ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

・・・万葉集(〃)

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1826 春雑歌

[題詞](詠鳥)

春之<在>者  妻乎求等  鴬之  木末乎傳  鳴乍本名

春されば 妻を求むと 鴬の 木末を伝ひ 鳴きつつもとな 

はるされば つまをもとむと うぐひすの こぬれをつたひ なきつつもとな
・・・・・・・・・・・・
春なのだなあ

鶯が妻を求めて

梢を伝って

ひたすら鳴いていることよ
・・・・・・・・・・・・
* もと‐な
[副]《「もと」は根本の意。「な」は形容詞「無し」の語幹》
わけもなく。みだりに



1827 春雑歌,奈良,春日

[題詞](詠鳥)

春日有  羽買之山従  <狭>帆之内敝  鳴徃成者  孰喚子鳥

春日なる 羽がひの山ゆ 佐保の内へ 鳴き行くなるは 誰れ呼子鳥 

かすがなる はがひのやまゆ さほのうちへ なきゆくなるは たれよぶこどり
・・・・・・・・・・・・
春日にある羽がひの山から佐保に向かって

鳴きながら飛んでゆくのは

誰を呼ぶ呼子鳥でしょうか
・・・・・・・・・・・・
* 「なる」は断定の助動詞「なり」の連体形。



1828 春雑歌,佐保,奈良

[題詞](詠鳥)

不答尓  勿喚動曽  喚子鳥  佐保乃山邊乎  上下二

答へぬに な呼び響めそ 呼子鳥 佐保の山辺を 上り下りに 

こたへぬに なよびとよめそ よぶこどり さほのやまへを のぼりくだりに
・・・・・・・・・・・・
だれも答えてくれる人が居ないのに  

響くほど鳴かないでよ呼子鳥 

佐保の山辺をのぼったり下ったりして
・・・・・・・・・・・・




1829 春雑歌,枕詞

[題詞](詠鳥)

梓弓  春山近  家居之  續而聞良牟  鴬之音

梓弓 春山近く 家居れば 継ぎて聞くらむ 鴬の声 

[あづさゆみ] はるやまちかく いへをれば つぎてきくらむ うぐひすのこゑ
・・・・・・・・・・・・
春の山辺に建てた家にいると

たえまなく鶯の鳴く声が聞こえることだ
・・・・・・・・・・・・
まだ寒さが、弓矢のように突き刺すけれども。


1830 春雑歌

[題詞](詠鳥)

打靡  春去来者  小竹之末丹  尾羽打觸而  鴬鳴毛

うち靡く 春さり来れば 小竹の末に 尾羽打ち触れて 鴬鳴くも 

[うちなびく] はるさりくれば しののうれに をはうちふれて うぐひすなくも
・・・・・・・・・・・・
春がやってくると

小竹の葉先に尾や羽根を

触れながら鴬が鳴くよ
・・・・・・・・・・・・
* 「うち」は接頭・強意。


1831 春雑歌,吉野

[題詞](詠鳥)

朝霧尓 之<努>々尓所沾而  喚子鳥  三船山従  喧渡所見

朝霧に しののに濡れて 呼子鳥 三船の山ゆ 鳴き渡る見ゆ 

あさぎりに しののにぬれて よぶこどり みふねのやまゆ なきわたるみゆ
・・・・・・・・・・・・
朝霧にすっかり濡れて

三船の山から鳴き渡っていく

呼子鳥が目に見えるようだ
・・・・・・・・・・・・



1832 春雑歌

[題詞](詠鳥)

打靡  春去来者  然為蟹  天雲霧相  雪者零管

うち靡く 春さり来れば しかすがに 天雲霧らひ 雪は降りつつ 

[うちなびく] はるさりくれば しかすがに あまくもきらひ 
ゆきはふりつつ
・・・・・・・・・・・・
春はやってきたとはいうものの

厚い雲に覆われて雪が降っていることよ
・・・・・・・・・・・・
* 「しかすがに」(副詞)しかしながら、さすがに。
* 「霧らふ」(自ハ四霧る)+(反復・継続の助動詞「ふ」)



1833 春雑歌

[題詞](詠鳥)

梅花  零覆雪乎  ○持  君令見跡  取者消管

梅の花 降り覆ふ雪を 包み持ち 君に見せむと 取れば消につつ 

うめのはな ふりおほふゆきを つつみもち きみにみせむと とればけにつつ
・・・・・・・・・・・・
梅の花に降り覆う雪を

包んであなたにお見せしようと

取ってみればすぐに消えてしまいます
・・・・・・・・・・・・



1834 春雑歌

[題詞](詠鳥)

梅花  咲落過奴  然為蟹  白雪庭尓  零重管

梅の花 咲き散り過ぎぬ しかすがに 白雪庭に 降りしきりつつ 

うめのはな さきちりすぎぬ しかすがに しらゆきにはに ふりしきりつつ
・・・・・・・・・・・・
梅の花が散ってしまいました

でも 白い雪が庭に降りしきっています
・・・・・・・・・・・・



サ1835 春雑歌

[題詞](詠鳥)

今更  雪零目八方  蜻火之  燎留春部常  成西物乎 

今さらに 雪降らめやも かぎろひの 燃ゆる春へと なりにしものを 

いまさらに ゆきふらめやも かぎろひの もゆるはるへと なりにしものを
・・・・・・・・・・・・
今さら雪が降ったりしましょうか

陽炎燃える春になったのでしょうに
・・・・・・・・・・・・
* 「降らめやも」:
「め」は推量、
「やも」は係助詞「や」と係助詞「も」との重なりで、反語表現。
* 「なりにしものを」;
「に」完了の助動詞、
「し」過去の助動詞、「〜してしまった」。
* 「の」は格助詞で「主格」。現代語で言う「が」。



1836 春雑歌

[題詞](詠鳥)

風交  雪者零乍  然為蟹  霞田菜引  春去尓来

風交り 雪は降りつつ しかすがに 霞たなびき 春さりにけり 

かぜまじり ゆきはふりつつ しかすがに かすみたなびき はるさりにけり
・・・・・・・・・・・・
風に混じり雪は降りしきる 

しかしながら霞がたなびいて 

かすかに春の気配がする
・・・・・・・・・・・・
* しか‐す‐がに【然すがに】
[副]《副詞「しか」+サ変動詞「す」+接続助詞「がに」からという》
そうはいうものの。そうではあるが。


第十巻
春雜歌


10 1812 春雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,飛鳥,枕詞

[題詞]春雜歌

久方之  天芳山  此夕  霞霏*  春立下

ひさかたの 天の香具山 この夕 霞たなびく 春立つらしも 

[ひさかたの] あめのかぐやま このゆふへ かすみたなびく はるたつらしも
・・・・・・・・・
天の香具山は

今日の夕方

霞がたなびいている

春がすがたを現したようであるよ
・・・・・・・・・



10 1813 春雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,桜井,奈良

巻向之  桧原丹立流  春霞  欝之思者  名積米八方

巻向の 桧原に立てる 春霞 おほにし思はば なづみ来めやも 

[まきむくの ひはらにたてる はるかすみ] おほにしおもはば なづみこめやも
・・・・・・・・・
巻向の桧原に立つ春霞のように

ぼんやりとしか思わなかったら

苦労してやってはこない
・・・・・・・・・



10 1814 春雑歌,作者:柿本人麻呂歌集

古 人之 殖兼  杉枝  霞<霏>○  春者来良之

いにしへの 人の植ゑけむ 杉が枝に 霞たなびく 春は来ぬらし 

いにしへの ひとのうゑけむ すぎがえに かすみたなびく はるはきぬらし
・・・・・・・・・
古の人が植えた杉の枝に

霞がたなびく春が来たらしい
・・・・・・・・・



10 1815 春雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,桜井,奈良,枕詞

子等我手乎  巻向山丹  春去者  木葉凌而  霞霏○

子らが手を 巻向山に 春されば 木の葉しのぎて 霞たなびく 

[こらがてを] まきむくやまに はるされば このはしのぎて かすみたなびく
・・・・・・・・・
あの娘らの手を巻いて手枕するという名の

巻向山に春が来た

木々の葉を押し伏せるように
 
霞がひくくたなびいている
・・・・・・・・・


10 1816 春雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,桜井,奈良,枕詞

玉蜻  夕去来者  佐豆人之  弓月我高荷  霞霏○

玉かぎる 夕さり来れば さつ人の 弓月が岳に 霞たなびく 

[たまかぎる] ゆふさりくれば [さつひとの] ゆつきがたけに かすみたなびく
・・・・・・・・・
夕方になって

巻向山の高峰

弓月が岳に霞がたなびいている
・・・・・・・・・



サ10 1817 春雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,御所市,奈良県

今朝去而  明日者来牟等  云子鹿丹  旦妻山丹  霞霏○

今朝行きて 明日には来なむと 云子鹿丹 朝妻山に 霞たなびく 

けさゆきて あすにはきなむと いいしこに あさづまやまに かすみたなびく
・・・・・・・・・
今朝は去り

明日はまた来るはず

愛しい朝妻のような

朝妻山に霞はたなびく
・・・・・・・・・
* 「なむ」は、完了助動詞「ぬ」の未然形に、推量助動詞「む。推量・意志・希望・当然。
* 「いい美人」、「醜男しこお」?
* 「かすみ」は「魂魄」か?
* 以下<国語篇(その七)>より転載。
『 「明日者来牟等」 「云子鹿丹」
「あすはらいむと」、「アツ・ワラ・イム・ト」は、 「向こうの・墓場に・穴を・掘る」
「いふこかに」は、「イ・ウフ・コ・カニ」は、「鍬を・前後に動かして・(死体の)穢れを祓う儀式を・行った」』



10 1818 春雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,御所市,奈良県,序詞

子等名丹  關之宜  朝妻之  片山木之尓  霞多奈引

子らが名に 懸けのよろしき 朝妻の 片山崖に 霞たなびく 

[こらがなに かけのよろしき あさづまの] かたやまきしに かすみたなびく
・・・・・・・・・
あの子の名に懸けて呼ぶにふさわしい

朝妻山の崖肌に

春のやってきたことを

いち早く告げる霞が棚引いているよ
・・・・・・・・・
子どものこれからが何となく楽しみだと思う気分。
「崖」を「きし」と読み「岸」の字を宛てている。
「掛け」は「ことばにかけていうこと」
「宜しき」は「適当である。ふさわしい」の意。
「朝妻」は山の名、奈良御所市朝妻の地の山。金剛山のことか。


10 1819 春雑歌

[題詞]詠鳥

打霏  春立奴良志  吾門之  柳乃宇礼尓  鴬鳴都

うち靡く 春立ちぬらし 我が門の 柳の末に 鴬鳴きつ 

[うちなびく] はるたちぬらし わがかどの やなぎのうれに うぐひすなきつ
・・・・・・・・・
もうすっかり春になった気配です

我が家の門にある柳の木の梢にさえも

鶯がきて鳴いていることですよ
・・・・・・・・・
「末」を「うれ」と読み、草木の枝葉の先端、ここでは「梢」を意味します。



10 1820 春雑歌

[題詞](詠鳥)

梅花  開有岳邊尓  家居者  乏毛不有  鴬之音 

梅の花 咲ける岡辺に 家居れば 乏しくもあらず 鴬の声 

うめのはな さけるをかへに いへをれば ともしくもあらず うぐひすのこゑ
・・・・・・・・・
梅の花が咲いている岡の辺の家におりますと

珍しくもありません

鶯の声が
・・・・・・・・・
「岡辺」は「おかへ」と濁らないのが普通。「丘の辺り」のこと。
「家居」は「家を造ってすむこと。
「家居(いへを)れ」と訓じ、已然形+「ば」としています。こうすれば偶然条件「〜すると」または原因理由「〜ので」と訳せます。
「じ」は「打ち消し推量」の助動詞。


10 1821 春雑歌

[題詞](詠鳥)

春霞  流共尓  青柳之  枝喙持而  鴬鳴毛

春霞 流るるなへに 青柳の 枝くひ持ちて 鴬鳴くも 

はるかすみ ながるるなへに あをやぎの えだくひもちて うぐひすなくも
・・・・・・・・・
春霞が流れるにつれて

青々と繁った青柳の枝をくわえて

鶯が鳴くのです
・・・・・・・・・



10 1822 春雑歌,枕詞


[題詞](詠鳥)

吾瀬子乎  莫越山能  喚子鳥  君喚變瀬  夜之不深刀尓

我が背子を 莫越の山の 呼子鳥 君呼び返せ 夜の更けぬとに 

わがせこを なこしのやまの よぶこどり きみよびかへせ よのふけぬとに
・・・・・・・・・
私の愛しい人を 

な越しの山の郭公よ

な越の山を越えて行かせてはいけません

あの方を呼び返して下さい

夜の更ける前に
・・・・・・・・・
「呼ぶ子鳥」は「郭公」のこと。
「と」は「〜うちに。〜前」の意。




10 1823 春雑歌

[題詞](詠鳥)

朝井代尓  来鳴<杲>鳥  汝谷文  君丹戀八  時不終鳴

朝ゐでに 来鳴く貌鳥 汝れだにも 君に恋ふれや 時終へず鳴く 

あさゐでに きなくかほどり なれだにも きみにこふれや ときをへずなく
・・・・・・・・・
朝 井堰にきて鳴くかおどりよ

お前までも休みなく鳴いているのですか

あの方を恋い慕って
・・・・・・・・・



10 1824 春雑歌,枕詞

[題詞](詠鳥)

冬隠  春去来之  足比木乃  山二文野二文  鴬鳴裳

冬こもり 春さり来れば あしひきの 山にも野にも 鴬鳴くも 

[ふゆこもり] はるさりくれば [あしひきの] やまにものにも うぐひすなくも
・・・・・・・・・
冬の気配がなくなりいよいよ春

山にも野にも鶯が鳴いていることです
・・・・・・・・・



10 1825 春雑歌,大阪市,枕詞

[題詞](詠鳥)

紫之  根延横野之  春野庭  君乎懸管  鴬名雲

紫草の 根延ふ横野の 春野には 君を懸けつつ 鴬鳴くも 

むらさきの ねばふよこのの はるのには きみをかけつつ うぐひすなくも
・・・・・・・・・
紫草の根が生え延びる春の横野には

あの人を気に懸けさせるかのように

鴬さえも鳴き続けています
・・・・・・・・・
「紫」は「紫草=むらさき科の多年草。
「根延ふ」は「根が長く伸びる。根が張る」の意。
「懸け」は「恋しく思う。気にする」の意。
「つつ」は接続助詞で反復・継続。


1809 挽歌,作者:高橋虫麻呂歌集,芦屋,兵庫,うない娘子,伝説,妻争い

[題詞]見菟原處女墓歌一首[并短歌]

・・・・・・・・
↓[原文]ー[訓読]ー[仮名]ー
葦屋之ー葦屋のーあしのやのー葦屋の
菟名負處女之ー菟原娘子のーうなひをとめのー菟原処女が
八年兒之ー八年子のーやとせこのー八つばかりの
片生之時従ー片生ひの時ゆーかたおひのときゆー幼い時から
小放尓ー小放りにーをばなりにー振り分け髪に
髪多久麻弖尓ー髪たくまでにーかみたくまでにー髪を束ねる年頃に成長するまで
並居ー並び居るーならびをるー隣の
家尓毛不所見ー家にも見えずーいへにもみえずー家の人にも姿を見せず
虚木綿乃ー虚木綿のー[うつゆふの]ー
牢而座在者ー隠りて居ればーこもりてをればー家に籠ってばかりいたので
見而師香跡ー見てしかとーみてしかとー 一目見たいものだと
<悒>憤時之ーいぶせむ時のーいぶせむときのーやきもきして
垣廬成ー垣ほなすー[かきほなす]ー垣のように取り囲んで
人之誂時ー人の問ふ時ーひとのとふときー男たちが妻問いし時
智<弩><壮>士ー茅渟壮士ーちぬをとこー茅渟壮士と
宇奈比<壮>士乃ー菟原壮士のーうなひをとこのー菟原壮士の二人が
廬八燎ー伏屋焚きー[ふせやたき]ー
須酒師競ーすすし競ひーすすしきほひー最後まで競い合い
相結婚ー相よばひーあひよばひー共に求婚したが
為家類時者ーしける時はーしけるときはーその時には
焼大刀乃ー焼太刀のーやきたちのー焼き鍛えた大刀の
手頴押祢利ー手かみ押しねりーたかみおしねりー柄を握り締め
白檀弓ー白真弓ーしらまゆみー白木の弓や
<靫>取負而ー靫取り負ひてーゆきとりおひてー靫を背負って
入水ー水に入りーみづにいりー娘子の為なら水にも
火尓毛将入跡ー火にも入らむとーひにもいらむとー火にも入ろうと
立向ー立ち向ひーたちむかひー相対し
競時尓ー競ひし時にーきほひしときにー争った その時に
吾妹子之ーわぎもこがー娘子が
母尓語久ー母に語らくーははにかたらくー母に言うことに 
倭<文>手纒ー[しつたまき]ー
賎吾之故ーいやしき我が故ーいやしきわがゆゑーつまらない私のために
大夫之ーますらをのー勇士たちが
荒争見者ー争ふ見ればーあらそふみればー争うのを見ていますと
雖生ー生けりともーいけりともー生きていたところで
應合有哉ー逢ふべくあれやーあふべくあれやー一緒になることなど出来ましょうか
<宍>串呂ー[ししくしろ]ー
黄泉尓将待跡ー黄泉に待たむとーよみにまたむとー黄泉でお待ちしておりましょう
隠沼乃ー隠り沼のー[こもりぬの]ー
下延置而ー下延へ置きてーしたはへおきてーどちらの男を選ぶかについては本心を隠したまま
打歎ーうち嘆きーうちなげきーひどく嘆いて
妹之去者ー妹が去ぬればーいもがいぬればー娘子が死んでしまうと
血沼<壮>士ー茅渟壮士ーちぬをとこー茅渟壮士
其夜夢見ーその夜夢に見ーそのよいめにみーはその夜娘子を夢に見
取次寸ーとり続きーとりつづきー後を
追去祁礼婆ー追ひ行きければーおひゆきければー追ってしまったの  後有ー後れたるーおくれたるー残された
菟原<壮>士伊ー菟原壮士いーうなひをとこいー菟原壮士は
仰天ー天仰ぎーあめあふぎー天を仰ぎ
○於良妣ー叫びおらびーさけびおらびー
□地ー地を踏みーつちをふみー地団駄踏んで
牙喫建怒而ーきかみたけびてー歯ぎしりし叫びわめき
如己男尓ーもころ男にーもころをにー相手の男に
負而者不有跡ー負けてはあらじとーまけてはあらじとー負けてなるものかと
懸佩之ー懸け佩きのーかけはきのー肩掛けの
小劔取佩ー小太刀取り佩きーをだちとりはきー剣を佩き
冬△蕷都良ーところづらーあの世まで
尋去祁*婆ー尋め行きければーとめゆきければー娘子の後を追って行ってしまった
親族共ー親族どちーうがらどちーそうして男の親族たちが
射歸集ーい行き集ひーいゆきつどひー寄り集まって
永代尓ー長き代にーながきよにーとこしえの未来にまで
標将為跡ー標にせむとーしるしにせむとー記念にしようと
遐代尓ー遠き代にーとほきよにー遠い将来まで
語将継常ー語り継がむとーかたりつがむとー語り継ごうと
處女墓ー娘子墓ーをとめはかー娘子の墓を
中尓造置ー中に造り置きーなかにつくりおきー真ん中に造り
<壮>士墓ー壮士墓ーをとこはかー壮士の墓を
此方彼方二ーこのもかのもにーその左右に
造置有ー造り置けるーつくりおけるー造り置いたという
故縁聞而ー故縁聞きてーゆゑよしききてーその謂れを聞いて
雖不知ー知らねどもーしらねどもー見知った人ではないけれども
新喪之如毛ー新裳のごともーにひものごともー亡くなったばかりの身内の喪のように
哭泣鶴鴨ー哭泣きつるかもーねなきつるかもー声あげて泣いてしまったことよ
・・・・・・・・





1810 挽歌,作者:高橋虫麻呂歌集,芦屋,兵庫,うない娘子,伝説,妻争い

[題詞](見菟原處女墓歌一首[并短歌])反歌

葦屋之  宇奈比處女之  奥槨乎  徃来跡見者  哭耳之所泣

芦屋の 菟原娘子の 奥城を 行き来と見れば 哭のみし泣かゆ 

あしのやの うなひをとめの おくつきを ゆきくとみれば ねのみしなかゆ
・・・・・・・・
葦屋の菟原処女の墓を

往き来のたびに見れば

声を上げて泣かれてならない
・・・・・・・・




1811 挽歌,作者:高橋虫麻呂歌集,芦屋,兵庫,うない娘子,伝説,妻争い

[題詞]((見菟原處女墓歌一首[并短歌])反歌)

墓上之  木枝靡有  如聞  陳努<壮>士尓之  <依>家良信母

墓の上の 木の枝靡けり 聞きしごと 茅渟壮士にし 寄りにけらしも 

はかのうへの このえなびけり ききしごと ちぬをとこにし よりにけらしも
・・・・・・・・
墓の上の木の枝が片方に靡いている

噂に聞いたように

娘子は茅渟壮士に心が寄っていたらしいよ
・・・・・・・・


1804 挽歌,作者:田辺福麻呂歌集,哀悼,悲嘆,枕詞

[題詞]哀弟死去作歌一首[并短歌]

・・・・・・・・
↓[原文]ー[訓読]ー[仮名]ー
父母賀ー父母がーちちははがー父母が
成乃任尓ー成しのまにまにーなしのまにまにー同じという縁で
箸向ー箸向ふー[はしむかふ]ー2本の箸のようにいつも一緒だった
弟乃命者ー弟の命はーおとのみことはー弟は
朝露乃ー朝露のー[あさつゆの]ー朝露のように 
銷易杵壽ー消やすき命ーけやすきいのちーはかない命で
神之共ー神の共ーかみのむたー神様が定めた寿命には
荒競不勝而ー争ひかねてーあらそひかねてー勝てませんでした
葦原乃ー葦原のー[あしはらの]ー葦原の
水穂之國尓ー瑞穂の国にーみづほのくににー瑞穂の国には
家無哉ー家なみかーいへなみかー帰る家が無いからか
又還不来ーまた帰り来ぬーまたかへりこぬー帰ってはこない
遠津國ー遠つ国ーとほつくにー遠い国に
黄泉乃界丹ー黄泉の境にーよみのさかひにー黄泉の境めに
蔓都多乃ー延ふ蔦のーはふつたのー延ふ蔦のように
各<々>向々ーおのが向き向きーおのがむきむきー思うままに向かって別れて逝きました
天雲乃ー天雲のー[あまくもの]ー
別石徃者ー別れし行けばーわかれしゆけばー
闇夜成ー闇夜なすー[やみよなす]ー闇夜にいるように
思迷匍匐ー思ひ惑はひーおもひまとはひー思い惑って
所射十六乃ー射ゆ鹿のー[いゆししの]ー
意矣痛ー心を痛みーこころをいたみー心が痛み
葦垣之ー葦垣のー[あしかきの]ー
思乱而ー思ひ乱れてーおもひみだれてー思い乱れて
春鳥能ー春鳥のー[はるとりの]ー
啼耳鳴乍ー哭のみ泣きつつーねのみなきつつー泣いて
味澤相ー[あぢさはふ]ー
宵晝不<知>ー夜昼知らずーよるひるしらずー夜昼なく
蜻蜒火之ー[かぎろひの]ー
心所燎管ー心燃えつつーこころもえつつー心が燃えながら
悲悽別焉ー嘆く別れをーなげくわかれをー別れを嘆いたのです
・・・・・・・・


1805 挽歌,作者:田辺福麻呂歌集,哀悼,悲嘆

[題詞](哀弟死去作歌一首[并短歌])反歌

別而裳  復毛可遭  所念者  心乱  吾戀目八方 [一云 意盡而]

別れても またも逢ふべく 思ほえば 心乱れて 我れ恋ひめやも [一云 心尽して] 

わかれても またもあふべく おもほえば こころみだれて,あれこひめやも,[こころつくして]
・・・・・・・・
別れてもなお逢える 

そう信じられるなら

こんなにも心乱れることはないのに
・・・・・・・・



1806 挽歌,作者:田辺福麻呂歌集,哀悼,悲嘆,枕詞

[題詞]((哀弟死去作歌一首[并短歌])反歌)

蘆桧木笶  荒山中尓  送置而  還良布見者  情苦喪

あしひきの 荒山中に 送り置きて 帰らふ見れば 心苦しも 

[あしひきの] あらやまなかに おくりおきて かへらふみれば こころぐるしも
・・・・・・・・
荒れた山の中に置き

野辺の送りをした人々が

帰ってくるのを見ると心が苦しい
・・・・・・・・



サ1807 挽歌,作者:高橋虫麻呂歌集,葛飾,伝説,自殺,惜別,枕詞

[題詞]詠勝鹿真間娘子歌一首[并短歌]

・・・・・・・・
↓[原文]ー[訓読]ー[仮名]ー
鶏鳴ー鶏が鳴くー[とりがなく]ー
吾妻乃國尓ー東の国にーあづまのくににー坂東の國に
古昔尓ー古へにーいにしへにー昔
有家留事登ーありけることとーあったことだと
至今ー今までにーいままでにー今まで
不絶言来ー絶えず言ひけるーたえずいひけるー絶えず語り継がれてきた
勝<壮>鹿乃ー勝鹿のーかつしかのー葛飾の
真間乃手兒奈我ー真間の手児名がーままのてごながー真間の手児奈は
麻衣尓ー麻衣にーあさぎぬにー麻の衣に
青衿著ー青衿着けーあをくびつけー粗末な青襟をつけ
直佐麻乎ーひたさ麻をーひたさををーただの麻を
裳者織服而ー裳には織り着てーもにはおりきてー裳に織って着て
髪谷母ー髪だにもーかみだにもー髪も
掻者不梳ー掻きは梳らずーかきはけづらずー櫛を入れず 
履乎谷ー沓をだにーくつをだにー沓すらも
不著雖行ーはかず行けどもーはかずゆけどもー履かずに行くのに 
錦綾之ー錦綾のーにしきあやのー綾錦に
中丹*有ー中に包めるーなかにつつめるー包まれ
齊兒毛ー斎ひ子もーいはひこもー大事に育てられた姫も
妹尓将及哉ー妹にしかめやーいもにしかめやーこの娘にとうてい及ばない
望月之ー望月のーもちづきのー望月のような
満有面輪二ー足れる面わにーたれるおもわにー満ち足りた顔立ち
如花ー花のごとーはなのごとー花のように
咲而立有者ー笑みて立てればーゑみてたてればー笑みを浮かべて立てば
夏蟲乃ー夏虫のーなつむしのー夏虫が
入火之如ー火に入るがごとーひにいるがごとー火に飛び込むように
水門入尓ー港入りにーみなといりにー港に入ろうと
船己具如久ー舟漕ぐごとくーふねこぐごとくー舟が漕ぎ入るように
歸香具礼ー行きかぐれー[ゆきかぐれ]ー寄り集まりー「かぐれ(香具礼)」は語義未詳、「寄り集まる」意とされている。
人乃言時ー人の言ふ時ーひとのいふときー男たちは言い寄った
幾時毛ーいくばくもーどうせ長くは
不生物<呼>ー生けらじものをーいけらじものをー生きられはしないのに
何為跡歟ー何すとかーなにすとかー何としたことか
身乎田名知而ー身をたな知りてーみをたなしりてー自分の身上を悟り
浪音乃ー波の音のーなみのおとのー波音の
驟湊之ー騒く港のーさわくみなとのー波騒ぐ湊の
奥津城尓ー奥城にーおくつきにー墓に
妹之臥勢流ー妹が臥やせるーいもがこやせるー娘子は臥せっておいでになる
遠代尓ー遠き代にーとほきよにー遠い昔に
有家類事乎ーありけることをーありけることをーあったことなのに
昨日霜ー昨日しもーきのふしもー昨日に
将見我其登毛ー見けむがごともーみけむがごともー見たように
所念可聞ー思ほゆるかもーおもほゆるかもー思われることよ
・・・・・・・・



サ1808 挽歌,作者:高橋虫麻呂歌集,葛飾,伝説,自殺,惜別

[題詞](詠勝鹿真間娘子歌一首[并短歌])反歌

勝<壮>鹿之  真間之井見者  立平之  水は家<武>  手兒名之所念

勝鹿の 真間の井見れば 立ち平し 水汲ましけむ 手児名し思ほゆ 

かつしかの ままのゐみれば たちならし みづくましけむ てごなしおもほゆ
・・・・・・・・
葛飾の真間の井を見れば

幾度も通って水を汲まれたであろうと

手児名のことが偲ばれることであるよ
・・・・・・・・
手児名の、「名」は愛称、「手児」が東國語の「娘」のこと。
古代では、特に祟りや死霊を恐れた。
それを封じ込め、消滅させる鎮魂の行事を必要とした。
後世、土偶などを生贄代わりに使い、必ず体の一部を破壊して死霊再生の阻止を図った。完全な土偶が出土した例はまだないという。
神代の祭礼では手児名のような処女が殺されていたと思われる。
この手児名は水死に。すべてがそうとは言えないが、目障りな弱者は、「生贄・身代り」の名で、おおっぴらに殺されていたのではないだろうか。それへの鎮魂のためにもまた、作られた「物語り」が必要だったと思われてならない。




挽歌



1795 挽歌,宇治若郎子,京都,宇治

[題詞]宇治若郎子宮所歌一首

妹等許  今木乃嶺  茂立  嬬待木者  古人見祁牟

妹らがり 今木の嶺に 茂り立つ 嬬松の木は 古人見けむ 

いもらがり いまきのみねに しげりたつ つままつのきは ふるひとみけむ
・・・・・・・・・
妻の家に今きたという 今木の峰に

枝葉を茂らせて立つ松を夫の訪れを待つ妻と

昔の人もそのように思って見たであろうか
・・・・・・・・・



1796 挽歌,作者:柿本人麻呂歌集,紀伊,和歌山,行幸,恋情,亡妻

[題詞]紀伊國作歌四首

黄葉之  過去子等  携  遊礒麻  見者悲裳

黄葉の 過ぎにし子らと 携はり 遊びし礒を 見れば悲しも 

もみちばの すぎにしこらと たづさはり あそびしいそを みればかなしも
・・・・・・・・・
黄葉が散り過ぎるように逝った妻と

かつて手を取り合い遊んだこの黒江の磯は

ただ見るだけで悲しいことよ
・・・・・・・・・




1797 挽歌,作者:柿本人麻呂歌集,紀伊,和歌山,行幸,悲嘆,亡妻

[題詞](紀伊國作歌四首)

塩氣立  荒礒丹者雖在  徃水之  過去妹之  方見等曽来

潮気立つ 荒礒にはあれど 行く水の 過ぎにし妹が 形見とぞ来し 

[しほけたつ ありそにはあれど ゆくみづの] すぎにしいもが かたみとぞこし
・・・・・・・・・
ここは潮の香りが立つ荒磯ではあるが

流れて帰らぬ水のようにこの世を去った

妻の形見 妻の思い出の土地としてやって来た
・・・・・・・・・



1798 挽歌,作者:柿本人麻呂歌集,紀伊,和歌山,行幸,悲嘆,恋情,亡妻

[題詞](紀伊國作歌四首)

古家丹  妹等吾見  黒玉之  久漏牛方乎  見佐府<下>

いにしへに 妹と我が見し ぬばたまの 黒牛潟を 見れば寂しも 

いにしへに いもとわがみし [ぬばたまの] くろうしがたを みればさぶしも
・・・・・・・・・
その昔妻と二人で見たこの黒牛潟

独りで見ると耐えようもなく寂しいことよ
・・・・・・・・・



サ1799 挽歌,作者:柿本人麻呂歌集,紀伊,和歌山,行幸,悲嘆,恋情,亡妻

[題詞](紀伊國作歌四首)

<玉>津嶋  礒之裏<未>之  真名<子>仁文  尓保比去名  妹觸險

玉津島 礒の浦廻の 真砂にも にほひて行かな 妹も触れけむ 

たまつしま いそのうらみの まなごにも にほひてゆかな いももふれけむ
・・・・・・・・・
玉津島の磯の真砂を

身を擦りつけて

砂の色に染まって行こう

妻が触れた磯の真砂だもの
・・・・・
先立った妻よ
痛まし
情けなし
わが魂の叫びを聞いてくれ
誰にも言えない
誰にも見せられない
心底に納めたはずの
わが魂の真情を
・・・・・・・・・
* 玉津島。玉津島姫は、衣通郎姫と同一視された。また和歌の神の精神をたまつ(保つ・溜つ)州でつながる島として歌人たちに崇拝された。(玉津島神社・稚日女尊(わかひるめのみこと)・神功皇后・玉津島姫を祀る)
* 和歌山市和歌の浦にある小島。(歌枕)。 現在は妹背山と呼ばれている。* 紀ノ川下流の名勝地。加太、玉津島、若の浦、名草山、黒牛潟、名高の浦
* 奈良・平安時代の玉津島は海上に浮かぶ小島であって、潮の干満で陸と続いたり離れたりする景観があった。
『若浦に 潮滿ち來れば 潟を無み 葦邊を指して 鶴鳴き渡る』 山部赤人
* 「うら‐み」浦廻/浦回。「み」は動詞「み(廻)る」の連用形。曲がりめぐること、そのようになっている地形。舟で浦を漕ぎ巡ること。
* 「の」は格助。所在を示す。
* 「ま‐さご」真砂。細かい砂。まなご。いさご。
* 「に‐も」は、格助詞「に」に係助詞「も」の付いたもの。場所・時・対象・比較の基準など、格助詞「に」の意味に、添加や許容などの「も」の意味が加わったもの。
* 「にほひ」は、美しい色で映えるが原義。(他ハ下二)
* 「て」は接助。
* 「行か」は動詞「行く」の未然形。
* 「な」は終助。上代語、自己の意志・希望を表す。動詞・助動詞の未然形に付く。
* 「妹」は妻。今は亡き妻。
* 「けむ」は、過去のある動作・状態を推量する意を表す。



1800 挽歌,作者:田辺福麻呂歌集,行路死人,箱根,静岡,羈旅,鎮魂,枕詞

[題詞]過足柄坂見死人作歌一首

・・・・・・・・・
[原文]ー[訓読]ー[仮名]ー
小垣内之ー小垣内のー[をかきつの]ー
麻矣引干ー麻を引き干しーあさをひきほしー庭で育てた 麻を引き抜いて干し
妹名根之ー妹なねがーいもなねがー愛しい妻が<「なね」は肉親や恋人への愛称。>
作服異六ー作り着せけむーつくりきせけむー織って着せてくれた
白細乃ー白栲のー[しろたへの]ー
紐緒毛不解ー紐をも解かずーひもをもとかずー白い着物の紐も解かないまま
一重結ー一重結ふーひとへゆふー一廻りの
帶矣三重結ー帯を三重結ひーおびをみへゆひー帯を三廻りに結ぶほど痩せ細って
<苦>伎尓ー苦しきにーくるしきにー辛い仕事に
仕奉而ー仕へ奉りてーつかへまつりてー従事して務めを果たし
今谷裳ー今だにもーいまだにもー今すぐにも  
國尓退而ー国に罷りてーくににまかりてー国に帰って
父妣毛ー父母もーちちははもー両親や
妻矣毛将見跡ー妻をも見むとーつまをもみむとー妻を見ようと
思乍ー思ひつつーおもひつつー思いながら
徃祁牟君者ー行きけむ君はーゆきけむきみはー道を行ったあなたは
鳥鳴ー鶏が鳴くー[とりがなく]ー
東國能ー東の国のーあづまのくにのー東国の
恐耶ー畏きやーかしこきやー祟りが恐ろしい
神之三坂尓ー神の御坂にーかみのみさかにー神の御坂で
和霊乃ー和妙のー[にきたへの]ーやわらかな
服寒等丹ー衣寒らにーころもさむらにー衣も寒々と
烏玉乃ー[ぬばたまの]ー
髪者乱而ー髪は乱れてーかみはみだれてー髪は乱れて
邦問跡ー国問へどーくにとへどー国を問うても
國矣毛不告ー国をも告らずーくにをものらずー国の名を告げず
家問跡ー家問へどーいへとへどー家を問うても
家矣毛不云ー家をも言はずーいへをもいはずー家の名も言はず
益荒夫乃ーますらをのー立派な男子が
去能進尓ー行きのまにまにーゆきのまにまにー道を行くままに
此間偃有ーここに臥やせるーここにこやせるーここに臥せっておられる
・・・・・・・・・
[左注](右七首田邊福麻呂之歌集出)


・・・・・・・・・
<以下訳分転載>http://homepage3.nifty.com/enou/unai.htm
1801 挽歌,作者:田辺福麻呂歌集,兵庫県,芦屋,妻争い,鎮魂,伝説,うない娘子

[題詞]過葦屋處女墓時作歌一首[并短歌]

・・・・・・・・・
[原文]ー[訓読]ー[仮名]ー
古之ー古へのーいにしへのー昔
益荒丁子ーますら壮士のーますらをとこのー男たちが
各競ー相競ひーあひきほひー競って求婚したという
妻問為祁牟ー妻問ひしけむーつまどひしけむー
葦屋乃ー葦屋のーあしのやのー芦屋の
菟名日處女乃ー菟原娘子のーうなひをとめのー菟原娘子の
奥城矣ー奥城をーおくつきをー墓の前で
吾立見者ー我が立ち見ればーわがたちみればー
永世乃ー長き世のーながきよのー長く  
語尓為乍ー語りにしつつーかたりにしつつー語り継いで
後人ー後人のーのちひとのー後の人たちiにも
偲尓世武等ー偲ひにせむとーしのひにせむとー偲んでもらおうと
玉桙乃ー玉桙のー[たまほこの]ー
道邊近ー道の辺近くーみちののへちかくー道端に
磐構ー岩構へーいはかまへー岩を組んで
作冢矣ー造れる塚をーつくれるつかをー造った塚は
天雲乃ー天雲のー[あまくもの]ー
退部乃限ーそくへの極みーそくへのきはみー津々浦々まで知れわたり
此道矣ーこの道をーこのみちをーこの道を
去人毎ー行く人ごとにーゆくひとごとにー通る人はみな
行因ー行き寄りてーゆきよりてー寄り道して
射立嘆日ーい立ち嘆かひーいたちなげかひー墓の前に立って嘆き
或人者ーある人はーあるひとはー人によっては
啼尓毛哭乍ー哭にも泣きつつーねにもなきつつー声をあげて泣き
語嗣ー語り継ぎーかたりつぎー語り継ぎ
偲継来ー偲ひ継ぎくるーしのひつぎくるー偲び続けてきた
處女等賀ー娘子らがーをとめらがー乙女の
奥城所ー奥城処ーおくつきところー墓
吾并ー我れさへにーわれさへにー私でさえ
見者悲喪ー見れば悲しもーみればかなしもー悲しくなります
古思者ー古へ思へばーいにしへおもへばー昔を思うと
・・・・・・・・・
[左注](右七首田邊福麻呂之歌集出)



1802 挽歌,作者:田辺福麻呂歌集,兵庫県,芦屋,妻争い,鎮魂,伝説,うない娘子

[題詞](過葦屋處女墓時作歌一首[并短歌])反歌

古乃  小竹田丁子乃  妻問石  菟會處女乃  奥城叙此

古への 信太壮士の 妻問ひし 菟原娘子の 奥城ぞこれ 

いにしへの しのだをとこの つまどひし うなひをとめの おくつきぞこれ
・・・・・・・・・
昔の信太壮士が妻問いしたという菟原娘子の墓はここなのだ
・・・・・・・・・



1803 挽歌,作者:田辺福麻呂歌集,兵庫県,芦屋,妻争い,鎮魂,伝説,うない娘子

[題詞]((過葦屋處女墓時作歌一首[并短歌])反歌)

語継  可良仁文幾許  戀布矣  直目尓見兼  古丁子

語り継ぐ からにもここだ 恋しきを 直目に見けむ 古へ壮士 

かたりつぐ からにもここだ こほしきを ただめにみけむ いにしへをとこ
・・・・・・・・・
語り継ぐだけでもこんなに恋しいのに

直接娘子を目にした昔の男はどんなに恋しく思っただろう
・・・・・・・・・


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