倉雁洋の蔵の中

まあ、そうはいってもまーたすぐ戻ってきそうな気はするんですけどねー。

歯車仕掛けの女の子

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 カキィィィン!!
 
「平賀殿、下がるでござる!!」
 
 すでにそれは、俺の目では見えない位置にあった。固まった姿勢のままの、俺の首筋にひやりとした感触を感じる。恐らく、そこにある物は冷たい刃。俺が少しでも体を動かしたなら容赦なく首を切り裂いていくだろう、冷たく研がれた鎌。
 その鎌は、いつかと同じように刀で受け止められていた。刀を握るのは司。鎌を握るのは乱入者。
 一瞬の均衡の後、乱入者は刀に受け止められた鎌をそのままにもう一方の手を動かす。その先にある物もまた、鎌。先ほどと同じ速度で空気を切り裂くそれは、瞬きを持って司の首に接近する。
 
「ッ! シッ!!」
 
 刀を封じられた司はそれに対応することができない。仕方なく刀で応ずることを諦め、鎌よりも尚速い神速の蹴りを人形の胴に叩きこんだ。それと同時に、僅かに肩を動かして刀をずらし、鎌を外す。一方で、バランスを崩した乱入者はそれでもなお司のズボンを切り裂き、その勢いのまま後方へと飛び退いた。空を舞うその虚ろな瞳が、司の事を見つめ続けている。
 
「ッ! キャアアアアアア!!」
 
 それらは全て一瞬の出来事。俺は体を動かすこともできず、その動きを目で見ることが精一杯だった。一拍の後、乱入者が優雅に着地し、同時に次美が叫び声を上げる。それでようやく俺達の時間が動き始めた。
 
 部屋の奥へと飛んだ乱入者。その髪は青く、手足はあり得ないほどに整っている。しかしその髪や肌は人の物とは言い難く。その瞳はただ何も映さないガラス玉。
 ――間違いなく、あの『首刈り人形』だった。
 彼女はただ、何事も無かったかのようにその場に佇む。先日と違う点はただ一つ。一挺だった鎌が、両の手に握られて二挺になったということだった。一挺で司と均衡したというのなら、二挺であれば司を超えられる。短絡的でありながら、確かにその効果はあった。
 今までのような一方的な狩りではない。この人形は確実に、司との戦いに備えてきていた。
 
「……」
 
 人形が再び疾駆する。司の首。司の首、司の首。首。首。首。首。
 先日の倍となったその斬撃は全て司の首だけを狙って行く。それらはすべて必殺であり、司が刀を動かす手を一瞬でも緩めれば一つの首が宙を舞うだろう。司はただそれを防ぎ続けた。
 
「ハァ!!」
 
 らちが明かないと感じたのか、司が気合い一閃、全力の斬撃を持って反撃に転じる。人形の鎌が司の髪を僅かに切ったが、それでも司はひるまない。
 
「……」
 
 人形はその斬撃をかろうじてかわす。再びバランスを崩した人形に、今度は逃げる暇を与えず司が反撃へと移った。
 
「っふ!」
 
 司の動きが変化する。それは切断から貫く動き、線から点へと。それは圧倒的な手数となり、人形をはちの巣へ変えんと迫る。司の後ろに立つ俺には、それがまるで刃の壁となったように見えた。
 
 キキキキキキキキキキキキキキキキン!
 
 しかしその圧倒的な手数は、二挺の鎌によって防がれていった。鎌が踊り舞い、刀を逸らし受け止め、確実に捌いていく。否。少しだけ人形の服が切れていく。しかしそれだけだ。決して致命的なダメージを与えているとはいえない。
 
「く!」
 
 シャッ!
 
 限界が来たのか、司が苦し紛れに横に斬る。今までで最も鋭かったそれは、体をひねりながら宙を飛んだ人形のスカートを少し切っただけで終わった。
 再び人形が距離を取り、俺たち全員をその視界に入れた。ただの空洞のような人形の瞳に、思わず俺の体が固くなる。――やっぱり、人形の目線が、怖い。
 
『(ザ、ザー、ザザ……)あーあー、聞こえるかな?』
 
 動かない人形に全員が集中しているところに、僅かなノイズと男の声が響いた。それは、昨日少しだけ聞いた男の声。この人形の、持ち主。
 
『さて、初めましてと言っておこう。僕がこのチエの主人だ。今日は僕のチエが完成する瞬間を見たくて、こんな仕掛けをつけてしまったよ』
 
 誰もが押し黙った静寂の中、ノイズ混じりの男の声が響き渡る。見れば、人形は首のあたりに小さな機械が取り付けられていた。カメラのレンズと、スピーカー。恐らく、何処か遠くからこの機械を通して見ているのだろう。
 
「お主が首刈り人形の主でござるか。……率直に聞くでござる。それの完成とはどういう意味でござるか?」
『ああ、君が例の少年か。へぇ、遠目に見た時よりも随分とかわいいじゃないか。しゃべり方も面白いね』
 
 明らかに怒っている司の質問を受けても、男はそれに答えない。ずっと一人でしゃべり続けている。
 
「……質問に答えるでござるよ。人形の完成とはどういう意味でござる? 人の頭を集めていたのは、全てそれのためでござるか?」
『うん、せっかくの完成祝いだ。いらない物は全部消すつもりだったけど、君だけは僕の所有物にしてあげるよ。そうだな、手足の腱を切って着せ替え人形にしようかな。君なら女の子の服も似合うだろうし。ああ、楽しみだ』
 
 司の声は恐ろしい程に冷たかった。静かに、ただ静かに怒りを湛えている。司から感じる気配に、後ろに立つ俺の方が怖くなってきていた。
 しかし、それでも男は質問に答えない。俺はその言葉を聞きながら、この男がどういうような人間なのか、理解しつつあった。
 つまり、この男は人を人として見ていないのだ。
 司にしろ俺達にしろ――そして被害者たちにしろ。こいつは、そういう人たちを『モノ』として見ている。むしろ、自分以外の人間を全て見ていないと言うのが正しいかもしれない。そんな独りよがりな人格が、男の声から伝わってくる。ノイズ混じりの声以上に、この男の存在が気持ち悪かった。
 
「……」
『おや、声が聞こえなくなった。そうだね、僕は自分の物を大切にする性格なんだ。だから君も大切にしなきゃだめだね。ええと、なんだっけ? チエの完成がどういう意味かって?』
 
 男はあくまでも自分のペースで語り続ける。正直もうこいつの声を聞いているのは嫌だったが、俺も少しだけ興味があった。今までの被害者の頭をどうするつもりだったのか。
次美の頭を、どうするつもりなのか。
 
『完成って言うのは、文字通りの完成さ。僕のチエは未完成なんだ。まだ完成していない。完成させて初めて、僕は神になるのさ』
「……それは、『完全な人形』を目指すということでござるか? 感情を持った人形を。生憎でござるが、、それではいくら人の――」
『は? 何を言ってるんだ? 感情? 人形に感情なんているわけないだろ』
「――、お主、一体何を……?」
 
『僕が目指してるのはただ僕だけに従う完全な人形だよ。感情はいらない。だって、感情とかがあったら、僕の言うことを聞かないじゃないか。僕を嫌うかもしれないじゃないか。僕は、僕だけに従って、僕だけに笑いかける人形が欲しいんだ。――そのために、表情豊かな顔を、頭を集めているだけだよ? そこの少女が持っているあの表情。あれをチエに付けて、僕のチエは完成するんだ』
 
「――――っ!!」
 
 その男の言葉に、次美は俺の後ろで声にならない悲鳴を上げていた。
 あの人形に次美の顔をつけられ、その人形がこの男のために笑いかける。あの、次美の笑顔で。――それは、想像するだけで嫌だった。
 俺は動かない体に抗いながらも、出来る限りの声で叫ぶ。
 
「この野郎……! テメェなんかに、次美を、次美の顔を取らせるもんか!」
「……正直、あまり話が見えていないんだが。……これが敵で、田沼が狙われていることは分かった。……悪いがな。やらせはしないぞ」
「拙者も同感でござる。どんな理由があろうとも、次美殿を渡すつもりはないでござるが。――拙者、お主には全く同情できぬ。疾く消してやる故、首を洗って待っているでござるよ」
 
 俺の言葉に、いつの間にか横に立っていた源六が続いた。俺と同じように次美をその背に隠して、体を半身に構えている。普段は静かな源六の瞳には、燃えるような闘志。源六もまた、怒っているようだった。
 司も俺達に同調する。俺の前で刀を構えるこいつの顔を伺うことはできない。しかし、雰囲気だけはその背中から伝わってきていた。源六の身から炎が立ちあがっているとするならば、司は冷気。凍りつくほどの殺気が、俺達にまで伝わってくる。普段の温かい司とは、全く違った。
 
『……どうしてこう、ヒトは僕に敵意を向けてくるんだろう。僕はただ人形を作ろうとしているだけなのに……。でもまあいいか。どうせ、チエが完成すればもう関わらなくなるんだし。――さあチエ。早くあの首と彼を連れて来てくれ。そして二人で完成を祝おう!』
 
「りょうかいしました、ごしゅじんさま」
 
 男の言葉に、ただ淡々と人形が答える。感情を持たない人形は、ただ主のために。
 ――そして、戦いが始まった。
 
 
 
 
 
(二に続く)
 
 
 
 
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閉じる コメント(4)

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人形の主は自己中心的ですね。
なんだか、腹がたってきました。

2010/12/4(土) 午後 8:55 [ ニック ]

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カリカリジョージさん。
えっと、ありがとうございます? そういう風に感じていただけると嬉しいです。
ちょっと自分以外に見えなくなってるんですよね、彼は。

2010/12/4(土) 午後 9:05 倉雁 洋

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・・・今日も来てしまった!

いやしかしなんか中毒になりましたwww
楽しませていただいてます(笑)

2010/12/14(火) 午後 3:03 [ 蒼霜 ことり ]

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青霜さん。
今のところ、そこまではまっていただけた人は初めてです(笑)。
ごゆっくりどうぞー。

2010/12/14(火) 午後 3:14 倉雁 洋


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