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嘲笑ゥせぇるすまん

呼び出しボタンを押すと、
陰気臭い、そのセールスマンは自分の腋の下の匂いを嗅いだ。
最近、自分でも加齢臭を感じているのだ。

「・・・なんですか?」
インターフォンから訝しげな声がする。
「百科事典の訪問販売の者ですが・・・」
「あ、間に合ってます。」
ブツッという音がして、静寂が訪れる。
にべもない。とりつくしまもない。
奴はオレの陰気な姿をモニターで見たのだろうか?
どうせ奴らだって間の抜けたカッコをしているくせに。
殆どの奴らがそうだ。
もちろん、自宅でくつろいでいるんだから、ジャージやステテコ、寝間着姿で、
頭の寝癖やヒゲ面、化粧を直すこともないのだから、
オレのような営業マンと比べたら見劣りするに決まってる。
フッフッフッ
・・・嘲笑してやる。
男は陰気な気持ちに暗い怒りを閉じ込め、その場を後にした。

これがこの仕事の9割を占めるのだ。
誰にも相手にされない。
いや,それどころか,迷惑がられている。
いや,むしろ,嫌われているのだろう。
だが,これが仕事なのだ。
企業にとっては,営業こそが主役なのだ。
仕事をとってくる人間がいなければ,会社は成り立たない。
事務だの,経理だの,掃除係だの・・・
営業という主役がいてこそ,回ってくる脇役でしかないのだ。
フッフッフッ
・・・嘲笑してやる。

次の家も,次のアパートも,次のマンションも,次の奴も,次のオバサンも次のオヤジも・・・
みんな冷たいもんだ。
「間に合ってます。」「ああ、いらないね。」「結構です。」
・・・“結構です”だと?
そりゃぁ“結構”じゃないか?じゃぁ、買えよ。“結構”なモノなんだろ?
なぜ,普通に“いらない”と言わないんだ?買っても“結構”なんじゃないのかよ?
男は物言いにこだわった。暗い言いがかりに固執していく。
すでに何回も辞典で調べてあるのだ。
結構とは“それでよいさま。満足なさま”であり,
“それ以上必要としないさま。”として使うならば,
「もう、結構です。」というべきであり,曖昧な表現は誤解を招くだけだ。
莫迦が・・・。
お前らのような奴にこそ,この百科事典が必要だということが判らんのか?

男は以前、コンテストで、どうしても契約が必要だった時に、百科事典を自腹で購入していた。
もったいないし、せっかくなので何回も読み返したので、男にとってはバイブルのようになっており、
理解はしていないかもしれないが、知識だけは豊富なのだ。 

フッフッフッ
・・・嘲笑してやる。

再び、インターフォンを押して身構える。
ワンルームマンションの一室の前だ。
次はどんなアホが出てくるか・・・。
しかし、反応はなかった。
が、耳を澄ますと・・・テレビの音がする。
居るんじゃないのか?
男は電力メーターを確認し、確信した。
しつこく、2回目のチャイムを鳴らして待つ。
こころもち、テレビの音が小さくなったような気がした。
しかし、反応はない。
・・・居留守じゃないか?
ふざけやがって,なんの為のインターフォンだ?
用事があるからこそ,やってきてるのに、
たとえ,それが,セールスマンだろうが,呼出には応じる義務があるだろう?
もしも,大事な用件で身内や友人,知人が来たらどうするんだ?
警察だったら,消防署だったら,国税局だったら,どうするんだ?
男は3回目のチャイムを鳴らした。
しかし、今度はテレビの音もしなくなった。
静まり返っている。
フッフッフッ・・・息を殺して隠れているのか?
どこかでオレの様子を伺っていたのか?
デバガメ野郎が・・・。
男はチャイムをめちゃくちゃに鳴らし、
静まり返ったその部屋を後にした。
フッフッフッ
・・・嘲笑してやる。

男は一戸建ての家の前に立っていた。
チャイムを鳴らすと、パタパタと足音がして、オバサンが現れた。
「はい、なんでしょう?」
これを待っていたのだ。
「はい,私,百科事典の訪問販売をしておりまして・・・」
「ああ、ウチは、結構ですわ。」
オバサンは、お決まりのパターンで断ってくる。
「ええ,ですが,ちょっと,お話だけでも聞いて頂けませんでしょうか?」
「そりゃぁ、お話聞くだけならいいですけど、・・・買いませんよ。」
男は大げさにびっくりした顔をした。
「えっ?そんなの判らないじゃありませんか。話を聞いて欲しくなっちゃうかもしれませんよ?」
「いえ、ウチには必要ありませんから。」
「でも,必要になるかもしれませんよ?」
ワザと鎌をかける。
「いいえ、必要ないんです。」
男はコロッと態度を変え、掴みに入る。
「はい,しかし,必要か必要じゃないかは問題ではないのです。」
「でも、必要ないモノは買いませんよ。」
オバサンは勝ち誇ったようにフフッと笑った。
「例えばですね,電話がない時代に,電話が必要だと思った人がいると思いますか?」
「そりゃ、電話はあった方がいいに決まってるじゃないですか。」
「でも,その“電話”が無い時代ですよ?つまり、“電話”が何かも解らない。
どんなものかも,・・・そもそも,その“概念”すらないんですよ?」
「電話は必要よ。」
オバサンはムッとして答えた。
「なぜでしょう?」
オバサンは律儀に答える。
「それは私が必要だからケロ。」
「ええ,でも,電話が無かった時代には,必要かどうかは判らなかった。なぜならば、
必要かどうかは,手にしてみなければ解らないからなのです。例えば,ここにライターがあるとしましょう。でも,“マッチがあるからライター”は必要ないと言うでしょう。でも,マッチが湿気て,使い物にならないとなれば,ライターを買うでしょう?」
「最初から、ライターを買うでケロ。」
・・・なにがなんでも否定か?
男の暗い心の中に火が燈った。
「・・・しかし,奥さん,あなたはこの百科事典を買う運命なんですよ。」
フッフッフッ・・・莫迦め,嘲笑してやる。
「私は買いません。必要ありませんから。」
あくまでも,正論でくるタイプなのだろう。
平然と答えるオバサンに、陰気なセールスマンは固執した。
「でもね,奥さんは,私のチャイムに答えた。ちゃんと要件を聞こうとしたわけです。」
「でも、買わないでケロ。」
「つまり,私の話を聞こうと思ったわけです。」
「聞いてるでケロ?」
「ですから,私の話を聞き,そして,百科事典の価値を知り,そして,その必要性を知り,買うことになるのです。」
「私は、電話が鳴れば出るし、チャイムが鳴れば出るし、質問されれば答えるケロ。これが誠意というもんなんだケロ。」
「ですので,私の話を聞くわけです・・・」

数時間後、男は、渋々、その家を後にした。
契約は取れなかったが、男の目には執念が宿っている。
振り返りながらつぶやく。
「この家と,・・・さっきの居留守を使った奴には,とことん,つきまとってやる。」

フッフッフッ
・・・嘲笑してやる。

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