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 ニューヨークフィルのコンサートで、客のiPhoneアラームが鳴りやまず、演奏が中断されたというニュース、なんだかすごく身につまされた。

 よりによって、マーラーの9番の最終第四楽章のエンディング。マーラーの9番といえば、小沢征爾がボストン交響楽団を去るさよならコンサートでやった曲だ。

 とくに第四楽章は、「弦の海」みたいな名曲中の名曲だ。まったく波のない、月明かりに照らされた夜の大海原にたったひとりで漂っているようなイメージ。しかも最後は、弦の音が無限の彼方に消えてゆく。無音を演奏するような息を呑むエンディングで、どこで終わったか、わからない。指揮者の後ろ姿が「終わり」を告げるまで、勝手に拍手なんかしちゃいけないのである。

 そのクライマックスに、客席でマリンバ(木琴)のアラームが鳴り続けちゃったのである。第一楽章から1時間以上続いてきた演奏は止められ、第四楽章の途中から再開されたそうだ。

 まったくバカヤロウなおっさんの不注意とはいえ、この海外ニュースを初めて聞いたとき、ぼくはむしろおっさんのほうに同情、とは言わないまでも、感情移入をしてしまった。
 
 マリンバの電子音が、自分の携帯電話から出ていると気づいたとき、どんな気持ちがしたのだろう。いや、iPhoneのアラームを止めるのは簡単らしいから、最初は自分のじゃないと思っていたのかもしれない。いや、自分のじゃないと願っていた。自分のだと観念したときは、これが夢であってほしいと思っていたんだろうか、とか想像するだけで、背筋が寒くなる。

 ちなみにぼくは、マーラーの9番とか5番とか10番を、大指揮者が振る有名オケの生演奏で聴こうとは思いません。携帯電話はセーフでも、静かなパートでセキが出たり、おなかが鳴ったりするのまで防ぐ自信はないですから。日本のブランド演奏会だと、隣の原理主義者に「あなたの息がうるさい」とか言われることもあるらしい。

 このニュースが報じられたとき、関連する話題としてこんな動画もテレビで流れていた。探したら、Youtubeにあった。
 バッハ無伴奏チェロ組曲5番アレマンドのエンディングで、このバイオリニストがきかせた機転は、ニューヨークフィルの“惨事”と対になるような“いい話”です。


 と思ったら、動画が再生不能になっていました。説明すると、演奏の最後に着メロをアレンジして弾いたんです。聴衆、大喝采。
                                                                                                                                                                                  

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下野康史(かばた・やすし)
下野康史(かばた・やすし)
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