倉雁洋の蔵の中

まあ、そうはいってもまーたすぐ戻ってきそうな気はするんですけどねー。

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「ふむふむ。このカレーもおいしいでござるよ。平賀殿は料理上手でござるな」
「まあな、婆ちゃんにいろいろと教わってたし」
 
 時は再び流れ、俺らは夕食タイムとなっていた。今日は金曜日。俺はこの日をカレー曜日と決めている。婆ちゃんから受け継いだものの一つだ。味付けも婆ちゃん譲り。……うん、今日もうまくいった。
 俺はカレーを口に運びながら、事態の進展具合を思い浮かべる。成果は芳しくなかった。
 田沼を送った後、一度家に帰ってから少し外を歩いてみたが、やはりその短時間では何の成果も得られない。精々、今日のカレーの材料代とプリン四個分の金が財布から飛んでいったくらいである。
 
「なあ、人形をおびき寄せるアイテムとかないのか?」
「RPGじゃあるまいし、そんな便利な物はないでござるよ。そもそも感情がない人形は持ち主の命令に忠実に働くだけでござるから、欲求という物はないでござる。おびき出すには地道な作業が必要でござるな。まあ、食事が終わったらまた見回ってみるでござる」
 
 俺の疑問に、司がカレーを食べながらニコニコと答えてくれた。もしやとは思ったが、やっぱりそういう物はないらしい。さすがに都合よすぎるか。感情のない人形……。
 
「そういえば司。お前のご先祖が作ったっていう人形はどうなったんだ? 完全な人形ってのには、感情があったんだろ?」
 
 確か司がそう言っていたはずだ。司の先祖である戦間玄が、人形を完成させた、と。
 俺が何気なくつぶやいた言葉に、司は一瞬困ったような瞳を向ける。そのまま少し逡巡して、やがてスプーンを置いて口を開いた。
 
「ふむ……。そうでござるな、完全な人形には人と変わらぬ感情があったと伝わっているでござるよ。……が、彼女は一族の最秘奧。一族の者でも上層部しかその足取りを知らないのでござるよ。下層の方では、姿を消したとも、壊されたとも、いまだに稼働し続けているとも噂されているでござる。一説には、錬金術師を追って旅に出たとか。なんにせよ、基本口にしてはならないことになっているのでござる」
 
 だから、拙者もそれを教えることはできないでござるよ、と司は続けた。俺としてはふと沸いた疑問だったのでそれほど気にしているわけじゃないし、そこまで明確な答えを求めているわけじゃない。ただ、少し疑問に――
 
ピリリリ! ピリリリ!
 
「おっと、電話か」
 
 傍に置いてあった携帯が鳴り響いた。俺は食事を中断してそれを手に取る。相手は……田沼? 珍しいこともあるもんだな。
 
ピ!
 
「もしもし田沼か? どうしたんだ?」
『…………』
「田沼? ……もしもし、もしもーし?」
『…………』
 
 俺が何度呼びかけても反応がない。別に電波が届いていないということはないだろう、一応向こう側から何か聞こえてきている。
 
『………ッ………ック』
「……?」
 
 途切れ途切れに聞こえる、息の切れるような声。少し訝しんだ俺は、神経をその音に集中する。途切れ途切れに聞こえてくるその音は、人の声のように聞こえた。
 
『……………ヒック……ヒッ……』
「……!! 田沼、お前泣いてるのか!?」
『平賀、平賀ぁ……わたし、わた……わあああああ!』
 
 短く途切れる声。聞こえてくる嗚咽。田沼は今、確かに涙を流しているらしかった。俺の言葉がきっかけになったのか、田沼の泣き声は突如として大きくなる。――田村の泣いた声を聞くのは、これが初めてだった。
 
『平賀ぁ、どうしよう……! わた、わたし、もう……!』
「落ち着け! 田沼、何があったんだ!」
 
『会った、の! 人形に、噂通り、ガラスの目をした……人形に! ……『首刈り人形』に!……「つぎは、あなた」だって……!!』
 
「――っ! 司!」
「心得た!」
 
 俺の叫びに事態を察した司が、傍に置いておいた竹刀ケースを肩にかける。しっかりとそれを背負った司の立ち姿は、威風堂々。その表情はいつもの司ではなく、人形を狩る戦士の顔。その表情が、誰よりも心強かった。
 
「今家にいるんだな?! いいか! 俺と司が今から行くから、そのまま待ってろ!」
『ック、う、うん。……ね……ヒッ……ねえ、平賀……』
「おう、何だ!?」
 
 俺は電話に出ながら、自分も出る準備をする。と言っても、用意する物はほとんどない。精々、財布や家の鍵をジャージのポケットに入れるくらいだった。その僅かな時間の間に、幾分か落ち着いたらしい田沼が話しかけてくる。
 
『……平賀。ごめん、今までごめんね。ホントはそんな事するつもりなかったのに、殴ったりして……』
「いや、そんなのどうでもいい! 何ならまた殴ればいいさ。そんな事よりも、何でそんな事言うんだよ!? まるで――」
 
 そう、まるで。
 その言葉は――別れの言葉。
 
『……ねぇ、平賀。もし私が死んだら……泣いてくれる……?』
「田沼……!」
 
 その言葉は決して軽いものじゃない。今確かに、田沼は自分が死ぬところをイメージして言葉を発した。田沼の不安が、諦めが、言葉と一緒に伝わってくる。
 葬式に参列する俺と源六。多くのクラスメートたちが、それぞれに悲しみを感じている。そして俺は田沼の棺の前に立つ。そのふたが開くことはない。なぜなら白装束を着せられた田沼の体には、首から上が――
 
「馬鹿! いいか、お前は死なない! クラスメートたちを、悲しませたりもしない!」
 
 俺は浮かび上がってきたイメージを振り払い、否定するように言葉を放つ。そんな未来はあり得ない。そんな未来はこさせない。
 
「大丈夫だ、田沼。お前は絶対助けてやる!」
『……平賀』
 
 携帯の向こう側で田沼が息をのんだのが分かった。
 ああそうさ、お前は絶対に助けてやる。そう――
 
「――司がな!」
 
 俺は正々堂々と、そう宣言した。
 
「って、そこで拙者の名前でござるか。確かに直接戦うのは拙者でござろうが、そこで『俺が助ける』位は言えないのでござるか?」
「無理!」
 
 俺は人形相手に戦えない。そんな事は、俺自身がよく分かっている。……精々、田沼を連れて逃げ回るくらいだろう。専門的なところは司に任せる。
 
「『……はぁ……』」
 
 受話器の向こうと俺の前で、ため息がシンクロした。田沼の表情は分からないが、もしかしたら今の司と同じ顔をしているのかもしれない。
 
『でも、そっちの方が平賀らしいか。分かった、家に来るんでしょ? 待ってるから、早く来てよね』
「ああ、すぐ行く。大人しく待ってろよ? んじゃ!」
 
 その言葉を最後に、俺は携帯の通話を切った。この様子なら、とりあえずは大丈夫だろう。
 
「やれやれ……平賀殿らしいでござるな。――それでは、さっさと行くでござるよ」
「おう、田沼を待たせるわけにもいかないからな」
 
 俺たちはそう言って外に出て、走り出した。昨日とは違い、俺は自分の意思で脚を動かす。――長い夜が、始まりそうな気がした。
 
 
 
閑話 二へ続く
 
 
 
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閉じる コメント(6)

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いよいよ、首狩り人形との対決!?
先が、気になります。

2010/11/8(月) 午後 9:15 [ ニック ]

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カリカリジョージさん。
お忙しいところどうもー。
閑話はさんでちょっとしてから決戦です。
頑張って盛り上げましたよ!

2010/11/8(月) 午後 9:42 倉雁 洋

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確かにもりあがってます。

食い入るようによんでます・・・!!

2010/12/12(日) 午後 5:39 [ 蒼霜 ことり ]

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蒼霜さん。
あいや、速いですね(笑)。
ありがとうございます!

2010/12/12(日) 午後 5:49 倉雁 洋

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そりゃ、速くなりますよwww
だって面白いんですもん(笑)

2010/12/12(日) 午後 5:58 [ 蒼霜 ことり ]

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蒼霜さん。
いやぁ、そこまで褒められると何とも照れますね(///)。
お好きなだけ読んで行って下さい。

2010/12/12(日) 午後 6:48 倉雁 洋


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