倉雁洋の蔵の中

まあ、そうはいってもまーたすぐ戻ってきそうな気はするんですけどねー。

しけた英雄の使い道。

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「うう、きもちわるい……」
「だからあれほど飲むなと言ったんですよ」
 
 イシューと騒いだ次の日の朝。王国中央軍第二十番隊の面々はとある教会の前に立っていた。
 目の前には大きな鍋と、その中いっぱいに入れられた麦粥。そんな代物が、イアン達の目の前の他にいくつか配置されている。一つの鍋に何人ものシスターたちが控えており、今のリックと同じようにお玉と容器をもって慌ただしく働いている。
 それらの鍋の前にはそれぞれ長蛇の列。そのほとんどが暗い顔をしており、自分たちの現状を悲しんでいるように見える。それも仕方ないだろう、彼らは今職を、家を失い路頭に迷っているのだから。
 教会主催の炊き出し。今日のイアン隊の任務はそこの手伝いだった。
 
 大戦以降続いていた王国の好景気も、今や隠しきれない陰りが見え始めている。人口が増加しすぎた結果の犯罪率の増加、そして失業者の増加。それらの原因は――結局は、自分たちのせいだった。
 『サディアス王国はチャンスに満ち溢れている』。その噂が大戦後にまことしやかにささやかれていた。その噂はあながち間違っていない、大戦によって失われた再び国を盛り上げるために、王国は多くの人間を必要とし、またそれらを活かし運用する資金もよく整っていた。
 噂につられて、大戦で疲弊した他の国から次から次へと難民が逃げてくる。無限にわいてくる労働力を、王国は蒸気機関を利用した工場につっこんで大量生産体制を確立。そして得た資金を利用して、再び工場を――後は、そのサイクルの繰り返し。
 周りの国が気付いた時には、この国はあっという間に『大陸の工場』という地位を確立させていた。サディアス王国の内部で完成された大量生産大量消費の経済システム。それにより、王国の国民所得は年々増加。さらには溢れだした製品を外国に輸出することで他国の資本を喰いあさり、王国はますます強く強靭になっていく。結果、サディアス王国は大陸中で最も幸せな国と謳われるようになった。
 ここまでは良かったのである。王国内の上層部が思い描いた通りの未来図を作り出した。しかし、そこからがいけなかった。彼らは夢と現実の境を無くしてしまったのである。
 サディアス王国以外の国では、王国から流れ込んでくる製品の所為で自国の産業が弱まり、どんどん仕事が無くなっていく。そんな国の民はどうするか。国に残り続けるか、それとも国を捨ててサディアス王国へと流れるか。
 多くの人間が後者を選択し、そしてそれら全ての難民たちを、王国は受け入れ続けた。これからも経済は成長し続けると信じて。
 しかし彼らの予想に反して――そのシステムは、破綻しかけていた。
 人口増加速度が彼らの予想以上に速かったのだ。工場設立を起草し、計画し、建設している間にも無数の人が押し寄せる。働く場所が無ければ、浮いている労働力は失業者にならざるを得ない。
 そうして、この国に来たばかりの難民、して元から金を持たない労働者たちは、転落するしか道が無くなった。
 この国の発展システムの中に、この滅亡へのシステムが組み込まれていたのだ。しかしそれに気づいている人間はごく少数。誰もが夢を見て。また誰もがその事実に気付かないままに。今日も経済というシステムだけが動き続ける。――こうして、この王国は自分達で自分達の首を絞める。絞まったことに気づかないまま、今日も回り続ける。
 
 今日この炊き出しに来たのはそのシステムに巻き込まれた人達。全体的には、経済成長が続いている。工場さえできれば、再び彼らを雇い入れる余裕ができるのだと。精々こうして餌を与えて生かしておけば、明日の大金に繋がるだろうと。国の上流階級が考えたのは、つまりそういうことだった。下流階級をヒトではなく家畜か物のようにとらえる。
 この炊き出しには、そういう国の意図があった。国民よ、私達はこうして君たちにも援助をしているのだよ、とアピールする事によって国民の気をそらすために。そしてその白羽の矢が、名前だけは売れているイアン隊に突き刺さったのだ。
 なぜなら彼は『英雄』。人の前に立って人を導く象徴。人々の希望の視線を受けるその体は――その実、もう一つの意味がある。
 
「何か、凄く見られている気がしません?」
「さあなぁ。やっぱり仮にも一部隊なのに二人しかいないっていうのが変だと思うんじゃないか?」
「そんなもんですかね」
「そんなもんさ、気にすんなよ。案外、俺のファンかもしれないぞ」
「いや、それはあり得ません」
「はは、相変わらず言うねぇ、リック」
 
 イアンにそう言われると、根が真面目なリックは再び麦粥をよそい、渡していく作業に戻る。イアンはその光景を眺めながら、自分の部隊を見つめる視線に意識を向けた。
 当然、イアンはリックが言う視線を感じているし、その視線の意味をおおよそ理解している。と言うか、リックが感じていたのはあくまでイアンに向けられた視線の一部。そのおよそ数百倍の視線を、イアンはその肌で感じ取っていた。
 
 どうして俺達を助けてくれないんだ、うちの国の『英雄』なのに。
 『英雄』のお前がいたから俺の国は酷い目にあったんだ。
 『英雄』だったら俺達の国も助けてくれればいいのに。
 
 イアンには、その視線がそう訴えているように聞こえる。恐らくこの列の中には、かつての敵国の住民や今王国に苦しめられている国の住民たちが多数いるに違いない。――その恨みの視線、不満の視線を受けるのもまた、『英雄』なのだ。
 だからイアンは、その視線にへらへらとした笑顔を向け続けた。それによって憎しみの目線が強くなったとしても、それでいいと考えて。ただ、『英雄』としての彼に出来るのはそれだけ。
 都合のいい時に祀られ、悪くなれば恨まれる。それが、『英雄』という存在だった。
 
 
 
 
(五へ続く)
 
 
 
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