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………え?
「俺は確かにお前に俺か家族を選ばせた。選べとは言ったが、別に、お前が選ばなかった方を切るとは言ってないぞ。俺が切りたかったのは、俺とお前の“縁”だ」
ただ淡々と、微笑んだまま続ける小町。その目はやっぱり嘘をついていない。ただ、真実だけを語っていた。
な! どうして!
「お前みたいなガキ、連れて旅なんかできるかよ。走りゃすぐ疲れるようなやつなのに」
そんな……。………! 小町!
小町から、いや、小町と僕の間から、何か得体のしれない圧力のようなものを感じる。それは徐々に徐々に、突風という形で僕の体を後ろに押していった。
「そろそろ、効いてきたな。俺とお前の間にあった“縁”が無くなって、お互いが触れなくなるのが第一段階。風に吹き飛ばされて、無理やり引き離されるのが第二段階。そして二度と会えなくなるのが第三段階だ。ここで別れれば、後はすっきりさようならってわけだな」
僕はもう立っていられなかった。手を地面につけ、必死に草や岩を掴んで飛ばされないようにするだけ。――草花が揺れていないところを見ると、この風は僕と小町にしか吹いていないようだった。
………小町!
「ほら、な。お前は『己の脚』で立ってない」
見れば、小町は平然とその場に立っていた。髪が後ろに流されていることから、小町にも同じ風が吹いていることがわかる。それでも小町は、その両足で立っていた。
「俺の考えるいい男の絶対条件の一つ。『男子たるもの、己の脚で立つべし』。コレが出来ないんじゃ、いい男、とは言えないな。悪いが、此処までだ。お前と結婚なんざ、まっぴらごめんだね」
小町……!
「それにな。俺は自分の周りを見ないやつも嫌いだ。ほら」
小町は、威風堂々と立ちながら僕の後ろを指差した。そんな風に出来ない僕は、ただ必死に地面にしがみつきながらも、頑張って後ろに視線を向ける。そこに立っていたのは――
「――父さん、母さん!?」
離れた森の中から現れたのは、だれあろう僕の父さんと母さん。二人してあと数カ月は帰って来ないはずなのに、何故かこの森の中に来ていた。いつも綺麗な服を着ている二人は、慣れない森の中を歩いたせいだろう、ボロボロの格好だった。
そんな二人が、心配そうに誰かを――僕を探している。ついさっき、僕は二人との“縁”を切って小町を選んだというのに。
「二人に感謝しろよ? お前のお袋さんと親父さんは、お前がいなくなったって連絡を受けてから全てを投げ出して飛んできたんだ。おまけに自分の体も考えず、森の中に突撃。二次遭難を考えろってんだよな。お前との“縁”がなけりゃ、マジで死んでたぞ、あの二人。……そんな人たちとお前の良“縁”、切れるかよ」
そんな……父さん、母さん……。
「まぁ、そういうわけで――」
再び前を見ると、すごい突風の中小町がしっかりと土を踏んで僕の方に歩いて来るところだった。小町が一歩踏み出すごとに、風は強くなる。それでも小町は、ぶれることなく、僕のところまで歩いてきた。
「――悪いな。此処で姉弟ごっこは終わりだ。後は本物の家族で、な」
いたずら小僧のような小町の顔が千佳ぢてくる。顔と顔がぶつかりそうになるその距離、甘い小町の香りが漂ってくるその距離。小町のその唇が僕の額に当たりそうになったけど――それは決して当たることはなかった。
「じゃあな……野菜も、ちゃんと食べるんだぞ」
そう言って、小町は踵を返す。その後ろ姿がぼやけていく中で。
僕は完全に吹き飛ばされた――――。
「父さん、母さん、ごめんなさい!!」
あの後突風に吹き飛ばされた僕は、それに気づいた父さんと母さんに受け止められた。結局父さんと母さんは僕達の存在に気づかず、突然現れた僕に目をぱちくりとさせていたけど、僕が汚れた恰好だったことに気がつくと、泣きながら怒っていた。
そんな二人に、僕は全力で謝る。もちろん、小町が教えていった土下座で、だ。二人はその僕の様子に困った顔をしていたがやがて笑って抱きしめてくれた。
――それからというもの、父さんと母さんは、ほぼ毎日家に帰ってくる。何でも、教育をもう一度やり直すんだってさ。……ちょっといい迷惑だよね。
小町。
今はどこにいるんだろう。北かな、南かな。呪いはもう解けたのかな……きっと解けてないんだろうね。
小町。
僕はもう、小町に会うことは出来ないんだろう。小町と僕の“縁”は、もう、ないのだから。それでも僕は覚えているよ。小町が歌った歌。小町が好きだった本。小町と一緒に寝たベッド。……それは、大切な、小町との思い出。
小町。
「ありがとう」
僕の言葉はただ風に乗って流れていく。願わくば、あの人の元へ届けと。
じゃあね、僕の姉さん。僕のお姫様。僕の……初恋の人。
第三話 完
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う〜ん……。
最後の部分がちょっと急ぎ足のような気がします。
『僕』の両親については、ワンクッションあって欲しかったかも。
登場がいきなり過ぎたからか、何故か違和感を感じてしまいました。
というより、『僕』をあれほど気にかけていた執事さんが蚊帳の外なのが不憫だなぁ、と思いました。
『僕』の心理描写は、無邪気さや、思ったより色々なことを考えているところ、思わず反発してしまうところなどが良く表現されていて上手だなぁ、と思いました。
第四話の掲載が始まりましたね。早速読ませていただきますよ。
それでは失礼します〜。
2010/9/26(日) 午後 6:00 [ 大和 ]
大和さん。
そうですね、私自身これはちょっと急ぎ足でした。
もともと第二話より先にネタが浮かんで書けるかどうかわからず書いて、そのままお蔵入りさせようか悩みつつ、やっぱり書いてみるかと思って描いた話し。多分、まとめきるにはまだ実力不足なんでしょうね。今後の課題です。
ご意見どうもでした!
2010/9/26(日) 午後 6:07
次の話が浮かんでいる時にラストを書こうとすると、どうしても慌ててしまいますよね。
私も、書いた小説を頭っから書き直したものがいくつかあります。
それでも納得いってません。また直すかも。
僕を取り巻く特殊な環境とか、僕の無垢なところは表現が上手だなって思いました。
2010/9/26(日) 午後 8:11 [ - ]
AKARIさん、フォローありがとうございます。
そうですね、この話は凄く修正の余地があるので、その内また考えます。それを考えて行くのもまた楽しみ。
実は一番この作品で悩んだのは「僕」の心理描写なんですよね。子どもの頃の自分だったらどうかな、とかよく考えてました。
褒められてうれしいです。
2010/9/26(日) 午後 8:44