倉雁洋の蔵の中

まあ、そうはいってもまーたすぐ戻ってきそうな気はするんですけどねー。

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 それは、小町と一緒に寝たある日の事。
 
 ねぇ小町?
「んあ? 何だ、早く寝ろよ。また明日遅刻するぞ」
 えへへ。もっと小町と話がしたいんだ。
「そうかよ。じゃ、俺は寝るな。おやすみ」
 ちょ、待ってよ小町! お話しようよ。
「やだ。俺は眠い。だから寝るんだ」
 ん〜、じゃあ寝ながらでいいから聞いてよ!
「あ〜、聞いてる聞いてる」
 んもう! ……ねぇ小町。
「……すぅ、すぅ」
 ……寝付きいいよね、小町って。まぁいいや。ねぇ小町。小町はまたいつか旅に出ちゃうんでしょ? そうなったら、僕も連れて行ってね。きっと、僕は小町と出会うために生きてきたんだ。小町と一緒に冒険して、小町と一緒に敵と闘って。小町の呪いを解いて。
 ……そしてきっと、小町と結婚するんだ。
 だから、いつか僕も連れて行ってね、小町。
 大好きだよ、小町。
 
「すぅ、すぅ……あぁ……わかっ……た…わ…かっ……た」
 
 寝返りを打ち、僕の方に顔を向ける小町。その形のいい唇が少しだけ動く。小町は寝言で僕の言葉に答えてくれていた。
 
 クス。約束だよ、小町。
 
 僕は小町の顔をじっと見つめる。きれいな顔。やさしかったり、厳しかったり。……天使みたいだったり。くるくると、変わっていく顔。
 
 
 
 ――僕は、その唇に顔を近づける。
 
 
 
「……おやすみ、小町」
 
 そして僕は眠りに着いた。
 
 
 
 はぁ、はぁ!
 
 走る、走る、走る。混雑している商店街の中を、人の間をすり抜けるように走っていく。何度も人にぶつかりそうになるし、実際にぶつかったりするけど、僕らはそれでも走り続けた。
 苦しい。息が切れる。喉が渇く。しゃべれない。
 ――それでも僕らは止まれない。
 
 はぁ、はぁ!
「おい、早くしろ!」
「やべぇ、まだ追ってくる!」
「ックソ、今日はしつこいな!」
はぁ、はぁ。
 
 仲間たちは僕より少し先を走っていた。人ごみの向こうに少しだけその姿が見える。まだ仲間たちがそこにいてくれることがありがたくもあり……同時に、自分が迷惑をかけているのだと思わされる。
 足が遅く、運動も得意ではない僕は、文字通り皆の足かせになっていた。
 
「おい、このままじゃ追いつかれるぞ!」
「……仕方ねぇ。アレやるぞ」
「マジか! いよいよアレやるのか!?
 
 離れたところでリーダーが何か言っている。その声に合わせて、僕以外の仲間達が走りながら集まって行った。何かを話しているが、人の声が邪魔になって聞こえない。ただ、仲間達には二言三言で話が通じているようだった。もちろん、、最近仲間になった僕にはわけがわからない。
 アレって何?
 僕が必死に足を動かしながら疲れた頭で考えていると、いつの間にかリーダーが少しスピードを落として、僕に並走していた。顔は野球帽に隠れてよく見えない。
 
「いいか。これから、俺達は分散する。このまま固まってたら、みんな捕まっちまうからな」
 そう…だね。ぼ……くも、そう……思う。
 
 息も絶え絶えに、リーダーに同意する僕。その言葉に、リーダーは満足げだった。
 
「俺は向こうに。あいつらはあっちとこっちだ。お前は、このまままっすぐ走れ」
 
 リーダーは、走りながら腕をあっちこっちに向ける。そして最後に、僕の顔ちらっと見た後、前に視線を戻して、腕を走ってる道の先に向けた。
 
 ……? 僕……は、この……まま…まっすぐ?
「ああ、そうだ。俺達があいつらを引き付けるから、その間に逃げるんだ」
 
 ああ、そうか。僕は足が遅いから、皆が助けてくれるんだ。
 リーダーの話を理解し、こくこくと頷く僕。
 
 ありが……とう。持つべきものは友……達って、本、当だね……!
 
 僕はその友情に感謝し、リーダーに笑いかける。リーダーの顔は、見えないままだった。ただ、前を向いたまま力強く言う。
 
「わかったな? お前は俺達にとって重要な奴だからな。……必ず助かるんだ」
 うん……!
 
 僕はそのリーダーの笑顔を想像しながら、大きくうなずいた。
 
「……よし。…………行くぞ!!」
 
 リーダーの合図。僅かに背中が見えていた仲間達も、弾かれたように分かれて行く。リーダーもそれに合わせて人ごみの中に紛れて行った。
 ばらばらになって逃げていく仲間達。その姿に、後ろの追手が困惑しているような気がした。でも僕はそれを気にしている余裕なんてない。仲間達の期待に応えるためにも、一歩でも前に進まなきゃいけない。
 
 
 まっすぐ、まっすぐ。
 僕は、言われたとおりにまっすぐ走る。サラリーマンを避けて、子ども連れの女の人を避けて。ただまっすぐに走り続ける。それが、リーダーとの約束。
 
 まっすぐ。まっすぐ。
 足が痛い。もう疲れた。座りたい。ジュースが飲みたい。――そうやって、僕の足を邪魔する僕。それでも、僕はまっすぐ走った。それが、友達との約束。
 
 まっすぐ、まっすぐ!
 仲間がいる。仲間が助けてくれている。だから僕は捕まるはずがない。
 僕が捕まることは、ないんだ!
 
 景色が流れていく。道行く人たちが、全部後ろの方へと。仲間がいるだけで心強い。絶対に捕まらない、捕まるはずがない。今、僕には何でもできる気がした。小町にだって認めさせるくらい、僕は自信に満ち溢れていた。
 
 
 
 
 
 
 
 それなのに。
 
 それなのに、どうして。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「捕まえたぞ! この悪ガキが!」
 
 僕は、捕まっているのだろう?
 
 
 
 
 
 
(二へ続く)
 
 
 
 
 
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