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書庫「driver誌」峠狩り

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 山梨/長野県境の大弛(おおだるみ)峠へ行った。

 関東地方はまだ梅雨明けしていない。北陸地方にも先を越されてしまった。オホーツク海高気圧が頑張っていて、7月いっぱいは明けないのでは、という説もある。
 学校が夏休みに入ったこの日も、東京は雨が降っていたが、中央道の笹子トンネルを抜けたら青空が見え、大弛峠はこのくらいの好天だった。

 標高2365m。大弛峠は、車道で上がれる日本最高地点の峠である。
 初めて登ったのは2007年の秋。「高低差も平均勾配も長さも、ツール・ド・フランス屈指の超級山岳ステージ、ガリビエ峠に匹敵する」というサイスポの記事にひかれて、イトイガワ仲間と自転車で上った。

 そのときは、塩山駅まで輪行。40kmの距離と、2000m近い標高差をこぎあげたら、さすがに山頂の駐車場でイッパイイッパイになった。
 だが、今回は「峠狩り」の取材なので、クルマを駐めてからさらに15分ほど登山をして、「夢の庭園」という展望台までのぼった。

 歩き出すとけっこう息がアガる。自転車で来たときは意外やなんともなかった。クルマのスピードで上がってくると、高度馴化が追いつかないのだろう。
 晴れていれば、奇観の金峰山や富士山が一望できるし、空の色も成層圏みたいに青いはずなのだが、このあとしばらくしてガスが上がってきたから、85点である。サイクリストには一度も行き合わなかった。


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 上がってくる途中に乙女湖というダム湖がある。
 ダムの構造を説明する看板を見ていたら、「サーチャージ水位」という言葉があった。原油高のとき、海外旅行の航空運賃で「燃油サーチャージ」という言葉をよく聞いたが、これはなんだろう。 

 調べたら、ダムの貯水位のひとつで、「設計最高水位」の次に高い「洪水防止のために一時的に許される水位」だという。

 実は、燃油サーチャージのころから、サーは敬称の“sir”だと思い込んでいた。アイアイアサーとかサンキューサーとかのサー。つまり、こっちが逆らえないようなエライ人が問答無用に要求する料金のこと、と勝手に解釈していたのだ。

 だから、ダムのサーチャージってなんだ!?って、びっくりしたのだが、調べたら、スペルは“surcharge”で、「追加の負担」という意味。超過水位ってことか。

 燃油サーチャージなら、「追加燃料代」のことである。なら、そう書けよと思うけど、不都合な真実に横文字を使うのは、日本の伝統だ。
 でも、大弛峠のおかげでひとつ利口になった。だから峠狩りはおもしろい。
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 大阪/奈良の府県境にある暗(くらがり)峠に行った。坂バカ系サイクリストにはちょっと知られた関西の超級激坂峠である。国道308号の一部で、“酷道”としても知られている。

 driver誌「峠狩り」の取材だったので、今回はクルマで大阪側から越えた。
 ひとことで言うと、滑り止め舗装された登山道である。レンタカーのデミオ・クリーンディーゼルでも、きついところでは前輪が一瞬空転してトラクション・コントロールが働く。
 
 低速トルクのあるディーゼルのATは、いちばん暗峠向きだったが、パワーのないMT車だと、撤退も大いにあり得ると思う。クラッチが滑っていたりしたら、トドメを刺されるかもしれない。そういう道なので、クルマの交通量はほとんどない。

 暗峠は標高455m。大阪側は麓から頂上まで正味2.5kmと、距離は短いが、勾配がエゲツナイ。
 激坂で有名な都県境の和田峠だって、平均斜度は10.2%。乗鞍ヒルクライムのコースが6.5%、Mt.富士ヒルクライムが5.2%、蔵王エコーライン(山形県側)が7.5%だから、その尋常でなさがわかる。暗峠は18.2%もあるのだ(一般には20%と言われている)。

 しかも、ほぼ全線、クルマだとすれ違い不可能か困難かの狭隘路である。急傾斜に加えて、幅員が狭い。そのため、自転車ヒルクライムの奥の手、ジグザグ走行が使えなさそうだ。
 
 想像するに、ぼくの“エンジン”では、自転車での完登は無理である。ロードバイクでは問答無用。低速のきくファットバイクでも、休み休みでなきゃ無理だ。

 しかし、なんでこんなにきつくて狭いのか。それは、暗峠がいにしえの昔からの歴史街道だからだ。
 この峠ルートは、大阪と奈良市街を結ぶ最短路である。暗峠を越えてまっすぐ行くと、昔の平城京に出る。雑木林で覆われた生駒山地を人の足で直登する峠道だから、シンプルにきつくて狭いのである。
 
 だから、「酷道」と呼んで笑うのは話が逆だ。こういう道を国道に指定させて保存しているのだから、大阪府も奈良県も民度が高い!と思った。


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 激坂を上り始めてから600m。振り返ると、早くも眼下に東大阪の町が望める。
「菊の香に、くらがり登る節句かな」という松尾芭蕉の句碑がすぐ近くにあった。元禄7(1694)年、伊賀の自宅を出て奈良県側からこの峠を越えたときの句だという。
 
 そのひと月後に、芭蕉は逗留先の大阪で亡くなっている。51年の人生で、最後に越えた峠が暗峠だったのだ。あまりにも坂がきつすぎて、ではなく、病をおしての旅だったらしい。ハイエースのコミュニティバスが上がってくる奈良県側に、こんな激坂はない。


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 このヘアピンカーブが37%といわれる最大斜度地点。わざとイン側をついたクルマのブラックマークが生々しい。


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 暗峠。クルマで上っても、標高450mそこそことは思えない達成感を覚える。大昔からこの頂上部分だけは石畳だったそうだ。堆積した「人の気」を感じるいい峠である。
 
 奈良県に入ったところに茶屋がある。黙っていてもお客の来る峠の一軒茶屋には期待しないことにしているが、この店はフレンドリーで、定食もおいしくて、高くない。
 ここからの眺望はゼロだが、ちょっと下れば、生駒市とその向こうの奈良市が見下ろせる。
 やっぱりいつか自転車で上ってみたい。

三国峠はいま

 今月号の「峠狩り」は三国峠を走った。群馬/新潟県境をまたぐ国道17号の峠だ。
 
 国道17号といえば、関越自動車が出来る前は苗場スキー場へ向かうロマンチック国道だったが、いまは閑散としている。この日、峠の三国トンネルを撮影で3往復したけど、一度も中で対向車とすれ違わなかった。


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 平日の交通量はそんなものなのに、すぐ隣に新しいトンネルの建設が進んでいる。昭和34年製の三国トンネルは乗用車で走っていても狭いから、大型車のドライバーには朗報だろうが。

 トンネルはショボイが、かつての大動脈だけあって、三国の峠道そのものはインフラがちゃんとしている。それでクルマが少ないのだから、走りに来るにはいい峠である。
 ただし、眺望には恵まれていない。

 新潟県側の駐車場にクルマを止めて、歩いて三国峠(標高1300m)に登った。昔からの三国街道の峠だ。
 駐車場からの高低差は約200m。距離は知らずに山の中を歩き出すと、30分で着いた。これくらいでも、最後はみんな無口になっていたから、軟弱なマイカー族にはちょうどいいオプショナルツアーだと思う。


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 峠には鳥居があり、バックには三国山。ホッコリする場所だ。
 ぼくら以外、だれもいなかったが、峠にはいつも人の“気”を感じる。だから、峠が好きなのだ。

 群馬県側へ戻り、麓から田舎道に入ってズンズン進み、こんなところに食事処があるのか!? というところに見つかった「姉山の家」で峠めし。名前のとおり、農家が食事を出している。


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 お通し(無料)が、おやき。といっても、焼きではなくて、ふきのとうの“お揚げ”。ほろ苦くて、うまい。お新香もうまい。
 庭にはやたら吠えて、人を寄せつけない柴犬もいて、よかった。三国峠に来たら、ぜったいのお薦めです。

ヤビツ峠狩り

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 初めてヤビツ峠へ行った。神奈川県の丹沢山地にある体育会系サイクリストの聖地、 “坂バカ”の修験道だ。Driver誌「峠狩り」の取材だから、今回はクルマでしたけど。
 
 朝方まで雨の平日だったので、秦野(はだの)側の麓から峠までの12km、自転車には数台しか会わなかった。でも、週末はタイヘンらしい。

 たしかに、こりゃハマるわ。名峠だもん。下から12km上りっぱなしの道ってなかなかないし、トラックが行き交う序盤からいきなりキツイので“love or hate”。坂バカなら間違いなくラブだろう。山に入ってからも心拍は落ちなさそうだが、展望台を過ぎてからの終盤は、緩斜面になる。1学期はよくブン殴られるが、3学期になるとすっかり打ち解けて、卒業式では肩組んで泣いたりする昔の体育教師みたいな峠である。


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 ヒルクライマーはそれどころじゃないかもしれないが、途中、実は景色もいい。丹沢山地を南北に抜ける車道はこの県道ルートだけ。弘法大師が歩いた歴史街道でもある。


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 絵になるヘアピンカーブのアウト側に菜の花台の展望塔がある。標高558mのここは晴れていたが、南側を見下ろすと、下はすっかり薄霧に覆われていた(写真下)。絶景ではないか。晴れたら晴れたで、はるか彼方に伊豆大島が見えるらしい。
 

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 ここまでくると、標高761mの峠まではあと3kmだが、車道のヤビツ峠からは眺望はきかない。

 峠の北側は裏ヤビツと呼ばれる。表ヤビツほど勾配はきつくないが、宮ヶ瀬湖の県道終点まで18kmと、距離は長い。
 道路は最初、表ヤビツより広めだが、秦野市から清川村(神奈川県唯一の村!)に入ると、スリリングな狭い林道になる。旧丹沢林道だ。


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 裏ヤビツの県道路肩には、国道246号交差点起点からのキロポストが0.5km刻みで律義に出ている。なぜか? こっち側は落石や土砂崩れなどの災害が多いので、道を通る人や直す人のために、場所を特定しやすいようにしてあるのだろう。

 舗装も荒れているから、ロードバイク向きではではない。だから、こんど宮ヶ瀬湖までクルマで来て、ファットバイクで裏ヤビツを上ってみようと思う。峠をオーバーシュートして、展望台まで下って引き返す。路面を気にしなくていいファットバイクだと、裏ヤビツダウンヒルはやっべェぞ。

推定無理の国

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 driver誌「峠狩り」の取材で、年末に奥秩父を走った。埼玉・山梨県境に近い、関東の秘境だ。
 写真の細い道は、これでも国道で、秩父往還と呼ばれてきた古道。左側の谷間にチラ見えしているのも同じ140号。ダムをつくったために、同じ国道が全部で3本並行している珍しい場所だ。
 
 普通、国道の新道ができると、古い道は県道以下に格下げされる。ここはなんでそうならなかったのか、役場の人に聞いたら、「格下げされると、保守管理の予算が減っちゃうからじゃないでしょうか。……アッ、あくまで個人の見解ですが」とのことだった。ダムをつくるとき、3本とも国道として残すというのが条件だったのではないか、というのがぼく個人の見解。

 国道脇のトイレに行ったら、近くの地面で何かを計測している人がいた。「セシウムですか?」と聞くと、当たりだった。
 埼玉・山梨県境には2000m級の山が連なっている。山があると、その手前に放射性物質が溜まるらしい。でも、「セーフですか?」と聞いたら、「ぜんぜんセーフです」とのこと。よかったよかった。

 と思っていたら、新年早々、北朝鮮で水爆実験って。爆竹じゃないんだぞ。
 国境に近い中国の高速道路にある定点カメラが微振動しているニュース映像を見た。本当にあの金王朝国家は計り知れない。

 大気中の放射性物質を計測するために自衛隊機が飛び立ち、各自治体のモニタリングポストでも監視を強めている、というニュースも見た。

 ただ、そういうことにあまり神経質になっても仕方ないし、意味がないと思う。まず足もとを見なきゃ。
 世界遺産フジヤマの麓だって、実はまだこんな状態ですから。


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(2015年11月17日撮影)
下野康史(かばた・やすし)
下野康史(かばた・やすし)
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