ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

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久方の 光のどけき 春の日に、しずこころなく 花の散るらむ  紀友則
 
<さくらの花のちるをよめる 古今集・春下・84>

・・・・・・・・・・・・・・
日の光がのどかな春の日に
おちついた心もなく
桜の花が何故に散り急ぐのだろう
・・・・・・・・・・・・・・


<語句・文法>

* 久方の 光のどけき 春の日に;
「ひさかたの」は「光」の枕詞。「久堅の」とも書かれる。天(あま/あめ)・雨・月・都などにかかる枕詞。光の枕詞として用いる例は稀(おそらくこの歌が初例)。「久し」の語感を響かせ、永々と穏やかに続く春の日のイメージを強めるはたらきもしている。
「光」と「のどけき」は句内主語・述語関係。
「のどけき」は形容詞「のどけし」の連体形。
「春の日」は春の日なが。
「に」は時を示す格助詞。

* しずこころなく 花の散るらむ;
「しず心」は落ち着いた心で名詞。
「なく」は形容詞「なし」の連用形。
「しず心なく」は述語「ちるらむ」を修飾。
「の」は主語を示す格助詞。
「ちる」は四段活用動詞終止形。
「らむ」は現在の理由、推量の助動詞「らむ」の連体形。
格助詞「の」には連体形で応じる。「らむ」は、疑問の意を表わす語を伴わなくても、「どうして…なのだろう」の意をあらわす場合がある。
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【他の代表歌】

秋風に はつかりがねぞ きこゆなる たがたまづさを かけてきつらむ  (古今集)
雪ふれば 木ごとに花ぞ さきにける いづれを梅と わきてをらまし  (古今集)
夕されば 佐保の川原の 河霧に 友まどはせる 千鳥なくなり  (拾遺集)


【主な派生歌】

見るほどに 散らば散らなむ 梅の花 しづ心なく 思ひおこせし
 (和泉式部)
夢のうちも うつろふ花に 風ふけば しづ心なき 春のうたたね
 (式子内親王「続古今」)
ひさかたの 光のどかに 桜花 ちらでぞ匂ふ 春の山風
 (藤原家隆「新後撰」)
いかにして しづ心なく 散る花の のどけき春の 色と見ゆらむ
 (藤原定家)
よものうみ 風をさまりて ひさかたの ひかりのどけき 春はきにけり
 (宗尊親王)
さらでだに しづ心なく ちる花を あかずや風の なほさそふらん
 (性助親王「続古今」)
ひとりみて なぐさみぬべき 花になど しづこころなく 人をまつらん
 (北畠親房)
いづる日も 光のどけき 久方の 天の宮人 春をしるらし
 (正徹)
木の間より 花にかすみて 久堅の 光のどけき 鳥の声かな
 (〃)
・・・・・・・・・・・・・・・

<記事詳細や背景>

作者は、桜の花が散るのを見て、なぜ散るのだろうと疑い、そこで「しづ心なく」と推量したのである。正しくは「しづ心なくや」とあるべきだが「や」を省いて調べを流暢にした。
また偶然の結果であろうが、上三句の頭音が「ひ・ひ・は」結句のそれも「は」であることも響きを快くしている。
友則の歌は、当時の評価が高く、入集四十六首であるが、その特色は単純で清明な感じにあって、湿潤でないのが良い。

「音羽山 けさこえくれば ほととぎす 梢はるかに 今ぞ鳴くなる」
「秋ちかう 野はなりにけり 白露の おける草葉も 色変わりゆく」
「したにのみ 恋ふれば苦し 玉の緒の 絶えて乱れむ 人なとがめそ」

この三句とも、詠いかたが写実的で、平明で正直である。

「しづこころなく 花の散るらむ」の「らむ」が若い時はにはよくわからない。
「らむ」は本来、推量の助動詞だから、「静心」なく花が散るのだろう、とくると、ぜひともこれはその上に、「など」(なぜ)という言葉が入らないと理屈にあわない。

この歌は、『古今集』の心ともいうようなところがあり、それだけの『万葉集』派の人々からは、凡庸単純な作として排斥されてきた。

しかし歌というものは不思議なイキモノで心を閉ざした人が読んでも、その中へは、入ってきてくれないが、先入観を持たない自由な心の人が、こだわりなく親しむと、にわかに生き生きと起ち上がってきてくれる。

友則の視線は地を雪のように埋めつくす桜の花から次第にあがって、梢に移る。そのひまも、花は散り、友則の頭上にも肩にもふりかかる「花よ。なぜそのように、しづこころなく・・・」と、ふと友則の唇に「しづこころ」という言葉が浮かびあがってきたのではあるまいか。この歌の核心は「しづこころ」という言葉だと思う。

春の日の、もの悲しきアンニュイ。それを「しづこころ」という言葉で彼は凝縮させた。
そうなると、「など」は不要である。「らむ」は推量というよりも、むしろ吐息、詠嘆であろう。
「花の散るなり」としたら平板な叙述になって作者の美しき感傷は表現されない。
ここのところはやはり、「らむ」とその詠嘆を美しくぼかして暗示している。

その上にこの歌の秘密は、「ひさかたの」の「ひ」と「ひかりのどけき」の「ひ」と「はるのひに」の「は」とハ行音が重なって耳に快くひびくところである。本当に歌は理屈ではない、とつくづく思う。友則はベテラン歌人であるから「ハ」音を活用したのは彼の技巧であって、偶然の産物ではないであろう。

作者の紀友則は紀貫之の従兄弟。『古今集』の撰者の一人であったが、その完成を見ずに没したらしい。歌人としては有名だったが、下級役人であったからその生涯の詳しいことは不明で、貫之と比べると格段に資料が少ない。
<引用転載終了>ブログ[北極星は北の空から〜ブログの中に]より。 


【作者】

紀友則『古今集』歌人・宮内少輔紀有則の子。貫之の従兄弟。
大内記。寛平御時后宮歌合、是貞親王家歌合、寛平菊合わせに顔を出している。
『古今集』代表歌人、兼撰者の一人。
勅撰集入集歌四十六首。
四十代半ばまで無官のまま過ごし、寛平九年(897)、ようやく土佐掾の官職を得る。翌年、少内記となり、延喜四年(904)には大内記に任官。
歌人としては、寛平三年(891)秋以前の内裏菊合・是貞親王家歌合、同五年以前の寛平御時后宮歌合などに出詠して活躍した。延喜五年(905)二月二十一日、藤原定国の四十賀の屏風歌を詠んだのが、年月日の明らかな最終事蹟。
おそらくこの年、古今集撰者に任命されたが、まもなく病を得て死去したらしい。享年は五十余歳か。紀貫之・壬生忠岑がその死を悼んだ哀傷歌が古今集に見える。
古今集に収録された四十八首の数は貫之・躬恒に次ぎ集中第三位にあたる。
家集『友則集』がある。三十六歌仙の一人。


三木幸信・中川浩文共著書本・
<ブログ[北極星は北の空から〜ブログの中に] >・
<千人万首>等よりの転載あり。

「百人一首31〜40」書庫の記事一覧

閉じる コメント(2)

ニキタマの万葉集さんこんにちは。

いつものように「深読み」しています。

枕詞ひさかたのに引っかかりましたが、
「しづ心」に更に深い意味が!
「沈める心なく」とは、
「鎮魂せずに」ではないでしょうか。

2016/9/9(金) 午後 1:35 [ やまとねこ ]

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身分の高い彼氏?
最近来ないけど、心変わりしたんちゃうん?
私も浮気するよー?

的な唄では?

2019/6/25(火) 午後 11:42 [ hara-yumi ]


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