ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

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<再掲載>


596;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、掛詞

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)


八百日徃  濱之沙毛  吾戀二  豈不益歟  奥嶋守

八百日行く 浜の真砂も 我が恋に あにまさらじか 沖つ島守 

やほかゆく はまのまなごも あがこひに あにまさらじか おきつしまもり
・・・・・・・・・・・・
歩き尽くすのに八百日もかかるような長い長い浜―

そんな浜の真砂(まさご)を全部合わせたって

私の恋心の果てしなさには敵いますまい

そうでしょう

沖の島の島守さん
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
吉田金彦氏が指摘している通り、「八百日ゆく浜」は、越中か能登のどこかの海岸を言っていると思えます。

「沖つ島」は、能登半島沖の舳倉島(へくらじま)のことで、「沖つ島守」が越中守家持を暗示していることは、明らかでしょう。

因みに家持には越中時代に詠んだ次のような歌があります。

 越の海の 信濃の浜を ゆき暮らし 長き春日も 忘れて思へや
 (17-4020)

この歌など、笠女郎に応答したような気がしなくもありません。

普通、「忘れて思へや」は都の家族のことを言うと解釈されているのですが、遥々都から訪ねてくる旨手紙を寄越した、恋人への思いだったのかも知れません。 <意訳・解説は<笠女郎の歌二十四首>家持と人々 女たち(4)水垣 久著>より記事抜粋転載。
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* 「八百日」は「何日も」の意。
* 「島守」は「島を守る人。島の番人」のこと。
* 「あに」は副詞で下に係助詞・反語「か」を伴って「どうして」の意。
* 「じ」は打消推量の助動詞で「〜ないだろう。〜まい」。
2301 秋相聞

[題詞]寄夜

忍咲八師  不戀登為跡  金風之  寒吹夜者  君乎之曽念

よしゑやし 恋ひじとすれど 秋風の 寒く吹く夜は 君をしぞ思ふ 

よしゑやし こひじとすれど あきかぜの さむくふくよは きみをしぞおもふ
・・・・・・・・
いいわよ 恋なんかもうしないと思うけれど

秋風が寒く吹く夜は淋しくて

またあなたのことを思ってしまう
・・・・・・・・
* 「よしゑやし」は、「ええままよ」、「もういいわよ」など相手を許すような気持。




2302 秋相聞

[題詞](寄夜)

<或>者之  痛情無跡  将念  秋之長夜乎  <寤><臥>耳

ある人の あな心なと 思ふらむ 秋の長夜を 寝覚め臥すのみ 

あるひとの あなこころなと おもふらむ あきのながよを ねざめふすのみ
・・・・・・・・
夜が明けるのを

ああ心なしと思う人もあろうが

このわたしは

秋の長い夜を独り淋しく

寝覚めながら

ただ臥しているだけでした
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2303 秋相聞

[題詞](寄夜)

秋夜乎  長跡雖言  積西  戀盡者  短有家里

秋の夜を 長しと言へど 積もりにし 恋を尽せば 短くありけり 

あきのよを ながしといへど つもりにし こひをつくせば みじかくありけり
・・・・・・・・
秋の夜は長いものと人は言うけれど

積もり積もった恋を尽せば
 
今はなんとも短い秋の夜ですことよ
・・・・・・・・



2304 秋相聞

[題詞]寄衣

秋都葉尓  々寶敝流衣  吾者不服  於君奉者  夜毛著金

秋つ葉に にほへる衣 我れは着じ 君に奉らば 夜も着るがね 

あきつはに にほへるころも あれはきじ きみにまつらば よるもきるがね
・・・・・・・・
秋の黄葉のこの匂い立つ色の衣を

わたしは自分では着ない

君に差し上げたら

夜も肌につけていてくださるにちがいないから
・・・・・・・・
* 「がね」[接助・終助・接尾] 《上代語》動詞の連体形に付く。願望・命令・意志などの表現を受けて、目的・理由を表す。…するように。…するために。
* 「奉仕を献上する」という意味での「まつりごと」。




2305 秋相聞,うわさ

[題詞]問答

旅尚  襟解物乎  事繁三  丸宿吾為  長此夜

旅にすら 紐解くものを 言繁み まろ寝ぞ我がする 長きこの夜を 

たびにすら ひもとくものを ことしげみ まろねぞわがする ながきこのよを
・・・・・・・・
旅先ですら紐を解いて共寝をするのに

人の噂がうるさかろうと紐も解かないで

この秋の夜長を独り侘びしく

着たまま丸寝をしていますよ  
・・・・・・・・



2306 秋相聞

[題詞](問答)

四具礼零  暁月夜  紐不解  戀君跡  居益物

しぐれ降る 暁月夜 紐解かず 恋ふらむ君と 居らましものを 

しぐれふる あかときづくよ ひもとかず こふらむきみと をらましものを
・・・・・・・・
しぐれ降る暁近いこんな月夜に

人の噂がうるさいから紐も解かず

わたしに焦がれていらっしゃるという

ほんとうかしら

こんな時にこそそばに居てほしいのに
・・・・・・・・



2307 秋相聞

[題詞](問答)

於黄葉  置白露之  色葉二毛  不出跡念者  事之繁家口

黄葉に 置く白露の 色端にも 出でじと思へば 言の繁けく 

もみちばに おくしらつゆの いろはにも いでじとおもへば ことのしげけく
・・・・・・・・
黄葉に白露が置けば色がいっそう映えるように

思いを顔に出さないようにと思っていても

この恋心が人々の噂となってしまって
 
何ともやかましいことだ 
・・・・・・・・



2308 秋相聞

[題詞](問答)

雨零者  瀧都山川  於石觸  君之摧  情者不持

雨降れば たぎつ山川 岩に触れ 君が砕かむ 心は持たじ 

[あめふれば たぎつやまがは いはにふれ] きみがくだかむ こころはもたじ
・・・・・・・・
雨が降れば激り流れる山川が岩に砕けるように

人の噂で君の心を砕かないように我慢しているんだよ
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2309 秋相聞,比喩

[題詞]譬喩歌

祝部等之  齊經社之  黄葉毛  標縄越而  落云物乎

祝らが 斎ふ社の 黄葉も 標縄越えて 散るといふものを 

はふりらが いはふやしろの もみちばも しめなはこえて ちるといふものを
・・・・・・・・
神官らが祀る社の黄葉さえも標縄を越えて散るというのに

親の目がそんなにきびしいのかなあ
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* 祝(はふり)は、神に奉仕し祭儀などをおこなう神官。
* 祝(はふり)は、思う娘の「親」と掛けている。



2310 秋相聞

[題詞]旋頭歌

蟋蟀之  吾床隔尓  鳴乍本名  起居管  君尓戀尓  宿不勝尓

こほろぎの 我が床の辺に 鳴きつつもとな 置き居つつ 君に恋ふるに 寐ねかてなくに 

こほろぎの あがとこのへに なきつつもとな おきゐつつ きみにこふるに いねかてなくに
・・・・・・・・
私の寝室の近くでしきりにこうろぎが鳴いてうるさい

君恋しと待ちかねながら寝ようにも寝付かれないでいるのに

これでは君の気配も聞こえはしない
・・・・・・・・
* 「もと‐な」 1 わけもなく。みだりに。 2 しきりに。むやみに。



2311 秋相聞

[題詞](旋頭歌)

皮為酢寸  穂庭開不出  戀乎吾為  玉蜻  直一目耳  視之人故尓

はだすすき 穂には咲き出ぬ 恋をぞ我がする 玉かぎる ただ一目のみ 見し人ゆゑに 

[はだすすき] ほにはさきでぬ こひをぞあがする [たまかぎる] ただひとめのみ みしひとゆゑに

・・・・・・・・
ひそかな恋を私はしています

ただ一度だけお会いした方なのに
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* 「はだすすき」は、「花すすき」のことで、穂が出始めたばかりのすすき(尾花のこと)のこと。


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