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フェラーリを弾く

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(弾かないとき、チェロはこうやって横に寝かせておくのがふつう。人が多いと、ときどき蹴っとばされる惨事が発生する)


 真夏の暑さだったきのうは次回磯野チェロ教室発表会に備えた「アンサンブル火曜日」の練習。前回は急病で倒れた人の代役で入ったのだが、そのままメンバーに入れてもらえることになった。音域の広いチェロはアンサンブル(合奏)がいちばん楽しい。

 曲はゴルターマンの4重奏曲ノクターン。ぼくは2番チェロ。メロディの1チェロはむずかしいけど、2チェロ以降はけっこう簡単。とタカをくくっていたわけでもないのだが、合わせてみたら、ぼくのパートがむずかしかった。

 合奏というのは、掛け合いとか追っかけとか、合わせてみて初めてひとつの曲になるわけだから、ほかのパートに引っ張られたりして、ひとりの“家練習”じゃ出てこない困難が次々と生じる。そうなると、実は2チェロもタイヘンだったのである。それ以前に、ぼくは譜読みの能力が低いため、3拍子のところを部分的に4拍子で弾いていたりして、みんなの足を引っ張ってしまった。

 リーダーのTさんが楽器を新調した。退職金で買ったというイタリア製の新作。
 バイオリンやチェロを大量生産するという考え方は、イタリアにはない。イタリアの新作楽器はぜんぶ職人が手づくりする手工品だ。フェラーリと同じ。だから、ストラディバリウスの時代からイタリアの弦楽器は世界一である。

 ストラディバリウスに代表される何百年も前の古い楽器に比べたら、新作は屁みたいな値段だが、それでもチェロだと300万円は下らない。バイオリンほど需要がないし、使う木の量が多いし、製作時間もかかるからだ。「クルマ買えますね」と聞いたら、「買えます」とオーナーも言っていた。

 でも、フェラーリだと思えば、安いものである。イタリア製くらいになると、新作だってほとんど値落ちしない。なぜなら、いい木を使った弦楽器は、経年変化で木の水分が抜け、どんどんいい楽器になっていくからだ。古い楽器が高価なのは、基本的にはそのためだ。

 ちなみにぼくのはドイツの学生用量産品。フェラーリと比べると、価格的にもVWポロあたり。ドイツにはマイスター制度があるので、安い量産品のわりに品質が高い。
 ぼくのポロはどんな先生やうまい人に弾いてもらっても、必ずほめてくれる。ちょっとしたラブストーリーの末に手に入れた楽器でもあるから、まったく不満なしだ。

 Tさんは豪気な人で、どうぞどうぞとみんなに弾かせてくれた。写真正面の女性が試奏中。赤っぽい塗装なんて、やるのはイタリアか、フランスか、くらいである。明るい音で、弾きやすかった。

 しかし、いろんな楽器を弾くたびに思う。楽器より、練習だ。
                                                                                                                                                    

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下野康史(かばた・やすし)
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