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ニューチェロを手に入れた。アントン・ホルツレヒナーというドイツの楽器。バイエルン州のニュールンベルクにある工房で、もともとはコントラバスの専門メーカーだったらしい。バイオリンはつくっていない。日本でいうと、京都のオリエンテか。オリエンテもチェロをつくることがあり、どんな音がするのかとても興味がある。 10年以上使ってきたチェロは、ハインリッヒ・ギル(Gill)というドイツの量産メーカー製だ。学生用のいちばん安いモデルだが、もともと“当たり”だったし、よく弾いたおかげで、よく“鳴る”ようになった。今でも毎晩一緒に寝たいほど好きだが、いちばん高いA線がキンキンいうのが、このグレードだといかんともしがたいところだった。 だから、新しいのを探すなら、A線が神経質にキンキンいわないこと。テーマはそれだけだった。 大久保の斉藤弦楽器で弓の毛替えをお願いしてから、予算内でA線がスイートな音を出すチェロはありますかと相談した。すると、100年以上前のものを含めて、いずれもドイツの中古チェロを何本か弾かせてくれた。 音はやっぱりいちばん古いのがいちばん枯れていてよかったが、見た目は年式以上に古い、というか、オールド楽器の審美眼を持たない目には、バッチイ。表板が割れて補修もしてある。そんなことはこういうマイスター工房で買えば、なんの心配もいらないはずだが、肝心のA線がぼくのギルよりキンキンいう。 音を出しながらブツブツ言っていたら、「キンキンいうのは……、ウデなんだよな」と、斉藤さん。それを言っちゃあおしまいよ的お言葉だったが、その一方、さきほど、週末に取りにきますとお願いした毛替えが、速攻でなんともう終わっていて、ものすごいプレッシャーがかかった。 しかし、毛替えは7000円。そのチェロは毛替え100回分以上する。プレッシャーに負けてはならない。 そんなふうにスタートしたチェロ探しの旅は、楽しかった。今度はいいのがあったら買う気でいたので、試奏を頼む時も、それほど罪悪感がない。 いくつかの弦楽器店を回り、ギルを買った時にお世話になった輸入代理店を訪ねたりした。 北陸新幹線が開通したから、弦楽器ショーで顔なじみになった金沢の楽器商を訪ねてみようか、とも思ったが、その前にクロサワバイオリンの渋谷本店をのぞきにいったところ、目が合ってしまったのだ、アントン・ホルツレヒナーに。 ギルの時もそうだったが、楽器というのは本当に“出会い”だと思う。 2009年モデルだから、中古ではあるが、新古車みたいな程度のよさだ。ちょっと黄色がかった茶色で、ニスがよく効いている。表板の削りの彫りが深く、木目も美しい。きれいな楽器である。 名著「弦楽器のしくみとメンテナンス」を書いたドイツバイオリンマイスター、佐々木 朗氏は「きれいな楽器は、音もいい」と断じている。 なぜなら、きれいな楽器は、大切に扱われ、長期にわたって良い状態を保つ。 きれいな楽器だと、仮にトラブルが起きて修理に持ち込まれても、ヘタな直し方はされない。 そもそも、きれいだと、所有者がその前にトラブルに気づきやすい。すなわち、楽器が傷みにくく、良い楽器へと成長する。 なんだか、美人はトクする、みたいな話だが、なるほどである。アントン・ホルツレヒナーなんて、初耳だったが、ひと目ぼれだった。 弾かせてもらうと、案の定、音もよかった。A線を弾いても、ちゃんと表板が振動して、弦の音ではなく、木の音がする。見ると、ギルよりだいぶ表板が薄い。重量も軽い。 あとで調べると、このブランドを輸入している商社は、そこそこの新作楽器を入れて、レンタルしている。ぼくのもレンタルのお下がりなのかもしれない。そういう楽器を品揃えするのは、クロサワバイオリンみたいな大きな楽器店ならではだろう。
楽器に負けないよう、ますます精進せねば。 |

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