ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

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3 481;挽歌,作者:高橋,古老,老麻呂,亡妻挽歌

[題詞]悲傷死妻高橋朝臣作歌一首[并短歌]
(死んだ妻を悲しんで、高橋朝臣が作った歌一首)

[左注](右三首七月廿日高橋朝臣作歌也 名字未審 但云奉膳之男子焉)

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[原文]ー[訓読]ー[仮名]ー 大意
白細之ー白栲のーしろたへのー 白妙の
袖指可倍弖ー袖さし交へてーそでさしかへてー袖を交わし
靡寐ー靡き寝しーなびきねしー 寄り添って寝て
吾黒髪乃ー我が黒髪のーわがくろかみのーわが黒髪が
真白髪尓ーま白髪にーましらかにー白髪
成極ーなりなむ極みーなりなむきはみーになる時までも
新世尓ー新世にーあらたよにー新鮮な間柄で
共将有跡ーともにあらむとーともにいようと
玉緒乃ー玉の緒のー[たまのをの]ー[玉の緒のように]
不絶射妹跡ー絶えじい妹とーたえじいいもとー仲の絶えることはないと
結而石ー結びてしーむすびてしー誓ったのに
事者不果ーことは果たさずーことははたさずーその言葉を果たさず
思有之ー思へりしーおもへりしー思いを
心者不遂ー心は遂げずーこころはとげずー遂げることもなく
白妙之ー白栲のー[しろたへの]
手本矣別ー手本を別れーたもとをわかれーわが腕から離れ、
丹杵火尓之ーにきびにしー馴染んだ
家従裳出而ー家ゆも出でてーいへゆもいでてー家からも出て
緑兒乃ーみどり子のーみどりこのー幼子が
哭乎毛置而ー泣くをも置きてーなくをもおきてー泣くのも置き去り
朝霧ー朝霧のー[あさぎりの]
髣髴為乍ーおほになりつつー[朝霧のように]おぼろになりつつ
山代乃ー山背のーやましろのー山城の
相樂山乃ー相楽山のーさがらかやまのー相楽山の
山際ー山の際にーやまのまにー 山辺りに
徃過奴礼婆ー行き過ぎぬればーゆきすぎぬればー行き過ぎ姿を消してしまった
将云為便ー言はむすべーいはむすべーいいようもなく
将為便不知ー為むすべ知らにーせむすべしらにーなす術も知らず、
吾妹子跡ー我妹子とーわぎもことー妻と
左宿之妻屋尓ーさ寝し妻屋にーさねしつまやにー共寝した妻屋で
朝庭ー朝にはーあしたにはー朝には
出立偲ー出で立ち偲ひーいでたちしのひー外に立って妻を偲び
夕尓波ー夕にはーゆふへにはー夜には
入居嘆<會>ー入り居嘆かひーいりゐなげかひー 中で座り込んで嘆き
腋<挾>ー脇ばさむーわきばさむー小脇に抱える
兒乃泣<毎> ー子の泣くごとにーこのなくごとにー子が泣くたびに
雄自毛能ー男じものーをとこじものー男らしくもなく
負見抱見ー負ひみ抱きみーおひみむだきみーおんぶしたり抱っこしたり
朝鳥之ー朝鳥のー「あさとりの」
啼耳哭管ー哭のみ泣きつつーねのみなきつつー[朝鳥のように]声をあげて泣きながら
雖戀ー恋ふれどもーこふれどもー妻を恋い求めるのだが
効矣無跡ー験をなみとーしるしをなみとー甲斐もない
辞不問ー言とはぬーこととはぬー物言わぬ
物尓波在跡ーものにはあれどーものではあるけれど
吾妹子之ー我妹子がーわぎもこがー妻が
入尓之山乎ー入りにし山をーいりにしやまをー入ってしまった山を
因鹿跡叙念ーよすかとぞ思ふーよすかとぞおもふー実を託し心を寄せるよすがと思う
・・・・・・・・・・


3 482;挽歌,作者:高橋,古老,老麻呂,亡妻挽歌

[題詞](悲傷死妻高橋朝臣作歌一首[并短歌])反歌

[左注](右三首七月廿日高橋朝臣作歌也 名字未審 但云奉膳之男子焉)

打背見乃 世之事尓在者 外尓見之 山矣耶今者 因香跡思波牟

うつせみの 世のことにあれば 外に見し 山をや今は よすかと思はむ

うつせみの よのことにあれば よそにみし やまをやいまは よすかとおもはむ

・・・・・・・・・・・
死はいづれ来る世のさだめと
よそごとに思っていたが
(妻が亡くなってしまった)
せめて見慣れたあの山を
今よりは
生きる心の拠り所と思うだろう
・・・・・・・・・・・

* うつせみの 枕詞。 
(まくらことば)は、主に和歌に見られる修辞で、特定の語の前にあって語調を 整えたり、ある種の情緒を添える言葉のこと。
発祥としては、例えば地名は古人にとって地霊を呼び起こす畏るべきことばであり、畏敬の心が直接的に云わない風習を作り、それらが枕詞を生んだと思われる。
 「現身の」は、世、代、人、命, などに掛かる。 現身(うつせみ)は、「この世の」の意。
 
* 世のことにあれば 
 「世」 天下周知の意の「世」=人間世界・自然。
 「の」は修飾句内の主語表示の格助詞。
 「こと」世の中に起こる、自然または人事の現象。事柄。出来事。特に「死」は「生」にとって避けられない定め。
 「に」[格助詞] [原因・理由] 〜によって・〜により〔接続〕体言、連体形につく
 「あ・れ・ば」 自動詞ラ行変格活用。語幹〈あ〉生きている、(住む。暮らす。生活する)
「あれ」は「あり」の已然形。…の状態にある。
補助動詞ラ行変格活用{ら/り/り/る/れ/れ}

接続助詞「ば」が已然形に接続した場合の恒常的条件(=その事柄があると、いつもきまってある事柄がおこること)を表し、原因・理由を表している。

* 外に見し 
 「外」名詞 よそごと。別世界も物事。
 「に」は場所を表す格助詞。
 「見・し」動詞「みる」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。 見ていた。
* 山をや今は
 「山」 古文では「家」に関わる見慣れた「築山」を云うこともある。また「墓所」の暗喩もある。単に普段見慣れた「山」との解釈もできる。
 「を・や」連語 …を…か。格助詞「を」+係助詞「や」。「や」を受ける文末の活用語は、連体形になる。
 「今・は」[係助詞] [とりたて・題目]〜は  今となっては。過去と未来との境になる時。現在。
* よすかとおもはむ
 「よすか」心の頼りにする。「寄す処(よすか)」
 「と」 [格助詞]  [引用・比喩] 〜として。 体言につく 。
 「おもはむ」おも・ふ 【思ふ】他動詞ハ行四段活用{は/ひ/ふ/ふ/へ/へ}
感じる。考える。願う。
回想する。懐かしむ。
恋しく思う。
も・ふ 【思ふ】他動詞ハ行四段活用{は/ひ/ふ/ふ/へ/へ}思う。
 「思は・む」む[助動詞・む] [推量(意志)・連体形] 〜よう・〜つもりだ 未然形につく。



3 483;挽歌,作者:高橋,古老,老麻呂,亡妻挽歌

[題詞]((悲傷死妻高橋朝臣作歌一首[并短歌])反歌)

[左注]右三首七月廿日高橋朝臣作歌也 名字未審 但云奉膳之男子焉

朝鳥之 啼耳鳴六 吾妹子尓 今亦更 逢因矣無

朝鳥の 哭のみし泣かむ 我妹子に 今またさらに 逢ふよしをなみ

[あさとりの] ねのみしなかゆ わぎもこに いままたさらに あふよしをなみ

・・・・・・・・・・・
[朝に鳴く鳥のように]
声を上げて泣いてしまうよ
妻にこの先再び逢う術もない
・・・・・・・・・・・

* 朝鳥の 
 「朝鳥の」朝、鳥が巣から飛び立ち、鳴くことから「朝立つ」「通ふ」「音(ね)泣く」にかかる。
* 「哭のみし泣かむ」 
 声を上げて泣いてしまうよ
* 「我妹子に」 
 妻に
* 「今またさらに」 
 にこの先再び
* 「逢ふよしをなみ」
 逢う術もない

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