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八王子でやっているカサド・コンクールの予選を聴きにいった。スペインのチェリスト、ガスパール・カサド(1897〜1966年)の奥さんが日本人ピアニストであったことから、八王子市が名乗りをあげて復活させた若手チェリスト発掘の由緒ある国際コンクールだ。
前回より多い57人が一次予選に集まった。そのうち7割が海外からの参加だ。外国人には、最高1000米ドルの交通費と滞在中の宿舎が提供される。優勝賞金は150万円、2位80万円、3位50万円。審査員にはアルト・ノラス、アラン・ムニエ、堤 剛、倉田澄子といった国内外の有名チェリストが名を連ねる。つまり、お金のかかる文化事業をこんな苦しい時期によくやったと思う。八王子市、エライ! さすが荒井由実のふるさと。
八王子はかつて織物産業で栄えた古い町である。荒井由実の実家も、甲州街道沿いの荒井呉服店だ。そういうところにはパトロン・メンタリティのエスタブリッシュメントが多く住んでいる。ぼくの知り合いにもいて、コンクールのお役やボランティアをやっている。
聴きにいったのは、いちょうホールで開かれた予選初日。たぶん昼は休憩が入るだろうと考えて、1時ちょっと前に着いたら、お休みは1時半からで、75分も中断する。結局、1時からのひとりだけを聴いた。
コンクールの予選を観たのは初めてだが、やっぱりコンサートとはひと味違う緊張感がみなぎっている。「演奏終わったんだから、手たたけよ、そこのガイジン!」と思ったら、アルト・ノラスではないか。あなたの「白鳥」、iPodで愛聴してますけど、審査員だから手たたかないわけね。といった雰囲気なので、ひとコマで引き揚げた。予選は入場無料の太っ腹だから、後ろ髪をひかれることもない。
でも、たまたま行き当たった松尾宏隆さんの演奏はすごくよかった。「1981年以降の生まれ」が参加資格だから、トシいってても28歳。現在はアメリカで活動しているという情報しかないが、まずチェロの音がすばらしい。ホント、どうやったらあんな濁りのない音が出せるのだろう。いいチェロの音というのは、弾いているのではなくて、吹いているように聴こえる。サックスかなんかを。
持ち時間35分のあいだに、課題曲(ピアノとのソナタと、チェロの独奏曲)の中から数曲を選んで弾くのだが、この人はバッハ無伴奏チェロ組曲4番のプレリュードとサラバンドをやった。4番のプレリュードなんて、プロだって滅多にやらない難曲なのに、鳥肌立った。いままで生で聴いたバッハ無伴奏のなかでもいちばんよかったかもしれない。まさか優勝したりして。
天気がいいので、家から自転車で行った。ひとつわかったこと。たとえ予選でも、サイクルウェアで演奏会場にいると、浮く。そもそもホール入口に立っていた男の係員に「カサド・コンクールの予選ですか?」って聞かれたもん。カサド・コンクールの予選しかやってないだろ。
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