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4142 天平勝宝2年3月2日,作者:大伴家持,望郷,高岡 [題詞]二日攀柳黛思京師歌一首 春日尓 張流柳乎 取持而 見者京之 大路所<念> はるのひに はれるやなぎを とりもちて みればみやこの おほちしおもほゆ ・・・・・・・・・・・・
春の日差しにふっくらと芽吹いた 柳の枝を手折り つくづく見れば 京の大路の賑わいが思い出されることだ ・・・・・・・・・・・・ 「柳黛」「張れる柳」は、平城京柳並木の朱雀大路行き交う都の女たちの美しい眉目、姿を掛けている。 4143 天平勝宝2年3月2日,作者:大伴家持,高岡,枕詞 [題詞]攀折堅香子草花歌一首(花をよじ折る歌) 物部<乃> 八<十>○嬬等之 ○乱 寺井之於乃 堅香子之花 [もののふの] やそをとめらが くみまがふ てらゐのうへの かたかごのはな ・・・・・・・・・・・・
大勢の乙女たちが水を汲み華やぐ その寺の井の畔には 片栗の花がひっそりと咲いている ・・・・・・・・・・・・ 4144 天平勝宝2年3月2日,作者:大伴家持,高岡 [題詞]見歸鴈歌二首 燕来 時尓成奴等 鴈之鳴者 本郷思都追 雲隠喧 つばめくる ときになりぬと かりがねは くにしのひつつ くもがくりなく ・・・・・・・・・・・
燕が来る季節になったと 雁は故郷を偲びながら 雲に隠れて鳴き渡って行く ・・・・・・・・・・・ 4145 天平勝宝2年3月2日,作者:大伴家持,推敲,帰雁,高岡 [題詞](見歸鴈歌二首) 春設而 如此歸等母 秋風尓 黄葉山乎 不<超>来有米也 [一云 春去者 歸此鴈] はるまけて かくかへるとも あきかぜに もみたむやまを こえこざらめや[はるされば かへるこのかり] ・・・・・・・・・・・
春になって こうして故里に帰って行く雁だけれども 秋風が吹き山が黄葉したら 再び越えて戻って来ないわけがあろうか ・・・・・・・・・・・ * 「春まけて」春かたまけて とも。 古語「かたまく」は、時を待ち受ける、または、時が近づく、時になる、の意がある。 19 4146;作者:大伴家持、懐古,望郷,高岡 [題詞]夜裏聞千鳥<喧>歌二首 夜具多知尓 寐覺而居者 河瀬尋 情<毛>之<努>尓 鳴知等理賀毛 よぐたちに ねざめてをれば かはせとめ こころもしのに なくちどりかも 夜中に目覚めていると
川の浅瀬をたずねて 心が萎れるほどかなしげな 千鳥の鳴き声を聞くことだなあ * 「夜ぐたち」夜がふけること。また、その時刻。夜ふけ。 * 「尋め」マ行下二段活用の動詞「尋む」の連用形、あるいは連用形が名詞化したもの。 * 「かも」終助詞〔感動・詠嘆〕…ことよ。…だなあ。 19 4147;作者:大伴家持、懐古,高岡 [題詞](夜裏聞千鳥<喧>歌二首) 夜降而 鳴河波知登里 宇倍之許曽 昔人母 之<努>比来尓家礼 よくたちて なくかはちどり うべしこそ むかしのひとも しのひきにけれ 夜半も過ぎて
川千鳥の鳴く声が聞こえる なるほど もっともなことだ 昔の人も鳴き声を慕って 歌にも残している 淡海の海 夕浪千鳥 汝が鳴けば 心もしのに 古思ほゆ (柿本人麻呂03/0266) ぬばたまの 夜のふけぬれば 久木生ふる 清き河原に 千鳥しば鳴く (山部赤人06/0925) 19 4148;作者:大伴家持、 [題詞]聞暁鳴雉歌二首 椙野尓 左乎騰流雉 灼然 啼尓之毛将哭 己母利豆麻可母 すぎののに さをどるきぎし いちしろく ねにしもなかむ こもりづまかも 杉の野に踊る雉は
なぜあんなに大声で鳴くのだろう どこかにいる隠り妻が それほど恋しいからか ☆ 動くだけでも目立つのに、なぜそんなにも大声で鳴くのか。危険は感じないのか。そうしないではいられない「私」を映しているようではないか。 19 4149;作者:大伴家持、叙景,枕詞 [題詞](聞暁鳴雉歌二首) 足引之 八峯之雉 鳴響 朝開之霞 見者可奈之母 [あしひきの] やつをのきぎし なきとよむ あさけのかすみ みればかなしも はるか峯々にこだまする
雉の声の籠もる朝焼けの霞 見ればなぜか切ない [題詞]遥聞泝江船人之唱歌一首 朝床尓 聞者遥之 射水河 朝己藝思都追 唱船人 あさとこに きけばはるけし いみづかは あさこぎしつつ うたふふなびと 朝の寝床でまどろんでいると
遥かかなたから聞こえてくるのは 射水川を漕ぎながら唄う 船人の声だなあ 以上、19/4142「柳黛を攀ぢて京師を思ふ歌」から19/4150までの九首は、三月二日の昼から翌朝明け方にかけての連作。
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万葉集索引第十九巻
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