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私のシナリオ集「機関車」その11
早苗・・・まあ、いいから、いいから
和美・・・どうする気?
早苗・・・(腕時計を見ながら)う〜んと、今、2時ね。機関車は3時過ぎに渋谷駅を出発
して山手線を一周する。そして、渋谷駅に戻ってくる。
老人・・・知っとる。知っとる。ありゃ〜、面白いイベントだ。何しろ今時、都内を機関車
が汽笛を鳴らし、煙を吐いて走るなんて信じられんことだ。石原都知事は、わし
らになん〜んにもしないけれど、これは都民にはうけるヒットイベントだ〜。
早苗・・・でしょ。今ね。このイベントをめぐってこの話題でマスコミはもちきりよ。
老人・・・さっきもな。ベンチで読んでた新聞に載っておったよ。
早苗・・・機関車、見る?
老人・・・いいや。
和美・・・見るのタダよ。
老人・・・でもな。わしゃ〜しがないホ−ムレス稼業だ。浮かれて見に行く気にはならんよ。
和美・・・渋谷駅のホ−ムに上がれば、間近に見えるよ。
老人・・・でもな。幸せそうな連中がわんさと見に来ている所へ、わしのような薄汚れた者
が行けるか。
和美・・・だったら高架線が見えるところまで行けば見えるじゃん。
老人・・・まあな。
早苗・・・それよりどう、乗ってみる?
老人・・・何にだ?
早苗・・・勿論、機関車よ。
和美・・・早苗、そ、それ本気?
老人・・・わしをからかっているな。
早苗・・・からかってなんてしてないわ。ほれこれがそのチケット(ポケットから取り出す)
おじさんのもあるわ。
和美・・・早苗、それ本気?
早苗・・・そうよ。和美、いいでしょ。
老人・・・悪い冗談だ。どうしてわしのチケットがあるんだ。
早苗・・・弟の分よ。部活があって来れなくなったのよ。だからこれ、おじさんの。
老人・・・一緒に乗るのか?やっぱり、悪い冗談だ。
早苗・・・乗りたいんでしょ。
老人・・・う、そ・そうだな〜。で、でもな乗りたくな・ないな。
早苗・・・うそでしょ。昔、さっきの話だと、機関車命だったくせに・・。
老人・・・あれは、あれだ。乗りたくも見たくもないな。
和美・・・やせ我慢して・・。そんなへんな意地はらなくて・・。
老人・・・(怒ったように)意地などはっとらん。お前さんたちのような女の子と一緒にわ
しが乗れるかと言うことだ。同席じゃろ?
和美・・・同席、早苗、ホント?
早苗・・・そうよ。当然よ。
和美・・・早苗・・。
老人・・・こんなじじいだぞ。こんな汚いじじいだぞ。
早苗・・・いいの。いいの。そんなの関係ないわ。うちらの年代だっておギャルっと言って
ガングロで金髪。目には目張り、耳にも臍にもピアス、おしり丸出しのスカ−
トで風呂にも入らずにいる女の子このあたりにも一杯居るわ。、おじさんはずっ〜
まともよ。
老人・・・そう言えば、そんな女の子よく見かけるな。
早苗・・・でしょ。おじさんはまとも、まともよ。
和美。いいでしょ?
和美・・・(ためらうように)早苗が、そう言うんだから、いいよ。一緒で・・。
老人・・・お前さん達は物好きだね。それにしても何だか分からないが、お前さん達とこう
して話していると、何だか不思議と元気が出てくるな〜。
早苗・・・良かった。良かった。そうじゃないとね。
いい。おじさんは、今日の一日はね。上野英三郎になるのよ。
老人・・・上野英三郎?
早苗・・・そうよ。上野英三郎よ。ほら、ハチ公もきちんとお座りしているでしょ。
おじさんを見送ってくれるわ。そして、おじさんは機関車にのって山手線を一回
りしてくる。そして、ここにきて弁当の代わりに列車から見えた景色など、ハチ
公に話してあげるのよ。どう、いいでしょ。ハチ公は、銅像だけどおじさんの心
の中では生きているでしょ。
和美・・・そうか、早苗、いいこと言うじゃない。おじさんは今日は上野英三郎よ。
老人・・・お前さん達、いいことを言うな。胸がキュと来るよ。
早苗・・・どう、乗る?
老人・・・(じっと下を向いて考える)じゃ〜・・・・・。一つその言葉に甘えて英三郎に
なった気持ちで乗ってみるか。
早苗・・・やった!やった!(手をたたいて喜ぶ)
和美・・・早苗、良かったね。さ、そろそろ機関車が出発する時間よ。行こうか。
早苗・・・うん、うん。さあっ、おじさん行こう!
老人・・・わ、分かった。でもな、ちぃっと待ってくれ。何が何でもこれじゃ〜。様になら
ん。(老人、ダンボ−ルの自分の住み家に行こうとする。)
和美・・・どうしたの?
老人・・・お色直しだ。(老人、照れながら下手へと消える。)
和美・・・早苗、早苗にはびっくりしたよ。ホントこれでいいの?
早苗・・・いいのよ。どうせ、チケット一枚余っていたんだから。それより和美はいいの?
和美・・・なんとなく気が進まなかったけれど、でもね。早苗のこと見直しちゃった。早苗
はエライ! 安心して、賛成よ。大賛成よ。
早苗・・・良かった。実は、途中から和美逃げ出すんじゃないかって思ってたのよ。
和美・・・そんなに和美のこと安くみないでよ。
早苗・・・冗談。冗談よ!
やっぱり人ってみんな幸せ感を持たなくてはね。私も和美も・・。そしておじさ
んもね。それに人の立場に立って、人の痛みが分かる。これって大事ことよね。
おじさんに出会って良かった。ねっ、和美。
和美・・・凄い!凄い!感激。そう、そうよね。早苗の言う通りよ。
老人・・・(下手からス−ツ姿の老人がカメラをさげて出てくる。)
早苗・・・あれっ、おじさんなの?びっくり。さつきまでのおじさんじゃないみたい。
和美・・・孫にも衣装じゃなくて、おじさんにも衣装ってことね。
老人・・・いや〜、照れるな。
和美・・・あれ、おじさんカメラ持っているじゃない。
老人・・・ああ、これか、家わ出るときにこっそり持ってきたんじゃよ。これで機関車を撮
ることにしたよ。
和美・・・フイルム入っているの?
老人・・・ああ、そうじゃった。フイルムがないと撮れんの。
和美・・・あとで、私のフイルム1本あげるね。列車に乗ったら一杯撮ろうね。
老人・・・ああ、嬉しいね。またまた、元気が出てくるみたいだよ。
和美・・・そしてね。私、焼き付けてくるから、ここに持って来るね。
うちらもおじさんの仕事捜すから、おじさんも諦めず仕事捜してね。
老人・・・いや、まいった。まいった。
早苗・・・(耳打ちするように)和美、結構乗り気じゃない。凄い!
和美・・・これも早苗のおかげよ。そして、このハチ公のおかげ。
*ポ−ッと汽笛が鳴る。
早苗・・・おじさん汽笛が鳴ったよ。
和美・・・寂しそうな音だけど、いいな。この汽笛。
老人・・・わしには、ガンバレ!って聞こえるようだ。
ああ、全身がふるえるね。力がみなぎってくるぞ。
早苗・・・そう、その意気よ。
老人・・・よ〜し、今日はうえの英三郎だ。ハチ公行ってくるからな。
帰ってきたら、一杯話するからな。
和美・・・そうよ。おじさん。その意気よ。
老人・・・じゃ〜。行くとするか・・・。 そ・そうじゃった。こうしてハチ公に手を振ら
なければ(観客に向かって大きくゆっくり手をふる。)
*突然、どこかで犬が鳴く
早苗・・・えっ、今、犬が吠えなかった?
老人・・・汽笛じゃないか?
早苗・・・犬が吠えたような気がしたけれど・・。
老人・・・ハチ公かな?
早苗・和美・・・良かった。さあ、おじさん行こう!機関車が出発する!
*ボ−ッとまた、汽笛がなる。2人が下手へ、しかし、舞台中央いる老人に気づき慌てて
老人を連れに来る。3人あたふたと下手に消える。
早苗・和美・・・さあ、おじさん!出発よ!
*舞台下手から煙りが立ち上り、BGMが流れる。
******* 幕 *******
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