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そのニュースを知ったのは、10月10日の、まだ薄暗い夜明け前のことだった。 |
ブンガク
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第139回直木賞を受賞した、井上荒野さんの小説『切羽へ』を読んだ。自分としては、文学賞受賞直後の単行本を購入して読むことなどほとんどないのだが、1つには彼女が井上光晴の娘であること、もう1つにはこの作品のテーマである“夫がありながら他の男に惹かれていく女性”の心理状態にとても興味があったことが、この作品を読みたくなった大きな理由だった。装丁も美しく、知らず知らずのうちに想像力を刺激してくる。 |
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今思い返してみると奇跡的な偶然が重なり合って、檀一雄の『火宅の人』と沢木耕太郎の『檀』の2作を読み返すことになった。『火宅の人』はこの正月休みに、大げさに言えば愛とか家庭とか、ひいては人間が生きていくとはどういうことなのかを考えたくて、再度読みだしてみたのである。しかし子供の病気や愛人と“事を起こす”あたりで気が重くなってスローダウンしていた時に、ある女性から「昔買ったままだった本を読もうと思うの。『火宅の人』シブイでしょ」というメールが入った。彼女とは前々から歳の差を感じさせない相性の良さでいろいろと話し合ってきたのだが、それにしてもこの絶妙のタイミングには、自分も本当に驚いてしまった。そして、彼女は沢木耕太郎のこの作品の方を先に読んだという『檀』を、その後貸してくれることになったのである。 |
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S・ベケットがノーベル文学賞を受賞したのは1969年、自分が18歳の時だった。まだ今とは比較にならないほど心が傷つきやすかった頃だが、このアイルランド生まれでパリ在住の老作家は、その不可思議な容貌とともに、自分の中にすんなりと入りこんできた。おそらく、遠くから伝わってくる人間ぎらいの噂と、いわゆる不条理な人生を表現するその小説や戯曲の世界が、自分の少しくねじれかけた性格に、ぴったりとあっていたからなのだろう。あの頃はずいぶんと熱中していて、古本屋で全集まで買いこんで一晩中読み明かしたりもしたものである。 |
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先日戸棚の中を整理していたら、たくさんの本の中から沢木耕太郎の『深夜特急』が出てきた。昔何度も読み返した記憶がよみがえり、第1便の「黄金宮殿」を懐かしくめくっていると、ペナン島のページで指が止まった。マレーシアのペナン島には今年の6月に行ってきたばかりなのだが、この本のことはすっかり忘れてしまっていた。確かマレー半島を南下して行ったことは覚えていたのに、そうだったのか、あのペナンへも、彼は滞在していたのだ。 |






