倉雁洋の蔵の中

まあ、そうはいってもまーたすぐ戻ってきそうな気はするんですけどねー。

歯車仕掛けの女の子

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「ふぁぁーあ」
 
 太陽の光がまぶしい。カーテン越しでも伝わってくるその光は、すでに昼が近くなっていることを俺に教えてくれていた。布団の中で伸びをして、ずるずると這い出す。
 今日は土曜日。学生にとってはうれしいうれしい休日である。
 あの後、結局色々あった俺が家に帰ったのは、けっこう遅くになってからだった。疲れ果てていた俺はカレーもそこそこに、バイト先に電話を入れた後は布団へとダイブ。結果、こんな時間になったのである。
 普段の俺なら土曜日であろうと早く起きだすのだが……たまには、こんな日もありだろう。
 
「おはようでござる! 平賀殿!」
「おう、おはよう!」
 
 居間に行くと、司……いや司奈が元気よく挨拶してくる。こいつは結局、もう一晩うちに泊まっていくことになった。あんなこともあったし、さすがにあのボロボロの服で放り出すわけいかない。……そんな話をした時の、あの人の妙な笑顔が凄く気になったが、気にしないことにしておいた。あの場で突っ込んでいたら、まとまる話もまとまらない。
 ちなみに今、司奈は俺が昔着ていた服を引っ張り出して着ている。普通の短パンにTシャツ。ちょっと男っぽいけど、まあ問題はないだろう。元々男装していた奴だしな。
 
「お、おはよう、均!」
「お、おう、おはよう、次美」
 
 そうそう。次美も昨日は俺の家に泊まったのだ。服はとりあえず俺のジャージを着てもらっている。
 何せ、次美の家はあっちこっちが刀傷やらなにやらでボロボロである。業者に頼んでも、少なくとも今日の夜までは生活出来ないとのことだった。司奈も俺の家に泊まる事になったし、それならばとそのままこの家に泊めることになったのである。
 今日も昨日と同じで、眼鏡は外して髪も解いている。ウェーブがかった柔らかそうな髪が、またなんとも――っていかんいかん! こいつは源六の嫁候補! 一時の迷いはあったが、もう裏切るわけにはいかん!
 俺はかぶりを振って頭の中に浮かんだ妄想を吹き飛ばす。次美は怪しげな瞳で、司はじと目で俺を見てきたが、とりあえず気にしないふりをしていた。
 ……ちなみに、今は短パンにTシャツという姿の司奈。寝るときには、何を思ったのか俺のワイシャツだけを持って行きやがった。下に着るシャツも履く物も持っていっていない。
 結局、こいつはどんな格好で寝たというのか。ほんの少し見てみたかったと思うのは、きっと気の迷いだと信じたい。
 ああ、源六の奴は家に帰ったよ。一応途中まで一緒に行こうと言ったんだが、『……今のお前と一緒に行くのは、胃に悪い』なんて言って俺達を置いていきやがった。方向が同じだというのに……よっぽど、早く帰らなければならなかったのだろうか。
 まあ、あいつの家は家族がアレだからな。放っておくと何をしだすかわからないし、心配したのかもしれない。やれやれ、家族思いの奴だ。
 
「……おお、朝飯がある!」
 
 食卓の上には、味噌汁にご飯、焼き魚に卵焼き。いたって普通の日本の朝餉である。ここしばらく、起きてから朝飯が出来ていることはなかったので、かなりうれしい。
 
「朝ごはんって言うよりは、昼ごはんだけど……く、口に合うかな?」
 
 そう言って次美が頬を赤く染める。どうやら次美が作ってくれたらしい。
 
「ああ、ありがとうな、よし、いただきます!」
 
 ズズッ
 俺は両手を合わせた後、まずは味噌汁を口に含んだ。シンプルなわかめと豆腐の味噌汁は程よい塩加減で、俺に朝の活力を与えてくれる。
 
「へえ、うまいな。好みの味付けだ」
「ほ、本当!!」
 
 うん、正直に言ってうまい。
 味噌汁は家庭の味。同じ材料を使っているだろうに、これほどにうちの味と違うとは。これが田沼家のスタンダードなのかも知れない。うん。今度、次美に教わってもいいかもな。この味は是非とも家でも味わってみたい。
 
「いや、本当にうまいぞ。毎日食いたいくらい」
「「!!」」
 
 だから作り方を教えてくれ、なんて続けるはずだっただが……俺の言葉を聞いた瞬間、次美が赤い顔をして固まってしまった。いや、次美だけではない。司奈の方も、同じように顔を赤くして固まっていた。……俺は何か変なこと言っただろうか?
 
「どうした? 二人とも」
「う、ううん! なんでもない」
「む〜」
 
 俺が問いかけると二人とも再起動したが、その態度は全く正反対な物だった。次美は照れたように上機嫌になって食事を進めているし、その逆に司奈は不機嫌そうになっていた。特に、みそ汁を見つめている目は尋常じゃない。
 はたして、俺が何をしたというのだろう。二人の様子から、何か俺が言ったせいだと思うのだが……? 俺はその事に悩みつつも、目の前にある卵焼きに箸を伸ばした。
 ある意味で、この食卓の中でひと際目に着く物。出来る限り手を出したくなかったが……食卓に上がった以上、食べないのも悪いからな。
 
「じー」
「……」
「じーーー」
「…………」
「じーーーーーー」
「…………………」
 
 ……俺が卵焼きに箸を伸ばすと、司奈が昨日の人形との戦いで見せた様な反射で俺の箸を睨みつけた。時折、チラチラと俺の顔も伺ってくる。
 うん。これくらいなら俺にもわかる。間違いない。コレ作ったの司奈だ。
 そう考えると納得である。みそ汁は程よい塩加減で、大変おいしゅうございました。焼き魚にはまだ手を伸ばしていないけど、その形や焼き加減からかなりの逸品だと思われる。
 で。その二つが実に丁寧な仕事をしているというのに、卵焼き。少し形が崩れて焦げている、卵焼き。……まあぶっちゃけ、まずそうとも言う。
 
「じーーーーーーーー」
 
 司奈の目線がチラチラと突き刺さる。まるで、物理的な干渉力を持って『食え』と命令されているようだ。……ふ。ここで食べなければ男がすたる、か。
 見ててくれ婆ちゃん。
 
 
 
 
 
 男なら……今が死に時だ!
 
 
 
 
 
 
 パク
 えいや、っと必勝……もとい必生の願いを込めて、俺は例の卵焼きを口に入れた。口に入れた瞬間、広がっていく卵焼きの味。それは……それは……それは?
 
「もぐもぐ……ん?」
「……ひ、平賀殿? どうしたでござるか?」
 
 司奈が怖いような、緊張したような微妙な顔つきでこちらをうかがって来る。それに対して、こちらも微妙な顔で答えるしかなかった。
 
「…………………普通だ」
「って、なんで普通なのに落ち込んでるでござるか!?」
「いや、この流れでまずくもないってのは、どうもリアクションがとりづらくてな」
 
 ある意味、おいしくないでござる。いや、別に芸人じゃないけど。
 
「別にリアクションしなくていいでござる! あ、いや、おいしいって言ってもらえるならそれが良いでござるが……」
「だから普通だ。うまくはないしまずくもない」
「う〜」
 
 うん。本当にリアクションがとりにくい味なんだよな。もう少し努力すればおいしくもなるけど、このままでは毒にはなるかもしれないけど薬にはならないような味である。
 ……ふむ。
 
「よしわかった。司奈。今度俺が教えてやるから、一緒に卵焼き作ろう」
「「!!!」」
 
 俺がその一言を発した瞬間、食卓の空気が一瞬で変化した。司奈は何故かぴょんぴょんととび跳ねんばかりに嬉しがり、次美はそんな司奈をうらやましそうに見ている。
 それはまさしく、先ほどと逆の状況だった。
 
「そ、それならいいでござる! よろしく頼むでござるよ!!」
「……一緒に、か。それもいいなぁ」
 
 ……一体さっきから何だというのだろう。食べるたびに一喜一憂されると少し疲れてしまう。とは言え、司奈の喜ぶ姿を見ているのもやぶさかではない。次美には悪いが、もう少し楽しませてもらおう。
 
「ふむふむ。ん? ところでなんで拙者がその卵焼きを作ったってわかったでござるか?」
「……そりゃまぁ、お前の動きで、な?」
「むむむ! その洞察力、さすがでござるな! 拙者が無心でいたのに気づくとは……いやはや、恐れ入ったでござるよ」
 
 司奈が目を輝かせて俺を見つめてくる。よせやい、照れるじゃないか……とは、死んでも思えない。むしろ、司奈の頭が心配になってしまったじゃないか。
 こいつが本当に三百年も生きているのか、とても疑問に思う今日この頃である。
 
 
「あ、そうそう平賀殿。縁(ゆかり)から連絡が来てるでござるよ」
「おう、あの人か。なんだって?」
「『今日の十三時に、○○のファミレスに集合』だそうでござる」
 
 食後の一服中。次美の入れてくれたお茶を飲みながら、俺達はのんびりと時間を過ごしていた。普段はバイトに出ている時間である。俺は久方ぶりに見る『○様のブランチ』を楽しんでいたのだが、ふと思い出したかのように司がそう言ってきた。
 俺は面倒臭がりながらも、居間につけられている時計を睨む。
 現在の時刻、十一時四十分。
 
「って、時間ないじゃん!? さっさと準備していくぞ!」
「あわわ、待つでござるよ平賀殿!」
「え? わ、私髪結ばないといけないんだけど――」
「そのままでも可愛いから平気だ!」
「――OK、このままいくわ」
「いや、さすがにジャージだけは着替えて!!」
 
 次美が俺の言葉を本気にしたのか、その辺にあった姿見に全身を映しながら、悪くもないかもとか呟いている。思わず、大声を上げてしまった。
 俺は外で女の子にジャージでうろつかれるとちょっと困る、微妙なお年頃なのだ。
 そんな次美たちを放っておいて、俺は自分の部屋に戻って大急ぎで準備する。財布、携帯……っと!
 携帯を手に取った俺は、大切なことを忘れていたことに気がついた。大慌てで、あいつに電話を入れる。
 
「おお、源六? いやこれからあの女の人に会いに行くんだがな。あ、来る? えっと場所は……」
 
 さすがに、昨日あれだけ活躍していた源六を置いていくわけにもいかないだろう。……決して、最後に忘れてしまっていた事の罪滅ぼしというわけではない。
 俺は携帯を置いて一息つくと、他の二人を急かせるため急いで居間へと向かうのであった。
 
 
 
(二へ続く)
 
 
 
 
 
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平賀君と田沼ちゃんと司奈ちゃんのやりとりに癒されます☆
このまま、一夫多妻制的にいっちゃってほしいな〜

2010/12/21(火) 午後 10:58 [ セツ ]

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セツさん。
一夫多妻制(笑)。
どうでしょうね、若干彼らなら可能な気がしますけど……。

2010/12/22(水) 午前 6:22 倉雁 洋

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司奈さんの料理の腕が意外なところでわかりましたね。

僕ならほめちゃうかもです。

2011/1/1(土) 午後 8:55 [ ニック ]

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カリカリジョージさん。
彼女は無難……というよりは若干アブナイ感じです。
料理作るところを見ているとハラハラするレベル?
しかし仮にもン百年生きてきてこれはどうなのかとも。

2011/1/1(土) 午後 9:08 倉雁 洋


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