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CM3『合成甘味料はお好き?(仮題)』
それは、ある冬の日の事。
「今日も寒いね〜、夕輝(ゆうき)。わたし、あったかい飲み物が飲みたいな〜」
「おい、由妃(ゆき)。お前この前もそう言って俺に奢らせただろ。俺の方が貧乏暮しなんだぞ?」
「う〜、いいじゃん。夕輝、バイトしてるんだし」
「だが断る。さっさと学校行くぞ」
上目づかいでおねだりしてくる女を放っておいて、俺は学校への道を急ぐ。いつもと同じやり取りなので、もう慣れたものだ。まってよ〜、とか言いながらその女はてくてくと駆けてくる。
俺、三金 夕輝(みかね ゆうき)とコイツ、知坂 由妃(ともさか ゆき)はいわゆるお隣さんであり、腐れ縁でもある。つまるところは、幼馴染というやつだ。
中肉中背、コレといった特徴もない俺に比べ、由妃はそこそこ変わり者だと思う。
身長はどちらかと言えば小さめで、髪は黒のセミロング。好きな教科は理科で、ダメな教科はそれ以外。料理も洗濯もダメ。見た目は悪くない。悪くないんだが……あまりの生活能力の低さに、嫁の貰い手に困る事は間違いない。
「う〜う〜、やっぱり寒いよ〜。凍え死んじゃうよ〜」
コートにマフラー、手袋に耳あてまでつけた由妃は、それでも寒そうに手をこすり合わせて、息を吐きかけていた。
確かに、今年の冬はやたらと寒い。世界的に寒波が来ているとかで、遠い海の向こうでは少なくない人々が凍死してしまっているらしい。
……もちろん、それは海の向こうの話であって。北日本や山奥ならいざ知れず、こんな太平洋沿いの町で、しかも登校中の三十分足らずの時間で凍死なんぞするわけがない。
凍死するわけないのだが…………はぁ。
俺は心の中で嘆息する。我ながら、コイツには甘すぎるな。
「……まったく。ほら、好きなの選べよ」
「いいの!? わ〜い、夕輝、ありがと!」
先ほどとは別の自販機の手前で止まり、コートから財布を取り出す。それを見た瞬間、由妃はまるで子ウサギのように辺りを飛び跳ねていた。
……判ったから、おちついてくれ。後ろの人達がクスクス笑ってる。
「んとね、んじゃ〜……コレ!」
ピ、と由妃がボタンを押すと、自販機の入り口から缶が落ちてくる音が聞こえてくる。
由妃が膨らんだ手袋を取り出し口に突っ込み、悪戦苦闘しながら取り出したのは――
「何だ、またそのコーヒーか。しかも微糖」
とあるメーカーの、微糖コーヒー。由妃がここ最近気に入っている銘柄であった。
「お前って、本当にそれ好きだよな。俺はどうにも苦手なんだが……」
そう言いながら、俺も自販機でホットコーヒーを購入する。もちろん、微糖ではない。普通の缶コーヒーだ。……俺は、この微糖というモノがどうしても好きになれなかった。合成甘味料の甘さが妙に舌に残るのが、嫌なのだ。
「そう? わたしはこの舌に残る感じがたまらなく好きなんだけどな〜」
二人、道の端っこ並んでコーヒーを飲み始める。仏頂面で砂糖ミルク入りのコーヒーを飲む俺と、あちち、と言いながらクピクピと微糖コーヒーを飲む由妃。
その嘘偽りなく幸せそうな笑顔は、正直感心するほどだった。
「ふ〜ん……どれ、ちょっと飲ませて」
「え? あ!」
あんまりにも幸せそうだったから、少しいぢめてみたくなる。一瞬の隙を突いて、由妃の缶を奪い取り、口をつける。元々俺の金なんだし、別に俺が飲んだって構わないだろう?
「……うぇ。やっぱり駄目だ。ほい、返す」
「え、あ、うん……間接キス……」
温かいコーヒーを飲んだせいか、はたまた驚いたせいか。
顔が赤くなっている由妃は放っておいて、俺は自分のコーヒーを飲んで一息つく。口なおしって奴だ。滑らかな舌触りが、口の中に広がる。……ちょっと、甘すぎるかな。
「ふぅ……。おい、どうした? さっさと飲まないと冷めるぞ?」
「え! あ、う、うん! そうだよね、飲まないともったいないよね!」
俺が声をかけると、缶の口を凝視して固まっていた由妃が再起動し、コーヒーを飲み始める。ま、コイツはこういうやつだからな。いつもどっかぽーっとしてるし。
俺が面倒みなけりゃ、朝も起きられないくらいだから。やれやれだ。
「しっかし……ホント、お前良くそれを飲めるよな。俺には無理だ」
「うん、だっておいしいよ?」
がこん!
俺はさっさとコーヒーを飲みほして、空き缶をすぐそばのゴミ箱に捨てる。
舌に残った合成甘味料を洗い流したかったのだが……それでも舌に少し残った感じがあるから、合成甘味料ってのは困る。
「ほら、こんなに口の中が嫌な感じになる。どうにも体には悪い気がするんだが」
この感覚が好きだっていうのだから、やっぱりこいつは変わり者だよな。
俺の言葉に由妃は何を考えたのか、いつも以上にゆっくりと缶を傾けながら頬を緩めた。
「これくらいの甘さがちょうどいいんだけど。う〜ん……わたしは、砂糖の天然な感じの甘さも、合成甘味料の人工的な甘さも、大好きだよ? 確かに合成甘味料の甘さは偽物かもしれないけど……でも、それでも甘いことに違いは無いんだもの。飲む人がいいなら、いいと思うな」
「まぁ、それはそうなんだけどな」
――結局、人の好み次第だからな。
コイツの好みについて、俺があれこれ言うのはおかしいか。でもなぁ……やっぱり、気にするよな。その、一応な。……長い付き合いなわけだし。
「うん、そうだよ。だから、わたしははっきり言うんだよ」
そこで一拍区切り、俺の目をまっすぐに見つめる由妃。
子供の頃からこいつの瞳は変わらない。きらきらと星が瞬いているその瞳に、気がつけば俺はいつも引きつけられているような気がして――正直、恥ずかしかった。
「わたしは、大好きだよ、って!!」
トクン! と、俺の心臓がひと際大きく高鳴る。
天真爛漫な笑顔が、あまりにも愛おしいから。いつもこの笑顔で……“ああ、やっぱり俺はコイツが好きなんだ”って、自覚させられる。
やれやれ。この関係はきっと、俺がこの思いを口にするまで続くんだろうな。――まだ、絶対に言えない。
「そうかよ。この変わり者が」
「うふふ。そうだよ、わたしは変わり者だよ〜」
赤くなった顔を隠すように、俺はそっぽを向く。冬の冷たい風が、火照った頬に心地よい。ついでに、そんな冬の風に乗って遠くの方からチャイムが聞こえて来た。
結局、今日も遅刻するのか、と思いながらも――
「クピクピ……ぷは〜」
――幸せそうにコーヒーを飲む由妃を見ていると、そんなことはどうでもよくなってしまう俺は、やっぱり甘すぎるのかもしれない。
ついでに、Blogramの方も。 |
記念部屋
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これは読みたいかも。
軽い感じで、でも実は歪んでるってのが気になります。
2011/1/25(火) 午後 7:11 [ - ]
初めて恋愛話を書いたときのことを思い出しました。あれは黒歴史でした。こちらは良い感じに纏まっていますが。
「合成甘味料の甘さが妙に舌に残るのが、嫌なのだ。」
このフレーズ最高に良いですね。
2011/1/25(火) 午後 7:11 [ - ]
AKARIさん。
ええ、その辺りがこう、うまいこと行かないんですよね。
まあ、またそのうち何か見つかったら書いて行こうかとも思います。
ずーっと先でしょうけど(笑)。
2011/1/25(火) 午後 7:53
おしんさん。
何、恋愛話は私もよく黒歴史に(笑)。
そのフレーズも、もうちょい直した方がいいかな、とも思いましたけどもね。身近なことだから、余計に感慨がわくんでしょうか?
2011/1/25(火) 午後 7:55