カエルの女王 短歌つれづれ

リコメ遅れております。ごめんなさいませ・・・。

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がんから始まる

ユーモアってニモカカワラズ笑うことディーケン教授の松明点る

壱万で命乞いなどするものか夢の山の子のはく靴となれ


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 退院はしたものの、4〜5週おいて再入院が決まっていたので、仕事には復帰しな
かった。
入院中に、マネージャーと統括マネージャーが見舞いに来てくれて、そのあたりのこ
とは打ち合わせ済みだった。
復帰は、2度目の入院が終ったあとで考える。

 退院して4日目には、また病院の外来に呼ばれていた。
指と腋の傷のチェック。注射はしない。
主治医が、パラパラとカルテをめくった。
私のホクロのある小指の写真が、何枚か添付されていた。在りし日の小指。

ホクロは黒々と大きく、指自体は何の説明書きがなくても、女性の小指だと判る感じ
だった。よく撮れていた。

 パソコン画面には、検査の数値や外来の予約を入れるようになっていた。
でも、手書きのパーソナルカルテも存在した。
主治医は、それにその日の処置や、次までに調べておくことなどを書き込んでいた。
ちょっと先端をいっていて、ちょっとクラシカル。

 離断した小指を、主治医が診ていた。
普段、鋭敏になっている傷口は、コットンを当てて紙テープで留めていた。
根元が少し変色して、それはカサついていた。入院最後の注射は担当医がやった。
やり方のせいかシミになっていた。

 主治医が「あぁ」と言い、私が「あ」と言う。それ以上は、何も言わなかった。
かすかに苦笑したかもしれないが、やり方のまずさを云々する気は無かった。
主治医は、パソコン画面を見ながら右手でマウスを操り、左手の親指でしばらくその
の変色をなぞっていた。
次の診察は2週先に決まった。ここでは、まだ再入院の日は決定しなかった。

 このあたりから、少し自分の病気について知っておこう、という気持ちになったと
思う。
書店に寄って、岸本葉子の「がんから始まる」を買ったのもきっかけだった。
裏表紙を読んで、彼女が40歳でがんを告知され、手術を受けたと知った。

 馴染みのないエッセイストだったけれど、簡潔で感情に流されない文章が好もしか
った。
本をめくっていると、入院が現実になって彼女がその足で、デパートにパジャマを選
びに行くくだりがあった。
似たような人がいるもんだと本を買った。

 岸本葉子は入院前に、インターネットを使い書店を回り、自分のがんを調べている。
大腸がんという見立てが、実際に手術をしてみると、虫垂がんという珍しいがんであ
ったらしい。
「がんから始まる」を辿ることが、私の退院後のテーマになった。

 退院直前に出会った患者の、自分の病気のファイルを作って持つという姿勢にも、
影響を受けたと思う。
自分のファイルを作ることが、次の入院を待つ私の夏休みの宿題になった。

 インターネットでは、国立がんセンターと国際医学情報センターの、悪性黒色腫
(メラノーマ)の情報を得た。
皮膚がんの3つのタイプや、悪性黒色腫の4つの病型などをこの時に知った。

 図書館や書店で皮膚がんの本を探したが、それに限定した本は皆無だった。
乳がんや肺がんや、前立腺がんの本は、かなり出回っているようだった。
仕方がないので、各部位のがんについて詳しく書かれた本を探した。
どれも1冊の値段が高いので、もっぱら図書館から借り出してコピーを取った。

 書店で買ったのは、「家族ががんになったときに真っ先に読む本』だった。
そんなタイトルの家族のための本。
その頃はまだ、闘病記の類は手に取れなかった。
多分、当人としてのスタンスをどこかで拒否していたのだろう。

 図書館では、私が入院していた大学病院の皮膚科の教授が、悪性黒色腫の部分を担
当して書いた医学書も見付けた。
『転移あるいは、いったん再発すると予後不良である』
『悪性黒色腫は10年以上たって再発することがあり、長期の経過観察が必要である』
という記述があり、教授の顔が思い出されてズシンと応えた。

 そのあたりから拭い難く、2年以内に再発するだろうという、確信に似たものに捕
らえられた。
別に、悲観するのではない。
けれど、期限を切られた感じが付きまとってきた。

 身の回りのものを、整理し始めた。
床にまで溢れた本を、雑誌の類は捨て、あとはブックオフに運び込んだ。
手の包帯をチラつかせなくても、お兄さんは車から、段ボールや紙袋を運び出してく
れた。

 服も、また着るかもしれないと手放せずにいたものを、片っ端から捨てた。
次の入院があると決まっていたので、分別違反ギリギリの方法で捨てに捨てた。
そして、部屋に山積みの店の伝票類、個人的な書類。
そのまま捨ててはまずい物は、ホームセンターで買った手回しシュレッダーで切り刻
んで捨てた。

 来る日も来る日も、ハンドルを回し続けた。妙に心が慰められた。
『恥ずかしくなく死ぬため』の準備をしている気分になっていた。
死生観というものがあるとすれば、生きている間はとりあえず、気負いなく私の生活
を全うして、死ぬときになったらしがみつかずに、死んで行こうと思っていた。

 振り返っても、私の人生は人に恵まれて、何やかやと世話をされながら生きて来た。
「あんたのお守りをしてるんだからね」という友人の言葉は当たっていた。
早くから親元を離れて、精神的には自立していたと思う。
しかし、学校でも職場でも、友達付き合いでも誰かが必ず庇い、肩入れして、引き立
ててくれた。

 子供もおらず、結婚に失敗して今に至る人生を、差し引いたとしても余りある。
私が、産まれて生きた意味については、それで良いかと思った。
残念なのは、私に良くしてくれた人たちに、その時々に十分に感謝の気持ちを伝えな
かったことだ。
なんだか、当たり前のこととして、相手の好意を受け取って来てしまった。

 遠いご恩にお返しする手立てがないので、殊勝にも、本を売って得た僅かなお金を
募金に回した。
ある教育者が、語っていたのを思い出したのだ。

 フィリッピンだったかのストリートチルドレンが、ゴミの山で暮らしている。
ゴミを拾って得たお金で命を繋ぐ。
裸足で不潔な場所を歩き回る彼らは、細菌感染からくる病気などで、幼くして命を落
とす。
屈託なく明るい彼らに、教育者は訊いたそうだ。

 きみの夢はなに?
「ぼくの夢は、大人になるまで生きることです」
それを言ったとき、教育者の声は少し震えていた。
僅かな金額だが、届くと良いなと思いながら募金した。

 暑い季節なので、こまめにシャワーを浴びていたが、手術をした側の胸が赤くなっ
てきた。
赤みは、始めはうっすらとシャワー後に現れる程度だった。
そのうち、風呂上りに真っ赤なトマトの色に変わるようになった。
普段も、赤みが残って引かないようになった。

 リンパ浮腫だった。
手術でリンパの流れが滞って、現れる症状だった。
ちょうどその頃に、再入院が8月14日ということに決まった。
1ヶ月の夏休みが、終わりに近づいていた。

閉じる コメント(17)

リンパ浮腫!、聞いただけで、怖がりの私は震え上がっています。

2007/4/29(日) 午後 10:46 阿波野ひみ子

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ひみ子さま。ごきげんよう。あの時の真赤っ赤、お見せしたいくらいのものでございました。慌てて、リンパ浮腫の本を読みました。ご忠告申します。決して見てはなりませぬ。

2007/4/30(月) 午前 0:20 カエルの女王

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病気について調べ、荷物を片っ端から部屋から出していくところは自分の話かとおもうくらいです。妙な覚悟のようなものがあって今まで溜め込んでいた思い出物も簡単に手放せました。あの頃の気持ちが続いていれば家はきれいなままだったのに(^-^;)

2007/4/30(月) 午前 0:49 ぴぃ

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ぴぃさま。ごきげんよう。やはり、貴女さまも・・・どなたに聞いたわけでもございませんが、あれは誰しも通る道ではなかろうかと薄々思っておりますの。そして、あの日々を語らなければ今日の私はただの能天気。多肉ちゃんのために、陽の当たる場所を確保して高笑いをしております。

2007/4/30(月) 午前 10:07 カエルの女王

この回(?)で、女王様の今まで見られなかった一面が出てきて少し驚いたようなほっとしたような気持ちです。この日々を振り返るというのはどのような心境なのでしょう?と考えてみます。・・・それにしても、写真かわいいですね(笑)

2007/4/30(月) 午後 1:30 [ - ]

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女王様のうたの世界をあらためていいなと思いました。ぼくはディーケン教授を知らないけれど。

2007/4/30(月) 午後 7:43 [ おいいしまさじゅうろう ]

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はなさま。ごきげんよう。入院中はなんともございませんでした。退院したあとで、がんシンドロームに陥りました。語るのに逡巡はございましたが、嘘はないはずでございます。このあたりを正直に語れなければ、このリハビリは無駄なものになってしまいます。昨年末までは、確かにこのような心理状態が続いておりました。今は、ご存知の通りでございます。写真、可愛らしゅうございましょう?しまむらで超お買い得でございました。2歳児なら履くところでございます。

2007/4/30(月) 午後 8:11 カエルの女王

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おいいしさま。ごきげんよう。いいなと思って頂けたなんて、これほど嬉しいことはございません。たとえ友人に、これ短歌?と不思議がられようと、私が三十一文字にしたいのはこのことでございますゆえ。ディーケン教授でございますか。「ユーモアとは、にもかかわらず笑うこと」とがん患者を励ましておられる方でございます。ドイツの諺らしゅうございます。むむ、それ以上のことは、いずれ調べまして・・・。

2007/4/30(月) 午後 8:37 カエルの女王

我が家の蛙(娘)が、リンパ腺か(節か)が痛いといってきましたが。辛抱できないほどの痛みでもないとか…。いささか心配。女王さまも大変な覚悟をされましたね。私もその覚悟をしなきゃ、部屋が片付きません。でも、その体力がありません。本と本の隙間に臥せっています。でも、笑うことだけはベテランでございますよ。おばかでございますから。

2007/5/1(火) 午前 6:17 阿波野ひみ子

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だから透明なんですね、女王様は。いや、ほんと透き通って見えました。もちろん、素肌もです(ごめんなさい、悪い冗談でした)。写真も短歌も素敵です。ポチ。

2007/5/1(火) 午後 1:48 やま

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ひみ子さま。ごきげんよう。本当に部屋は、よほどの覚悟がなければ片付くものではございません。体力もうんと必要でございます。体調のお悪い今は、ご辛抱くださいませ。なんてったってスマイルでございます。大笑いも大歓迎。いずれ、お片付けの好機も参りましょう。お嬢さま、連休明けに受診なさいますでしょう?どこか炎症を起こしているのかもしれません。無理に我慢はいけません。お大事になさいませ。

2007/5/1(火) 午後 6:53 カエルの女王

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yamaさま。ごきげんよう。透明に見えまして?嬉しゅうございます。ミジンコみたいに内臓まで透き通るのが希望でございます。北海道の流氷の下にいるという、あの不思議生物クラスならもう言うことはございません。ポチありがとう存じます。詩人に、素敵と仰って頂くとかなり自慢でございます。

2007/5/1(火) 午後 7:11 カエルの女王

それで、女王様のご体調は、いかがでございますか?

2007/5/1(火) 午後 8:16 阿波野ひみ子

私のSでない方の先生が辛い時ほど詠んだ方がいいと言ってました。私も言いつけ通りにしてきたつもりだけど・・。私は病気ではありませんが以前つけていた日記をいつ処分しようか?と悩みます。男性の話が色々書いてるもんで・・。笑)早く退院したくてドクターに退院させてくれなかったら窓から飛び降りる!と言ったら「三階だからいいよ飛び降りて。骨折したらまだ沢山話せて楽しいね」と言われ諦めました。

2007/5/1(火) 午後 9:02 [ ひなたひとみ ]

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ひみ子さま。ごきげんよう。三たびのおでましありがとう存じます。私の体調、ダイジョウブイッ!でございます。今月は、蘭ちゃんと外来が重なります。なにはさておき、元気で参らねば。食べ過ぎに注意致しましょう。

2007/5/1(火) 午後 11:45 カエルの女王

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ひなたさま。ごきげんよう。いったい何人の先生をお持ちなんでございますか。羨ましい・・・しかし先生は正しいことをおっしゃる。その通りでございました。あーでもないこーでもないとやっておりますと、悩みを忘れますわ。そして・・・その日記でございますが、処分なさるんでございますか?なんで?女の勲章は大事に致しましょうよ。日記が3日と続かない私と致しましては、それだけでお宝と存じますわ。ひなたさま情熱的な女性とお見受けいたします。決して勲章を、お捨て遊ばしませんよう。

2007/5/2(水) 午前 0:10 カエルの女王

はじめまして^^
闘病ファイルを作ったら、こちらの記事が参考でてきたので
お邪魔してみました。
岸本葉子さん。この前、あたしの地元にいらっしゃって
たので行ってきました。
若々しい、可愛いかたでした^^

2011/2/20(日) 午前 8:51 misato

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