ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

・・・万葉集(〃)

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2101 秋雑歌,奈良,高円

[題詞](詠花)

吾衣  <揩>有者不在  高松之  野邊行之者  芽子之<揩>類曽

我が衣 摺れるにはあらず 高松の 野辺行きしかば 萩の摺れるぞ 

あがころも すれるにはあらず たかまつの のへゆきしかば はぎのすれるぞ
・・・・・・・・
我が衣は高松の萩野辺に行って

その萩のにほひで染め上げた衣であるぞ
・・・・・・・・
* 「しかば」は「き」の已然形「しか」+ 接続助詞「ば」。・・シテアル。



2102 秋雑歌

[題詞](詠花)

此暮 秋風吹奴 白露尓 荒争芽子之 明日将咲見

この夕 秋風吹きぬ 白露に 争ふ萩の 明日咲かむ見む 

このゆふへ あきかぜふきぬ しらつゆに あらそふはぎの あすさかむみむ
・・・・・・・・
この夕べにひんやりとした秋風が吹き

白露が萩の花にもつくけれども

萩の花は負けずにあす朝も花を咲かせるだろう

そのさまを見るとしよう
・・・・・・・・



2103 秋雑歌

[題詞](詠花)

秋風  冷成<奴  馬>並而  去来於野行奈  芽子花見尓

秋風は 涼しくなりぬ 馬並めて いざ野に行かな 萩の花見に 

あきかぜは すずしくなりぬ うまなめて いざのにゆかな はぎのはなみに
・・・・・・・・
秋風がようやく涼しくなって来た

さあ一緒に馬を並べて野に出かけよう

咲き誇る萩の花を見るために
・・・・・・・・



2104 秋雑歌

[題詞](詠花)

朝<杲> 朝露負 咲雖云 暮陰社 咲益家礼

朝顔は 朝露負ひて 咲くといへど 夕影にこそ 咲きまさりけり 

あさがほは あさつゆおひて さくといへど ゆふかげにこそ さきまさりけり
・・・・・・・・
朝顔は朝露を受けて咲くと言うが

夕方の光の中でこそ一層美しく咲くことだ
・・・・・・・・
* 「朝顔」は桔梗との説、昼顔説、朝顔説もある。
この歌で夕日の中で咲きまさると歌われたことが椿梗説の根拠にもなっているが、平安和歌でば「朝顔」が共寝の朝の女の顔に掛けて用いられる。そのはしりか。



2105 秋雑歌

[題詞](詠花)

春去者  霞隠  不所見有師  秋芽子咲  折而将挿頭

春されば 霞隠りて 見えずありし 秋萩咲きぬ 折りてかざさむ 

はるされば かすみがくりて みえずありし あきはぎさきぬ をりてかざさむ
・・・・・・・・
春になれば霞みで隠されてしまう萩だが 

秋の到来を待ちかねたかのように見事に花を咲かせ出した 

さっそく盛りの花を手折って頭に插して見せよう 
・・・・・・・・


2106 秋雑歌

[題詞](詠花)

沙額田乃  野邊乃秋芽子  時有者  今盛有  折而将挿頭

沙額田の 野辺の秋萩 時なれば 今盛りなり 折りてかざさむ 

さぬかたの のへのあきはぎ ときなれば いまさかりなり をりてかざさむ
・・・・・・・・
さ額田の野辺の秋萩が時めいている 

盛りの今こそ手折って頭にかざそうよ
・・・・・・・・



2107 秋雑歌,奈良

[題詞](詠花)

事更尓  衣者不<揩>  佳人部為  咲野之芽子尓  丹穂日而将居

ことさらに 衣は摺らじ をみなへし 佐紀野の萩に にほひて居らむ 

ことさらに ころもはすらじ をみなへし さきののはぎに にほひてをらむ
・・・・・・・・
わざわざ衣をすり染めたりしない

佐紀野の萩に美しく染ませられるから 
・・・・・・・・



2108 秋雑歌

[題詞](詠花)

秋風者  急<々>吹来  芽子花  落巻惜三  競<立見>

秋風は 疾く疾く吹き来 萩の花 散らまく惜しみ 競ひ立たむ見む 

あきかぜは とくとくふきこ はぎのはな ちらまくをしみ きほひたたむみむ
・・・・・・・・
秋風よ今すぐ吹いてみてくれ

萩の花が散るまいと

風に立ち向かうのを見たいから
・・・・・・・・



2109 秋雑歌

[題詞](詠花)

我屋前之  芽子之若末長  秋風之  吹南時尓  将開跡思<手>

我が宿の 萩の末長し 秋風の 吹きなむ時に 咲かむと思ひて 

わがやどの はぎのうれながし あきかぜの ふきなむときに さかむとおもひて
・・・・・・・・
我が家の庭の秋萩は枝先が長いよ

秋風が吹きだしたら咲こうと思っているようだ
・・・・・・・・



2110 秋雑歌

[題詞](詠花)

人皆者  芽子乎秋云  縦吾等者  乎花之末乎  秋跡者将言

人皆は 萩を秋と言ふ よし我れは 尾花が末を 秋とは言はむ 

ひとみなは はぎをあきといふ よしわれは をばながうれを あきとはいはむ
・・・・・・・・
人はみな萩が秋の花だという

ならば私は尾花こそが秋の景物だと言おう
・・・・・・・・
* 「秋」といっても暦の上では立秋から。現在の暦で言うと八月六日ころからが秋ということだが、八月のうちは、まだ「秋」という風情ではありません。古典の歌の世界でも「秋」といえば「萩」「尾花」「もみじ」などが主ですから、古典の歌の世界でも、実際には今の暦の九月くらいからが本当の秋の歌のシーズンだったろう。
ススキが穂を出すのと、萩が花を咲かせるのでは、ススキのほうがやや早いと思うので、「人は萩を見て秋だというが、私は一足早くススキに秋の訪れを感じますよ」ということであろう。


2111 秋雑歌

[題詞](詠花)

玉梓  公之使乃  手折来有  此秋芽子者  雖見不飽鹿裳

玉梓の 君が使の 手折り来る この秋萩は 見れど飽かぬかも 

[たまづさの] きみがつかひの たをりける このあきはぎは みれどあかぬかも
・・・・・・・・
玉梓のお使いが届けてくれたこの秋萩は 

君の手折りと思へば愛しくて見飽きることはない
・・・・・・・・


2094 秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集

[題詞]詠花

竿志鹿之 心相念 秋芽子之 <鍾>礼零丹 落僧惜毛

さを鹿の 心相思ふ 秋萩の しぐれの降るに 散らくし惜しも

さをしかの こころあひおもふ あきはぎの しぐれのふるに ちらくしをしも
・・・・・・・・・
牡鹿が心に思う秋萩が

時雨が降るので散ってしまうのが惜しいことだ
・・・・・・・・・
* 「さを鹿」の「さ」は、神聖なイメージを表現する接頭語。



2095 秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](詠花)

夕去 野邊秋芽子 末若 露枯 金待難

夕されば 野辺の秋萩 うら若み 露にぞ枯るる 秋待ちかてに 

ゆふされば のへのあきはぎ うらわかみ つゆにぞかるる あきまちかてに
・・・・・・・・・
夕方になると野原の萩は

まだ枝が若いので露にあたって枯れてしまう

秋を待つこともなく
・・・・・・・・・


2096 秋雑歌,奈良県,五条市

[題詞](詠花)

真葛原  名引秋風  <毎吹>  阿太乃大野之  芽子花散

真葛原 靡く秋風 吹くごとに 阿太の大野の 萩の花散る 

まくずはら なびくあきかぜ ふくごとに あだのおほのの はぎのはなちる
・・・・・・・・・
葛の原をなびかせて秋風が吹くたびに

阿太の荒れ野に萩の花が散る
・・・・・・・・・
* 「真葛原」は「葛が一面に生えている野原」のこと。
* 「阿太」は奈良県五条市の東部。
* 「大野」は「広い野原」のこと。



2097 秋雑歌

[題詞](詠花)

鴈鳴之  来喧牟日及  見乍将有  此芽子原尓  雨勿零根

雁がねの 来鳴かむ日まで 見つつあらむ この萩原に 雨な降りそね 

かりがねの きなかむひまで みつつあらむ このはぎはらに あめなふりそね
・・・・・・・・・
雁がねが聞こえるまで眺めていたい萩原 

この萩原に雨よ 降らないでくれないか
・・・・・・・・・


2098 秋雑歌

[題詞](詠花)

奥山尓  住云男鹿之  初夜不去  妻問芽子乃  散久惜裳

奥山に 棲むといふ鹿の 夕さらず 妻どふ萩の 散らまく惜しも 

おくやまに すむといふしかの よひさらず つまどふはぎの ちらまくをしも
・・・・・・・・・
深山から妻問い鹿が訪ねて来る夕べには 

多くの萩花が散るのかと思へばこれも惜しいことよ
・・・・・・・・・


2099 秋雑歌

[題詞](詠花)

白露乃  置巻惜  秋芽子乎  折耳折而  置哉枯

白露の 置かまく惜しみ 秋萩を 折りのみ折りて 置きや枯らさむ 

しらつゆの おかまくをしみ あきはぎを をりのみをりて おきやからさむ
・・・・・・・・・
白露で秋萩がいたむかと思って

手折ってきてしまったけれど

野辺においても手許でも

やはり枯らしてしまうなぁ
・・・・・・・・・


2100 秋雑歌

[題詞](詠花)

秋田苅  借廬之宿  <丹>穂經及  咲有秋芽子  雖見不飽香聞

秋田刈る 刈廬の宿り にほふまで 咲ける秋萩 見れど飽かぬかも 

あきたかる かりいほのやどり にほふまで さけるあきはぎ みれどあかぬかも
・・・・・・・・・
秋の田刈る仮の宿りも 

染め抜きに咲いた萩は 

いつまで見ても見飽きることはない
・・・・・・・・・


2086 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

牽牛之  嬬喚舟之  引<綱>乃  将絶跡君乎  吾<之>念勿國

彦星の 妻呼ぶ舟の 引き綱の 絶えむと君を 我が思はなくに 

ひこほしの つまよぶふねの ひきづなの たえむときみを わがおもはなくに
・・・・・・・・・
彦星の妻呼ぶ舟の引き綱を

絶ち切る君などとは思わないなあ
・・・・・・・・・


2087 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

渡守  舟出為将出  今夜耳  相見而後者  不相物可毛

渡り守 舟出し出でむ 今夜のみ 相見て後は 逢はじものかも 

わたりもり ふなでしいでむ こよひのみ あひみてのちは あはじものかも
・・・・・・・・・
渡し守が舟を漕ぎ出した

今宵限りの逢瀬に向かって
・・・・・・・・・


2088 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

吾隠有  楫棹無而  渡守  舟将借八方  須臾者有待

我が隠せる 楫棹なくて 渡り守 舟貸さめやも しましはあり待て 

わがかくせる かぢさをなくて わたりもり ふねかさめやも しましはありまて
・・・・・・・・・
わたしが隠してしまった楫棹がなくては

渡し守よ 舟は貸せまい

もう暫らく待つがいい

楫棹を探して七夕の宵を長くしよう
・・・・・・・・・
* 「やも」[係助] 係助詞「や」+係助詞「も」から。上代語
1 名詞、活用語の已然形に付く。詠嘆を込めた反語の意を表す。



2089 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

・・・・・・・・・
↓[原文]ー[訓読]ー[仮名]ー
乾坤之ー天地のーあめつちのー天地が
初時従ー初めの時ゆーはじめのときゆー初めて開けた大昔から
天漢ー天の川ーあまのがはー天の川に
射向居而ーい向ひ居りてーいむかひをりてー向き合って住み
一年丹ー一年にーひととせにー一年に
兩遍不遭ーふたたび逢はぬーふたたびあはぬー二度は逢えない
妻戀尓ー妻恋ひにーつまごひにー恋妻に
物念人ー物思ふ人ーものもふひとー物思う人よ
天漢ー天の川ーあまのがはー天の川の
安乃川原乃ー安の川原のーやすのかはらのー安の川原の
有通ーあり通ふーありがよふー通いなれた
出々乃渡丹ー出の渡りにーいでのわたりにー船出の渡しに
具穂船乃ーそほ舟のーそほぶねのー朱塗りの船の
艫丹裳舳丹裳ー艫にも舳にもーともにもへにもー後ろにも先にも
船装ー舟装ひーふなよそひー船飾りをして
真梶繁<抜>ーま楫しじ貫きーまかぢしじぬきー立派な楫を両舷に通し
旗<芒>ー旗すすきーはたすすきー旗すすきの
本葉裳具世丹ー本葉もそよにーもとはもそよにー根元の葉もそよぐ
秋風乃ー秋風のーあきかぜのー秋風が
吹<来>夕丹ー吹きくる宵にーふきくるよひにー吹いてくる夜に
天<河>ー天の川ーあまのがはー天の川の
白浪凌ー白波しのぎーしらなみしのぎー白波を越え
落沸ー落ちたぎつーおちたぎつー落ちたぎる
速湍渉ー早瀬渡りてーはやせわたりてー早瀬を渡り
稚草乃ー若草のー[わかくさの]ー若草のようにみずみずしい
妻手枕迹ー妻を巻かむとーつまをまかむとー妻の手を枕に共寝しようと
大<舟>乃ー大船のー[おほぶねの]ー大船のように
思憑而ー思ひ頼みてーおもひたのみてー頼みに思い
滂来等六ー漕ぎ来らむーこぎくらむー漕いで来る
其夫乃子我ーその夫の子がーそのつまのこがーその彦星が
荒珠乃ーあらたまのー[あらたまの]ー
年緒長ー年の緒長くーとしのをながくー長い間
思来之ー思ひ来しーおもひこしー思ってきた
戀将盡ー恋尽すらむーこひつくすらむー恋を尽くすでしょう
七月ー七月のーふみつきのー七月の
七日之夕者ー七日の宵はーなぬかのよひはー七日の夜は
吾毛悲焉ー我れも悲しもーわれもかなしもーなぜか私も悲しいよ
・・・・・・・・・




2090 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)反歌

狛錦  紐解易之  天人乃  妻問夕叙  吾裳将偲

高麗錦 紐解きかはし 天人の 妻問ふ宵ぞ 我れも偲はむ 

こまにしき ひもときかはし あめひとの つまどふよひぞ われもしのはむ
・・・・・・・・・
高麗錦の紐を互いに解きあって彦星が妻問いをする宵です

私もあやかって見ることにしましょう
・・・・・・・・・
* 「高麗錦」は「高麗から渡来した錦織」



2091 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)(反歌)

彦星之  <河>瀬渡  左小舟乃  得行而将泊  河津石所念

彦星の 川瀬を渡る さ小舟の い行きて泊てむ 川津し思ほゆ 

ひこほしの かはせをわたる さをぶねの いゆきてはてむ かはづしおもほゆ
・・・・・・・・・
彦星が天の川瀬を渡る小さな舟の

行って止まる静かな入江が偲ばれるなあ
・・・・・・・・・
* 「さ‐おぶね」さ小舟 「さ」は接頭語。小さい舟。こぶね。おぶね。



2092 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

・・・・・・・・・
↓[原文]ー[訓読]ー[仮名]ー
天地跡ー天地とーあめつちとー天と地が
別之時従ー別れし時ゆーわかれしときゆー分かれた太古から
久方乃ー久方のー[ひさかたの]ー
天驗常ー天つしるしとーあまつしるしとー夜空の験として
<定>大王ー定めてしーさだめてしー定まった
天之河原尓ー天の川原にーあまのかはらにー天の川原に
璞ーあらたまのー[あらたまの]ー
月累而ー月重なりてーつきかさなりてー月がかさなって、天の川が隠れてしまって、
妹尓相ー妹に逢ふーいもにあふー妻に逢う
時候跡ー時さもらふとーときさもらふとー「さ」は接頭語。「もらふ」は動詞「も(守)る」の未然形「もら」に上代の反復継続の助動詞「ふ」の付いたもの。 ようすを見守り、よい機会をうかがい待つ。よい風向きや潮時、また逢瀬などのくるのを待つ。 逢瀬のくるのを待って
立待尓ー立ち待つにーたちまつにー立ち待っていると
吾衣手尓ー我が衣手にーわがころもでにー衣を
秋風之ー秋風のーあきかぜのー風が
吹反者ー吹きかへらへばーふきかへらへばー吹き返えし
立<座>ー立ちて居てーたちてゐてー立っているばかりで
多土伎乎不知ーたどきを知らにーたどきをしらにー彦星と織女どうなったか知る方便もわからず
村肝ー[むらきもの]ー
心不欲ー心いさよひーこころいさよひー進みかねて、心ためらい
解衣ー解き衣のー[とききぬの]ー
思乱而ー思ひ乱れてーおもひみだれてー思い悩んで
何時跡ーいつしかとー少しも早くと
吾待今夜ー我が待つ今夜ーわがまつこよひー待ち焦がれる今宵
此川ーこの川のーこのかはのーこの川の
行長ー流れの長くーながれのながくー流れの長いように
有得鴨ーありこせぬかもー七夕の逢瀬が長くあってほしいと思うよ
・・・・・・・・・


2093 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)反歌

妹尓相  時片待跡  久方乃  天之漢原尓  月叙經来

妹に逢ふ 時片待つと ひさかたの 天の川原に 月ぞ経にける

いもにあふ ときかたまつと [ひさかたの] あまのかはらに つきぞへにける
・・・・・・・・・
妻に逢う

ただそれだけをひたすら待っていると

天の川原を月が渡っていくではないか
・・・・・・・・・


2074 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

天<河>  渡湍毎  思乍  来之雲知師  逢有久念者

天の川 渡り瀬ごとに 思ひつつ 来しくもしるし 逢へらく思へば 

あまのがは わたりぜごとに おもひつつ こしくもしるし あへらくおもへば
・・・・・・・・・・・
天の川の渡り瀬ごとに

はっきり思い出す

やっとここまで来たのかと

ああ早く逢いたいと

思いはつのる
・・・・・・・・・・・
* 「らく」は、「あく」が上の活用語尾「る」と結合した「るあく」が変化したもの。→「く」。・・すること。




2075 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

人左倍也  見不継将有  牽牛之  嬬喚舟之  近附徃乎 [一云 見乍有良武]

人さへや 見継がずあらむ 彦星の 妻呼ぶ舟の 近づき行くを [一云 見つつあるらむ] 

ひとさへや みつがずあらむ ひこほしの つまよぶふねの ちかづきゆくを[みつつあるらむ]
・・・・・・・・・・・
人までも見続けているらしい

彦星の妻呼ぶ舟が

織女のもとへ近づいて行くのを 
・・・・・・・・・・・
* 「さへ」は副詞。添加の意を表す。・・・までも。
* 「や」は係助詞、疑いの意を表す。
* 「ず」は助動詞特殊型。打ち消しの意を表す。・・ない。




2076 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

天漢  瀬乎早鴨  烏珠之  夜者闌尓乍  不合牽牛

天の川 瀬を早みかも ぬばたまの 夜は更けにつつ 逢はぬ彦星 

あまのがは せをはやみかも [ぬばたまの] よはふけにつつ あはぬひこほし
・・・・・・・・・・・
天の川の川瀬が急流になって

夜が更けても

なかなか織女に逢えない彦星であることよ
・・・・・・・・・・・


2077 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

渡守  舟早渡世  一年尓  二遍徃来  君尓有勿久尓

渡り守 舟早渡せ 一年に ふたたび通ふ 君にあらなくに 

わたりもり ふねはやわたせ ひととせに ふたたびかよふ きみにあらなくに
・・・・・・・・・・・
渡し守よ舟をもっと早く天の川を渡せ

一年にたった一夜しか逢えないひとのもとへ行くのだから
・・・・・・・・・・・



サ2078 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

玉葛  不絶物可良  佐宿者  年之度尓 直一夜耳

玉葛 絶えぬものから さ寝らくは 年の渡りに ただ一夜のみ 

[たまかづら] たえぬものから さぬらくは としのわたりに ただひとよのみ
・・・・・・・・・・・
太古の昔から未来永劫にかけて

織姫と彦星のお互いを求め合う恋心が

玉鬘のように絶えてしまうことはないけれども

床を共にすることを許されているのは

一年にたった一晩だけ
・・・・・・・・・・・
* 「玉鬘」は「絶ゆ」の枕詞。
* 「さ寝らく」は「寝るあく」の転。「寝」を名詞化する。
「らく」→「く」、・・・すること、・・・するとき。
「さ」は接頭語。男女が共寝すること。



2079 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

戀日者  <食>長物乎  今夜谷  令乏應哉  可相物乎

恋ふる日は 日長きものを 今夜だに ともしむべしや 逢ふべきものを 

こふるひは けながきものを こよひだに ともしむべしや あふべきものを
・・・・・・・・・・・
恋し待つ苦しい日々は長いもの

でも 今夜だけは

私は乏し妻ではないのですね

あなたに逢えるのですもの
・・・・・・・・・・・
* 「だに」は副詞、せめて・・・だけでも、・・・だけなりと。
* 「ともし」(形容詞シク)乏し。不十分、少ない→うらやましい。
  七夕の「乏し妻」織女星をさす。
* 「べき」は助動詞「べし」の連体形。推量の意を表す。


2080 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

織女之  今夜相奈婆  如常  明日乎阻而  年者将長

織女の 今夜逢ひなば 常のごと 明日を隔てて 年は長けむ 

たなばたの こよひあひなば つねのごと あすをへだてて としはながけむ
・・・・・・・・・・・
織姫は七夕の今夜彦星に逢えたなら

またいつものように明日から二人は離れ離れとなって

一年間という長い時間を過ごしていくのだなぁ
・・・・・・・・・・・



2081 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

天漢  棚橋渡  織女之  伊渡左牟尓  棚橋渡

天の川 棚橋渡せ 織女の い渡らさむに 棚橋渡せ 

あまのがは たなはしわたせ たなばたの いわたらさむに たなはしわたせ
・・・・・・・・・・・
空に広がる天の川に

大きな棚橋を渡そう

愛しい彦星と逢う織女に

七夕の今夜立派な橋を架けてあげよう
・・・・・・・・・・・



2082 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

天漢  河門八十有  何尓可  君之三船乎  吾待将居

天の川 川門八十あり いづくにか 君がみ舟を 我が待ち居らむ 

あまのがは かはとやそあり いづくにか きみがみふねを わがまちをらむ
・・・・・・・・・・・
天の川には船着場がたくさんあるから

一体どこであなたの船をお待ちしていたら良いのでしょう
・・・・・・・・・・・



2083 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

秋風乃  吹西日従  天漢  瀬尓出立  待登告許曽

秋風の 吹きにし日より 天の川 瀬に出で立ちて 待つと告げこそ 

あきかぜの ふきにしひより あまのがは せにいでたちて まつとつげこそ
・・・・・・・・・・・
秋風が吹き出したその日から

天の川の瀬に立ってあなたをひたすらお待ちしている私です

風よ 人よ 神よ  だれかそう伝えてください

あの人に
・・・・・・・・・・・
* この「こそ」は終助詞、他にあつらえ望む意を表す。・・・してほしい。




2084 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

天漢  去年之渡湍  有二家里  君<之>将来  道乃不知久

天の川 去年の渡り瀬 荒れにけり 君が来まさむ 道の知らなく 

あまのがは こぞのわたりぜ あれにけり きみがきまさむ みちのしらなく
・・・・・・・・・・・
天の川の去年来られた渡り瀬が荒れて使えなくなっている

愛しいあなた様のおいでになる渡り瀬の道がわかりません
・・・・・・・・・・・



2085 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

天漢  湍瀬尓白浪  雖高  直渡来沼  時者苦三

天の川 瀬々に白波 高けども 直渡り来ぬ 待たば苦しみ 

あまのがは せぜにしらなみ たかけども ただわたりきぬ またばくるしみ
・・・・・・・・・・・
天の川の瀬々の白波は高かったが

ただひたすら渡ってきたよ 

待つのはお互いに辛いことだから
・・・・・・・・・・・
* 「み」、形容詞の語幹について名詞化。


2062 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

機  ○木持徃而  天<漢>  打橋度  公之来為

機物の まね木持ち行きて 天の川 打橋渡す 君が来むため 

はたものの まねきもちゆきて あまのがは うちはしわたす きみがこむため
・・・・・・・・・
機織の踏み板を持って行って

天の川に打橋を渡たそうかしら

貴方が来られるように
・・・・・・・・・
* 「まね木」(機織り機の踏み板)それでで橋を架けるといっている。
* 「打ち」は、「ちょっと・軽く」の意。
* 「打橋」は「ちょっと簡単に渡した橋」。
 「打橋」も「棚橋」も似たような感じ。   
  タナバタとタナハシ  織女は棚機津女(タナバタツメ)


2063 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

天漢  霧立上  棚幡乃  雲衣能  飄袖鴨

天の川 霧立ち上る 織女の 雲の衣の かへる袖かも 

あまのがは きりたちのぼる たなばたの くものころもの かへるそでかも
・・・・・・・・・
天の川に霧が立ちこめ

織女の雲の衣の

風にひるがえる袖であることだ
・・・・・・・・・
* 「かへる」(自ラ四)ひるがえる。


2064 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

古  織義之八多乎  此暮  衣縫而  君待吾乎

いにしへゆ 織りてし服を この夕 衣に縫ひて 君待つ我れを 

いにしへゆ おりてしはたを このゆふへ ころもにぬひて きみまつわれを
・・・・・・・・・
いにしえの昔から

七夕の今宵のために織ってきた布で

君が御衣に仕上げて待つわたくしですよ
・・・・・・・・・



2065 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

足玉母  手珠毛由良尓  織旗乎  公之御衣尓  縫将堪可聞

足玉も 手玉もゆらに 織る服を 君が御衣に 縫ひもあへむかも 

あしだまも ただまもゆらに おるはたを きみがみけしに ぬひもあへむかも
・・・・・・・・・
手足につけた飾りの玉が触れ合って

奏でるはたの音のなか織る布は

七夕の夜の君のために縫う御衣よ

出来るかしら 気に入ってもらえるかしら 
・・・・・・・・・
* 「足玉」も、足首につける飾りの玉。「手玉」手の飾りにつける玉。
*「ゆら」は、(形容動詞ナリ)玉や鈴が触れ合って鳴るさま。
* 「かも」、係助詞「か」に終助詞「も」のついたの。・・だろうか。


2066 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

擇月日  逢義之有者  別乃  惜有君者  明日副裳欲得

月日おき 逢ひてしあれば 別れまく 惜しくある君は 明日さへもがも 

つきひおき あひてしあれば わかれまく をしくあるきみは あすさへもがも
・・・・・・・・・
やるせない月日を重ねてやっと逢えたのに

君とまた別れるなんてとても忍びない

明日も一緒にいたい ずっと一緒にいたい
・・・・・・・・・
* 「ま‐く」 《推量の助動詞「む」のク語法。上代語》…だろうこと。…しようとすること。
* 「をし」は愛するあまりこれを失うことが忍びない意。
* 「てし」、連体修飾語」 



2067 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

天漢  渡瀬深弥  泛船而  掉来君之  楫<音>所聞

天の川 渡り瀬深み 舟浮けて 漕ぎ来る君が 楫の音聞こゆ 

あまのがは わたりぜふかみ ふねうけて こぎくるきみが かぢのおときこゆ
・・・・・・・・・
天の川の渡りの瀬が深いので

舟を浮かべて漕ぎながらおいでになる

その楫の音が心に響いていとおしく聞こえる
・・・・・・・・・



2068 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

天原  振放見者  天漢  霧立渡  公者来良志

天の原 降り放け見れば 天の川 霧立ちわたる 君は来ぬらし 

あまのはら ふりさけみれば あまのがは きりたちわたる きみはきぬらし
・・・・・・・・・
一面に星々が瞬く夜空を

一人仰ぎ見て待てば

天の原を流れる天の川に

霧が立ち渡り始めた

きっと愛しいあの人が私に逢うために

もうすぐやって来るしるしね
・・・・・・・・・



2069 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

天漢  瀬毎幣  奉  情者君乎  幸来座跡

天の川 瀬ごとに幣を たてまつる 心は君を 幸く来ませと 

あまのがは せごとにぬさを たてまつる こころはきみを さきくきませと
・・・・・・・・・
天の川の瀬ごと瀬ごとに幣をまつり

わたくしに逢うための君の旅路が

どうかご無事でありますようにと祈ってます
・・・・・・・・・



2070 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

久<堅>之  天河津尓  舟泛而  君待夜等者  不明毛有寐鹿

久方の 天の川津に 舟浮けて 君待つ夜らは 明けずもあらぬか 

[ひさかたの] あまのかはづに ふねうけて きみまつよらは あけずもあらぬか
・・・・・・・・・
天の川の入江に舟を浮かべて

君を待つ今宵はいつまでも

明けないでくれないかなぁ
・・・・・・・・・
* 「ぬ‐か 」 [連語]《打消しの助動詞「ず」の連体形+係助詞「か」。上代語》(多く「も…ぬか」の形で)詠嘆の気持ちをこめた願望の意を表す。…ないかなあ。…てほしい。



サ2071 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

天河  足沾渡  君之手毛  未枕者  夜之深去良久

天の川 なづさひ渡る 君が手も いまだまかねば 夜の更けぬらく 

あまのがは なづさひわたる きみがても いまだまかねば よのふけぬらく
・・・・・・・・・
天の川を漂い渡っているが

君の手を枕にすることもせず

夜は更けて行くことよ
・・・・・・・・・
* 「なづさふ」(自ハ四)水に浮かぶ。浮き漂う。
* 「まく」は枕とする、いっしょに寝る。
* 「らく」→「く」・・することよ。
* 「ば」は順接の仮定条件を表す。・・なら。逆説の確定条件を表すときは、・・のに。



2072 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

渡守  船度世乎跡 呼音之  不至者疑  梶<聲之>不為

渡り守 舟渡せをと 呼ぶ声の 至らねばかも 楫の音のせぬ 

わたりもり ふねわたせをと よぶこゑの いたらねばかも かぢのおとのせぬ
・・・・・・・・・
天の川の渡り守が

舟を出せと叫んでいるのに

聞こえないのか楫の音がしない
・・・・・・・・・



2073 秋雑歌,七夕

[題詞](七夕)

真氣長  河向立  有之袖  今夜巻跡  念之吉沙

ま日長く 川に向き立ち ありし袖 今夜巻かむと 思はくがよさ 

まけながく かはにむきたち ありしそで こよひまかむと おもはくがよさ
・・・・・・・・・
日がな一日長々と

川に向かって立ち尽くめ

あの袖を今宵こそ枕にしようと

思うだけでも嬉しいよ
・・・・・・・・・



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