倉雁洋の蔵の中

まあ、そうはいってもまーたすぐ戻ってきそうな気はするんですけどねー。

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 ――森の中には魔女が住んでいる。深い森の奥に無数の悪魔を従えて居を構えている。だからいいかい、子どもたちよ。悪いことをしてはいけない。物を粗末にしてはいけない。悪いことをした子どもは、物を粗末にした子どもは、魔女に攫われてしまうのだから。いいかい、子どもたちよ。
 森の中には、赤い髪の魔女が住んでいる――
 
 
 
 
「きゃ!!
「大丈夫ですか、姫。やはり拙者の背中にお乗りくだされ」
「う、うん。ありがとう、アクタマル」
 
 深い森の中を、黒いローブを身にまとった二人の人影が歩いていく。一人は姫と呼ばれた非常に小柄な影。もう一人はローブの下から籠手やすね当てが見えている、アクタマルと呼ばれた影。
 二人は寄り添いつつ、ゆっくりと深い森の中を進んでいた。空高くには太陽があるはずだが、深い森の中はいつでも薄暗い。姫のおぼつかない足取りに、アクタマルは自身の背に乗るようにと進言する。姫はそれにうなづき、彼の背に乗った。
 アクタマルは姫を背に乗せてもその速度を少しも落とさない。彼は姫を背負ったまま、悠然と森を進んでいく。
 
「この森を抜ければ、後はしばらく平原と聞きます。何処かに街があればいいのですが」
「うん。しばらく休めてないものね」
 
 二人は進む。すでに故郷が失われて幾星霜。海を越え山を越え砂漠を越え、どれほどの距離を歩いても、彼女たちの望みは見つかっていない。
 いつまでこの旅は続くのだろうか。
 姫がそのことに想いを馳せた瞬間――
 
「……!」
「ひゃ!」
 
 ――木々の奥で、微かに何かが光った。アクタマルは瞬時に身をかわし、姫を守る。
 飛んできたのは一本の矢だった。それはアクタマルを威嚇するかのように、その体を掠めて通り過ぎる。通り過ぎた矢が木に突き刺さった音が聞こえると、その音に応えるように武装した集団がアクタマル達を取り囲んだ。
 鉄でできたハーフプレートを着込んだ、怪しげな男たち。各々の手には弓矢、剣、そして銃。人を傷つける目的のために生まれた道具たちが、その目的に沿ってアクタマル達に牙をむく。
 その道具を持つ集団の面々は、非常に危険な笑みを浮かべていた。犬歯を剥いたその姿に、アクタマルは姫の体を地上に降ろし、近くの木の裏へと歩かせる。
 
『おい、クソ野郎! こんな森を通るなんて、死にてぇのか?』
『カカカッ! こんな森の中何がいるかわかんねぇぞ』
『その前に俺達に会うなんて、運がいいな。――俺達の!』
 
 男たちは口々に何かをしゃべっている。だがアクタマル達にとって、この地は故郷を離れて遠すぎる。今のアクタマル達には彼らが何を言っているか理解できなかった。しかし、その態度からおおよその内容はわかる。
 
「つまり、お主らは野盗の類か」
『あん? なんだこいつ、何言ってんだ?』
『知らねぇよ。この辺りの言葉じゃねぇし、どっか別の国から来たんじゃねぇ?』
 
 アクタマルの問いに、今度は彼らはが疑問符を浮かべて顔を見合わせる。しかし一瞬の後、再び危険な笑顔を宿した。相手の言葉が分かろうが分からなかろうが、そんなことはどうでもいい。彼らの目的はただ一つ。奪い、食らうだけ。
 
『そんな事どうでもいいだろ! ってかそこの後ろのちっこいの、女のガキじゃねぇか? 外国のガキ、しかも女だったらかなり高く売れるぞ!』
『ああそうだな! おい、そこのクソ野郎。命が惜しけりゃ有り金全部とそこのガキを置いてきな!』
「……よくは分からぬが、もしや姫をよこせと言っておるのか?」
 
 その下卑た笑いに反応し、アクタマルはその籠手に包まれた右手をローブの下へと滑らせる。そのまま右手を引きぬくと、そこには長い片刃の剣が握られていた。
 ゆるく沿った刃、芸術的な波紋。そのあまりの美しさに、野盗たち一瞬目を奪われる。
 それも当然である。いかにこの稼業が長い彼らとて、武器でありながら芸術の域まで高められたこの『刀』という道具を見ることなど、無かったのだから。
 
『――っち! ビビるな、やれ!』
 
 アクタマルの尋常じゃない雰囲気を感じ取ったのか、リーダー格らしい男が叫ぶ。それに合わせて、野盗達はそれぞれの武器をアクタマルに向かって振るった。
 アクタマルの体に矢が放たれ、槍が突撃し、剣が薙ぎ、そして破裂音が響く。そのことごとくを、アクタマルは逸らし、かわし、時に弾いて対応していた。手数は野盗の方が多い。しかし熟練されたアクタマルの動きには、この程度の数の差は関係なかった。鉄砲だけはかわしきれなかったが、アクタマルは生憎と大鎧を着込んでいる。単発式の銃ではさして効果なかった。
 
 それらの手が緩んだその瞬間。
 アクタマルの刀が閃いた。
 
 一閃、また一閃。深い森の中で鉄のきらめきが辺りを走る。その度に、彼の近くにいた男の首が飛ぶ、胸が貫かれる、胴が別れる。一瞬にして、森が血に染まる。
 ――気がつけば、その場の野盗達はほぼ全滅していた。残されたのはリーダー格の男、ただ一人。彼は号令を出した状態のまま、そこに立っていた。
 
『あ……え……?』
 
 それらはあまりにも早すぎた。男は理解が追いつけておらず、ただ辺りを見回している。
 その男の様子に、姫は木の裏から姿を現しアクタマルの傍に立った。もうこの男は何ら脅威ではない。アクタマルが刀を振るうだけで、その命は潰える。
 
「姫。もうそろそろ拙者も補給しようと思っていた頃合いにございます。よろしいですかな?」
 
 アクタマルの冷たい言葉。当然リーダー格の男にその言葉の意味は理解できない。しかしその凍えるような言葉の感触に、彼はただ恐怖した。
 
「うん。仕方ない……よね」
『ッヒ!』
 
 しばらくの沈黙の後、姫が悲しそうな顔で頷く。それは男の処刑法が確定した瞬間だった
 アクタマルがゆっくりと男に近づいていく。その迫力に男は逃げようと後ずさるが、太く張られた木の根がそれを阻害する。尻もちをついた男に、なおも迫るアクタマル。そしてそれを見る姫。
 男はローブの下にうっすらと見えるアクタマルの顔を見る。蒼い頬あてに包まれた顔。しかしその中身は――何も、無い。
 
『……あ、ああ……!』
 
 アクタマルはその実、異形だった。男とて、ローブのふくらみから恐らくその中身が鎧兜を身につけているであろうことは予想出来ていた。しかし兜に包まれているはずのその頭部。面のようなものに包まれたその内側には、そこに有るはずの目が見えず、ただ暗闇だけが広がっている。
 悪魔。その言葉が男の脳裏をよぎる。ならば、この悪魔を使役しているこの子どもは。
 
『ま、魔女……!?
 
 男の脳裏に、子どものときに聞かされた言葉がよみがえる。それは、赤い髪の魔女の話。悪いことをしていると攫って行ってしまうと言う、あの伝承の魔女。
 男は己の人生を後悔した。今更ながらにその伝承の意味がわかった。あれはただの戒めなんかではなかったのだ。現実として今彼の目の前に、ある。
 アクタマルの右手が、男の頭を掴む。革と鉄でできた、冷やりとした籠手の感触。それは男に命そのものを掴まれたような感覚を与える。
 そして男を襲う虚脱感。力が、記憶が、言葉が、魂が。そうした男のすべての物が籠手を通して鎧の中に吸い込まれていく。男は最期に、子どものように泣いて母を呼んだ。
 
 
 ――とある時代、とある大陸のとある森で。その日を境に野盗が消えた。
 
 
 
 
(一へ続く)
 
 
 
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立ち寄っていただきありがとう!中々面白そうな物かかれていますね、少しずつ読ませていただきます。

2010/10/19(火) 午後 10:12 [ O - ]

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O−さん。お久しぶりです。
こちらこそ、立ち寄っていただきありがとうございました。
まだまだ途中ですが、暇つぶしでどうぞー。

2010/10/19(火) 午後 10:18 倉雁 洋

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やっと、ここを読み終えました。
これ、自分で書いたんですか…。
すごいじゃないですか!!
本でも出版できるっしょ!!

2011/1/18(火) 午後 3:40 たつ

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たつさん。
お読みいただき、ありがとうございます。
ええ、まあ。一応、自作小説系ブログですからね(笑)。
本は……一応、別のものがとある出版社に「自費出版なら」と言われたんですけどねー。まだそういう気にはなりませんし、なにより自分の小説がお金を払ってまで読まれる価値がある物なのか……そこに悩みます。

2011/1/18(火) 午後 6:02 倉雁 洋


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