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<百首の歌奉りしとき 新古今集・巻五・秋下> 【歌意】 ・・・・・・・・・・
こおろぎがあわれに鳴いている 霜の降りた夜の寒々とした敷物に 着たままの着物の片袖を敷いて 一人寝るのであろうか 人恋しいことであるよ ・・・・・・・・・・ 【語句・文法】 * きりぎりす; 現在でいうコオロギ。 鳴き声が「キリキリ」あるいは「チリチリ」と聞きなされるカマドコオロギを指したと思われる。寒くなると人家に入り、竈のそばで越冬する習性があったのでこの名がある。因みに今言うキリギリスは昔は機織(はたおり)と呼ばれた。 * 鳴くや霜夜の さむしろに;
「鳴く」は動詞連体形。
* 衣かたしき ひとりかも寝む;「や」は詠嘆と語調を整える間投助詞。 「霜夜」は霜の降りた寒い夜。 「の」は連体修飾語を作る格助詞。 「さむしろ」は、藁などで編んだ粗末なむしろなどの敷物。 「さむ〜」と「寒し」の掛詞。 「に」は場所を示す格助詞。
「衣かたしき」は丸寝(帯を解かず着衣のままごろ寝すること)して、着物の片袖を敷いて寝る様子をいう。
【作者や背景】「かたしき」は四段活用動詞「かたしく」の連用形。 「ひとり」は女性と一緒ではないこと。 「か」は疑問の係り助詞で、結びは推量の助動詞「む」の連体形。 「も」は感動・強意の係り助詞 「寝」は下二段活用動詞「ぬ」の未然形。 さむしろに 衣かたしき 今宵もや 恋しき人に あはでのみ寝む (伊勢物語六三段) あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む (柿本人麻呂) 上記二首の本歌をふまえたもので、作者の観念的な構成によるものである。 後鳥羽院の正治二年(1200)初度御百首の際の歌。 この歌の着想には、先行歌が見られる。『万葉集』巻十に、 「わが恋ふる 妹に逢はずて 玉の浦に 衣かたしき ひとりかも寝む」 万葉の歌は寂しいといっても、どこか明朗さを失わない。 率直に妹に逢わないでといい「玉の浦で」という。 明るいひびきはそこからくる。 後京極摂政の歌はそうではない。 中世的に対象化されている。 こおろぎの鳴く霜夜のむしろ敷きで落魄の嘆きを恋にあわせて詠んでいるのである。 この作者は颯爽たる才人の貴公子である。 藤原良経、名門の御曹司(関白九条兼実の子)で年若くして太政大臣になった。 鳥羽天皇の信任もあつく『新古今集』の撰者の一人でもあった。 後京極摂政太政大臣(1169〜1204)関藤原良経。 和歌所寄人として『新古今集』を撰上、そのかな序を書く。 六百番歌合せを開くなど定家を助け新風を育てた。 家集に『秋篠月清集』がある。 勅撰集入集歌三百十首。 歌を早くから俊成に学んでそのほか漢詩文や書もよくするという、当代きっての文化人であった。 早春の歌で「余寒のこころを」という詞書の 空はなお かすみもやらず 風寒えて 雪げにくもる 春の夜の月 いかにも寒げであって、ひとすじ、清らかな詩情がある ところでこの歌には伝統的な古歌の投影がある。 これを読む人は、常識としてその古歌を知っていないといけないことになる。昔の歌詠み、ならびに一般教養人としては、初歩的な常識だったようである。 良経のこの歌は『古今集』の 「さむしろに 衣かたしき 今宵もや われを待つれむ 宇治の橋姫」 あるいは『万葉集』の 「吾が恋ふる 妹は逢はずて 玉の浦に 衣かたしき ひとりかも寝む」 などから「本歌取り」されているという。 古い時代の名歌の一部をどこかにとりこんで、歌を作るやり方が王朝末期、おこなわれた。それを本歌取りというが、そのころの人は、教養として、古来の名歌はたいてい知っているので、良経が「きりぎりす・・・」の歌を作ったとき、「ああ、あの歌を本歌としているな」とすぐに悟るわけである。 そうすると、良経の歌の背後に古歌の光彩が射し、歌は微妙に色合いを変えて趣きふかく、面白くなる、そこにユニークな美が生まれ新しい感性が触発される。中でも定家はこの技巧が巧い人でもあった。 「きりぎりす・・・」の歌は秋の歌となっているが、本歌は恋のうたである。 本歌を思い出したとたん、歌の風趣が艶な色合いを帯びて顕つ。 寒さを愚痴っているだけではない。恋人と逢えぬ嘆きの訴えがある。 とわかるのである。 その千変万化する色の変わり目を楽しむというのが本歌取りの技巧であるが、現代の我々から見ると中々手がこんでわずらわしい。 ところでこの良経という人は、位、人臣をきわめていたけれど、最後は不幸だった。 建永元年(1206)三月のある夜、寝所で何者かに天井から槍で刺し殺されたという。 『新古今集』にかかわる恨みというが『百人一首夕話』には「伝説ふんうんとしてそのたしかなるを得ず」とある。 【主な派生歌】 ふけぬるか友なし千鳥をちかへりなくや霜夜の床の浦風(慶雲) 【出典・引用・転載元】
<三木幸信・中川浩文共著書本>・ <ブログ[北極星は北の空から〜ブログの中に] >・ <千人万首>・<Wikipedia>・ <小倉百人一首 注釈>・ <フリー引用句集『ウィキクォート(Wikiquote)>等から。 |
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こんばんは。
まるで自分の様です。
この様な夜を何度も味わってます。
2015/8/28(金) 午後 8:00 [ 出すぎる杭は叩かれない ]
> 出すぎる杭は叩かれないさん
こんばんは。
「闇のうつつ」としてみれば、それは何処にでも現れるものですねえ。
2015/8/28(金) 午後 8:25 [ ニキタマの万葉集 ]