ここから本文です

書庫過去の投稿日別表示

全1ページ

[1]

イメージ 1

『英国一家、日本を食べる』という本を読んだ。
 ぼくは本を読むのがすごく遅くて、そのために途中でやめてしまう本のほうが多いのだが、これは2日で読めた。あとひき豆じゃないが、途中で読むのをやめる気にさせなかったからだ。

 イギリス人のフードライターである著者が、3ヵ月間、北海道から沖縄まで旅をして、ジャパニーズフードを食べまくった話。
 単なる食の本にとどまらないおもしろさは、奥さんとふたりの小さな子どもを連れて来たことだ。おかげで、映画『ロスト・イン・トランスレーション』的な異邦人のニッポン旅行記にもなっている。
 日本に着いたその晩、6歳と4歳の子どもを連れて、西新宿の思い出横丁(ぼくが学生のころはションベン横丁と呼んでいた)の巣窟に踏み入れ、狭いカウンターの居酒屋で夕食をとる。こっちから言わせてもらうと、そんなトンチンカンさは、ガイジンならではだ。
 でも、その焼き鳥についても、著者ならではの考察をしている。世界中に串料理はたくさんあるが、日本の焼き鳥や串焼きのすばらしいところは、具が小さく細かいこと。たしかにそうだよなあ。

 著者はヨーロッパのフードライター賞を獲っているだけでなく、向こうの有名なレストランで修業を積んだ料理人でもある。つくれるフードライターだ。
 それだけに、ソバうどんラーメンであれ、刺身テンプラであれ、一見さんお断りの懐石料理であれ、相撲部屋のチャンコであれ、大阪の串カツやお好み焼きであれ、食のインプレッションが、いちいち深い。「味の宝石箱やあ〜」とかじゃないのだ。

「そばは、フランスのガレットと同じくそば粉でつくられているが、ガレットにはない、土のような、金属粒子のような風味がある」という記述。そばの味に“金属粒子”なんて表現が使われるのを初めてみたが、わかるなあと思わず膝を打った。
 疲れたり、ヘコんだりしている時に、うどんかそば、どっちにするか。ぼくの場合、もっぱらうどんで、そばではない。もりそばを冷えたツユにつけてすするときに感じるあの風味を、“金属粒子のような”と表現して、見事に二者択一の根拠を説明してくれた著者を天才だ!と思った。

 日本人にしかできないズルズルすする麺類の食べ方を、“ワインテイスティングと同じ”と言ってくれた人は、日本の料理専門家にもいないんじゃないだろうか。

 昔、フランスで新車試乗会に参加した時、夜、ワイン蔵へ案内された。そこで正式なテイスティングのやり方を見てびっくりした。日本人がそばをすするように、ワインをズズッと音を立ててすするのだ。そうすると、香りがよくわかるのだという。
 麺類を食べる時、日本人はそういう高等な味わい方をだれに言われるでもなく実践しているのだ。音を立てないで麺類を食べるなんて、鼻をつまんで食べるのと一緒である。

 イギリス人だから、全編センス・オブ・ユーモアに溢れている。ユーモアにくるんで、差別的な表現もしばしば出てくる。つまりこの本は、BBCテレビ「Top Gear」の自動車インプレッションがおもしろいようにおもしろいのである。

 沖縄で食べた紅芋の紫色を『1976年型モーリス・マリーナの色』と書いていて、吹き出してしまった。映画の字幕だと、『古いイギリス車の色』とかに替えられてしまいそうだが。

 原題は『Sushi and beyond』。オリジナルの英語版は2009年に出ている。
 2013年に「和食」が世界遺産に登録された。エッ、なんで!?と個人的には思ったのだが、わかりやすい言葉で日本の食の魅力を西欧社会に発信してくれたこの本の影響もあったのではないかと勝手に想像している。 

全1ページ

[1]

下野康史(かばた・やすし)
下野康史(かばた・やすし)
男性 / O型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

過去の記事一覧

本文はここまでですこのページの先頭へ
みんなの更新記事