|
「で、ぶっちゃけた話。奴さん、今日来ると思うか?」
俺は司に感じた悲しみを振りはらうように、話を切り出す。
噂話では、被害者の前に人形が現れてから殺しに来るまで少しブランクがあるように言われている。そうであるなら、俺達はどうするべきなのか。
「それは……わからぬでござるよ。ただ獲物だと思われていた平賀殿を相手にするよりも田沼殿を狙ってきたことから、相手は田沼殿にかなりの執着があるのではないかと思うのでござるが――」
「ちょ、ちょっと平賀!? 何で平賀が狙われてるのよ!?」
司の言葉に、田沼は驚きを隠せないようだった。確かに俺は、田沼達にそのことを言っていない。……ここまできたらもうそれも意味がないか。
「かいつまんで言えば、昨日の夜中にアレ襲われた。司に助けてもらった。そんな感じだ」
俺は本当にさっくりと事の次第を説明する。そのざっくばらんな説明に満足したわけではないだろうが、田沼はそれで静かになった。というよりは、少しさびしげな目をしている。
「そんな……なんで学校でそのことを教えてくれなかったの?」
「……教えたところで意味はないからな。巻き込みたくもなかったし」
それは間違いなく俺の本心だった。俺はあの時、いきなり死にかけて助けられて。一緒に人形探しをするという約束までしてしまった。……確かに非日常に脚を踏みこんでしまったのだ。
「お前や源六は俺の『友達』だから。巻き込みたくなかったんだ」
俺にとって二人は俺が学校に行く意味であり、大切な親友だ。こいつらがいたから、俺はまだ日常を生きていられた。だから、こいつらを巻き込みたくはない。……そう、思っていた。
「……はぁ。ねえ平賀?」
「……何だ?」
「バカじゃない?」
「バカ!?」
田沼はストレートに俺の胸をえぐってきやがった。田沼はさっきまでの真剣で悲しげな瞳が一転、あきれ顔になっている。その眼差しに、俺は反論できず口をパクパクとさせていた。
「あんたの口ぶりじゃ、まるで私たちを除けものにしてるみたいじゃない」
「……い、いや違う! 俺はお前たちを友達と――」
「はいはい。まずは私の話を聞きなさいって」
俺の言葉を遮った田沼は口にお茶を含んで湿らすと俺の目をまっすぐに見てしゃべりだした。
「いい? あんた今私達の事を友達って言ったけど、じゃあ友達って何? 都合のいい時だけ助けたり助けてもらったりする関係? 違うわよね、少なくとも私はそう思ってるわ。でもあんたの口ぶりだと、まるで私達を自分より上位において――まるで、なんかのシンボルみたいな扱いじゃない。絶対に汚したくない旗、みたい。ふざけるんじゃないわよ! 本当に友達だと思ってるんなら、そんなこと気にせずに一緒にどうにかしてくれ、くらい言いなさいよ! いつもあんた言ってるじゃない。自分ができることなんてたかが知れてるって。だから周りに任せるんだって。は! 結局、ここぞというところで私達を頼ってないじゃない! いい? 私もあんたが言う、自分にできないことを他人に任せるっていうのは別に嫌いじゃないわ。だから、頼りなさいよ! 私を、松平を! 言っちゃなんだけど、私のほうがあんたより強いのよ!?」
そこまでを一気にまくしたてて、田沼は言葉を切った。息を切らせ、顔は興奮して赤くなっている。そんな田沼に、俺はただただ圧倒されていた。
「……そうなのか?」
「そうよ! それとも何、私とは友達じゃないって?」
俺は首を横に振った。うまく言葉が出てこない。
「そう! ならいいのよ。もう仲間外れなんていやだからね。私だって、あんたがいなくなったら嫌なんだから!」
プイッと、顔をそむける田沼。
――ああ、そうか。婆ちゃんがいなくなってから大切な人がいなくなることがどういうことかわかっていたはずなのに。結局、俺はまだよくわかってなかったんだな。
俺の胸中に、熱いものが込み上げてくる。頬が熱い、首の後ろがちりちりする。しかしそれらは、決して不快な物ではなく。――心の底から、嬉しかった。
「……ああ、わかった。俺も田沼がいな――」
「『次美』!」
「――くな……って、へ?」
「あんた、松平は源六って呼ぶし、司君は司って呼ぶでしょ。だったら私も『次美』って呼びなさいよ! 友達でしょ!? 私もひ、均って呼ばせてもらうから!」
俺の方に振り返った田沼顔はさっきのように花が咲いた笑顔ではない。トマトのように真っ赤な、いつもの怒ったような表情だったが……不思議と、今までで一番可愛いと思った。
「……あ、ああ、わかった、次美」
「それでよし!」
俺と田沼――いや、次美はそう言いつつ、二人同時に明後日の方向を向いた。たぶん、今の俺の顔はゆでダコのようになっていると思う。誰にも見られたくない。
………………
二人の間に落ちる沈黙。嬉しいようで、恥ずかしいようで――
「こほん。二人で盛り上がってるところ申し訳ないのでござるが」
「「△○×●××!!」」
――存在を忘れられていた司の一言で、俺の心臓は破れんばかりに跳ね上がった。慌てて姿勢を正して前を向けば、次美も同じように慌てて姿勢を正している。司はそんな俺達を半目になって見つめていた。
「い、いや、司、これはだな――!」
「いいでござるよ。別に。拙者、平賀殿が誰と仲良くしていても気にしないでござる」
そう言った司は、いつになく不機嫌そうだった。刀は持っていたが、いつの間にかその気配が剣士からいつもの司の気配に戻っている。俺はその目線に射殺されそうな気分になった。
「いや、だからな」
「それよりも、田沼殿……いや、次美殿」
「え、な、何かな? 司君!?」
「もしかして、松平殿を呼んだのではないでござらぬか?」
「え、ええ、そう言えば電話したかも。均たちが来る少し前だけど」
司の一挙手一投足に俺は恐怖を感じる。司自身はいつも通りに話しているつもりなんだろうが、目が全く笑っていない。そして何故か、こいつまで次美を名前で呼ぶようにしていた。
「やっぱりそうでござるか。いや何。先ほど電話が鳴ってたでござるよ?」
その言葉に、二人揃って机の上にある次美の携帯を見た。ストレートタイプの携帯電話の液晶は、確かに源六の着信があったことを示している。時間はちょうど、次美が俺に説教をしているときだった。
『ブー、ブー』
「……っ!」
慌てて源六に折り返し電話をしようとしている次美よりも早く、俺の携帯が着信を告げた。小刻みに震える携帯電話を取り出してみると、相手は件の源六である。俺は妙に緊張しながら、その通話ボタンを押した。
「も、もしもし? 源六か?」
『……均か? 今どこにいる?』
「今は次美の部屋だけど……あ、司も一緒だからな?!」
『……次美? 均、お前ようやく――』
「あ、いや、田沼の部屋な、田沼の部屋! 待ってろ、今田村に代わるから!」
「へ? わ、私? ……もしもし?!」
俺は次美に携帯電話を投げ渡すと、いつの間にか額に浮いていた嫌な汗をぬぐった。
あくまでも次美が友人だから次美と呼ぶのであって、別に、その、男女の仲のそれとは違う意味である。だから大丈夫、俺はまだ、源六を裏切っていない!
心の中で必死にそう言い訳をする。決して源六に届くことのないそれは、しかし自分の頭を冷静にする効果はあった。少しずつ、熱に浮かされていた頭が冷えてくる。
そうやって心の中でぶつぶつ言っていると、じと目でこちらを見ている司と目が合った。とても何か言いたそうな顔をしている。俺はしばらく知らんふりしていたが、あまりにもじっと見てくる司についに耐えきれなくなって口を開いた。
「……何だよ?」
「……別に何も」
そう言ってはいるものの、司が俺を見る目は変わらない。
「いや、何でも無いって事はないだろ。司、少し怒ってないか?」
「怒ってないでござるよ」
「いや、やっぱなんか怒ってるだろ……?」
「怒ってないでござるよ! 別に拙者は平賀殿が誰と仲良くしていても気にしないでござる!」
やっぱりどう見ても怒っている気がする。が、俺にはそれ以上追及することはできなかった。
結局、源六を迎えに行った次美が帰ってくるまで、俺は司と気まずい空間を味わう羽目になったのである。
「……電話に出ないから本気で心配した」
「「スイマセン」」
源六が次美の家に入ってきた最初のセリフがそれだった。別に、怒っていたりするわけではない。本当に心配していたという顔なのだ。元々あまり表情の変わらない源六だが、今は優しげに微笑んでいる。それがあまりにも申し訳なく感じ、俺と次美はその漢に頭を下げた。
「……きっと均も来ているとは思った。家に行っても誰もいなかったからな」
「「……」」
済まない源六。今はお前の顔が眩しくて見えない。
「はぁ……」
頭を下げたまま微動だにしない俺の耳に、司のため息が聞こえた。ふと顔を横にやれば、呆れているような、うらやましがっているような顔の司が見える。
「やれやれ。拙者としては護衛対象が増えるのであまり松平殿にも来てほしくなかったのでござるが――」
俺と次美は顔を上げ、司を見る。源六も同じように真摯な瞳で司を見つめていた。司はそんな俺達の様子をみながら、少しだけ唇を上げていた。
「――まぁ、平賀殿たちが一蓮托生というのなら何も言うことはないでござる。最悪、拙者が人形を相手にしている間に逃げてくれればいいでござるよ」
司がさっき俺に行ったのと同じようなことを、自身の刀を手に、言う。それは覚悟。その真剣な眼差しは、力強い戦士そのものだった。決して揺るがないであろうその言葉を――
「いや。やっぱりそれは違うぞ、司」
――俺は真正面から否定する。真剣な眼差しには真剣な眼差しで。真剣な言葉には、真剣な言葉で。俺は、さっきはまとまらなくて伝えられなかった自分の思いを、言葉にする。
「……平賀殿?」
「司。お前ももう、俺の大切な人なんだ。出会って一日とはいえ、いなくなったら困る。人形に負ける気なんてないんだろ? なら、その時はお前も俺の傍にいろよ」
こいつの中では俺との関係はあくまでも人形を捕まえるためだけなのかもしれないが、俺からしてみれば違う。こいつは俺の命の恩人であり、もう俺達の仲間だ。源六や次美とはまた違った形で、一緒にいたいと思う。傍にいて欲しいと思った。
「んな!? ななな!?」「……司君……ずるい」「……言うな、均」
……そう言うことを伝えたつもりなのに、言葉を聞いた瞬間、司は慌て、次美は司をうらやましそうに見て、源六は感心したように俺を見ていた。
何だ、この空気。俺はそんなに変なことを言ったのだろうか。
「た、大切な人とな……!? いや、拙者も平賀殿のことは嫌いじゃないでござるが! その、はっきり言われると困るでござる!」
「……はぁ……せっかく一歩前進したと思ったのに……最大の敵はやっぱり司君……?」
「……均。今日のお前はいつもと違うな。ただ……正直、危ないんじゃないかと思う。……色々な意味で」
口々に何かを言う面子。せっかく俺が真面目なことを言ったのに、誰も共感もしてくれなかった。いや、別に感心しろとは言わないけど、少しは真面目に聞いてほしい。俺の熱い思いを返して欲しい。
その、砕けた雰囲気の中。
ガシャーン!!!
「「「「!!!!」」」」
それは突如として乱入してきた。
突然リビングのガラスがけたたましい音を立てて割れ、
四階という高所に吹く風が、カーテンをたなびかせ窓ガラスを室内にまき散らせる。
そのきらめくガラスの一枚一枚に、驚愕に彩られた俺達の姿が見えていた気がした。
妙に間延びしたその時間の中で、俺の目の前に何かが迫る。
――そしてそれは、一瞬の閃きをもって俺の首を薙いだ。
第六話に続く
にほんブログ村に参加しています。面白ければワンクリックお願いします。
https://novel.blogmura.com/ ←にほんブログ村 小説ブログ |
全体表示
[ リスト ]






はじめまして。
ぐぅ〜っと引き込む文章凄いですね。
主人公平賀の緩めだけれど、ちょっとボケ気味な突っ込みが全体をなごます感じでとっても読みやすいです。
続きを楽しみにしております。では。
2010/9/14(火) 午前 7:58 [ ん? ]
ぱんださん、初めまして。
コメントありがとうございます。
お誉めいただき、私のテンションもうなぎ昇りです。
続き、今日中には書きあがりそうなので、もうしばらくお待ちくださいませ。
では。
2010/9/14(火) 午前 8:04
おぉ、首狩り人形乱入!
ここから、戦闘パートですね。
2010/11/15(月) 午後 8:48 [ ニック ]
カリカリジョージさん。
はい、こっから戦闘です……でも、後少しだけ会話パートですかね。
2010/11/15(月) 午後 9:10
こわ!!
首狩り人形こわい!!
でも、読みたい・・・!!
2010/12/12(日) 午後 5:54 [ 蒼霜 ことり ]
蒼霜さん。
ちょびーっとホラー要素も入ってますので……。
ここからはそんなに怖くない、かな?
2010/12/12(日) 午後 5:57
・・・司くん、やきもちですか?
かわいいなぁ〜(>_<)
ついにきたかーーって感じですね☆
バトルが楽しみです^^
2010/12/21(火) 午後 10:21 [ セツ ]
セツさん。
ええ、まあ。司君もアレです、微妙な心持です。
もう少しでバトルシーン&クライマックスですよー。
2010/12/21(火) 午後 10:23