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2226 秋雑歌 [題詞](詠月) 無心 秋月夜之 物念跡 寐不所宿 照乍本名 こころなき あきのつくよの ものもふと いのねらえぬに てりつつもとな ・・・・・・・・・
思いやりのない秋の月夜か 物思いに沈んで眠れないのに あかあかと照り映えてくれることよ ・・・・・・・・・ 2227 秋雑歌 [題詞](詠月) 不念尓 四具礼乃雨者 零有跡 天雲霽而 月夜清焉 おもはぬに しぐれのあめは ふりたれど あまくもはれて つくよさやけし ・・・・・・・・・
思いがけずしぐれが降ったが いつか空を覆っていた雲が晴れて 爽やかな月夜になったことだわい ・・・・・・・・・ 2228 秋雑歌 [題詞](詠月) 芽子之花 開乃乎再入緒 見代跡可聞 月夜之清 戀益良國 はぎのはな さきのををりを みよとかも つくよのきよき こひまさらくに ・・・・・・・・・
萩の花がたわわに咲き乱れるのを 見よとばかりに今宵の月の清らかさよ かえって恋しさが募るというのに ・・・・・・・・・ サ2229 秋雑歌 [題詞](詠月) 白露乎 玉作有 九月 在明之月夜 雖見不飽可聞 しらつゆを たまになしたる ながつきの ありあけのつくよ みれどあかぬかも ・・・・・・・・・
* 「有明」は「月が空に残ったままで夜が明けようとする頃」の意。白露を玉にする晩秋の 明けの空に残る明けの月かげ いくら見ても見飽きることはない ・・・・・・・・・ * 「月夜」は「月のある夜」。 * 「見れど」; 見るけれども。 「見れ」は、マ行上一段動詞「見る」の已然形。 「ど」は、逆接の接続助詞。 * 「飽かぬかも」; 飽きないものだなあ 「飽か」は、カ行四段活用動詞「飽く」の未然形。 「ぬ」は、打消の助動詞「ず」の連体形。 「かも」は、詠嘆の終助詞。 2230 秋雑歌 [題詞]詠風 戀乍裳 稲葉掻別 家居者 乏不有 秋之暮風 こひつつも いなばかきわけ いへをれば ともしくもあらず あきのゆふかぜ ・・・・・・・・・
恋い焦がれながら稲田の家に住んでいても 寂しくないよ 稲葉をかきわけて 秋の夕風が絶え間なく吹いてくる それはあの人の風だから ・・・・・・・・・ 2231 秋雑歌 [題詞](詠風) 芽子花 咲有野邊 日晩之乃 鳴奈流共 秋風吹 はぎのはな さきたるのへに ひぐらしの なくなるなへに あきのかぜふく ・・・・・・・・・
萩の花は咲き ひぐらしが鳴く 秋を知らせるこの野辺に 涼しい風が吹いている ・・・・・・・・・ 2232 秋雑歌 [題詞](詠風) 秋山之 木葉文未 赤者 今旦吹風者 霜毛置應久 あきやまの このはもいまだ もみたねば けさふくかぜは しももおきぬべく ・・・・・・・・・
秋とはいっても 山の木の葉はまだ色づいてはいない けれども今朝吹く風は 霜を置きそうなほど冷たい ・・・・・・・・・ 2233 秋雑歌,奈良,高円 [題詞]詠芳 高松之 此峯迫尓 笠立而 盈盛有 秋香乃吉者 たかまつの このみねもせに かさたてて みちさかりたる あきのかのよさ ・・・・・・・・・
高圓の峰も狭ましとばかりに いっぱいに笠を立てて 満ち盛る松茸の香りのよさよ ・・・・・・・・・ 2234 秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集 [題詞]詠雨 一日 千重敷布 我戀 妹當 為暮零礼見 ひとひには ちへしくしくに あがこふる いもがあたりに しぐれふれみむ ・・・・・・・・・
一日のうち何度恋い焦がれることか 時雨れがしくしくと降り続くように そう伝えてくれ あの子の家のあたりに降る時雨よ ・・・・・・・・・ 2235 秋雑歌 [題詞](詠雨) 秋田苅 客乃廬入尓 四具礼零 我袖沾 干人無二 あきたかる たびのいほりに しぐれふり わがそでぬれぬ ほすひとなしに ・・・・・・・・・
秋田刈る仮の草家に時雨が降れば 袖も衣も濡れ放題だよ そばに君が居てくれたら平気だけど ・・・・・・・・・ 2236 秋雑歌,枕詞 [題詞](詠雨) 玉手次 不懸時無 吾戀 此具礼志零者 沾乍毛将行 [たまたすき] かけぬときなし あがこひは しぐれしふらば ぬれつつもゆかむ ・・・・・・・・・
心に懸けぬ時はない わたしの恋 時雨が降ったら濡れながら行こう あの娘のもとへ ・・・・・・・・・ 2237 秋雑歌 [題詞](詠雨) 黄葉乎 令落四具礼能 零苗尓 夜副衣寒 一之宿者 もみちばを ちらすしぐれの ふるなへに よさへぞさむき ひとりしぬれば ・・・・・・・・・
* 里山の紅葉の代表は楓、その観賞種は江戸時代から。黄葉を散らす冷たい時雨が降っている 寝床といってもなおさら寒いよ 妻がいない独り寝だもんな ・・・・・・・・・ 2238 秋雑歌 [題詞]詠霜 天飛也 鴈之翅乃 覆羽之 何處漏香 霜之零異牟 [あまとぶや] かりのつばさの おほひばの いづくもりてか しものふりけむ ・・・・・・・・・
* 「覆い羽」は「たくさんの鳥が羽を広げて天空を覆い尽くすこと」。空を覆い尽くして雁が飛んでゆく 雁の翼でいっぱいになっている空の どこの隙間から霜が 一面に降ってくるのだろう ・・・・・・・・・ * 「か」は疑問係助詞。結びは過去推量の助動詞「けん」で連体形。(〜たというのか)。 |
・・・万葉集(〃)
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2201 秋雑歌,奈良県 [題詞](詠黄葉) 妹許跡 馬鞍置而 射駒山 撃越来者 紅葉散筒 いもがりと うまにくらおきて いこまやま うちこえくれば もみちちりつつ ・・・・・・・・・
* 「妹がり」とは「妹の許に」の意。妻の許へと馬に鞍を置いて生駒の山を越えて行くところ 紅葉の葉が止むことなく散り続けていた ・・・・・・・・・ * 「うち」は語調を整えるための接頭語。 * 「つつ」は反復の接続助詞。 2202 秋雑歌 [題詞](詠黄葉) 黄葉為 時尓成良之 月人 楓枝乃 色付見者 もみちする ときになるらし つきひとの かつらのえだの いろづくみれば ・・・・・・・・・
* 桂は月に生える樹とか。月人も故郷を懐かしく思うだろうか。黄葉になる時になるらしい 月人の桂の高木も色付くのを見ると ・・・・・・・・・ 2203 秋雑歌,奈良,高円 [題詞](詠黄葉) 里異 霜者置良之 高松 野山司之 色付見者 さとゆけに しもはおくらし たかまつの のやまづかさの いろづくみれば ・・・・・・・・・
人里にもこんなに霜は降るのか 景色が変わってしまったよ すがすがしいな 高円の小高いあたりが 一段と色付いているのを見ると ・・・・・・・・・ 2204 秋雑歌 [題詞](詠黄葉) 秋風之 日異吹者 露重 芽子之下葉者 色付来 あきかぜの ひにけにふけば つゆをおもみ はぎのしたばは いろづきにけり ・・・・・・・・・
秋風が段々強く吹くせいで 露がついて重いと 萩の下葉が色変わりしているよ ・・・・・・・・・ 2205 秋雑歌 [題詞](詠黄葉) 秋芽子乃 下葉赤 荒玉乃 月之歴去者 風疾鴨 あきはぎの したばもみちぬ [あらたまの] つきのへぬれば かぜをいたみかも ・・・・・・・・・
秋萩の下の葉まで色づいてきた 月日がたって風が強くなったからだろうか ・・・・・・・・・ 2206 秋雑歌,飛鳥,枕詞 [題詞](詠黄葉) 真十鏡 見名淵山者 今日鴨 白露置而 黄葉将散 [まそかがみ] みなぶちやまは けふもかも しらつゆおきて もみちちるらむ ・・・・・・・・・
南淵山では今日あたり 白露を置いて黄葉が 散っていることであろう ・・・・・・・・・ 2207 秋雑歌,奈良県,桜井市 [題詞](詠黄葉) 吾屋戸之 淺茅色付 吉魚張之 夏身之上尓 四具礼零疑 わがやどの あさぢいろづく [よなばりの] なつみのうへに しぐれふるらし ・・・・・・・・・
* 「なつみ」は泥(なづ)むの名詞形で、川の淀んでいる淵の普通名詞。わが家の浅茅が色づいた なつみの辺りには 冷たい時雨が降っているようだ ・・・・・・・・・ 2208 秋雑歌,枕詞 [題詞](詠黄葉) 鴈鳴之 寒鳴従 水茎之 岡乃葛葉者 色付尓来 かりがねの さむくなきしゆ [みづくきの] をかのくずはは いろづきにけり ・・・・・・・・・
雁の鳴き声が寒々と聞こえるから 岡の葛の葉は色づいたであろう ・・・・・・・・・ 2209 秋雑歌 [題詞](詠黄葉) 秋芽子之 下葉乃黄葉 於花継 時過去者 後将戀鴨 あきはぎの したばのもみち はなにつぎ ときすぎゆかば のちこひむかも ・・・・・・・・・
秋萩の下葉の美しい黄葉が 花の散った後に続くが やがてその時も過ぎてしまったら 後にはこの黄葉も恋しい冬が来る ・・・・・・・・・ 2210 秋雑歌,飛鳥 [題詞](詠黄葉) 明日香河 黄葉流 葛木 山之木葉者 今之<落>疑 あすかがは もみちばながる かづらきの やまのこのはは いましちるらし ・・・・・・・・・
* 「し」は強調の副助詞。明日香川に紅葉した葉が流れている 葛城山の木々の葉はまさに今散っているのであろう ・・・・・・・・・ * 「らし」は詠嘆の終助詞。「らむ」・「かも」。 2211 秋雑歌,奈良県,生駒郡 [題詞](詠黄葉) 妹之紐 解登結而 立田山 今許曽黄葉 始而有家礼 いもがひも とくとむすびて たつたやま いまこそもみち そめてありけれ ・・・・・・・・・
* 「紐」は「秘緒」、古代では緒は霊能を秘めたものとされた。いとしい妻の下紐をきちんと結んでおかないと 龍田の山の黄葉も染め始めているから 暖かくして冷えないようにね ・・・・・・・・・ * とくとむすびて(解登結而) http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#532とくとむすびて(解登結而) 2212 秋雑歌,奈良 [題詞](詠黄葉) 鴈鳴之 <寒>喧之従 春日有 三笠山者 色付丹家里 かりがねの さむくなきしゆ かすがなる みかさのやまは いろづきにけり ・・・・・・・・・
雁の啼き声が寒々しく聞こえだしてから 春日の三笠の山の木々の梢は 紅葉に色付きだしてきたことよ ・・・・・・・・・ |
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2186 秋雑歌 [題詞](詠黄葉) 秋去者 置白露尓 吾門乃 淺茅何浦葉 色付尓家里 あきされば おくしらつゆに わがかどの あさぢがうらば いろづきにけり ・・・・・・・・
* 「さる」は特に季節の場合「近づく、来る」の意を表す。秋が深まり一面に置く白露で 吾が家の茅萱(チガヤ)の葉末は すっかり色づいてしまった ・・・・・・・・ * 「浅茅」とは「丈の低い茅萱(ちがや)」のこと。 * 「末葉」は「草や木の茎や枝の先の方の葉」のこと。 * 「ば」を恒常条件と見れば「また今年もこんな季節になった」に。 2187 秋雑歌,地名,枕詞 [題詞](詠黄葉) 妹之袖 巻来乃山之 朝露尓 仁寶布黄葉之 散巻惜裳 [いもがそで] まききのやまの あさつゆに にほふもみちの ちらまくをしも ・・・・・・・・
手枕を巻いた愛しい人が朝にはそそくさと立ち去るのを見送らねばならない妻の袖を巻くという巻向山の朝露に 美しく色づいた紅葉がもう散りはじめるのかなあ それはいかにも惜しいことであるよ ・・・・・・・・ * 「散らまく」の「まく」は上代の推量の意。 2188 秋雑歌 [題詞](詠黄葉) 黄葉之 丹穂日者繁 然鞆 妻梨木乎 手折可佐寒 もみちばの にほひはしげし しかれども つまなしのきを たをりかざさむ ・・・・・・・・
* 「妻梨の木」に「妻無し」と「梨の木」が掛けられている。黄葉はきれいに繁っているけれど 私は梨の木の枝を折って頭にかざろう ・・・・・・・・ 2189 秋雑歌 [題詞](詠黄葉) 露霜乃 寒夕之 秋風丹 黄葉尓来毛 妻梨之木者 つゆしもの さむきゆふへの あきかぜに もみちにけらし つまなしのきは ・・・・・・・・
露霜が降る寒い夕方の秋風に 紅葉してしまったろうな梨の木は ・・・・・・・・ 2190 秋雑歌,桜井市 [題詞](詠黄葉) 吾門之 淺茅色就 吉魚張能 浪柴乃野之 黄葉散良新 わがかどの あさぢいろづく [よなばりの] なみしばののの もみちちるらし ・・・・・・・・
我が家の門にある茅が色づいた 吉隠の浪柴の野では もう黄葉が散っていることだろう ・・・・・・・・ 2191 秋雑歌,奈良,高円 [題詞](詠黄葉) 鴈之鳴乎 聞鶴奈倍尓 高松之 野上<乃>草曽 色付尓家留 かりがねを ききつるなへに たかまつの ののうへのくさぞ いろづきにける ・・・・・・・・
あたりに雁の声をきいて 秋の深さを感じるこのごろ 高圓の野辺の草も秋の色になったことよ ・・・・・・・・ 2192 秋雑歌 [題詞](詠黄葉) 吾背兒我 白細衣 徃觸者 應染毛 黄變山可聞 わがせこが しろたへころも ゆきふれば にほひぬべくも もみつやまかも ・・・・・・・・
わが背の君が通りかかって触れたなら 着ている真っ白な衣が 紅葉の色に染まってしまうばかりに 一面見事な紅錦のお山であることですよ ・・・・・・・・ 2193 秋雑歌 [題詞](詠黄葉) 秋風之 日異吹者 水莫能 岡之木葉毛 色付尓家里 あきかぜの ひにけにふけば [みづくきの] をかのこのはも いろづきにけり ・・・・・・・・
* 「日にけに」は「日一日と」の意。秋の風が一日一日と吹くようになって あの岡の上に立っている木に茂る葉も 少しずつ吹き染めて行かれるかのように 鮮やかに色づいて来た ・・・・・・・・ 2194 秋雑歌,奈良県,生駒郡,枕詞 [題詞](詠黄葉) 鴈鳴乃 来鳴之共 韓衣 裁田之山者 黄始南 かりがねの きなきしなへに [からころも] たつたのやまは もみちそめたり ・・・・・・・・
雁が渡って来て鳴き始めたら はやくも 韓衣を裁つという名の 龍田の山は色づき始めたよ ・・・・・・・・ 2195 秋雑歌,奈良 [題詞](詠黄葉) 鴈之鳴 聲聞苗荷 明日従者 借香能山者 黄始南 かりがねの こゑきくなへに あすよりは かすがのやまは もみちそめなむ ・・・・・・・・
雁の鳴き声が聞えるようになったからには 明日からは春日の山は色づきはじめるだろう ・・・・・・・・ 2196 秋雑歌 [題詞](詠黄葉) 四具礼能雨 無間之零者 真木葉毛 争不勝而 色付尓家里 しぐれのあめ まなくしふれば まきのはも あらそひかねて いろづきにけり ・・・・・・・・
しぐれの雨がしきりに降るので 真木の葉も耐え切れずに色づきました ・・・・・・・・ 2197 秋雑歌,福岡県,太宰府 [題詞](詠黄葉) 灼然 四具礼乃雨者 零勿國 大城山者 色付尓家里 [謂大城山者 在筑前<國>御笠郡之大野山頂 号曰大城者也]
[謂大城山者 在筑前<國>御笠郡之大野山頂 号曰大城者也]
いちしろく しぐれのあめは ふらなくに おほきのやまは いろづきにけり・・・・・・・・
目立って降るわけでもないのに 冷たい時雨のせいで 大城の山はもう色づいてしまった ・・・・・・・・ 2198 秋雑歌,三重県 [題詞](詠黄葉) 風吹者 黄葉散乍 小雲 吾松原 清在莫國 かぜふけば もみちちりつつ すくなくも あがのまつばら きよくあらなくに ・・・・・・・・
* 「すくなくも」(副詞)は、形容詞「すくなし」の連用形に係助詞「も」のついたもの。(下に打消しの語・反語を伴って)非常に・・だ。いささか・・どころではない。風が吹くたびに紅葉が盛んに散って この吾の松原の眺めは 他に比べようもないほど 清く澄み渡って美しいことだ ・・・・・・・・ 2199 秋雑歌,奈良 [題詞](詠黄葉) 物念 隠座而 今日見者 春日山者 色就尓家里 ものもふと こもらひをりて けふみれば かすがのやまは いろづきにけり ・・・・・・・・
恋の物思いにふさぎこんで 家に引きこもっていたが 今日ひさびさに見ると 春日の山はいつの間にか見事に色づいている ・・・・・・・・ 2200 秋雑歌,枕詞 [題詞](詠黄葉) 九月 白露負而 足日木乃 山之将黄變 見幕下吉 ながつきの しらつゆおひて [あしひきの] やまのもみたむ みまくしもよし ・・・・・・・・
九月ながつきの白露に濡れて 山の彩りはますます 見栄えがよくなることであろうよ ・・・・・・・・ |
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2174 秋雑歌 [題詞](詠露) 秋田苅 借廬乎作 吾居者 衣手寒 露置尓家留 あきたかる かりいほをつくり わがをれば ころもでさむく つゆぞおきにける ・・・・・・・・・
* いお【庵/廬/菴】 「いおり1」に同じ。いおり【庵/廬/菴】 稲刈り用に草木を編んで造った仮小屋で 夜を過ごせば冷え冷え寒く 衣に露玉までこぼれることよ ・・・・・・・・・ 草木や竹などを材料としてつくった質素な小屋。僧・隠者などが住む小さな住居や、農作業などの仮小屋。また、自分の家を謙遜していう。草庵(そうあん)。 * 「ける」は詠嘆の助動詞「けり」の連体形で、係助詞「ぞ」(強調)の結び。 2175 秋雑歌 [題詞](詠露) 日来之 秋風寒 芽子之花 令散白露 置尓来下 このころの あきかぜさむし はぎのはな ちらすしらつゆ おきにけらしも ・・・・・・・・・
このところの秋風は肌をさすように寒い 萩の花を散らす白露も降りているのだろう ・・・・・・・・・ 2176 秋雑歌 [題詞](詠露) 秋田苅 苫手揺奈利 白露<志> 置穂田無跡 告尓来良思 [一云 告尓来良思母] あきたかる とまでうごくなり しらつゆし おくほだなしと つげにきぬらし[つげにくらしも] ・・・・・・・・・
稲刈り小屋の草むしろをゆするように かさかさと風が鳴る 白露を穂に置く稲田はもうないと 告げに来ているらしい ・・・・・・・・・ 2177 秋雑歌 [題詞]詠山 春者毛要 夏者緑丹 紅之 綵色尓所見 秋山可聞 はるはもえ なつはみどりに くれなゐの まだらにみゆる あきのやまかも ・・・・・・・・・
春は草木が萌え出し 夏は一面の深緑に そして 紅が淡く濃くまだら模様の 今が錦の秋の山であることよ ・・・・・・・・・ サ2178 秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集 [題詞]詠黄葉 妻隠 矢野神山 露霜尓 々寶比始 散巻惜 [つまごもる] やののかむやま つゆしもに にほひそめたり ちらまくをしも ・・・・・・・・・
* 「妻隠る」は、矢野にかかる枕詞。「矢野」は所在未詳。矢野の神山が露や霜で 美しく色付き始めた この映えわたるもみじも いずれ散ってしまうのだろう 惜しいことであるよ ・・・・・・・・・ * 「神山」は神を祀った山。 * 「たり」は、助動詞ラ変型、動作作用が継続・進行している意を表す。 * 「散らまく」の「まく」は、上代推量の意。 * 「匂ひ」は「美しく映える色」「ほのかな色あい」。 サ2179 秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集 [題詞](詠黄葉) 朝露尓 染始 秋山尓 <鍾>礼莫零 在渡金 あさつゆに にほひそめたる あきやまに しぐれなふりそ ありわたるがね ・・・・・・・・・
* 「にほひそめたる あきやまに」は、紅葉が美しく色付き始めた秋山に、* 「しぐれなふりそ」は、時雨よ降るな。「な〜そ」〜するな(禁止)。朝露に 美しく色付き始めたこの秋山に 時雨よ そんなに降りつけてはいけない もみじが色付き映えるのを そっとしておいてやってほしい ・・・・・・・・・ * 「ありわたる」は(自ラ四)ずっとそのままの状態で。 * 「がね」[接助・終助・接尾] 《上代語》動詞の連体形に付く。願望・命令・意志などの表現を受けて、目的・理由を表す。…するように。…するために。 * [題詞]に(詠黄葉)とあるが「もみじ」の語はない。枕詞、縁語、掛詞、歌枕、・・・などと、対極的な意味で、「助詞的な語」を省略ないしは変更して、真に意中の語を際立たせる見事な日本語の試み・手法があったのではないだろうか。 2180 秋雑歌,奈良 [題詞](詠黄葉) 九月乃 <鍾>礼乃雨丹 沾通 春日之山者 色付丹来 ながつきの しぐれのあめに ぬれとほり かすがのやまは いろづきにけり ・・・・・・・・・
九月になって降った時雨で しっとりと濡れたようだ こうして眺める春日の山は 秋色に染まり始めていることだ ・・・・・・・・・ 2181 秋雑歌,奈良 [題詞](詠黄葉) 鴈鳴之 寒朝開之 露有之 春日山乎 令黄物者 かりがねの さむきあさけの つゆならし かすがのやまを もみたすものは ・・・・・・・・・
* 「ならし」は、断定の助動詞「なり」の連体形に、推定の助動詞「らし」のついた略形。・・・であるにちがいない。雁の鳴き声の寒々しい朝明け 露にちがいない 春日の山々を あのように美しくモミジさせのは ・・・・・・・・・ 2182 秋雑歌 [題詞](詠黄葉) 比日之 暁露丹 吾屋前之 芽子乃下葉者 色付尓家里 このころの あかときつゆに わがやどの はぎのしたばは いろづきにけり ・・・・・・・・・
* 「下葉(したば)」は「草や木の下の方の葉」のこと。別に、「人目につきにくい」意。この頃の明け方の露に 我が家の庭の萩の下葉まで もうすっかり色づいてしまった ・・・・・・・・・ 2183 秋雑歌 [題詞](詠黄葉) 鴈<音>者 今者来鳴沼 吾待之 黄葉早継 待者辛苦母 かりがねは いまはきなきぬ わがまちし もみちはやつげ またばくるしも ・・・・・・・・・
雁はもうやって来て鳴いているよ 私が心待ちにしているモミジ 雁に続いて早く紅葉してくれ これ以上待つのは苦しいから ・・・・・・・・・ 2184 秋雑歌 [題詞](詠黄葉) 秋山乎 謹人懸勿 忘西 其黄葉乃 所思君 あきやまを ゆめひとかくな わすれにし そのもみちばの おもほゆらくに ・・・・・・・・・
その秋の山のことを 決して私に言わないで下さい 忘れた切ない思い出が 蘇ってしまうから ・・・・・・・・・ 2185 秋雑歌,奈良県 [題詞](詠黄葉) 大坂乎 吾越来者 二上尓 黄葉流 志具礼零乍 おほさかを わがこえくれば ふたかみに もみちばながる しぐれふりつつ ・・・・・・・・・
大きな竹内の坂を越えると 二上山に紅葉が風に漂い流れている 時雨が降りつづくなかを ・・・・・・・・・ |



