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「うう……」
朝起きると、ベッドの隣に敷いた布団の上で小町ちゃんが唸っていた。服装はさすがにあの服装ではない。一応私の寝巻を貸しておいた。……ただ、それもほとんど意味をなさないくらいに乱れている。
うん。私はその気がないからいいけど、そっちの子や男の子がこの様子を見たら大変なことになるでしょうね。
「うううう……」
どうやら、小町ちゃんは二日酔いになってしまったらしい。初めて飲んだ割にはゴクゴク飲んでいたから意外と大丈夫なのかとも思ったけど、やっぱり駄目だったらしい。生憎、二日酔いになったことのない私には彼女の苦しみは理解できないけど、相当にきついらしい。
呻いている小町ちゃんをとりあえず置いておいて、散らかった部屋を少しだけ片付けて必要な物を探す。
発泡酒の缶やおつまみのゴミはひとまず纏めておいて、ちょっとした外出用の服、財布の入ったバック、その他を見つけ出す。一応、下着だとかは片付けて置いた。すでに遅いかもしれないけど……やっぱり年上のプライドというものもある。そこまでだらしない姿を見られるのは好ましくなかった。
僅かな生活スペースを確保し、服を持って浴室へと移動。
軽くシャワーを浴びてさっぱりした私は、鞄を持って外へと出かけるのであった。
小町ちゃん、起きれる?
「あーうー、無理っぽい……」
小町ちゃんに声をかけると、言葉通りに無理そうな声が返ってきた。少し油断しただけでも胃の中身が逆流してきそうな声。とりあえず、無理だけはしないでは欲しい。
そう、わかった。朝ごはん、簡単な物だけど作っておいたから良かったら食べて。薬もテーブルの上に置いておいたから。あ、鍵は合いカギを置いておくわ。出ていくなら、ポストの中に入れておいて。
私はさっき買ってきた二日酔いの薬(どれが効くかなんてわからなかったから、適当に)と飲み物のペットボトルを机の上に置きながら、そう小町ちゃんに声をかけた。台所のおかゆは好きに食べていいこと、合いカギについても伝えておく。
「ありがとー姉さん。……っち、俺としたことが二日酔いなんて……」
少しずつではあるが、小町ちゃんも回復傾向にあるようだった。何より、言葉遣いが初めて会ったころに戻ってきている。その女の子らしくないその言葉遣いの小町ちゃんと、昨日の女の子らしい小町ちゃん。そのギャップが少しおかしかった。
私は布団の中でうんうん唸っている小町ちゃんを見てクスリと笑った後、また憂鬱な会社に向かって足を動かすのだった。
「おう、お帰り姉さん」
! 小町……ちゃん?
また残業で帰りが長引いた私が家に戻ってくると、エプロンに身を包んだ小町ちゃんが出迎えてくれた。まだ小町ちゃんがいたことと、その彼女がエプロン姿で出てきたこと。その二重の意味でびっくりしたけど、帰って来たときに『お帰り』なんて言われるのは久しぶりで、本当に嬉しかった。
「姉さん、いくらなんでも冷蔵庫に酒ばっかなのは良くないぜ? とりあえず俺が食材入れて置いたけど、ちゃんとバランスよく飯食わないと」
そう言って、小町ちゃんは鼻歌交じりにテーブルにご飯を並べていった。煮物や鯖の味噌煮、キュウリの浅漬け。それ以外にも何品かあって、その全てがおいしそうだった。思わず、ぐぅと自分のお腹が鳴る。こんなに食欲が出たのはいつ以来だろうか。
「ああ、金なら大丈夫だ。 昨日みたいに適当に歌ってたら、物好きな人が金くれたから」
危うく警察に捕まるところだったし、と笑う小町ちゃん。確かに、小町ちゃんの姿は家で少女にしか見えない。この季節にうろついていると、警察のお世話になりそうになることも多いんだそうだ。
ニカッと歯を見せながら笑うその仕草は、何所か男の子っぽい。青春物のドラマで主人公を張れそうなくらいだ。
……いけない、いくら彼氏に会えないからって、そっちの道に走っちゃダメよ、私。
「? 妙な寒気が……まだ酒が残ってるのか? ……まぁいいや。 とにかく姉さん、飯食おうぜ。姉さんも腹減ってるだろ」
小町ちゃんはそう言って、炊飯器からご飯をよそい始めた。私は席に着き、茶碗を受け取る。
「いただきます」
小町ちゃんが手を合わせるのに倣って、私も手を合わせる。ふっくらと炊きあがったご飯。一口含むと伝わってくる、上品な甘さと温かさ。鯖の味噌煮も、煮物も浅漬けも、何所か私の心を刺激する。私は知らず、涙を流していた。
(三へ続く)
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弁天娘の縁切行脚!
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