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2016年05月11日
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挽歌 3324 奈良,皇子挽歌,献呈挽歌,枕詞 [題詞]挽歌 ・・・・・・・・・・・
<挂>纒毛ーかけまくもー心に思うのさえ 文恐ーあやに畏しーあやにかしこしー畏れおおいが あえて言葉にして申しあげます 藤原ー藤原のーふぢはらのー藤原の 王都志弥美尓ー都しみみにーみやこしみみにー都には 人下ー人はしもーひとはしもー人は 満雖有ー満ちてあれどもーみちてあれどもー満ちあふれて 君下ー君はしもーきみはしもー君と呼ばれる人は 大座常ー多くいませどーおほくいませどー多くおられるが 徃向ー行き向ふーゆきむかふー廻り来る <年>緒長ー年の緒長くーとしのをながくー長い年月 仕来ー仕へ来しーつかへこしー仕え来た 君之御門乎ー君の御門をーきみのみかどをーわが君の御殿 如天ー天のごとーあめのごとー天のように 仰而見乍ー仰ぎて見つつーあふぎてみつつー仰ぎて見ながら 雖畏ー畏けどーかしこけどー畏れおおくも 思憑而ー思ひ頼みてーおもひたのみてー行く末を頼みに思い 何時可聞ーいつしかもー一刻も早く 日足座而ー日足らしましてーひたらしましてー立派に天皇になられて 十五月之ー望月のーもちづきのー満月のように 多田波思家武登ー満しけむとーたたはしけむとー満ち足りてほしいと 吾思ー吾が思へるーわがもへるーわが思いに思ってきた 皇子命者ー皇子の命はーみこのみことはーその皇子のみことは 春避者ー春さればーはるさればー春になれば 殖槻於之ー植槻が上のーうゑつきがうへのー植槻の岡のほとりの 遠人ー遠つ人ー[とほつひと]ー 待之下道湯ー松の下道ゆーまつのしたぢゆー松林の下道を 登之而ー登らしてーのぼらしてー登って 國見所遊ー国見遊ばしーくにみあそばしー国見をなさり 九月之ー九月のーながつきのー九月の 四具礼<乃>秋者ーしぐれの秋はーしぐれのあきはー時雨れ降る秋には 大殿之ー大殿のーおほとののー御殿の 砌志美弥尓ー砌しみみにーみぎりしみみにー石畳いっばいに 露負而ー露負ひてーつゆおひてー露を受けて 靡<芽>乎ー靡ける萩をーなびけるはぎをー靡いている萩を 珠<手>次ー玉たすきー[たまたすき]ー 懸而所偲ー懸けて偲はしーかけてしのはしーしみじみと愛でられ 三雪零ーみ雪降るーみゆきふるー雪降る 冬朝者ー冬の朝はーふゆのあしたはー冬の朝には 刺楊ー刺し柳ーさしやなぎー刺し柳の 根張梓矣ー根張り梓をーねはりあづさをー根がぴんと張ったような梓弓を 御手二ー大御手にーおほみてにー御手に 所取賜而ー取らし賜ひてーとらしたまひてー取って 所遊ー遊ばししーあそばししー猟りをなさった 我王矣ー我が大君をーわがおほきみをーわが頼りとする大君は 烟立ー霞立つー[かすみたつ]ー霞立つ 春日暮ー春の日暮らしーはるのひくらしー春の日を見暮らしても 喚犬追馬鏡ーまそ鏡ー[まそかがみ]ー 雖見不飽者ー見れど飽かねばーみれどあかねばー見飽きぬほど立派だった 万歳ー万代にーよろづよにーいついつまでも 如是霜欲得常ーかくしもがもとーかくあれかしと願い 大船之ー大船のー[おほぶねの]ー 憑有時尓ー頼める時にーたのめるときにー頼みにしてきたのに 涙言ー泣く我れーなくわれーあまりの知らせに泣きはらすわれ 目鴨迷ー目かも迷へるーめかもまとへるーわが目が狂ったかと 大殿矣ー大殿をーおほとのをー御殿を 振放見者ー振り放け見ればーふりさけみればー仰ぎ見れば 白細布ー白栲にー[しろたへに]ー 餝奉而ー飾りまつりてーかざりまつりてー喪の白栲がはりめぐらされ 内日刺ー[うちひさす]ー 宮舎人方ー宮の舎人もーみやのとねりもー宮の舎人も [一云 者]ー[一云 は]ー[は]ー 雪穂ー栲のほのー[たへのほの]ー 麻衣服者ー麻衣着ればーあさぎぬければー麻衣の喪服を着ている 夢鴨ー夢かもーいめかもー夢か 現前鴨跡ーうつつかもとーうつつかと 雲入夜之ー曇り夜のーくもりよのーやみ夜のように 迷間ー迷へる間にーまとへるほどにー惑っている間に 朝裳吉ー[あさもよし]ー 城於道従ー城上の道ゆーきのへのみちゆーもがりの城上の道より 角障經ー[つのさはふ]ー 石村乎見乍ー磐余を見つつーいはれをみつつー磐余をめざして 神葬ー神葬りー[かむはぶり]ー神として 々奉者ー葬りまつればーはぶりまつればー葬り祀れば 徃道之ー行く道のーゆくみちのー道に立っても 田付○不知ーたづきを知らにーたづきをしらにー方角もわからなく 雖思ー思へどもーおもへどもーどう思っても 印手無見ー験をなみーしるしをなみーかいがなく 雖歎ー嘆けどもーなげけどもー嘆いても 奥香乎無見ー奥処をなみーおくかをなみーきりがなく 御袖ー大御袖ーおほみそでーお袖が 徃觸之松矣ー行き触れし松をーゆきふれしまつをー国見の折に行き触れた松を 言不問ー言問はぬーこととはぬー物言わぬ 木雖在ー木にはありともーきにはありともー木ではあるが 荒玉之ー[あらたまの]ー 立月毎ーたつつきごとにー月がかわるごとに 天原ー天の原ー[あまのはら]ー 振放見管ー振り放け見つつーふりさけみつつー点を仰ぎ見ながら 珠手次ー玉たすきー[たまたすき]ー 懸而思名ー懸けて偲はなーかけてしのはなー偲ぶばかり 雖恐有ー畏くあれどもーかしこくあれどもー畏れおおいながら ・・・・・・・・・・・ [題詞]反歌 角障經 石村山丹 白栲 懸有雲者 皇可聞 [つのさはふ] いはれのやまに [しろたへに] かかれるくもは おほきみにかも ・・・・・・・・・・・
磐余の山に 喪の白栲のように 懸っている雲は あれは今は亡き 大君の霊魂なのかもしれない ・・・・・・・・・・・ 3326 奈良,皇子挽歌,枕詞 [題詞] ・・・・・・・・・・・
礒城嶋之ー礒城島のー[しきしまの]ー 日本國尓ー大和の国にーやまとのくににー国の都なるこのヤマト 何方ーいかさまにー何と 御念食可ー思ほしめせかーおもほしめせかー思われたのか 津礼毛無ーつれもなきーゆかりもない 城上宮尓ー城上の宮にーきのへのみやにー城上の宮に 大殿乎ー大殿をーおほとのをーその御殿に 都可倍奉而ー仕へまつりてーつかへまつりてー 殿隠ー殿隠りーとのごもりー殯の宮を 々座者ー隠りいませばーこもりいませばーお隠れになっていらっしゃるので 朝者ー朝にはーあしたにはー 召而使ー召して使ひーめしてつかひー 夕者ー夕にはーゆふへにはー 召而使ー召して使ひーめしてつかひー 遣之ー使はししーつかはししー朝夕召し使っておられた 舎人之子等者ー舎人の子らはーとねりのこらはー舎人達は 行鳥之ー行く鳥のー[ゆくとりの]ー 群而待ー群がりて待ちーむらがりてまちー鳥のように群がって 有雖待ーあり待てどーありまてどーはべっているけれど 不召賜者ー召したまはねばーめしたまはねばーお召しがないので 劔刀ー剣大刀ー[つるぎたち]ー 磨之心乎ー磨ぎし心をーとぎしこころをー張りつめていた気持も 天雲尓ー天雲にー[あまくもに]ー天雲のように 念散之ー思ひはぶらしーおもひはぶらしーちりぢりになってしまって 展轉ー臥いまろびーこいまろびー伏し悶え 土打哭杼母ーひづち哭けどもーひづちなけどもー泣き濡れても 飽不足可聞ー飽き足らぬかもーあきだらぬかもー悲しみは 晴れることがありません ・・・・・・・・・・・ 3327 美努王,譬喩,皇子挽歌 [題詞] ・・・・・・・・・・・
百小竹之ー百小竹のー[ももしのの]ー 三野王ー三野の王ーみののおほきみー美努王が 金厩ー西の馬屋にーにしのうまやにー西の厩に 立而飼駒ー立てて飼ふ駒ーたててかふこまー飼っている馬も 角厩ー東の馬屋にーひむがしのうまやにー東の厩に 立而飼駒ー立てて飼ふ駒ーたててかふこまー飼っている馬も 草社者ー草こそばーくさこそばー草を 取而飼<曰戸>ー取りて飼ふと言へーとりてかふといへー取ってあたえた餌はあるのに 水社者ー水こそばーみづこそばー水は ○而飼<曰戸>ー汲みて飼ふと言へーくみてかふといへー汲んであたえた水があるのに 何然ー何しかもーなにしかもーなぜ 大分青馬之ー葦毛の馬のーあしげのうまのー葦毛の馬は 鳴立鶴ーいなき立てつるーいなきたてつるーいなないているのだろう ・・・・・・・・・・・ [題詞]反歌 衣袖 大分青馬之 嘶音 情有鳧 常従異鳴 [ころもで] あしげのうまの いなくこゑ こころあれかも つねゆけになく
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白毛交じりの葦毛の馬がいななく声は 主人の死を悲しむ心のためか ふだんと違う様子でいなないているよ ・・・・・・・・・・・ |
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3329 枕詞 [題詞] ・・・・・・・・・・・
白雲之ー白雲のーしらくものー白雲が 棚曳國之ーたなびく国のーたなびくくにのー棚引く国の 青雲之ー青雲のーあをくものー青い雲が 向伏國乃ー向伏す国のーむかぶすくにのー地平線に懸かる国の 天雲ー天雲のーあまくものー天雲の 下有人者ー下なる人はーしたなるひとはー下に住む人は 妾耳鴨ー我のみかもーあのみかもー私だけなのでしょうか 君尓戀濫ー君に恋ふらむーきみにこふらむー君に恋した 吾耳鴨ー吾のみかもーあのみかもー私だけが 夫君尓戀礼薄ー君に恋ふればーきみにこふればー君を慕っているからか 天地ー天地にーあめつちにー天と地の 満言ー言を満ててーことをみててー神に誓いを立てて 戀鴨ー恋ふれかもーこふれかもー恋慕っているからか ○之病有ー胸の病みたるーむねのやみたるー胸が病んでいるような 念鴨ー思へかもーおもへかもー重苦しい想いからか 意之痛ー心の痛きーこころのいたきー心が疼く 妾戀叙ー我が恋ぞーあがこひぞーわが恋であることよ 日尓異尓益ー日に異にまさるーひにけにまさるー慕情は日々に益してくる 何時橋物ーいつはしもーいつといって 不戀時等者ー恋ひぬ時とはーこひぬときとはー恋慕わない時 不有友ーあらねどもーあらねどもー はないのだけれど 是九月乎ーこの九月をーこのながつきをーこの九月を 吾背子之ー吾が背子がーわがせこがー愛しい人の 偲丹為与得ー偲ひにせよとーしのひにせよとー思い出にしなさいと 千世尓物ー千代にもーちよにもー千代に渡って 偲渡登ー偲ひわたれとーしのひわたれとー偲びなさい 万代尓ー万代にーよろづよにー万代に 語都我部等ー語り継がへとーかたりつがへとー語り継なぎなさいと 始而之ー始めてしーはじめてしー語らい始めた 此九月之ーこの九月のーこのながつきのーこの九月が 過莫呼ー過ぎまくをーすぎまくをー過ぎようとしているのを 伊多母為便無見ーいたもすべなみーなんとも仕方がない 荒玉之ー[あらたまの]ー 月乃易者ー月の変ればーつきのかはればー月が変わると 将為須部乃ー為むすべのーせむすべのー喪の物忌みをすませ弔うことも出来なくなって どうしたらよいのか 田度伎乎不知ーたどきを知らにーたどきをしらにーなすすべも思いつかず 石根之ー岩が根のー[いはがねの]ー岩山の 許凝敷道之ーこごしき道のーこごしきみちのー荒々しい険しい道を 石床之ー岩床のー[いはとこの]ー 根延門尓ー根延へる門にーねばへるかどにー岩に根が生え延びる門から 朝庭ー朝にはーあしたにはー朝には 出座而嘆ー出で居て嘆きーいでゐてなげきー家から出ては嘆き 夕庭ー夕にはーゆふへにはー夕べには 入座戀乍ー入り居恋ひつつーいりゐこひつつー家に戻って想い出し 烏玉之ー[ぬばたまの]ー 黒髪敷而ー黒髪敷きてーくろかみしきてー黒髪を床に流して 人寐ー人の寝るーひとのぬるー人が寝るように 味寐者不宿尓ー味寐は寝ずにーうまいはねずにー恋人と寝るような楽しく寝ることが出来ずに 大船之ー大船のー[おほぶねの]ー 行良行良尓ーゆくらゆくらにーゆらゆら揺れるように 思乍ー思ひつつーおもひつつー揺れる気持ちで思いながら 吾寐夜等者ー吾が寝る夜らはーわがぬるよらはー私が寝る夜を 數物不敢<鴨>ー数みもあへぬかもーよみもあへぬかもー数えることは出来ないでしょう ・・・・・・・・・・・ 3330 榛原,桜井,奈良,亡妻歌 [題詞] ・・・・・・・・・・・
隠来之ー隠口のー[こもりくの]ー 長谷之川之ー泊瀬の川のーはつせのかはのー泊瀬の川の 上瀬尓ー上つ瀬にーかみつせにー川上の瀬に 鵜矣八頭漬ー鵜を八つ潜けーうをやつかづけー鵜を沢山潜らせて 下瀬尓ー下つ瀬にーしもつせにー川下の瀬でも 鵜矣八頭漬ー鵜を八つ潜けーうをやつかづけー鵜を沢山潜らせて 上瀬之ー上つ瀬のーかみつせのー川上の瀬では <年>魚矣令咋ー鮎を食はしめーあゆをくはしめー上流の<年>魚をくわえさせ 下瀬之ー下つ瀬のーしもつせのー川下の瀬でも 鮎矣令咋ー鮎を食はしめーあゆをくはしめー下流のアユをくわえさせ 麗妹尓ーくはし妹にーくはしいもにー麗しい妻に 鮎遠惜ー鮎を惜しみーあゆををしみー食べさせる鮎を逃すのが惜しく <麗妹尓 鮎矣惜>ーくはし妹に鮎を惜しみーくはしいもにあゆををしみー麗しい妻に食べさせたいあゆなのに 投左乃ー投ぐるさのーなぐるさのー 鮎を逃さないように放った矢は 遠離居而ー遠ざかり居てーとほざかりゐてー水に流れて遠ざかって行ったようにあの世へ遠ざかり 思空ー思ふそらーおもふそらー亡き妻を思う 不安國ー安けなくにーやすけなくにー貴女を想う気持ちは穏やかでなく 嘆空ー嘆くそらーなげくそらー嘆いてみても 不安國ー安けなくにーやすけなくにー気持は穏やかでないので 衣社薄ー衣こそばーきぬこそばーこれが衣ならば 其破者ーそれ破れぬればーそれやれぬればー破けたら <継>乍物ー継ぎつつもーつぎつつもー縫い合わせれば 又母相登言ーまたも合ふといへーまたもあふといへーまた裂け目は合うといい 玉社者ー玉こそばーたまこそばー真珠ならば 緒之絶薄ー緒の絶えぬればーをのたえぬればー紐が切れれば 八十一里喚鶏ーくくりつつー括って結びなおせば 又物逢登曰ーまたも合ふといへーまたもあふといへーまた結び合うと云うのに 又毛不相物者ーまたも逢はぬものはーまたもあはぬものはー再び逢うことがないのは ○尓志有来ー妻にしありけりーつまにしありけりー妻だけなのでしょうか ・・・・・・・・・・・ 3331 桜井,奈良,亡妻歌,歌謡,山讃美 [題詞] ・・・・・・・・・・・
隠来之ー隠口のー[こもりくの]ー 長谷之山ー泊瀬の山ーはつせのやまー泊瀬の山と 青幡之ー青旗のー[あをはたの]ー青い葬旗の 忍坂山者ー忍坂の山はーおさかのやまはー忍坂の山は 走出之ー走出のーはしりでのー稜線がなだらかに続く 宜山之ーよろしき山のーよろしきやまのー流麗なる山 出立之ー出立のーいでたちのー山の外見だけではなく 妙山叙ーくはしき山ぞーくはしきやまぞー美しい山だ 惜ーあたらしきー亡妻の眠るその<「あたら・し」[形シク]それに相当するだけの価値がある、というところから、そのままにしておくには惜しいほどりっぱだ。すばらしい。>あたら惜しい山が 山之ー山のーやまのー墓地には 荒巻惜毛ー荒れまく惜しもーあれまくをしもー人が通わなくなり山が荒れていいくのは惜しいことだ ・・・・・・・・・・・ [題詞] たかやまと うみとこそば やまながら かくもうつしく うみながら しかまことならめ ひとははなものぞ うつせみよひと
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高山と海こそは 山はこのように現実にあり 海としてあるがまま真実に存在する ただ人は花のようにはかない はかないのは世の人間である ・・・・・・・・・・・ |
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3333 奈良,大阪,福岡,羈旅,道行き,行旅死,枕詞 [題詞] ・・・・・・・・・・・
王之ー大君のーおほきみのー大君の 御命恐ー命畏みーみことかしこみーご命令を謹んで承り 秋津嶋ー蜻蛉島ー[あきづしま]ー 倭雄過而ー大和を過ぎてーやまとをすぎてー大和を行き過ぎて 大伴之ー大伴のー[おほともの]ー 御津之濱邊従ー御津の浜辺ゆーみつのはまへゆー御津の浜辺から 大舟尓ー大船にーおほぶねにー大船に 真梶繁貫ー真楫しじ貫きーまかぢしじぬきー両舷に立派な舵を貫き挿し 旦名伎尓ー朝なぎにーあさなぎにー朝の凪に 水<手>之音為乍ー水手の声しつつーかこのこゑしつつー船頭の声がひびき 夕名寸尓ー夕なぎにーゆふなぎにー夕凪に 梶音為乍ー楫の音しつつーかぢのおとしつつー梶の音をさせて 行師君ー行きし君ーゆきしきみー出発された貴方は 何時来座登ーいつ来まさむとーいつきまさむとー何時帰って来られると <大>卜置而ー占置きてーうらおきてー夕占いをして 齊度尓ー斎ひわたるにーいはひわたるにー神に無事なお帰りをお祈りすると <狂>言哉ーたはことかー事実とは違う話でしょうか 人之言釣ー人の言ひつるーひとのいひつるー人が言うには 我心ー我が心ーあがこころー心を尽くして慕う 盡之山之ー筑紫の山のーつくしのやまのー筑紫の山の 黄葉之ー黄葉のーもみちばのー黄葉のように 散過去常ー散りて過ぎぬとーちりてすぎぬとー命を果て散ってしまわれた 公之正香乎ー君が直香をーきみがただかをー人のけはいやようすの貴方の御噂を ・・・・・・・・・・・ 3334 [題詞]反歌 <狂>言哉 人之云鶴 玉緒乃 長登君者 言手師物乎 たはことか ひとのいひつる たまのをの ながくときみは いひてしものを ・・・・・・・・・・・
事実とは違う話でしょうか 人が云うことは 玉の貫く紐の緒が長いようにこの命は久しく長いと 貴方は云っていらっしていたのに ・・・・・・・・・・・ 3335 狄領鎮魂 [題詞] ・・・・・・・・・・・
玉桙之ー玉桙のー[たまほこの]ー 道去人者ー道行く人はーみちゆくひとはー道を行く人は 足桧木之ー[あしひきの]ー 山行野徃ー山行き野行きーやまゆきのゆきー山を行き 直海ー[にはたづみ]ー 川徃渡ー川行き渡りーかはゆきわたりー川を行き渡る 不知魚取ー鯨魚取りー[いさなとり]ー 海道荷出而ー海道に出でてーうみぢにいでてー海路に出て 惶八ー畏きやーかしこきやー恐るべき海神の 神之渡者ー神の渡りはーかみのわたりはー渡りを受ける 吹風母ー吹く風もーふくかぜもー吹く風も 和者不吹ーのどには吹かずーのどにはふかずーのどかに吹くことはない 立浪母ー立つ波もーたつなみもー立つ波も 踈不立ーおほには立たずーおほにはたたずーいいかげんなものではない 跡座浪之ーとゐ波のーとゐなみのー 一列の波長の長い波が 塞道麻ー塞ふる道をーささふるみちをー海路を塞ぐ 誰心ー誰が心ーたがこころー誰が彼の心を動かしたのか 勞跡鴨ーいたはしとかもー志半ばで絶命した彼が不憫でならない 直渡異六ー直渡りけむーただわたりけむー困難な道のりを真っ直ぐに渡ってきたのだろうか <直渡異六>ー直渡りけむーただわたりけむー困難な道のりを真っ直ぐに渡ってきたのだろうか ・・・・・・・・・・・ 3336 溺死 [題詞] ・・・・・・・・・・・
鳥音之ー鳥が音のーとりがねのー鳥の声が 所聞海尓ー聞こゆる海にーきこゆるうみにー聞こえる海は 高山麻ー高山をーたかやまをー高い山を 障所為而ー隔てになしてーへだてになしてー隔てている 奥藻麻ー沖つ藻をーおきつもをー沖の藻を 枕所為ー枕になしーまくらになしー枕にして <蛾>葉之ーひむし羽のーひむしはのー蛾の羽のような 衣<谷>不服尓ー衣だに着ずにーきぬだにきずにー薄い着物さえ着ずに 不知魚取ー鯨魚取りー[いさなとり]ー 海之濱邊尓ー海の浜辺にーうみのはまへにー海の浜辺で 浦裳無ーうらもなくー心もなく 行き倒れた人か 所宿有人者ー臥やせる人はーこやせるひとはー寝ている人は 母父尓ー母父にーおもちちにー母や父もあり 真名子尓可有六ー愛子にかあらむーまなごにかあらむー愛する子供もいるだろう 若○之ー若草のー[わかくさの]ー 妻香有異六ー妻かありけむーつまかありけむー年若い妻もあるだろう 思布ー思ほしきーおもほしきー心に思うことを 言傳八跡ー言伝てむやとーことつてむやとー言伝てもしたいだろうと 家問者ー家問へばーいへとへばー家を尋ねても 家乎母不告ー家をも告らずーいへをものらずー家も言わない 名問跡ー名を問へどーなをとへどー名を尋ねても 名谷母不告ー名だにも告らずーなだにものらずー名も言わない 哭兒如ー泣く子なすーなくこなすー泣いている子供のように 言谷不語ー言だにとはずーことだにとはずー言葉も発しない 思鞆ー思へどもーおもへどもー思うに 悲物者ー悲しきものはーかなしきものはー悲しいものは 世間有ー世間にぞあるーよのなかにぞあるー世の中であるよ <世間有>ー世間にぞあるーよのなかにぞあるーこの世の中なのだ ・・・・・・・・・・・ 3337 [題詞]反歌 母父毛 妻毛子等毛 高々二 来跡<待>異六 人之悲<紗> おもちちも つまもこどもも たかたかに こむとまちけむ ひとのかなしさ ・・・・・・・・・・・
母も父も 妻も子供も 今か今かと背伸びして 帰宅を待ちこがれたに違いない その人たちの悲しさがしのばれる ・・・・・・・・・・・ 3338 [題詞] 蘆桧木乃 山道者将行 風吹者 浪之塞 海道者不行 [あしひきの] やまぢはゆかむ かぜふけば なみのささふる うみぢはゆかじ
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山道を行こう 風が吹けば 波が行くてを妨げる 航道は行くまい ・・・・・・・・・・・ |
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3339 狄領広島県,福山,枕詞,或本歌,調使首 [題詞]或本歌 / 備後國神嶋濱調使首見屍作歌一首[并短歌] ・・・・・・・・・・・
玉桙之ー玉桙のー[たまほこの]ー 道尓出立ー道に出で立ちーみちにいでたちー道に出て立ち 葦引乃ー[あしひきの]ー 野行山行ー野行き山行きーのゆきやまゆきー野を行き山を行き 潦ー[にはたづみ]ー 川徃渉ー川行き渡りーかはゆきわたりー川を行き渡り 鯨名取ー鯨魚取りー[いさなとり]ー 海路丹出而ー海道に出でてーうみぢにいでてー海道に出ると 吹風裳ー吹く風もー[ふくかぜも]ー 母穂丹者不吹ーおほには吹かずーおほにはふかずーのどかには吹かず 立浪裳ー立つ波もー[たつなみも]ー立つ波も 箟跡丹者不起ーのどには立たぬーいいかげんなものではない 恐耶ー畏きやーかしこきやー恐るべき 神之渡乃ー神の渡りのーかみのわたりのー海神が渡る 敷浪乃ーしき波のーしきなみのー次々に波が 寄濱部丹ー寄する浜辺にーよするはまへにー寄せる浜辺に 高山矣ー高山をーたかやまをー高い山を 部立丹置而ー隔てに置きてーへだてにおきてー隔てた場所にある <○>潭矣ー浦ぶちをーうらぶちをー海辺の水たまりに 枕丹巻而ー枕に巻きてーまくらにまきてー砂まみれで 占裳無ーうらもなくー心もなく 行き倒れた人だろうか 偃為<公>者ーこやせる君はーこやせるきみはー寝ている人は 母父之ー母父がーおもちちがー両親が 愛子丹裳在将ー愛子にもあらむーまなごにもあらむー愛する子供でもあろう 稚草之ー若草のー[わかくさの]ー 妻裳有将等ー妻もあらむとーつまもあらむー妻がいるかもしれない 家問跡ー家問へどーいへとへどー家を尋ねても 家道裳不云ー家道も言はずーいへぢもいはずー家路を言わない 名矣問跡ー名を問へどーなをとへどー名を尋ねても 名谷裳不告ー名だにも告らずーなだにものらずー名前をすら言わない 誰之言矣ー誰が言をーたがことをー誰かが言葉を発した 勞鴨ーいたはしとかもー不憫でならない 腫浪能ーとゐ波のーとゐなみのー一列の波長の波が立つ 恐海矣ー畏き海をーかしこきうみをー恐ろしき海を 直渉異将ー直渡りけむーただわたりけむー真っ直ぐに渡ってきたのだろうか ・・・・・・・・・・・ 3340 狄領鎮魂,或本歌,羈旅,調使首 [題詞]反歌 母父裳 妻裳子等裳 高々丹 来<将>跡待 人乃悲 おもちちも つまもこどもも たかたかに こむとまつらむ ひとのかなしさ ・・・・・・・・・・・
父母も 妻も子どもも 今か今かと帰えりを待っているであろうに 路傍に臥せる男よ 遺族よ 悲しいことである ・・・・・・・・・・・ 3341 炭・或本歌,異伝,羈旅,調使首 [題詞] 家人乃 将待物矣 津煎裳無 荒礒矣巻而 偃有<公>鴨 いへびとの まつらむものを つれもなき ありそをまきて なせるきみかも ・・・・・・・・・・・
故郷では家族がいつ帰るかと待っているだろうに 仲間もなくこの荒れ磯で砂にまみれて 行き倒れた君よ 哀れ ・・・・・・・・・・・ 3342 炭・或本歌,異伝,羈旅,調使首 [題詞] <○>潭 偃為<公>矣 今日々々跡 将来跡将待 妻之可奈思母 うらぶちに こやせるきみを けふけふと こむとまつらむ つましかなしも ・・・・・・・・・・・
海辺の砂水たまりに埋もれて臥す君よ 帰りを今日かあすかと妻君は待っているだろう その気持ちを思えばとても悲しい ・・・・・・・・・・・ 3343 炭・或本歌,異伝,羈旅,調使首 [題詞] <○>浪 来依濱丹 津煎裳無 偃為<公>賀 家道不知裳 うらなみの きよするはまに つれもなく ふしたるきみが いへぢしらずも ・・・・・・・・・・・
浦波が打ち寄せる海岸に 無表情にうつぶせたままの男よ 家路がどこかわからないものか ・・・・・・・・・・・ 3344 悲別,防人妻 [題詞] ・・・・・・・・・・・
此月者ーこの月はーこのつきはーこの月こそは 君将来跡ー君来まさむとーきみきまさむとー貴方は還って来られると 大舟之ー大船のー[おほぶねの]ー大船のように 思憑而ー思ひ頼みてーおもひたのみてー信頼して思い 何時可登ーいつしかとー何時還って来られるのかと 吾待居者ー吾が待ち居ればーわがまちをればー私が待っていれば 黄葉之ー黄葉のー[もみちばの]ー黄葉のように 過行跡ー過ぎてい行くとーすぎていゆくとーこの世から過ぎて行かれたと 玉梓之ー玉梓のー[たまづさの]ー立派な梓の杖を持つ 使之云者ー使の言へばーつかひのいへばー使者が云うのを 螢成ー蛍なすー[ほたるなす]ー蛍の光のように 髣髴聞而ーほのかに聞きてーほのかにききてーぼんやりと聞いて 大<土>乎ー大地をー[おほつちを]ー <火>穂跡<而 立>居而ーほのほと踏みて立ちて居てーほのほとふみてたちてゐてー御仏に頼る焔のように立っても座ってもどうすれば良いか判らず 去方毛不知ーゆくへも知らずーゆくへもしらずー行方もわからず 朝霧乃ー朝霧のー[あさぎりの]ー朝霧に 思<或>而ー思ひ迷ひてーおもひまとひてー道を迷うように思い迷い 杖不足ー杖足らずー[つゑたらず]ー 八尺乃嘆ー八尺の嘆きーやさかのなげきーひと杖に二尺足りない八尺(八坂)の 々友ー嘆けどもーなげけどもー嘆きを嘆くのだが 記乎無見跡ー験をなみとーしるしをなみとー甲斐がないので 何所鹿ーいづくにかーどこに 君之将座跡ー君がまさむとーきみがまさむとー貴方がいらっしゃるのかと 天雲乃ー天雲のー[あまくもの]ー天雲が 行之随尓ー行きのまにまにーゆきのまにまにー流れ逝くまにまに貴方を尋ねていって 所射完乃ー射ゆ鹿猪のー[いゆししの]ー矢に射られた鹿や猪のように狂ったように 行<文>将死跡ー行きも死なむとーゆきもしなむとー走り死のうと 思友ー思へどもーおもへどもー思っても 道之不知者ー道の知らねばーみちのしらねばー尋ねる先の道を知らないので 獨居而ーひとり居てーひとりゐてー私一人で暮らして 君尓戀尓ー君に恋ふるにーきみにこふるにー貴方を恋しく想い 哭耳思所泣ー哭のみし泣かゆーねのみしなかゆー声を立てて泣いてしまう ・・・・・・・・・・・ 3345 悲別,防人妻 [題詞]反歌 葦邊徃 鴈之翅乎 見別 <公>之佩具之 投箭之所思 あしへゆく かりのつばさを みるごとに きみがおばしし なげやしおもほゆ ・・・・・・・・・・・
葦が茂る水辺の方へ飛ぶ 雁の翼を見るたびに あなたが背負っていた 投げ矢を思い出します ・・・・・・・・・・・ 3346 行旅死 [題詞] ・・・・・・・・・・・
欲見者ー見欲しきはーみほしきはー見たいと思うのは 雲居所見ー雲居に見ゆるーくもゐにみゆるー雲の彼方に見える 愛ーうるはしきー愛しい 十羽能松原ー鳥羽の松原ーとばのまつばらー鳥羽の松原よ 小子等ー童どもーわらはどもー供の者たちを 率和出将見ーいざわ出で見むーいざわいでみむー率いて出て見よう 琴酒者ーこと放けばーことさけばー琴を奏でるような 國丹放甞ー国に放けなむーくににさけなむー風雅な宴会は故郷で開こう 別避者ーこと放けばーことさけばーもの忌みならば 宅仁離南ー家に放けなむーいへにさけなむー家でお籠りしよう 乾坤之ー天地のーあめつちのー天と地の 神志恨之ー神し恨めしーかみしうらめしー神が恨めしい 草枕ー草枕ー[くさまくら]ー 此羈之氣尓ーこの旅の日にーこのたびのけにーこの旅路の中でのこの日に 妻應離哉ー妻放くべしやーつまさくべしやー妻との死別をするべきでしょうか ・・・・・・・・・・・ [題詞]反歌 草枕此羈之氣尓妻<放>家道思生為便無 [くさまくら]このたびのけにつまさかりいへぢおもふにいけるすべなし ・・・・・・・・・・・
この旅路の日に 妻は死んで別れ去った これからの家への道のりを思うと 生きている気がしない ・・・・・・・・・・・ 3347S 採行旅死 [題詞]或本歌曰 [左注]右二首 羈之氣二為而 たびのけにして
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旅の日で 旅の日だから ・・・・・・・・・・・ |


