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3258 恋,片思い [題詞] ・・・・・・・・・・・
荒玉之ー[あらたまの]ー 年者来去而ー年は来ゆきてーとしはきゆきてー新年はやって来てまた去るが 玉梓之ー玉梓のー[たまづさの]ー立派な梓の杖を持つ 使之不来者ー使の来ねばーつかひのこねばー京からの使いは来ないので 霞立ー霞立つー[かすみたつ]ー霞立つ 長春日乎ー長き春日をーながきはるひをー長い春の一日を 天地丹ー天地にー[あめつちに]ー天と地に満ちるほど 思足椅ー思ひ足らはしーおもひたらはしー貴女を想う 帶乳根笶ー[たらちねの]ー乳を呉れる実母の 母之養蚕之ー母が飼ふ蚕のーははがかふこのー飼う蚕が 眉隠ー繭隠りー[まよごもり]ー繭にこもるように 氣衝渡ー息づきわたりーいきづきわたりー貴女が家に籠ったままなので 吾戀ー吾が恋ふるーあがこふるー私の恋する 心中<少>ー心のうちをーこころのうちをー心の内を 人丹言ー人に言ふーひとにいふー人に公言する 物西不有者ーものにしあらねばーものでもないので 松根ー松が根のー[まつがねの]ー松の根のように 松事遠ー待つこと遠みーまつこととほみー待つことの日々が遠いので 天傳ー天伝ふー[あまつたふ]ー空をゆく 日之闇者ー日の暮れぬればーひのくれぬればー太陽も暮れてしまうと 白木綿之ー白栲のー[しろたへの]ー白妙の 吾衣袖裳ー吾が衣手もーわがころもでもー私の衣の袖も 通手沾沼ー通りて濡れぬーとほりてぬれぬー悲しみの涙で濡れてしまった ・・・・・・・・・・・ [題詞]反歌 如是耳師 相不思有者 天雲之 外衣君者 可有々来 かくのみし あひおもはずあらば あまくもの よそにぞきみは あるべくありける ・・・・・・・・・・・
これほどしか 貴女が私のことを想ってくれないのなら 天雲のように 遠く眺めるだけの人であればよかったのに ・・・・・・・・・・・ 3260 明日香,恋 [題詞] ・・・・・・・・・・・
小<治>田之ー小治田のーおはりだのー広島県三原市 年魚道之水乎ー年魚道の水をーあゆぢのみづをー年魚が通る道の清い湧水を 問無曽ー間なくぞーまなくぞー絶え間なく 人者○云ー人は汲むといふーひとはくむといふー人は汲むと云う 時自久曽ー時じくぞーときじくぞーいつも 人者飲云ー人は飲むといふーひとはのむといふー人は飲むと云う ○人之ー汲む人のーくむひとのー汲む人が 無間之如ー間なきがごとーまなきがごとー絶えないように 飲人之ー飲む人のーのむひとのー飲む人が 不時之如ー時じきがごとーときじきがごとーいつも飲むように 吾妹子尓ー吾妹子にーわぎもこにー愛しい貴女に 吾戀良久波ー吾が恋ふらくはーあがこふらくはー私が恋することは 已時毛無ーやむ時もなしーやむときもなしー止む時もありません あゆ道に湧く水のように ・・・・・・・・・・・ 3261 [題詞]反歌 思遣 為便乃田付毛 今者無 於君不相而 <年>之歴去者 おもひやる すべのたづきも いまはなし きみにあはずて としのへぬれば ・・・・・・・・・・・
この胸の思いを伝える手だても今はありません あなたに逢えなくて年が経ってしまったので ・・・・・・・・・・・ 3261S 編纂者 [題詞](反歌)今案 此反歌謂之於君不相者於理不合也 妹不相 いもにあはず ・・・・・・・・・・・
愛しいあなたに会えずに ・・・・・・・・・・・ 3262 恋,遊仙窟,中国文学 [題詞]或本反歌曰 ○垣 久時従 戀為者 吾帶緩 朝夕毎 みづかきの ひさしきときゆ こひすれば わがおびゆるふ あさよひごとに ・・・・・・・・・・・
神の社の瑞垣が久しい昔からあるように 久しい昔から貴女に恋い焦がれていたので 私の着物の帯が緩くなってしまった 朝ごと夜毎に痩せ細って ・・・・・・・・・・・ 3263 奈良,歌語り,悲別,恋,木梨軽太子,伝承 [題詞] ・・・・・・・・・・・
己母理久乃ー[こもりくの]ー隠口の 泊瀬之河之ー泊瀬の川のーはつせのかはのー泊瀬の川の 上瀬尓ー上つ瀬にーかみつせにー上流の瀬に 伊杭乎打ー斎杭を打ちーいくひをうちー神を祝う清浄な斎杭を打ち 下湍尓ー下つ瀬にーしもつせにー下流には 真杭乎挌ー真杭を打ちーまくひをうちー太い真杭を打ち 伊杭尓波ー斎杭にはーいくひにはー神を祝う杭には 鏡乎懸ー鏡を懸けーかがみをかけー鏡を掛け 真杭尓波ー真杭にはーまくひにはー立派な真杭には 真玉乎懸ー真玉を懸けーまたまをかけー美しい玉を掛け神をまつる 真珠奈須ー真玉なすー[またまなす]ー美しい玉のような 我念妹毛ー我が思ふ妹もーあがおもふいももー私が心に想う貴女も 鏡成ー鏡なすー[かがみなす]ー鏡のように輝く 我念妹毛ー我が思ふ妹もーあがおもふいももー私が想う貴女も 有跡謂者社ーありといはばこそー住んでいるというからこそ 國尓毛ー国にもーくににもー貴女の国にも 家尓毛由可米ー家にも行かめーいへにもゆかめー貴女の家にも行きましょう 誰故可将行ー誰がゆゑか行かむーたがゆゑかゆかむー誰のために帰郷するのか、誰の為でしょうか行きましょうに ・・・・・・・・・・・ [題詞]反歌 年渡 麻弖尓毛人者 有云乎 何時之間曽母 吾戀尓来 としわたる までにもひとは ありといふを いつのまにぞも あがこひにける ・・・・・・・・・・・
貴女の思い出に浸って年を過ごす 一年でも 人はそのまま 待つというのに いつの間にこう わたしは恋に落ちたのか ・・・・・・・・・・・ 3265 [題詞]或書反歌曰 世間乎 倦迹思而 家出為 吾哉難二加 還而将成 よのなかを うしとおもひて いへでせし われやなににか かへりてならむ ・・・・・・・・・・・
人の世の中を煩わしいものと思ってこの世を旅立った私です どうして、この世に還って来ることが出来るでしょうか ・・・・・・・・・・・ 3266 明日香,奈良,枕詞,序詞 [題詞] ・・・・・・・・・・・
春去者ー春さればーはるさればー春が来ると 花咲乎呼里ー花咲ををりーはなさきををりー枝もたわわに花が咲き 秋付者ー秋づけばーあきづけばー秋がやって来ると 丹之穂尓黄色ー丹のほにもみつーにのほにもみつー美しい枝先も黄葉する 味酒乎ー味酒をー[うまさけを]ー美味しい口噛みの酒を 神名火山之ー神奈備山のーかむなびやまのー神名火は明日香の甘橿の丘の 帶丹為留ー帯にせるーおびにせるー裾野を帯のように取巻き 明日香之河乃ー明日香の川のーあすかのかはのー流れる明日香川の 速瀬尓ー早き瀬にーはやきせにー速い流れの瀬に 生玉藻之ー生ふる玉藻のーおふるたまものー生える美しい藻が 打靡ーうち靡きーうちなびきー靡くように 情者因而ー心は寄りてーこころはよりてー心は靡き寄って 朝露之ー朝露のー[あさつゆの]ー朝露のように。 「消」の枕詞。 消者可消ー消なば消ぬべくーけなばけぬべくー消え入りそうなほど 戀久毛ー恋ひしくもーこひしくもー恋い焦がれていたのが 知久毛相ーしるくも逢へるーしるくもあへるー思い掛けずに会えた(シク・シク連用) 隠都麻鴨ー隠り妻かもーこもりづまかもー隠れる妻のような貴女 (人目を忍ぶ関係にある妻。かくしづま。) ・・・・・・・・・・・ * 「咲きををり」...自動詞タ行四段「咲きををる」の連用形。「ををる」は、たわむ意、「枝がたわむほど、花がたくさん咲く」 * 「づく」、接尾語(名詞について動詞をつくる)、四段活用...そういう状態になっていく、〜の趣がある 「秋づけば」は、已然形「づけ」の形になり、「秋になると」 * 「に(丹)」は、赤土、黄味を帯びた赤色、赤色の顔料。「ほ(秀)」は、高く秀でていること、目立ってすぐれていること * 「もみつ」終止形。上代語で自動詞タ行四段「紅葉(もみ)つ・黄葉(もみ)つ」中古以降「もみづ」と濁音化し、ダ行上二段「紅葉づ・黄葉づ」 * 「うまさけ・を」は「かむなび」にかかる枕詞。「味酒・旨酒(うまさけ)」は、「神酒(みわ)」であることから同音「三輪(みわ)・三輪の別名、三諸(みもろ)」にかかる。 * 「生ふる」、自動詞ハ行上二段「生(お)ふ」の連体形、生ずる、生える、生長する * 「玉藻」、「たま」は接頭語で「美称」、美しい藻。 * 「の」は、性質・状態を表す格助詞、〜のような。 * 「ぬ」完了の助動詞終止形。 * 「べく」、推量・可能・意志の助動詞「べし」の連用形。 * 「あへる」、自動詞ハ行四段「逢ふ」の已然形に、完了の助動詞「り」の連体形「る」。 3267 睥奈良,恋,序詞 [題詞]反歌 明日香河 瀬湍之珠藻之 打靡 情者妹尓 <因>来鴨 あすかがは せぜのたまもの うちなびき こころはいもに よりにけるかも ・・・・・・・・・・・
* 古代では乙女が袖をゆらゆらと振る行為は招魂の儀礼。明日香川の瀬々の流れに 美しい藻がゆらゆらと打ち靡く 乙女が袖をゆらゆらと振るように それで私の魂は いつか貴女に靡き寄ってしまったことよ ・・・・・・・・・・・ |
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