ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

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やすらはで 寝なましものを さ夜ふけて かたぶくまでの 月をみしかな 
赤染衛門

<中の関白 少将に侍りける時 はらからなる人に物いひわたり侍りけり たのめて来ざりける つとめて女にかはりてよめる 後拾遺集・恋二>

【歌意】
・・・・・・・・・・
おいでになるというお言葉さえなければ
ためらいもなく寝てしまいましたでしょうにね
西に傾く月を見るころまで
お待ちしたことですよ
・・・・・・・・・・

【語句・文法】

「たのめて来ざりける」来ると頼みに思わせて、来なかった。
「かたぶくまでの月」女の長い時間をかけた悲しい恨みをかってしまった少将のころの中の関白藤原道隆。
「はらからなる人」赤染衛門の同母姉妹。

*  やすらはで;
四段活用動詞「やすらふ」の未然形。ためらう、躊躇する意。
「で」は打消の接続助詞。
言ずけなど気にしないでさっさと寝てしまえばよかったのに。

*  寝なましものを;
「寝」は下二段活用動「寝(ぬ)」の連用形。
「な」は完了の助動詞「ぬ」の未然形。
「まし」は仮想推量助動詞「まし」の連体形。
「ものを」は逆接的な詠嘆の終助詞。

* さ夜ふけて かたぶくまでの 月をみしかな;
「さ夜」は夜。「さ」は接頭語。美化・畏敬・神聖、等の特別な意味づけ。
「ふけ」は下二段活用動「更く」の連用形。
「て」は接続助詞。完了の助動詞「つ」の連用形「て」の転。物事の起こる順序を表す。・・・て、それから・・・ 
「かたぶく」は動詞「かたぶく」の連体形で、月が西の山に傾く意。
「まで」は限度を示す副助詞。
「の」は連体修飾語を作る格助詞。
「を」は動作の対象を示す格助詞。
「み」は動詞連用形。
「し」は過去の助動詞「き」の連体形。
「かな」は詠嘆の終助詞。


【作者や背景】

赤染衛門;

大隈守赤染時用(ときもち)の娘で、父が右衛門尉(うえもんじょう)であったので赤染衛門と呼ぶ。
(実父は平兼盛だという)。
大江匡衡(おおえまさひら)と結婚した。
藤原道長の夫人倫子(りんし)に仕え、また、その娘中宮彰子にも出仕、和泉式部らとともにすぐれた歌人の一人に数えられる。
赤染の息子擧周(たかちか)は公に仕えた。
病を得て、症状は次第に悪化していったことがあった、
赤染は歌を詠んで御幣(みてぐら)として住吉明神に捧げた。

 かはらむと 思ふ命は 惜しからで さても別れむ ほどぞ悲しき
 
身代わりになりたいという母の思いが神に通じたか、息子の病はその夜のうちに癒えた。
この息子が官位を望んだとき、赤染は御堂関白の妻倫子に歌を贈った。

 思へ君 かしらの雪を うち払ひ 消えぬさきにと 急ぐ心を

「かしらの雪」は白髪のことであり、老いの母がせめて生きているうちに息子の出世を見とどけたいというのであった。
この歌が御堂(藤原道長)の目にとまり、息子は和泉守に任じられた。

赤染は妻としても夫の匡衡(まさひら)が稲荷の禰宜(ねぎ)の娘と浮気しているときつかわした歌がある。

 我が宿の 松はしるしも なかりけり 杉むらならば たづね來なまし

「松」は「待つ」に通じ「杉」は「過ぎ」に通じる。また杉は稲荷の神木でもあった。
戻った匡衡の言い訳の歌は

 人をまつ 山ぢわかれず 見えしかば 思ひまどふに ふみすぎにけり


【主な派生歌】

やすらはで 寝なまし月に 我なれて 心づからの 露の明ぼの  
(藤原定家)
やすらはで 寝なんものかは 山の端に いさよふ月を 花に待ちつつ  (藤原良経[続古今])
やすらはで 寝なましものを 梅の花 こぬ人の香に 匂はざりせば 
(土御門院小宰相)
人待たで 寝なましものを 梅の花 うたて匂ひの 夜はの春風  
(宗尊親王)
誰故か かたぶくまでの 月影に ねなまし人の 衣うつらん  
(源邦長[続千載])



【出典・引用・転載元】
<三木幸信・中川浩文共著書本>・
<ブログ[北極星は北の空から〜ブログの中に] >・
<千人万首>・
<小倉百人一首 注釈>・
<フリー引用句集『ウィキクォート(Wikiquote)>等から。

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