倉雁洋の蔵の中

まあ、そうはいってもまーたすぐ戻ってきそうな気はするんですけどねー。

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『人形……? 君が人形!? 何だそれは、なんで感情がある!? 必要ないだろう……いや、そんなことはどうでもいい! なるほど、人形ならチエの攻撃を受けても無事なのは道理か!?』
「いやいや、さっきから言ってるでござるがお主の人形、それほど強くないでござる。脚力はなかなかのものでござるが、戦う身としては今一つ。せいぜいが雑兵……というか、足の速さを生かした伝令兵ぐらいでござるよ」
『僕の人形をバカにするのか!? 人形ごときが! 僕は神なんだ、神が作った人形が、どこの誰とも知れないやつが作った人形に負けるものか!』
 
 男の言葉には、すでに理性という物が無くなっていた。己を神とのたまい、それを信じて疑っていない。そもそも、自身が言っていた神になる条件……人形の完成すらしていないというのに。
 
「ふむ……現実が分からないでござるか。やはり、叩き切るしかないでござるな」
 
 そう言って司奈はかぶりを振ると、その手に持った刀の残骸を捨てた。乾いた音を立てて、その折れた刀は地面に落ちる。
 
「拙者、一応一族の最秘奥。最終兵器でござる故、あまり実力を出さないようにしてるでござる。平賀殿、少し離れててくださらぬか?」
 
 言われ、俺は次美を連れて源六のもとに走った。次美も源六も何が起こっているかわからないような感じだったが、その司奈の力強い雰囲気だけは伝わったらしい。誰も、悲壮な顔はしていない。
 人形の方は、もう俺たちはどうでもいいようだった。ただ司奈だけを見つめている。
 
『チエ! チエ! ああ、僕の可愛いチエ! あの生意気な人形をスクラップにしておくれ! そして証明するんだ! 僕が作った君が最高であることを!』
「りょうかいしました、ごしゅじんさま」
 
 チエが構える。いつでも駆けだせるように、力をためている。恐らくそれが放たれた時、司奈の体を矢のように貫くのだろう。それに対し、司奈は手ぶらのまま、目をつぶっていた。いや、口が動いてるから、何かをつぶやいているのか。
 
「……システム、オールグリーン。最終コード入力:Deus ex Macina(デウス・エクス・マシーナ)……コード確認、モード、≪歯車仕掛けの神≫、起動」
 
 風に乗って、司奈の声が聞こえる。最後の一言を呟いた、その瞬間。
 
 
 ゴウ! と、空気が振動した。怪しげな月が輝いていた大空は暗雲に覆われ、司奈の周りには雷が吹き荒れる。司奈の髪は黒から白へ。その背には、銀白色の機械の――無数の歯車が形作った翼が、六枚広がった。
 俺にもわかる。それが、とてつもない力を持った存在だっていうことが。歯車仕掛けの神。司奈はそう言っていたが、なるほど。確かにその姿はヒトが考えた神様の姿なのかもしれない。
 ――しかし、俺たちはわかっている。目の前にいるのは、神ではない。……ましてや、人形でもない。そう。コイツは――
 
「悪いが、拙者この状態になると手加減が難しい故。何せ、触れただけで躯に変えてしまうでござるからな。知り合った人も、これを見ると皆離れていく。ヒトの中にあることを望む拙者としては、あまり使いたくないでござるが……」
 
 ちらりと、司奈は俺たちの方を見る。俺達はその目線に、精一杯の声援を持って答えた。
 
「すげーぜ司奈! そのままぶっ飛ばしちまえ!」
「司奈ちゃん……お願い……!」
「……お前ならやれる……!」
 
 ――コイツは、俺らの仲間だ。怖がる? 俺らが? 怖がる必要なんてない。なんせコイツの本性は、子犬みたいな、プリンが大好きな女の子なんだからな。
 
「……やれやれ、久しく見なかったバカたちでござるな。だからこそ、出来ることもある、でござるか。……感謝するでござる!」
 
 シュアアアアア!
 司奈の右腕に、一本の光輝く刀が出現する。今まで司奈が使っていた刀ではない。それは、力強くも儚い不思議な刀だった。
 
「――村雨、出番でござる」
 
 イィィィィィィン!
 司奈の声に応えるように、刀が鳴く。とたん、村雨と呼ばれた剣に呼応するように、天空から雨粒が落ちてきた。雨は俺達を、人形を、そして司を静かに濡らしていく。しかし決して冷たくない。穏やかに、俺達は包まれていた。
 
「さて、覚悟はいいでござるな、人形。この斬撃は――ちと、かわせぬ故」
 
『チエ、こけおどしだ、気にせずあいつを倒すんだ!』
「……はい、りょうかしました、ごしゅじんさま」
 
 人形は司奈に向かって走り出す。それはどれほど無意味なことだろうか。もし彼女が人間であるなら、すでに恐怖で脳が焼き切れるほどだろう。彼我の差は明らかである。それは、人類が太陽に突っ込むようなものだ。
 しかし彼女は人形。感情のない彼女は、ただ主の命に従うしか、ない。
 
「……悲しき人形よ。塵は塵に、灰は灰に。人形は人形へと還るが良い」
 
 スィン!
 司奈が振るった村雨は、澄んだ音を立てて空気を切り裂き、宙を薙いだ。あまりにもあっさりと、今までの刀よりもさらにスムーズに、抵抗なく流れた刃。ただそれだけで。人形の体には左肩から右の腰までに線が入り、驚くほどあっけなく崩れた。
 
 ドサリ。雷鳴とどろくその空間で、その音が妙に耳に残った。
 
『チエ……チエ! どうした、何があったんだ!?』
 
 落ちた人形の首にかけられていたスピーカーから、男のあわてた声が聞こえる。
 
「ふむ。チエとやらはもういないでござるよ。お主も後で屠ってやる故、首を洗って待っているでござる」
『――ッヒ!? やめろ来るな――』
 
 司奈が静かな表情のまま、その機械のカメラに向かって刀を突き刺した。それで、終わり。もうそのスピーカーから声が聞こえることはなくなった。
 
「ふぅ……」
 
 司奈が一息つくと、その手から刀――村雨が消える。そしてその背に輝いていた六枚の翼も消え、髪もいつもの黒髪へと戻った。
 荒れていた空も、いつの間にか何事もなかったのかのような静けさを取り戻していた。月がまたきらめいている。
 
「司奈!」「司奈ちゃん!」
 
 俺と次美は急いで司奈に駆け寄った。体の痛みなんてすっかり忘れている。俺たち二人は、そのまま司奈に飛びかかるように抱きついた。
 
「ちょ、ちょ、次美殿、平賀殿!?」
「ああクソ! この喜びをどうやって表現すればいいかわかんねぇ!」
 
 人形は去った。俺たちは、誰も欠けることなくここに立っている。それは、俺達が望んでいた完全勝利だった。
 
「ありがとう、ありがとう司奈ちゃん!」
 
 次美が泣いている。つい数時間前には絶望の涙を流していたのに、今は喜びいっぱいで涙を流している。
 
「俺たちの勝ちだ! よくやったな、司奈!」
「わ、あ、頭なでないでほしいでござるよ、平賀殿! ……わふぅ」
 
 俺は生きている。昨日も今日も何度も死にかけたが、それでも生きている。
 婆ちゃん。俺、まだ生きるよ。まだ、婆ちゃんほど生きられるかわからないけど。精一杯生きる。
 ――だから、見ててくれよな。
 
「平賀殿……その、拙者……」
「ん、どうした?」
 
 しばらくなでられるままにまかせていた司奈が、恐る恐る言葉を口にする。その顔が若干、赤くなっている。
 
「拙者……おなかすいたでござる」
 
 くぅ、という音とともにそう司奈が呟いた。……そう言えばカレー食べてる途中で出てきたんだっけ。気がつけば、俺も腹が減っていた。
 
 
「そうだな。どっか食べに行く……のはこの時間だと厳しいか? うちのカレーを温めなおすか!」
「あ、私も行っていい? 私もうおなかぺこぺこなの!」
 
 あははははは。
 満点の星空の下、ボロボロの服で、それでも笑いあう俺ら。後のことを考えるといろいろと面倒くさそうだが、今だけはこれでいいだろう。
 
 
 
「……盛り上がってるとこごめんなさい?」
 
 
 
 ……!!!
 俺はその声に反応し、振り向く。そこには、スーツを着た妙齢の女性が立っていた。つり目で気の強そうな、ショートカットのキャリアウーマン風の女性。
 
「悪いけど、まだハッピーエンドには早いわよ?」
 
 突如として現れたその女性は、そう言ってにやりと笑った。
 
 
 
 
 
 
 ちなみに。
 
「……誰か……手を貸してくれ……!」
 
 源六が少し離れたところで立とうとしてもがいていることに、俺達は誰も気づかなかった。こいつが立てたのは、もう少し後の事である。
 
 
 
エピローグへ続く
 
 
 
 
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な、なんだってー!!
人形の方は予想してたけど、性別の方は完全に予想外でした…。

改めて読み返してみると、そういう伏線がちらほら目につきますね。
なんてこったい。普通にスルーしてましたよ。
タイトルは首狩り人形のことを表わしてるんだろうな、と思い込んでましたし。

決戦での盛り上がり具合も、王道な感じで面白かったですよ。
エピローグまであと少しですね。自分のペースで頑張って下さいね!

2010/9/15(水) 午後 6:33 [ 大和 ]

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大和さん、こんばんは。
そうですね、書いている方は結構ばればれって気分なんですけど、読んでる方はそうでもない……のかな?
王道なのは王道でいいんですけどね。それで楽しませるだけの力量が自分あるかって言うと……(泣)
ぶっちゃけタイトルだけで全部わかるという(笑)
エピローグ、これから掲載します。

2010/9/15(水) 午後 7:12 倉雁 洋

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司奈ちゃーーーん!
ダイスキ〜〜〜〜〜^^

2010/11/21(日) 午前 10:08 [ - ]

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赤猫さん。
今頃司奈ちゃんも顔を赤くしているかと(笑)。
そんなこんなで正体はこんな感じでしたー。
楽しんでいただけたならいいんですけど……。

2010/11/21(日) 午後 5:57 倉雁 洋

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タイトルにびっくり!
メイドさんのほうだとばかり思ってましたwww

司・・・司奈だったのか。
そして、
―――――女だったのか!!


嬉しいような残念なような・・・!!

でも、楽しんでます!

2010/12/14(火) 午後 3:19 [ 蒼霜 ことり ]

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蒼霜さん。
すみません、実はそう言うことなんですよね。
途中色々伏線?も張っておいたのはこのためです。
うん、……男じゃないんです。

タイトルはわざとそう付けましたよー。
その方が面白いかと思いましてね。

2010/12/14(火) 午後 3:24 倉雁 洋

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ついに人形(チエ)を退治しましたね。

と、思ったらまたなにかありそうな予感・・・。

2010/12/30(木) 午後 8:51 [ ニック ]

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カリカリジョージさん。
とはいえ、この事件は終了です。残るは後始末のみ。
続き、かけるといいんですけどねー(苦笑)。

2010/12/30(木) 午後 8:59 倉雁 洋


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