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相変わらず、皮膚科の外来は混んでいた。 知人が自費出版したからとくれた、留学記をもう少しで読み終りそうだった。 それは、薄くて気楽な読み物だったけれど。 主治医が診察室から出て来て、男性患者と話しているのが目の端に入った。 まだまだだな、思っていたら名前を呼ばれた。 呼んでいる割に、主治医の目は遠くを探していた。 ここにおりますが、先生。 返事をすると、エラく驚いている。名前違いかしら。 曖昧な動作をして、主治医は処置室へ引っ込んでしまった。 もうちょっと待ってと聞こえたような。 私は、本の続きを読み始めた。 すぐに看護師が、戸口で私の名を呼んだ。処置室に直行らしい。 案内されたベッドに座って、果たしてもろ肌脱いでスタンバイするべきか考えた。 張り巡らしたカーテンの向こうで、主治医は他の患者の処置をしている様子。 気弱げな青年の声が「もう、痛まないですか?」と聞こえる。 「ん?痛いよ」あっさりと主治医の声。 「でも、良くなってるのは分かるでしょ?」とフォローしている声が続く。 何が痛いのだろう。気の毒に。 途中で声はかかるものの、主治医はなかなか現れず、寝転んでいるべきか腰掛けたまま が良いか迷った。 せかせかと主治医が入って来たとき、私は3度目ぐらいのブラウスから腕を引き抜く動作 をしていた。 「あ、横になってね」 だから先生、3回ぐらいやってますって。 なんだか、タイミングの悪い日だ。 触診の前に念のため、虫刺され痕があることを伝えた。 まさか虫刺されの痕と、再発のしこりを間違えはしないと思うが。 主治医は、ひとつふたつと声に出して虫刺されを数えていた。 みっつもあったようだ。 腋の下のリンパ節を取った跡には、痺れて感覚のない部分がある。 黙ったまま、その辺りを念入りに調べられていると、感覚がないだけにヒヤリとする。 いつもより時間が掛かったが「いいね」と言われた。 良かった。 いつも通り声が掛かって、小指の根元に注射が打たれた。 前回は、2ヶ所だったからそのつもりでいた。 ところが今回、1ヶ所目のすぐ横の場所に2ヶ所目を打たれた。 手をひっくり返して、最後の1ヶ所。 私は、主治医の顔を見た。 これは気まぐれに打ってますか、先生。 主治医は痛かった?という顔をし、なに?という顔をして寄こした。 表情豊かな人だ。 「先月は2ヶ所だったけど、今日は3ヶ所ですか?気分で打ってます?」 私の失礼にもほどがある。 「ん?すぐ横にしたのも痛かった?」 「はい」 「麻酔の役目をすると思ったんだけどなぁ」 主治医はつぶやいていた。 診察室に移動して、次回の予約日を決めた。 椅子に着きながら、主治医が言った。 「外は暑そうだなぁ」 「今年で、1番か2番くらいに暑いですよ」 「この時間に、外に出ないもんなぁ」 処置室で思ったものだ。 先生の手と私の手を比べたら、どっちが病人か分からない。 昨年は、入院していたためにそれほど目立たなかったが、私の肌の黒いこと。 ただ普通に、朝と夕方に車で移動する毎日なのに。 9月の予約日は21日となり、病院をあとにした。 何か忘れたような気がしていたが、そうだ主治医を1度もニンマリさせなかった。 代わりに、蘭ちゃんをニンマリさせようとメールを打った。 処置室の青年の話と、3ヶ所打たれた注射の話。 先生の気分かな? 早速、返事が来た。<注射、先生の気分でしょう> 蘭ちゃんも神経が甦り、打たれて痛い場所が増えたという。 注射は場所を変えて打ったほうが、良いと聞いたと結ばれていた。 頑張って、コンタクトレンズを新調するために寄り道をし、充実していたが疲れた1日
だった。 今頃書いているが、17日の金曜日のことである。 |

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