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フランドル 冬の旅

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港近くのレストランで昼食をとった後、バスに乗ってアントワープの街を離れる丁度その時、突然すさまじい豪雨が襲いかかってきた。そしてその雨は、高速道路に載り国境を越えてオランダに入っても、まだ間歇的に降り続いていた。バスの中では「これはヨーロッパの涙雨だね」などと皆騒いでいたのだが、車は渋滞する反対車線が嘘みたいに順調に走り続け、やがて見覚えのあるアムステルダム・スキポール空港に着く頃には、さすがの激しい雨もその勢いを失いつつあった。

空港では少し時間的余裕が出来たので、もう一度この巨大な建物内を歩き回ってみると、ほんの4・5日前の出来事がすでにやや遠い思い出としてよみがえってくる。考えてみると、オランダでの自由時間はほとんどこの空港を中心に動いていた気がする。近くのホテルへのシャトルバス、初日に無我夢中で乗り込んだ地下のアムステルダム行き鉄道駅、雑貨や食料品を買い込んだショッピング街、想像以上に大きなハンバーガーをナイフで切りながら食べた食堂、実物大の車輪を飾ったKLMのPRセンター等々、すべてがこの場所にあった。

そして今、チェックインを終え土産物を買いラウンジで熱い紅茶を飲み、搭乗待合室で到着した時と同じように雨に濡れているエアポートを眺めながら、今回の旅で観た数々の絵画を思い出してみた。最後にそれらの名画の中から10人の画家の一番好きな作品を、強く印象に残った順にここに書きしるして、この美術館めぐりの冬の旅を終えることにしよう。何年か後に是非またこれらの都市を再訪し、心ゆくまで鑑賞したいアートばかりである。
[2008.1.15 - AMSTERDAM]

1.ヨハネス・フェルメール 『デルフトの眺望』 1659-60、ハーグ・マウリッツハイス美術館
2.ヒエロニムス・ボッス 『聖アントニウスの誘惑(Re)』 1500-05 ブリュッセル・ベルギー王立美術館
3.ペーテル・ブリューゲル 『イカロスの墜落のある風景』 1556-58 ブリュッセル・ベルギー王立美術館
4.ファン・エイク兄弟 『神秘の子羊』 1425-32 ゲント・聖バーフ大聖堂
5.レンブラント・ファン・レイン 『ユダヤの花嫁』 1660-65 アムステルダム・国立美術館
6.サルバドール・ダリ 『聖アントニウスの誘惑』 1946 ブリュッセル・ベルギー王立美術館
7.ヴィンセント・ファン・ゴッホ 『花咲くアーモンドの枝』 1890 アムステルダム・ゴッホ国立美術館
8.ルネ・マグリット 『光の帝国』 1954 ブリュッセル・ベルギー王立美術館
9.ペーター・パウル・ルーベンス 『キリスト昇架』 1610-11 アントワープ・ノートルダム大聖堂
10.ジェームズ・アンソール 『不思議な仮面』 1892 ブリュッセル・ベルギー王立美術館

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アントワープにまつわる有名な話に「フランダースの犬」がある。特に日本人にはアニメのせいで大人気なのだと言われているが、自分はどうも平均的日本人から外れているようで、よく知らなかった。ただ主人公のネロ少年が、凍てつく雪の夜に教会の大きな祭壇画の前で息を引き取る場面は、どこかで見た記憶がぼんやりとあった。そして、その舞台となった教会がこのノートルダム大聖堂であり、その祭壇画が、中にあるルーベンスの『キリスト降架』なのであった。この童話は地元ベルギーではキリスト教精神からみて受け入れ難く、あまり人気がないそうだったが、大聖堂前の広場には小さな記念碑が立っていた。赤みの差す黒い石碑に少年と犬の絵が描かれていて、その端に彫られている『TOYOTA』の文字が、さりげなく時代を映し出している。

小雨から逃れるようにして入ったノートルダム大聖堂は、実に立派な造作ではあったが、それほど大きな感動が湧き上がってくることはなかった。大聖堂にお決まりの大げさな主祭壇があり、キリストの磔刑像があり、ステンドグラスが壁一面に広がっているのだが、どこか明るい透明感に満ちていて、スペインで体験したようなカソリックの奥深さがストレートには伝わってこない。ここはむしろ“ルーベンスの傑作美術館”とでも名付けたほうがいいのではないだろうか。そう考えてもおかしくはないほど、この聖堂内には彼の作品がいたる所に飾られていた。本当のところ、自分はルーベンスの絵はあんまり得意ではないのだけれども、これだけの大作に見事な位置取りで囲まれてしまうと、いつの間にかすっかり、宗教的ともいえる奇妙な浮遊感に捉えられていた。

自分が彼の作品にあまり惹かれない理由の一つは、そこに描かれている女性の顔が大抵よく似ていて、しかもそれがあまり好みのタイプではないことにあった。たぶん今もたくさん存在しているルーベンス名の絵画の多くが、彼の工房による集団製作であることとも関係しているのだろう。しかしここにある『キリスト昇架』、『聖母被昇天』、『キリスト降架』、『キリストの復活』の4作品は、何といってもそのダイナミックな構図の躍動感が主役になっていて、登場人物たちはただの構成要素のようにしか見えないのだ。まさにフランドル・バロックの典型であり、しかも頂点と言ってもいい素晴らしさである。・・・クリスマスイヴの夜に眠るように死んでいった少年と同じ位置から、『キリスト降架』をもう一度見上げる。すると、天井近くの明り取りから一条の光線が射してきた気がした。明らかに幻想なのだろうが、その光の帯が、十字架から降ろされるキリストを包む純白の布を、鮮やかに輝かせている。
[2008.1.15 - ANTWERPEN]

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ベルギーでの最後の日、朝ブリュッセルをバスで発ち、アムステルダム空港へと向かう途中にあるアントワープに立ち寄る。アントワープは、地図で見るとずいぶん内陸部にあるため、このあたりでは有数の貿易港であるということがすぐには信じられなかったのだが、街が近づいてくると、向こう岸が遠く見える大河に沿って巨大な船が何隻も舫っており、また荷揚げ用のクレーンが林立しているところなど、いかにも港町の姿だった。歴史的にみると同じ中世といっても、ゲント、ブルージュ、アントワープとその繁栄の変遷があった訳であり、今回ちょうどその順に訪ねたことになるこのフランドルの3都市は、それぞれにとても個性的な街であった。

スヘルデ河畔から旧市街の方へ歩いていくと、すぐにこの街のシンボルであるノートルダム大聖堂の尖塔が見えてきた。何といっても高さが123mもあるこの北塔はどこからでもよく目立ち、その細長い流線型の立ち姿は、まるでゴシックの衣装をまとった宇宙ロケットのようにさえ見える。港町にお似合いの細かな雨が降り出していたが、どこかイタリア的な華麗さも持っている市庁舎前のマルクト広場で、地名の由来を表しているブラボーの噴水を見上げる。川に棲む怪物の手首(アント)を、ローマ軍人のブラボーが切り取り、川へ投げ込んだ(ウェルペン)という話は既に知っていたが、間近から見るその銅像は、周りを取り囲むギルド・ハウスの甍の波の中で、美しい緑青色に朽ちながら物語の瞬間を示し続けていた。

短い自由時間を利用して、大聖堂の周辺をぶらぶらと歩き回る。目印がはっきりと中空に見えているため迷子になる心配もなく、雰囲気のある路地から路地へ進んでいくと、本屋やCD店が集まっている一画に出た。路面電車が大きくカーブする場所にある通りに立ち、いくつかの店のショーウインドウを覗いていると、面白い発見がたくさんあった。ある書店にはピカソやゴヤの画集にまじって、なんと若い頃の特徴ある写真を表紙にした大江健三郎の本があり、またある中古レコード屋にはビートルズやプレスリーのLPと並んで、自分が20代に聞き込んでいたピンクフロイドの『The Wall』が立てかけられていた。ここアントワープは、ファッションや文化の分野でも世界の最先端を走っている街だとも言われている。確かに古い歴史ばかりではなく、世界のどこかへと繋がっている新しい息吹が、こんな狭い通りの片隅にいても強く感じられた。たぶんそれが、世界共通の“港町の匂い”なのだろう。
[2008.1.15 - ANTWERPEN]

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そのままホテルへと帰ってしまうにはまだ早い時間だったので、一つ前のブリュッセル中央駅で列車から降りる。地下ホームから人波に従って広い階段を上っていくと、まるで美術館にでも入り込んだみたいなホールに出た。建物の曲線的な外観が昼から少し気になっていたのだが、この駅はアール・ヌーボーの建築家ヴィクトル・オルタが設計したことを思い出し、あらためて周囲を見回してみる。すると、階段の手摺や壁面の装飾等が急にそれらしく輝きだし、ヨーロッパの生活に根ざした文化の奥深さに、またしても脱帽させられてしまった。考えてみると、ブリュッセルは20世紀初頭、世界ではじめてアール・ヌーボーが花咲いた都市でもあったのだ。

中央駅からグラン・プラスまでは、ほんの3分ほどの距離である。すでに真暗になっていたが、その道は頭で覚えていたので、暗くても夜景を楽しむ余裕さえあった。遠くからでもライトアップされた市庁舎の塔が、美しく見え隠れしている。途中で電飾がまばゆいばかりのアーケード街を通り、ショコラティエで甘い香りを吸い込んだりしながら広場へと近づいていく。・・・夜のグラン・プラスは、昼間とはまた一味違った雰囲気で我々を迎え入れてくれた。その明るさは自分が想像していたよりも穏やかなものだったが、かえってそのほうが広場全体をより幻想的に変貌させていた。昼間には忘れていた、その右手に触れば幸福になれるという“セルクラースの像”を探し出し、わずかな光に異様に輝いている像ばかりでなく、その上にある磨耗した天使の顔までも優しく撫でてみる。

それから、途中買物をしながらホテルへ向かって歩いた。地図で見るかぎりおそらく10分程度で到着する距離でもあり、散歩がてらに夜の市街を楽しんでみようと考えたのである。大通りの舗道は店の照明で明るく、まだまだたくさんの人々が歩いている。それにしても、都会の夜は世界のどこへ行ってもあまり変わることはない。ただそこに蠢いている人間たちの顔や姿形が少々違っているだけのことだ。試みに街角のスーパーマーケットへ入ってみると、本当に今自分が地球上のどこにいるのかひどく曖昧な気分になってしまう。菓子のコーナーに立っていると、一人の中年男が商品を手にいきなり質問をしてきた。たぶんフランス語で「これはどうやって食べるのだ?」と尋ねているらしいが、自分もこの辺の住人の振りをして答えてみる。「ジュ・ヌ・セ・パ(知らないな)」と。

さらに歩き続けて、1階のカフェの素晴らしいネオ・ゴシックの建物として有名なメトロポール・ホテルを通り過ぎ、だんだん北駅のほうに近づいていくと、沿道の様子が徐々に暗く寂しくなってきた。どうやらこのあたりはオフィス街ででもあるらしく、ところどころに飲食店の紅い灯は点っているが、その多くは現代風なビルばかりとなっている。時々冷たい突風がビルの間を吹き抜けていく。ずいぶんと時間がかかってしまったなと疲れた足でふと見上げると、先ほどまでの中世の景色とはまるで違う、むしろ近未来的でさえある高層ビルの群れが、眼の前に広がっていた。そのビルを飾っているトパーズ色のイルミネーションが、“今”を精一杯主張している。
[2008.1.14 - BRUXELLES]

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ゲントからブルージュ行きの電車は、ちょうどタイミング良くホームに入ってきた各駅停車に乗り込んだ。そのいかにもローカル線に見える少し汚れた列車で、名前も知らない看板だけが立っている無人駅を、いくつも停まりながら走っていく。駅の周りにはきまって教会の塔を囲むように小さな集落があるのだが、あまり人の姿を見ることはなかった。しかし、そんな観光客などまるで意識していない素顔の田園風景のほうが、遠い国から来た旅人の記憶の中には、かえって印象深く残っているものだ。車窓に冬枯れの林が目立ちはじめてしばらく経った頃、まばらな乗客たちのほとんどが降りる準備にかかりだした。どうやら次の駅が、ブルージュのようである。

北方のベネチアとも言われる運河の街ブルージュは、歴史の悪戯で中世の面影をそのまま残しているために、今でも“屋根のない美術館”と称えられている。しかし、降り立った駅舎は現在大改装中でとても雑然としており、膨らんでいた期待がいきなり少し萎んでしまった。それでも気を取り直して街の中心目指して歩き出すと、すぐに素晴らしい景観が目の前に広がりほっと胸をなでおろす。緩やかに曲がって伸びる石畳道の両側にオレンジ色の屋根を載せた家々が続いていて、その上空に高い塔が見えている。長い時の流れを感じさせる煉瓦塀を見上げながら、今さら聞き飽きたフレーズだが、まさに“中世にタイムスリップしたような”気分を思う存分味わった。

その美しい舗道を心のままに歩き進んでいくと、いつの間にか迷路に入り込んでしまった。いつまで経ってもこの街の中心地のマルクト広場に行き当たらないのである。けれども、それはかえって楽しい道草でもあった。季節がら遊覧船の動いていない運河に架かっている橋を渡る。建物の角に造り付けられている名も知らぬ聖人像をカメラに納める。途中、地元客で繁盛している惣菜店を覗き込み、ソーセージやチーズの味を何となく想像してみる。そして、次第に土産物屋のショーウィンドウが目立つようになり、その中に飾られたゴブランやレースに見とれていると、いつしか広場のシンボルである鐘楼が、思いがけずすぐ近くに聳え立っていた。

マルクト広場は、どこから眺めても観光地そのものだった。鐘楼からは15分ごとにカリヨンの音が流れ、カラフルに塗装されたお伽の家みたいな店の前を、観光馬車がパカパカと通り過ぎていく。レストランの前でメニューを見ていると、いきなりドアが開いて招じ入れられた。ちょうど空腹だったし寒くもあったので、店内で燃えている暖炉に引き寄せられるようにして席に着き、英語で書かれたわかり易い料理をいくつか注文する。ビール以外はそれほど美味しいものではなかったが、ただそのボリュームの多さがギャルソンの特徴ある顔とともに印象に残る。

ここブルージュでも、本当はメムリンク美術館やグルーニング美術館、ミケランジェロの聖母子像のある教会にも行きたかったのだが、この国ではほとんどの観光施設が月曜休館になっているため今回は実現できなかった。駅への帰り道、この巨大な市街ミュージアムの、時間が迷子になっている迷路の中へと、また入りこんでいく。
[2008.1.14 - BRUGGE]

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