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一橋のデュプレ

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 一橋大学の文化祭に行った。FC東京サポーターのヨメさんは、初日にあった倉敷保雄アナウンサーのトークショーを聞きにいった。昔から「一橋祭」は、地元住民がフラッと気軽に足を運べる文化祭である。

 クラシックの音楽サークルがやっている「名曲喫茶」に入る。学生の管弦楽団が入れ替わり立ち替わり出てきて生演奏を披露する。音大じゃないのに、みんなソコソコ以上にうまい。これでコーヒー150円は安い。

 3組目に出てきたのは、女子学生によるチェロの独奏だった。演目は、なんとあの「エルガー・チェロ協奏曲」の第一楽章である。
 
 協奏曲(コンチェルト)とは、独奏楽器がオーケストラと共同演奏することである。ピアノ・コンチェルトなら、ピアノ+オケ、バイオリン・コンチェルトなら、バイオリン+オケ、ホンダ・コンチェルトはクルマである。

 コンチェルトを、独奏楽器だけでやるというのは、聞いたことがない。しかも、エルガー作曲のチェロ・コンチェルトといえば、英国の天才女流チェリスト、ジャクリーヌ・デュプレが一躍有名にした難曲だ。なかでも出だしから圧倒される第一楽章を、チェロだけで演じるというのは、いったいどういう料簡なのか。

 キリッとした目をした女子学生のエルガーは、独奏用に何かアレンジしたわけではなく、チェロのソロ・パートをただ無伴奏で弾くというものだった。たぶん、この曲が大好きなのだろう。
 
 しかし、演奏ははっきり言って、ヘタっぴである。音程は悪いし、リズム感もあるとはいえない。休符も、ちゃんとカウントするわけではないから、演奏はブツブツ途切れる。いくら好きでも、ふつうは人前に出てきてやらないだろうなというレベルである。

 ただ、感心したのは、一音一音をはっきりと出すことである。音程は悪いけど、ごまかす気配はさらさらなく、けっして上滑りしない、実のある音を常に出している。とくに低音域のアタックはデュプレもニコッとしてくれそうだ。
 そうやって10分近く、堂々と最後まで弾ききった。ある意味、今まで生で聴いたどんなエルガーよりも印象に残る演奏だった。

 つくづく思ったが、演奏でいちばん大切なのは、“押しの強さ”なのである。「とにかくワタシの演奏を聴いてくれ」という気迫や情熱が、なにより肝心なのだ。それは“うまいへた”よりも、たぶん大事なことなんだろうな。
 一橋のデュプレに「ブラボー」一枚!                                                                                                                               

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下野康史(かばた・やすし)
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