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<歌合し侍りけるとき 恋の歌とてよめる 千載集・恋四>
【歌意】・・・・・・・・・・
見せたいものよ私の袖を 雄島の海女の袖も濡れるでしょうが それさえ色が変わることはないのに 私の袖は涙でびしょ濡れになったばかりか 血の涙で色が変わってしまったのを ・・・・・・・・・・ 【語句・文法】 * 見せばやな;(魅せたい意)
「見せ」は下二段活用動詞「見す」の未然形。
初句切。「ばや」は願望の終助詞。 「な」は詠嘆の終助詞。 * 雄島の海人の 袖だにも;
「雄島」は宮城県松島湾内の島の一つで、本歌取りのために用いている。
* ぬれにぞぬれし 色はかはらず; 「雄島」は 陸奥国の歌枕。 「の」はともに連体修飾語をつくる格助詞。 「あま」は漁夫。 「だに」は軽いものを挙げて、重いものを類推強調させる副助詞。 袖でさえも。 「も」は強意の係り助詞。
「ぬれ」は下二段活用動詞「ぬる」の連用形。
濡れた上にもさらに濡れた。「に」は同じ動詞を重ねた間に用いて意味を強める格助詞。
「ぞ」は強意の係り助詞で、
結びは過去の助動詞「き」の連体形「し」。
「は」は係助詞。
文法上は四句目も切れているが、連体形で「かわら」は動詞未然形。 「ず」は打消の助動詞終止形。
・・・だが、と意味を続ける。
第三句は第四句を飛び越して「色はかはらず」に掛かっている。海女の袖は濡れても色までは変わらなかったが、わたしの袖は血の涙で色が変わってしまった・・・。 花もまた わかれん春は 思ひ出でよ 咲きちるたびの 心づくしを 『新古今和歌集』。詞書は「花歌とて詠める」 あすしらぬ 命をぞ思ふ おのづから あらば逢ふよを 待つにつけても 『新古今和歌集』 なほざりの 空だのめとて 待ちし夜の くるしかりしぞ 今は恋しき 『千載和歌集』 【主な派生歌】 心ある 雄島のあまの たもと哉 月宿れとは ぬれぬ物から
(宮内卿)
秋の夜の 月やをじまの あまの原 明方ちかき 沖の釣舟
(藤原家隆朝臣)
行く年を 小島のあまの ぬれ衣 かさねて袖に 浪やかくらん
(有家 朝臣)
立ちかへり 叉もきてみん 松嶋や をじまのとまや 浪にあらすな
(皇后宮大夫俊成)
松がねの をじまがいその さ夜枕 いたくなぬれそ あまの袖かは
(式子内親王)
松島や 雄島のあまに 尋ねみん 濡れては袖の 色やかはると (藤原知家[続千載]) 限りあれば 五月の田子の 袖だにも 降り立たぬより かくはしぼらじ (小倉公雄[続千載]) 思ひやれ なれたる海士の 袖だにも 波のうき寝は ぬるる習ひを
(藤原忠基[新拾遺])
夕かけて 帰る小島の あま衣 ぬれにぞぬれし 月やどれとは
(藤原苫雄)
【作者や背景】歌枕 陸奥(雄島) http://www.mgu.ac.jp/~sawai/96D27page.html http://www2u.biglobe.ne.jp/~gln/88/8801/880143frame.htm 雄島は宮城県松島の一島、というが、歌枕としてよく使われている。 彼女が旅してみたわけではないのかもしれない。 この人は、恋の歌を作らせると、時として激越で感覚がするどい。 人知れぬ悲恋を経験した女性だったのかもしれない。 なにかいとふ よも長らへじ さのみやは 憂きにたへたる 命なるべき (あなた、どうしてそう、あたしを嫌うの?あたし、とても長くは生きていないでしょうよ、だっていつまでもこんな辛さに堪えていられないんだもの) さながら閨怨のためいきを耳もとで聞くようである。 古来歌の伝統では、恋や哀傷に心を破られると、血の涙が流れることになっている。 この歌は袖の色を強調するため、「見せばやな」と強く歌い出しているところが面白い。 【本歌】源重之「後拾遺集」 松島や 雄島の磯に あさりせし あまの袖こそ かくは濡れしか 本歌より誇張があって、より技巧的である。 【作者や背景】 殷富門院大輔 いんぷもんいんのたいふ 生没年未詳 (1130頃-1200頃) 藤原北家出身。三条右大臣定方の末裔。散位従五位下藤原信成の娘。 母は菅原在良の娘。小侍従は母方の従姉にあたる。 若くして後白河天皇の第一皇女、亮子内親王(のちの殷富門院(安徳天皇・後鳥羽天皇の准母)に仕える。 建久三年(1192)、殷富門院の落飾に従い出家したらしい 彼女の仕えた殷富門院(いんぷもんいん)は後白河天皇の皇女亮子(りょうし)内親王のことで、かの、式子内親王の姉君である。 伊勢の斎宮となり、のちに安徳・後鳥羽両帝の准母として院号を宣下され、殷富門院と称せられるようになった。 この門院、女院という称号は、皇族女性の誰にでも与えられるものでないのは、無論である。天皇の生母であるとかそれに準ずる准母、三后、内親王などに、朝廷から与えられるもので、門院となられると待遇が違う、すべて上皇に準じ、院司が設けられる。お手当ても昇級して経済的にも安定する。 【出典・引用・転載元】
<三木幸信・中川浩文共著書本>・ <ブログ[北極星は北の空から〜ブログの中に] >・ <千人万首>・<Wikipedia>・ <小倉百人一首 注釈>・ <フリー引用句集『ウィキクォート(Wikiquote)>等から。 |
百人一首81〜90
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