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子供の頃の想い出のひとつに、今でも鮮明に覚えている場所がある。 小学生の高学年から中学生の頃、小高い丘の中腹に住んでいた。 育ての母が亡くなり、父親とジャーマンシェパードの「ハルト」うちで生まれた3匹の猫の「ぴーすけ」 「ぐー」「すーちゃん」との生活。 父親は週に1度ぐらいにしか家に帰って来なかったから、いつも夜は一人。 私にべったりな「すーちゃん」が孤独から救ってくれていた。 お日様の柔らかい日ざしが心地良い暖かい春の日。 ハルトの散歩をしている時に偶然見つけたその場所は、丘を少しだけ登った場所にあった。 ふと入った細い道。 道と言っても、誰かが歩いた跡のような道。 どうしてそこを入ろうと思ったのかは覚えてはいない。 もしかしたら、先に入ったハルトを追いかけてなのかもしれない。 数歩歩いて思わず立ち止まった。 目の前に広がった光景の美しさ。 「わぁ…」思わず呟いたのを覚えている。 少し開けたその場所には、十数本の桜の木が見事に花を咲かせていた。 そしてその下には地面が見えないほどの無数の黄色い水仙の花。 ピンクと黄色の世界。 小鳥のさえずりだけが聞こえ、春の暖かさと美しい景色。 桜の木の下に座り、しばらくの時間そこにいた。 それからその場所は私のお気に入りの場所になった。 毎日のようにその場所で数時間をすごした。 私は桜の木の下に座り、ハルトは周りを走り回り、ついて来た3匹の猫はそれぞれ木に登ったりじゃれあったりして。 春が過ぎ夏になっても、少し肌寒くなった秋の日も、雪が積もった冬の日も私達はその場所にいた。 先日あの場所を夢で見た。 もう無くなってしまっているであろうあの場所は、夢の中ではあのままで。 見事に咲き誇る桜の花と水仙の絨毯。 走り回るハルトと猫たち。 目が覚めたら・・・泣いていた。 どうして悲しいのかわからない。 何が悲しいのかもわからないけれど涙が流れていた。 とても孤独で、とても寂しくて、とても不安で、とても悲しかった。 少しパニックになりかけたその時、静かな寝息が耳に入った。 私の背中に置かれた大きな手のひらから体温が伝わってきた。 私の首の下にある太い腕をそっと掴むと、背中に置かれていた手が動き、ぎゅうっと抱きしめてくれた。 大きな安堵感が、不安や寂しさや孤独を消してくれる。 私の新しい居場所をやっと見つけられた。
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ミニ小説
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「今日も暑かったね。ご苦労様。」 久しぶりに届いたメール。 「久しぶりね。元気だった?」 返事を返してから気がついた。 この人から届くメールはいつもタイミングが良い。 何故か必ず寂しい時間を過ごしている時に届く。 「何してた?」 「寂しさと戯れていたの」 「今夜は寂しいのか…」 「そう。今夜はあの人と繋がれないから。あの人からメールがくることはないから。」 「どうして?」 「わかるでしょ?」 「あぁ…そうか…。」 「あなたはどう?寂しい時間とサヨナラできた?」 「いや。相変わらず戯れているよ。」 そう…同じね。 私たちは似たもの同士。 かつては夜叉を住まわせ、夜叉に苦しめられた者同士。 今では私の中の夜叉は影を潜めているけれど、どんなに苦しめられたことか… 「君の夜叉が大人しくなった訳は?自信が持てたから?」 「自信なんかこれっぽっちもないわよ。誰かに取られてしまうんじゃないか、目の前から消えてしまうんじゃないかって、いつも怯えてる。」 「じゃぁ何故?」 「さぁ…何でだろう。私にもわからない。でもね、寂しさからは逃れられない。わかってはいても苦しみから解放されないの。」 「わかってるよ。」 「君は今夜も月を探すの?」 「いいえ。今夜は酔いつぶれて眠るわ。月を探さなくてもいいように…」 「いつでも一緒に月を探してあげるよ」 優しくしないで… 涙がでるから… 今夜の私はいつもの私より弱いから 「おやすみなさい」 メールを返して携帯の電源を落とす。 鳴るはずのない彼からの着信音を待つのが悲しいから。 もう少しお酒を飲まないと眠れそうにないわね。 溢れそうになる涙をこらえて、グラスに琥珀色のウイスキーをそそぐ。
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少しだけ自分の中の夜叉を操れるようになったかも… なんて思っていたけど、まだ付き合いの浅い私には難しい。 普段は上手く宥められてもふとした瞬間に暴れだしている。 暴れだした夜叉を止めることは中々難しく、どんどん嫌な顔を表にだしてしまう。 「またか…」 貴方の声が心に聞こえる。 せっかくの2人の時間をダメにしてしまった… 沈む私に思いがけない貴方からの言葉。 「君の夜叉をわかるあの人に、君を取られるんだろうなって思ってるよ」 わかってないのね… 夜叉がどうして住み着いてしまうのか、どうして支配されてしまうのか… 相手を強く想っているから、想えば想うほど夜叉は気配を見せるのだと。 強く想っている相手が雲に隠れて見えなくて、嘆き悲しむから夜叉に入り込まれるんだと。 強く想っている人の後ろに見え隠れする誰かの影を見てしまった時、夜叉は入り込んでくるんだと。 私は貴方を強く想い、あの人は彼女を強く想っているから住まわせてしまっているんじゃない。 お互いに強く想っている人がいるのに、惹かれ合う事なんかあり得ない。 私達はお互いに夜叉を住まわせているから、その苦しみや痛みを見せ合っているだけ。 出来た傷口にそっと言葉の絆創膏を貼りあうだけ。 そうしなければ暴れる夜叉に支配され、もがき苦しむ夜を一人で絶えなければならないから。 「痛みをわかる人だからと誰かに気持ちが移るぐらいなら、私の中に夜叉は住みつかないわよ…」 昨夜のあなたにそう言葉を返し、少し寂しさを感じながら一人窓から夜空を見上げる。 「ほんとにわかってないのね…」 いつのまにか隣に座り、私を真似て月を探す猫を撫でながら小さくため息をひとつ。 今夜は大きな丸い月が見える。
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眠れぬ夜に、部屋の窓から空を見上げ月を探している。 今夜も厚い雲に覆われた夜空には少しの光も輝いてはいない。 「夜叉がいるから綺麗なんだよ」とあの人は言った。 「いいえ、それは夜叉を操れる女だけ。」と私は答えた。 自分の中に住む夜叉を、上手に操れる女は妖しく美しくいられる。 でも、夜叉を知らない女は操る事なんか出来ずただ操られてしまうだけ。 今夜、彼はあの女と会っているのかと妄想を膨らませ、顔も知らない女を呪い、目を吊り上げ唇を噛み締め、血の涙を流すだけ。 そんな自分が大嫌いで、自分が消えてしまえばいいのにと自分さえ呪う。 「僕の中にも夜叉がいるんだ」 そう…あなたも血の涙を流していたんだ…。 だから分かり合えるのね…。 「あなたはどうやって夜叉を鎮めているの?」 そう聞く私にあの人は答えた。 「鎮め方は人それぞれだよ。僕の静め方が君にも当てはまるとは限らない。自分で見つけるしかないんだよ。」 隣に座り、私を真似て猫が夜空を見上げ月を探している。 猫の首筋を撫でながらふと気がついた。 今夜は私の夜叉は暴れてはいない。 あぁそうか。何となく鎮め方がわかったような気がする。 お互いの夜叉を見せ合い、お互い新たに出来た傷口にそっと絆創膏を貼りあう。 夜叉が住む者同士だからわかる痛みと苦しみ。 「少しだけ夜叉を操られるようになった私は、少しだけ綺麗になれたのかな。」 少し顔を覗かせている私の夜叉に聞いてみる。 私の中の夜叉が少しだけ微笑んでいた。 「もう少し月を探してみようか」 隣で喉を鳴らす猫を撫でながら、相変わらず光の無い夜空を見上げる。 夜叉が住む私達には、まだ明けない夜が続くのだろう。 ***** 注意書き入れるの忘れてた。( ̄ー ̄; あくまでもこれは頭の中で作ったお話しですからね。 |
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