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横浜の小さなフランス

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梅雨が明けてはじめての日曜日、暑さの中をTシャツにジーンズという格好で横浜へ出かけた。
市営地下鉄の桜木町駅で降り、動く舗道で日本丸を見ながらクィーンズ・スクゥエア方面へ向かう。
折りしも開国博Y150開催中のみなとみらい地区は、久しぶりだったがずいぶん人出が多かった。

最初にめざしたのは、横浜美術館で行われている「フランス絵画の19世紀」展だった。
パンフレットによれば、この時代の美術界は、さまざまな流派とアカデミーとのせめぎ合いの歴史といえる。
展示はそのアカデミー絵画のほうが多かったが、新古典、ロマン主義から印象派や象徴主義までもあった。

たとえばダヴィッド、グロ、アングルといった、アカデミー(サロン)の王道を歩んだ画家たちがいる。
一方ドラクロワ、クールベ、マネ等、権威に対抗した画家も有名だが、その思いはあまり伝わってこなかった。
冒頭の写真はマネ(左)とアングル他(右)だが、こうして並べても一見際立った違いはないようにも見えた。
それはたぶん、ここに展示されている作品が、彼らの主張を訴える代表作ではないからなのだろうか。

だからというわけではないが、今回の展覧会で個人的にいちばん印象に残ったのは出口近くにあった2枚だ。
ギュスターヴ・モロー『岩の上の女神』と、オディロン・ルドン『眼をとじて』の2作が、静かに並んでいた。
上野などでもそうだったが、どうやら最近の自分はこのような幻想的な世界に強く心引かれる傾向があるようだ。

■モロー 『岩の上の女神』 1890年頃 横浜美術館
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    ■ルドン 『眼をとじて』 制作年不詳 岐阜県美術館
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美術館を出て歩き出すと、突然前庭の噴水が動き出し、いく筋もの細い水の柱が目の前で踊りだした。
爽やかなミストを顔に浴びながら眼を閉じると、始まったばかりの夏休みを喜ぶ子供たちの歓声が聞こえてくる。

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東京・八重洲のブリヂストン美術館には、何度行っても、いつでも心休まる空気が流れている。
それはたぶん、何回も繰り返して観たくなる名品が、静かに自分を待っていてくれるからなのだろう。
7月になっていたが、「マティスの時代−フランスの野生と洗練」展の最終週に間に合うことができた。

この企画展は、次の4つの章で構成され、石橋財団所蔵の54作品を中心に展示されていた。
  1.マティスとフォーヴィスムの出現: 1905年頃まで
  2.フォーヴの仲間たち: それぞれの道
  3.親密なあるいは曖昧な空間: ヴァリエーション、装飾、室内、窓、空間の広がり
  4.色とかたちの純粋化: 拡張する画面、余白の問題、越境、即興
  (チケット売場でいつもと違う素敵な小冊子をもらえたので、よくわかった)

今年生誕140周年になるマティスと、フォーヴィスム(野獣派)という言葉は今でもしっくりとこない。
それはボナールやデュフィ、ドランなどにも言えるのだが、また、モローが師であったことも面白いと思う。
そのモローのこの作品に今回初めて会えた。グワッシュ、水彩/紙であるため、照明が落とされている。
モローといえば思い浮かぶ、饒舌な油彩画の印象はほとんどなく、浮世絵のようにさえ見えてきた。
■ギュスターヴ・モロー 『化粧』 1885−90年頃
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その他印象に残ったのは、ブラマンク『運河船』、デュフィ『静物』、ブラック『梨と桃』等だが、以前もそうだった。
肝心のマティス作品は16点ほどあったが、やはり『青い胴着の女』(冒頭のパンフ写真)が最高になるのだろう。
おそらく自分の一番好きな『ルーマニアのブラウス』に似たイメージがあり、何度も書き直されているはずだ。

ブリヂストン美術館がすごいのは、そんな企画展をかすませてしまうほどの常設展が、いつだってあることだ。
今回もルノワールの少女に挨拶をし、モネのヴェネツィアの黄昏を眺め、ピカソのアルルカンの秘密を探った。
そして、またしてもカンディンスキーを発見して暫らくの間動けなくなった。隣りのクレーとの対比も素晴らしい。
■ヴァシリー・カンディンスキー『二本の線』 [左はパウル・クレー『島』] (Lets Enjoy Tokyoよりの転載)
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『二本の線』は1940年に描かれた晩年の作品で、静かに想像力を刺激してくる形象がやがて動き出すようだ。
カンディンスキーとクレー、二人が並んで立っているバウハウス時代の白黒写真を、ふと思い出していた。

最後にザオウーキーの現代アートと、紀元前エジプト時代の聖猫像を観てから、銀座方面へと向かった。

東京都美術館の名品

招待券をもらったこともあり、東京都美術館の「日本の美術館名品展」へ行ってみた。
実はあまり期待はしていなかったのだが、館内には観客も多く、それなりに面白い展覧会だった。
日本国内には世界的な画家の作品がこんなにもあったのかと、あらためて驚かされたのだ。
版画も含めて200点以上あった中から、自分の印象に残った作品について書いてみよう。

1.ミレー 『ポーリーヌ・V・オノの肖像』 山梨県立美術館蔵
  この作品は、だいぶ前に甲府の現地で『種蒔く人』と一緒に観た記憶がある。後にミレーと結婚するのだが、
  数年後には他界してしまう彼女の運命が、すでに描きこまれているような美しさがあった。
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2.ルドン 『ペガサスに乗るミューズ』 群馬県立近代美術館蔵
  にじむような色彩が、この幻想的な世界をますます不確かなものとして、そこに繋ぎとめている。
  ルドンの眼には見えていたのだろうか? それとも絵筆が無意識に紡ぎだしたのだろうか?
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3.シーレ 『カール・グリュンヴァルトの肖像』 豊田市美術館蔵
  1月にシーレの作品を集中して観てきた自分にとっては、あまりシーレらしくないシーレのようにも思えた。
  しかし、この乾いた筆跡の流動や特徴のあるサインの形は、間違いなくシーレのものだ。
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4.ルソー 『サン=ニコラ河岸から見たサン=ルイ島』 世田谷美術館蔵
  去年同じ世田谷美術館で観てきた横尾忠則氏のパロディ作品みたいに、どこかに何かを捜していた。
  だがこの絵には何かが紛れ込む余地などどこにもない。純粋に美しいルソーの風景画なのである。
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5.カンディンスキー 『カーニバル・冬』 宮城県美術館蔵
  正確な題名は「E.R.キャンベルのための壁画No4」の習作となっている、1914年の作品である。
  自分の一番好きな具象から抽象へと移っていく時代のものだが、今一つ強く訴えてこないのは何故だろう?
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この他日本人画家の作品にも、心に響いてくるものがいくつかあったので、ここに記録だけしておこう。
  ・古賀春江 『蝸牛のいる田舎』 郡山市立美術館
  ・佐伯祐三 『サンタンヌ教会』 三重県立美術館
  ・三岸好太郎 『のんびり貝』 北海道立三岸好太郎美術館
  ・国吉康雄 『祭りは終わった』 岡山県立美術館
  ・池田満寿夫 『愛の瞬間』 長野県信濃美術館 

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会社は休暇にして、午後から上野へ出かける。昨日の懇親会の酔いがまだ少し残っていた。
五月晴れの空の下では感じていた後ろめたさも、電車が地下に入ってしまえばすぐに薄らいでくる。
上野公園は緑の煌めきの中にあった。そのせいか平日にしては予想以上の人々であふれている。

国立西洋美術館の「ルーヴル美術館展」は30分待ちの行列である。前回が40分だったから少しは短い。
館内にも相当の観客がいたが、うまくタイミングを合わせれば作品のすぐ前へまで行くことができた。
それに今回は2回目なので、じっくり観たい絵は最初から決まっていた。めざすのは10数点ほどだった。

カルロ・ドルチの2作は中でも一番気になっていた。『受胎告知・天使』と『受胎告知・聖母』の一組である。
大天使ガブリエルの姿がこれほど可憐なことに驚く。ダ・ヴィンチともフラ・アンジェリコともまるで違う。
しかも、どう見ても女性にしか見えない。眼を伏せ手を交差して、告げるというより何かを祈っている。
それに比べると、聖母マリアの表情は静かに運命を受け入れる人のものだ。祈りは真っすぐに通じている。
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続いて国立博物館の「国宝・阿修羅展」へ向かう。横断歩道越しの入口の所に50分待ちの掲示が出ていた。
それでも比較的短いほうのようだ。平成館への途中に給水サービスがあり、日傘の貸し出しまであった。
行列している人たちを観察すると、若い女性の姿がずいぶんと多い。確かに噂されていたとおりである。

会場内に入るとかなり薄暗かった。その中で奈良興福寺・天平の仏像たちがスポットライトを浴びている。
須菩提、富楼那などの十大弟子像より、迦楼羅、五部浄などの八部衆の異形の姿がとても興味深かった。
それらは皆インドの神々であり、多くが少年の形状をしていて、阿修羅もその中の一体なのである。

そのスーパースター“ASYURA”は、自分ひとりだけの広い部屋で、すべての熱狂を受け止めていた。
たくさんの観客がぐるりと取り囲み、まるで御神輿みたいに、押し合いへし合いしながら廻っている。
しかし、彼は本当は戸惑っているように見えた。説明によれば、阿修羅は懺悔している少年の像なのだから。
3つの顔は自身の成長の過程であり、やっと想いを掴みかけた正面の顔で、切なげに遠くを見つめている。
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連休の一日、町田市立国際版画美術館で開催されている「ルオーの祈り+絵画と版画」展へ行ってみた。
広大な芹ヶ谷公園の一角にあるこの美術館は、まさに萌えたつような緑に包まれていた。
花壇には季節の花々がそのそれぞれの色彩を競いあい、鳥たちの鳴き声が心地よく響いている。

ルオーの版画は“深い信仰心と人間観が満ち溢れた”モノクロームの世界で、心を鎮めて観なければならない。
戦争の罪深さをテーマにした『ミセレーレ』シリーズを観ているうちに、ふと色が浮き上がる瞬間があった。
それが『流れ星のサーカス』や『受難』シリーズでは、多色刷りのためステンドグラスのイメージになってくる。

油彩画は小さな作品も含めて20点ほどしかなかったが、やはりその重厚な質感は圧倒的なものだった。
今回の中心作となっている『横向きのピエロ』も面白かったが、『秋』のような風景画に強く惹きこまれた。
いったい日本にはルオーの作品がどれほど多くあるのだろうか? そんなことを考えながら緑の道を歩く。

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