お前という男はここぞというところで面倒くさいな。……田沼が苦労するはずだ」
「別に田沼は関係ないだろ?」
「……まぁ、いい。ただな、均。これだけは覚えておけ。お前を心配している奴はお前が思っている以上にいる。『他人に任せればいい』というのがお前のあり方だろう?」
 
 源六の言葉が胸に重くのしかかってきた。俺は何も答えられない。
 
「……忘れるな。俺はお前の傍にいる」
 
 そう言ったっきり、源六は屋台へと向かって行った。その背中は遠く、大きい。
 司の秘密、源六の言葉。
 俺の心がざわついた。
 
 
(三へ続く)
 
 
 
にほんブログ村に参加しています。面白ければワンクリックお願いします。
https://novel.blogmura.com/ ←にほんブログ村 小説ブログ

閉じる コメント(2)

顔アイコン

源六君も勘がいいというか、鋭いですね。
首狩り人形の話につっこみそう。

2010/11/6(土) 午後 2:30 [ ニック ]

顔アイコン

カリカリジョージさん。
源六も勘がいいというよりも、源六は均の事をよく見ているのですよ。
だから彼の行動の微妙な点に気づく……としたかったのですけど、今読み返してみると描写が足りてないですね。
精進精進。

2010/11/6(土) 午後 5:40 倉雁 洋


.

ブログバナー

倉雁 洋
倉雁 洋
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!
ふるさと納税サイト『さとふる』
11/30まで5周年記念キャンペーン中!
Amazonギフト券1000円分当たる!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事