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<僧都光覚 維摩会(ゆいまゑ)の講師(かうじ)の講(こひ)を申しけるを たびたびもれにければ 法性寺入道前太政大臣に恨み申しけるを しめぢの原のと侍りけれど 又その年も洩れにければ よみてつかはしける 千載集・雑上> 【歌意】 あなたがお約束してくださいました
させも草についた恵みの露のような ありがたいお言葉を頼みにしておりましたのに ああ それもむなしく 今年の秋も過ぎていくようです 【語句・文法】 * ちぎりおきし; 約束しておいた・・・。主語は藤原忠道。
「し」は過去の助動詞「き」の連体形。
おくー露。させも草ー露。露ーいのちー秋。 は縁語。* させもが露を いのちにて;
「させもが露」は「させも草・・・・」との恵みの露のようなあなた(忠道)のお言葉。
* モグサ;ヨモギの枯葉を叩いたり、揉んだりしていると、枯葉は落ちて、毛状のものが残る。黒っぽい粉を工夫して取り除く。残ったこれがモグサ、お灸に使われる。 「させも」は忠道の歌「なほ頼めしめぢが原のさせも草わが世の中にあらむかぎりは」から引いた語で、「させも草」は「さしも草(もぐさ)」のこと。 「させも」はさせようの意、「させむ」の類を掛ける。 「が」は連体格。 「露」は草の縁語で、忠道の言葉を恵みの露にたとえる。 「おき」・草・露」は縁語。 「いのちにて」は生きる力としての異。 「いのち」は露の縁語。 「に」は断定の助動詞「なり」の連用形。 * あはれ今年の 秋もいぬめり;
「あはれ」は感動詞、ああ。
【参考歌】清水観音御歌「新古今集」「も」は強意の係助詞。 「いぬ」はナ変動詞終止形。 「めり」は婉曲推量の助動詞終止形。 なほ頼め しめぢが原の させも草 我が世の中に あらむかぎりは 【主な派生歌】 あはれことし 我が身の春も 末ぞとは しらで弥生の 花を見しかな (宗尊親王) 老が世は けふかあすかの 露の間を いそがしがほに 秋もいぬめり (三条西実隆) 朝日影 させもが露を 命にて かきねの霜に 残る虫の音 (松永貞徳) 【作者や背景】 藤原基俊 ふじわらのもととし 康平三〜永治二(1060-1142) 右大臣俊家の子。道長の曾孫にあたる。 母は高階順業女。 権大納言宗俊の弟、参議師兼・権大納言宗通の兄。 宮中の最勝会は特に「御斎会」といい、正月八日から十四日の七日間、護国の経典とされる「金光明最勝王経」を、諸宗の高僧に講説させる儀式で、国家安穏・五穀成就・天皇の息災延命を祈願する、宮廷年中行事中第一の法会である。 基俊は、(律師光覚は基俊の子)子の光覚を維摩会の講師にしたく、度々忠通に依頼していたが、その望みはかなえられていない。 (維摩会 興福寺の維摩経講読の法会。毎年陰暦十月に催された。 法性寺入道前太政大臣 藤原忠通。) 「なほ頼めしめぢが原のさせも草」と、あれほどはっきりお約束してくださったのに。「させも草」に置く露のようにあてにならないではありませんか。それでも私は命の綱と頼むしかないのです。ああ、こんなふうにして、今年の秋もむなしく過ぎてゆくようです。 * [契(ちぎ)り置きし] あなたが約束しておいてくれた。 作者が藤原忠通に対し、息子を維摩会の講師にしてほしいと頼んだのに対し、忠通が請け負ってくれたことを指す。 「置き」は「露」の縁語。 しめぢの原の 基俊の依頼に対し、忠通が「しめぢの原の」と答えたのである。清水観音の歌と伝わる「なほ頼めしめぢの原の…」(下記参考歌)を踏まえ、「まかせておきなさい」と請け合ったわけである。 名門の出身でありながら、官途には恵まれず、従五位上左衛門佐に終わった。
永保二年(1082)三月以前にその職を辞し、以後は散官。
この頃から藤原忠通に親近し、忠通主催の歌合に出詠したり判者を勤めたりするようになる。源俊頼と共に院政期歌壇の重鎮とされ、好敵手と目された。長治元年(1104)成立の堀河百首の作者の一人。 永久四年(1116)、雲居寺結縁経後宴歌合で判者をつとめる。 永保二年(一〇八二)二十三歳で左衛門佐を辞して、それ以後は叙爵がなく、 保延四年(一一三八)七十九歳で出家し、法名を覚舜とし、金吾入道と称し、また同年、当時二十五歳の藤原俊成を入門させている(『無名抄』)。 康治元年(一一四二)正月十六日八十三歳で没した。 性質が驕慢で、才学を恃んだ、身勝手な性格であったという。 家集『基俊集』がある。金葉集初出。 千載集では俊頼・俊成に次ぎ入集歌数第三位。勅撰入集105首。 万葉集次点者の一人。 古今集を尊重し、伝統的な詠風は、当時にあってむしろ異色の印象がある。 漢詩にもすぐれ、『新撰朗詠集』を編纂し、『本朝無題詩』に作を残す。 【出典・引用・転載元】
<三木幸信・中川浩文共著書本>・ <ブログ[北極星は北の空から〜ブログの中に] >・ <千人万首>・<Wikipedia>・ <小倉百人一首 注釈>・ <フリー引用句集『ウィキクォート(Wikiquote)>等から。 |
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