ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

・・・万葉集(〃)

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1992 夏相聞

[題詞](寄花)

隠耳  戀者苦  瞿麦之  花尓開出与  朝旦将見

隠りのみ 恋ふれば苦し なでしこの 花に咲き出よ 朝な朝な見む 
 
こもりのみ こふればくるし なでしこの はなにさきでよ あさなさなみむ
・・・・・・・・・・・
人知れずの恋は苦しい

彼女が庭に咲くなでしこならば

まい朝ごとに見て愛でようものを
・・・・・・・・・・・



サ1993 夏相聞

[題詞](寄花)

外耳  見筒戀牟  紅乃  末採花之  色不出友

外のみに 見つつ恋ひなむ 紅の 末摘花の 色に出でずとも 

よそのみに みつつこひなむ くれなゐの すゑつむはなの いろにいでずとも
・・・・・・・・・・・
知られないように遠くから

無表情で恋して居よう

いづれベニバナのように

花の後で紅鮮やかに染め上がる
   
今顔色に出さなくとも
・・・・・・・・・・・
* 「よそにのみ」は「離れた所からだけ」の意。
* 「見つつを恋ひなむ」
 「見」は、マ行上一段活用動詞「見る」の連用形。
 「つつ」は、反復継続の接続助詞。
 「を」は、格助詞。
 「恋ひ」は、ハ行上二段動詞「恋ふ」の未然形。
 「なむ」は、完了の助動詞「ぬ」の未然形に、推量の助動詞「む」のついたもの。 
* 「の」主格。
* 「末摘花」は「べにばな」。
* 「とも」は仮定条件の接続助詞。  たとえ〜としても。



1994 夏相聞

[題詞]寄露

夏草乃  露別衣  不著尓  我衣手乃  干時毛名寸

の 露別け衣 着けなくに 我が衣手の 干る時もなき 

なつくさの つゆわけごろも つけなくに わがころもでの ふるときもなき
・・・・・・・・・・・
露濡れの夏草がまだ生い茂っている所に

水滴防止コートを着て来なかったから

もう衣は濡れ放題よ

干す間もないほど濡れるのは

夏草の露かはたまた わが泣きの涙か
・・・・・・・・・・・



サ1995 夏相聞

[題詞]寄日

六月之  地副割而  照日尓毛  吾袖将乾哉  於君不相四手

六月の 地さへ裂けて 照る日にも 我が袖干めや 君に逢はずして 

みなづきの つちさへさけて てるひにも わがそでひめや きみにあはずして
・・・・・・・・・・・
六月の地面を焼き裂くような

灼熱の日差しでも

涙で濡れたわたしの袖は乾くでしょうか

愛しいあなたにお逢いしないでは
・・・・・・・・・・・
* 「六月」は、岩波古語辞典には「田に水を湛える月の意か」とある。旧暦の六月は、今の暦でいうと、おおよそ七月中旬から八月中旬ごろにあたり、月の前半は梅雨で、後半は強烈な陽射しが照りつける日々が続くことになる。
* 「我が袖干めや」の「め」は推量の助動詞「む」の已然形。
* 「や」が已然形につくときは、反語。






秋雜歌





1996 秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集

[題詞]七夕

天漢  水左閇而照  舟竟  舟人  妹等所見寸哉

天の川 水さへに照る 舟泊てて 舟なる人は 妹と見えきや 

あまのがは みづさへにてる ふねはてて ふねなるひとは いもとみえきや
・・・・・・・・・・・
天の川は

その水底までも照り輝いている 

舟は泊り場に着き

舟人は恋人と逢っただろうか
・・・・・・・・・・・
* 「(天の川の)水は、(場所によつて)強く(あるいは)静かに流れる」ので、「舟が(天の川を渡ろうと)必死に努力しているということか。
* 「みづさへにてるふねはててふねなるひとは」(水左閇而照舟竟舟人)
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#527みづさへにてるふねはててふねなるひとは(水左閇而照舟竟舟人)



1997 秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](七夕)

久方之  天漢原丹  奴延鳥之  裏歎座<都>  乏諸手丹

久方の 天の川原に ぬえ鳥の うら歎げましつ すべなきまでに 

[ひさかたの] あまのかはらに [ぬえどりの] うらなげましつ すべなきまでに
・・・・・・・・・・・
天の川原で織姫は偲び泣いて居られる

何ともどうしようもないほどに
・・・・・・・・・・・
* 「ぬえこ‐どり」鵼子鳥
[名]トラツグミの別名。
[枕]悲しげな声で鳴くところから、「うら嘆(な)く」に掛かる。
* 林に棲んでいて、夜中に口笛のような、「ヒョー、ヒョー」というような声で鳴く。
* 「うらなげましつ」ひっそりと嘆いている。




1998 秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](七夕)

吾戀  嬬者知遠  徃船乃  過而應来哉  事毛告火

我が恋を 嬬は知れるを 行く舟の 過ぎて来べしや 言も告げなむ 

あがこひを つまはしれるを [ゆくふねの] すぎてくべしや こともつげなむ
・・・・・・・・・・・
わが恋心を嬬はよく承知しているのに

立ち寄らずに来てよいものか

告げたいことも山ほどあるのだ
・・・・・・・・・・・
* 「ゆくふね‐の」行く船の [枕]船が過ぎて行く意で「過ぐ」に掛る。
* べし[助動][べから|べく・べかり|べし|べき・べかる|べけれ|○]活用語の終止形、ラ変型活用語は連体形に付く。1 当然の意を表す。…して当然だ。…のはずだ。
* 「なむ」余情をこめていう。




1999 秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](七夕)

朱羅引  色妙子  數見者  人妻故  吾可戀奴

赤らひく 色ぐはし子を しば見れば 人妻ゆゑに 我れ恋ひぬべし 

あからひく いろぐはしこを しばみれば ひとづまゆゑに あれこひぬべし

・・・・・・・・・・・
ほんのりと紅い頬の美しい娘を

しばしば見ていると

人妻だということも忘れて

私は恋いに堕ちてしまいそうだ
・・・・・・・・・・・
* 「ゆゑ」は、・・なのに、・・にもかかわらず。
* 「あからひく」、「いろぐはしこ」;下記の説がある。
ある香りが(身体から)静かに発散している。
従順で静かに軽やかに歩く女子。
* 「あからひく いろぐはしこ」(朱羅引色妙子) 
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#528あからひくいろぐはしこ(朱羅引色妙子)





2000 秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](七夕)

天漢  安渡丹  船浮而  秋立待等  妹告与具

天の川 安の渡りに 舟浮けて 秋立つ待つと 妹に告げこそ 

あまのがは やすのわたりに ふねうけて あきたつまつと いもにつげこそ
・・・・・・・・・・・
天の川の安の渡りに舟を浮かべて

秋の立つのを待っているよと織女に告げてほしい
・・・・・・・・・・・
* 「こそ」は、[係助]種々の語に付く。
1 ある事柄を取り立てて強める意を表す。
2 ある事柄を一応認めておいて、それに対立的、あるいは、否定的な事柄を続ける。
3 文末にあって、言いさして強める意を表す。
* [終助]《上代語》用言の連用形に付く。願望を表す。…てほしい。…てくれ。



2001 秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](七夕)

従蒼天  徃来吾等須良  汝故  天漢道  名積而叙来

大空ゆ 通ふ我れすら 汝がゆゑに 天の川道を なづみてぞ来し 

おほそらゆ かよふわれすら ながゆゑに あまのかはぢを なづみてぞこし
・・・・・・・・・・・
大空から通い 

宇宙を行き交う自分(彦星)でさえ

あなたのために天の川の路を

やっとの苦労で来ることが出来ましたよ
・・・・・・・・・・・



2002 秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](七夕)

八千<戈>  神自御世  乏つ  人知尓来  告思者

八千桙の 神の御代より ともし妻 人知りにけり 継ぎてし思へば 

やちほこの かみのみよより ともしづま ひとしりにけり つぎてしおもへば
・・・・・・・・・・・
大国主命の御代から

たまにしか逢えない妻と

人は皆知ってしまった

思い続けているから
・・・・・・・・・・・


夏相聞




1979 夏相聞

[題詞]寄鳥

春之在者 酢軽成野之 霍公鳥 保等穂跡妹尓 不相来尓家里

春されば すがるなす野の 霍公鳥 ほとほと妹に 逢はず来にけり 

[はるされば すがるなすのの ほととぎす] ほとほといもに あはずきにけり
・・・・・・・・・
春になるとスガルバチのように一斉に飛ぶ

野のホトトギスに見とれたか

あなたに逢わずに来てしまったよ
(ひやっと)してあなたに逢わずに来てしまったよ
・・・・・・・・・
* 「すがる」蜂の古名。蜜蜂か。
* 「ほとほと」は、「殆ど」で「もう少しで・・・するところだつた」の意とされるが、「ひやっとする、どきどきする」 の説がある。
* ほとほと(保等穂跡) 
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#526ほとほと(保等穂跡)




1980 夏相聞

[題詞](寄鳥)

五月山  花橘尓  霍公鳥  隠合時尓  逢有公鴨

五月山 花橘に 霍公鳥 隠らふ時に 逢へる君かも 

さつきやま はなたちばなに ほととぎす こもらふときに あへるきみかも
・・・・・・・・・
五月の山に花橘が茂り

ほととぎすは葉蔭に隠れるころ

やっと君と逢えることだなあ
・・・・・・・・・



サ1981 夏相聞

[題詞](寄鳥)

霍公鳥 来鳴五月之 短夜毛 獨宿者 明不得毛

霍公鳥 来鳴く五月の 短夜も ひとりし寝れば 明かしかねつも 

ほととぎす きなくさつきの みじかよも ひとりしぬれば あかしかねつも
・・・・・・・・・
ホトトギスが来て鳴く五月

夜もすっかり短くなってきたけれど

独りで寝ているので

夜はなかなか明けないものです
・・・・・・・・・
* 「来鳴(きな)く」は「来て鳴く(囀る)」。
* 「し」は強調の副助詞。
* 「寝れ」は、ナ行下二段活用動詞「寝(ぬ)」の已然形。
* 「ば」原因理由の接続助詞。寝ているので。「ば」が単純接続なら寝ていると
* 「かね」は、ナ行下二段型活用で、〜できにくい。
* 「つ」は完了の助動詞。
* 「も」は詠嘆の終助詞。



1982 夏相聞

[題詞]寄蝉

]日倉足者  時常雖鳴  我戀  手弱女我者  不定哭

ひぐらしは 時と鳴けども 片恋に たわや女我れは 時わかず泣く 

ひぐらしは ときとなけども かたこひに たわやめわれは ときわかずなく
・・・・・・・・・
ヒグラシは悲しく鳴くといっても

時は定っていますが

恋している手弱女の私は

時に関係なく泣いています
・・・・・・・・・



1983 夏相聞

[題詞]寄草

人言者 夏野乃草之 繁友 妹与吾<師> 携宿者

人言は 夏野の草の 繁くとも 妹と我れとし 携はり寝ば 

ひとごとは なつののくさの しげくとも いもとあれとし たづさはりねば
・・・・・・・・・
人のうわさが夏の野草が茂るようにうるさくても

あなたと私が手をとりあって寝てしまえば別世界です
・・・・・・・・・



1984 夏相聞

[題詞](寄草)

廼者之 戀乃繁久 夏草乃 苅掃友 生布如

このころの 恋の繁けく 夏草の 刈り掃へども 生ひしくごとし 

このころの こひのしげけく なつくさの かりはらへども おひしくごとし
・・・・・・・・・
近頃は恋が多くて

夏草をいくら刈っても

どんどん茂ってゆくみたいです
・・・・・・・・・



1985 夏相聞

[題詞](寄草)

真田葛延  夏野之繁  如是戀者  信吾命  常有目八<面>

 ま葛延ふ 夏野の繁く かく恋ひば まこと我が命 常ならめやも 

[まくずはふ] なつののしげく かくこひば まことわがいのち つねならめやも
・・・・・・・・・
夏の野に葛が這い繁るように

こんなにも次々と恋していたら

本当に私の命は長くはないでしょう
・・・・・・・・・



1986 夏相聞

[題詞](寄草)

吾耳哉  如是戀為良武  <垣>津旗  丹<頬合>妹者  如何将有

我れのみや かく恋すらむ かきつはた 丹つらふ妹は いかにかあるらむ 

あれのみや かくこひすらむ [かきつはた] につらふいもは いかにかあるらむ
・・・・・・・・・
私だけがあの子を恋焦がれているのか

水面み咲き誇る「かきつはた」の花のように

ほんのりと紅い頬のあの娘は

一体どんな気持ちでいるのだろう
・・・・・・・・・
相手の気持ちを問う形で、自分の恋の苦しみを述べた歌
* 「かきつはた」は、「丹つらふ」の枕詞。
「丹」は赤色.かきつばたの花の紫色がその紫のうちから赤をにじませていることから。
「丹つらふ」・・・のように可愛い、美しい。そしてその内に秘めた激しさを表す。



1987 夏相聞

[題詞]寄花

片搓尓  絲○曽吾搓  吾背兒之  花橘乎  将貫跡母日手

片縒りに 糸をぞ我が縒る 我が背子が 花橘を 貫かむと思ひて 
 
かたよりに いとをぞわがよる わがせこが はなたちばなを ぬかむとおもひて
・・・・・・・・・
あなた用の糸には
・・・・・・・・・
* 「かた‐より」片×縒り/片×撚り
糸に左右どちらかだけ縒りをかけること。



サ1988 夏相聞

[題詞](寄花)

鴬之  徃来垣根乃  宇能花之  厭事有哉  君之不来座

鴬の 通ふ垣根の 卯の花の 憂きことあれや 君が来まさぬ 
 
[うぐひすの かよふかきねの うのはなの] うきことあれや きみがきまさぬ
・・・・・・・・・
鶯が通ってくる垣根は今を盛りの卯の花です

その卯の花の私ではありますまいが

何か気にいらないことがあったのでしょうか

愛しい君はいらっしゃいません(気にしてます)
・・・・・・・・・
* 「卯の花の」までが「憂きこと」(気にくわないこと)の「う」を言い出すための序。
* 「あれや」;あったのでしょうか
 「あれ」は、ラ行変格活用動詞「あり」の已然形。
 「や」は、疑問の係助詞。普通、已然形につく「や」は反語を表す。
* 「まさぬ」;〜にならない
 「まさ」は、サ行四段活用尊敬の補助動詞「ます」の未然形。
「ぬ」は、打消の助動詞「ず」の連体形。係助詞「や」の結び。


1989 夏相聞

[題詞](寄花)

]宇能花之 開登波無二 有人尓 戀也将渡 獨念尓指天

卯の花の 咲くとはなしに ある人に 恋ひやわたらむ 片思にして 

うのはなの さくとはなしに あるひとに こひやわたらむ かたもひにして
・・・・・・・・・
卯の花が咲くとも咲かぬともはっきりしないような

恋心を表さない人に私は片恋の思いを抱いてしまった
・・・・・・・・・



サ1990 夏相聞

[題詞](寄花)

吾社葉 憎毛有目 吾屋前之 花橘乎 見尓波不来鳥屋

吾れこそば 憎くもあらめ 吾がやどの 花橘を 見には来じとや 

われこそば にくくもあらめ わがやどの はなたちばなを みにはこじとや
・・・・・・・・・
私を気に入らないのでしょう

吾が家の庭に咲きそろった橘の花さえも

見たくないとおっしゃるのでしょうか
・・・・・・・・・
* 「こそ」は強調の係助詞。
* 「あらめ」;〜だからでしょう
 「あら」は、ラ行変格活用動詞「あり」の未然形。
 「め」は、推量の助動詞「む」の已然形。係助詞「こそ」の結び)
* 「来じやと」;来たくないのでしょうか
 「こ」は、カ行変格活用動詞「来」の未然形。
 「じ」は、打消意志の助動詞。
 「や」は、疑問の係助詞。
 「と」は、引用の格助詞。 
* 「憎し」は否定的な意味が普通で、「好き」ということ。しかし「好き」というのは無く、「憎くない」という言い方が、当時の人が「好き」という感情を表現する方法の一つだったらしい。「恋し」「恋ふ」、これは好きな人に逢えないときに寂しい、辛いと感じる心情にあたる。



1991 夏相聞,勧誘

[題詞](寄花)

霍公鳥  来鳴動  岡<邊>有  藤浪見者  君者不来登夜

霍公鳥 来鳴き響もす 岡辺なる 藤波見には 君は来じとや 

ほととぎす きなきとよもす をかへなる ふぢなみみには きみはこじとや
・・・・・・・・・
霍公鳥が来て鳴くこの丘の藤の花を

あなたは見にいらっしゃらないのですか

すっごくいいのに お待ちしてますのに
・・・・・・・・・



1971 夏雑歌

[題詞](詠花)

雨間開而  國見毛将為乎  故郷之  花橘者  散家<武>可聞

雨間明けて 国見もせむを 故郷の 花橘は 散りにけむかも 

あままあけて くにみもせむを ふるさとの はなたちばなは ちりにけむかも
・・・・・・・・・・
どうやら雨も降り止んだので国見をすれば思う

はるか故郷の明日香の花橘も散ってしまっただろうと
・・・・・・・・・・
* この歌の「故郷」は、に平城京に遷都した後の「明日香」を指すとされる。
* あま‐あい【雨間】 雨がやんでいる間。
  あま‐ま 【雨間】 雨が降りやんでいる間。あまあい。
* くに‐み 【国見】 天皇や地方の長(おさ)が高い所に登って、国の地勢、景色や人民の生活状態を望み見ること。もと春の農耕儀礼で、1年の農事を始めるにあたって農耕に適した地を探し、秋の豊穣を予祝したもの。
* けむ[助動] [(けま)|○|けむ(けん)|けむ(けん)|けめ|○]《過去の助動詞「き」の未然形の古形「け」+推量の助動詞「む」から》活用語の連用形に付く。 過去の事実についての推量を表す。…ただろう。…




1972 夏雑歌 

[題詞](詠花)

野邊見者  瞿麦之花  咲家里  吾待秋者  近就良思母

野辺見れば なでしこの花 咲きにけり 我が待つ秋は 近づくらしも 

のへみれば なでしこのはな さきにけり わがまつあきは ちかづくらしも

・・・・・・・・・・
見ると野辺に撫子の花が咲いた

待ち望んだ秋が近づいているらしいな
・・・・・・・・・・


1973 夏雑歌,枕詞,惜別

[題詞](詠花)

吾妹子尓  相市乃花波  落不過  今咲有如  有与奴香聞

我妹子に 楝の花は 散り過ぎず 今咲けるごと ありこせぬかも 

[わぎもこに] あふちのはなは ちりすぎず いまさけるごと ありこせぬかも
・・・・・・・・・・
彼女に逢うまで散らないで

あふちのはなは今咲いているままに

そのままでいてくれないだろうか
・・・・・・・・・・
* 「楝」は栴檀の木。夏に薄紫色の可憐な花が咲く。




1974 夏雑歌,奈良

[題詞](詠花)

春日野之  藤者散去而  何物鴨  御狩人之  折而将挿頭

春日野の 藤は散りにて 何をかも み狩の人の 折りてかざさむ 

かすがのの ふぢはちりにて なにをかも みかりのひとの をりてかざさむ
・・・・・・・・・・
春日野の藤の花はとっくに散ってしまい

薬狩の大宮人たちはいったい何の花を折り取って

髪にかざせばいいのだろう
・・・・・・・・・・
* 藤原氏を氏神とする春日大社では、今でも巫女たちが藤の花を髪飾りにして神に仕えている。





1975 夏雑歌

[題詞](詠花)

不時  玉乎曽連有  宇能花乃  五月乎待者  可久有

時ならず 玉をぞ貫ける 卯の花の 五月を待たば 久しくあるべみ 

ときならず たまをぞぬける うのはなの さつきをまたば ひさしくあるべみ
・・・・・・・・・・
まだその時季ではないが

実りの五月に薬玉を通すために

その卯の花が咲くのを待っているとは

随分と待ち遠しいことであるよ
・・・・・・・・・・
<まだ咲かないけれど、卯の花の実を糸に通して薬玉(くすだま)を作り、
健康を祈る習慣のある五月が待ち遠しい。>ということ。




1976 夏雑歌,問答

[題詞]問答

宇能花乃  咲落岳従  霍公鳥  鳴而沙<度>  公者聞津八

卯の花の 咲き散る岡ゆ 霍公鳥 鳴きてさ渡る 君は聞きつや 

うのはなの さきちるをかゆ ほととぎす なきてさわたる きみはききつや
・・・・・・・・・・
卯の花が咲き散る岡の上をホトトギスが鳴いて渡っていきましたよ

あなたは聞きましたか
・・・・・・・・・・


1977 夏雑歌,問答

[題詞](問答)

聞津八跡  君之問世流  霍公鳥  小竹野尓所沾而  従此鳴綿類

聞きつやと 君が問はせる 霍公鳥 しののに濡れて こゆ鳴き渡る 

ききつやと きみがとはせる ほととぎす しののにぬれて こゆなきわたる

・・・・・・・・・・
お問いかけのほととぎすは

雨の中をしとどに濡れながら

この空を鳴き渡って行きましたよ
・・・・・・・・・・
* 「しのの‐に」 [副]びっしょりぬれているさま。しとどに。



1978 夏雑歌

[題詞]譬喩歌

橘  花落里尓  通名者  山霍公鳥  将令響鴨

橘の 花散る里に 通ひなば 山霍公鳥 響もさむかも 

たちばなの はなちるさとに かよひなば やまほととぎす とよもさむかも
・・・・・・・・・・
橘の花散る里に通うのであれば

山霍公鳥の鳴きさえずる声が

さぞあたりに響き渡ることであろうよ 
・・・・・・・・・・
* 花を女性に例えた歌



1961 夏雑歌

[題詞](詠鳥)

吾衣  於君令服与登  霍公鳥  吾乎領  袖尓来居管

我が衣を 君に着せよと 霍公鳥 我れをうながす 袖に来居つつ 

わがきぬを きみにきせよと ほととぎす われをうながす そでにきゐつつ
・・・・・・・・・・・
ほととぎすが私の袖に止まって言うんだよ

なにを躊躇っているんだ

早くわが衣を君の衣に重ねて着せよと
・・・・・・・・・・・




1962 夏雑歌

[題詞](詠鳥)

本人 霍公鳥乎八 希将見  今哉汝来  戀乍居者

本つ人 霍公鳥をや めづらしく 今か汝が来る 恋ひつつ居れば 

もとつひと ほととぎすをや めづらしく いまかながくる こひつつをれば
・・・・・・・・・・・
ほととぎすなどにまして  

私の思うただ一人のお人が

めったになくお見えになるの

づっと恋い慕っていたからよ
・・・・・・・・・・・
* もと‐つ【本つ】 [連語]《「つ」は「の」の意の格助詞》大本の。本来の。
* を‐や [連語]
《格助詞「を」+係助詞「や」》疑問を表す。…を…(だろう)か。
《間投助詞「を」+間投助詞「や」》
1 (活用語の連体形に付いて)強い感動・詠嘆を表す。…(だ)なあ。…ことよ。
2 (名詞・助詞に付く。「いわんや…(において)をや」の形で)反語表現の文を強調する意を表す。まして…においてはなおさらである。…はいうまでもないことである。



1963 夏雑歌

[題詞](詠鳥)

如是許  雨之零尓  霍公鳥  宇<乃>花山尓  猶香将鳴

かくばかり 雨の降らくに 霍公鳥 卯の花山に なほか鳴くらむ 

かくばかり あめのふらくに ほととぎす うのはなやまに なほかなくらむ
・・・・・・・・・・・
こんなにも雨が降っているのに

それでも霍公鳥は

卯の花が咲いている山で鳴いているのでしょうか
・・・・・・・・・・・




1964 夏雑歌

[題詞]詠蝉

黙然毛将有  時母鳴奈武  日晩乃  物念時尓  鳴管本名

黙もあらむ 時も鳴かなむ ひぐらしの 物思ふ時に 鳴きつつもとな 

もだもあらむ ときもなかなむ ひぐらしの ものもふときに なきつつもとな
・・・・・・・・・・・
文句も言わずにすむ時に鳴いて欲しい

ヒグラシは物思いする時にかぎって

うるさく鳴き続けるから落ち着かない
・・・・・・・・・・・




1965 夏雑歌,飛鳥

[題詞]詠榛

思子之  衣将摺尓  々保比与  嶋之榛原  秋不立友

思ふ子が 衣摺らむに にほひこそ 島の榛原 秋立たずとも 

おもふこが ころもすらむに にほひこそ しまのはりはら あきたたずとも
・・・・・・・・・・・
愛しく思う子が衣の摺り染めをするのに

立秋はまだとはいえ早く色鮮やかに黄葉してくれ

明日香の島の庄の榛の林よ
・・・・・・・・・・・
* 「こそ」は、他にあつらえ望む意を表す終助詞。・・してほしい。・・してくれ。        
* 榛(はり)は榛木(はんのき)の古名。 樹皮からはタンニンをとり、染料とした。




1966 夏雑歌

[題詞]詠花

風散  花橘○  袖受而  為君御跡  思鶴鴨

風に散る 花橘を 袖に受けて 君がみ跡と 偲ひつるかも 

かぜにちる はなたちばなを そでにうけて きみがみあとと しのひつるかも
・・・・・・・・・・・
風に散る花橘を袖に受け止めて

あなたのお姿の残り香として偲んでいます
・・・・・・・・・・・




1967 夏雑歌

[題詞](詠花)

香細寸  花橘乎  玉貫  将送妹者  三礼而毛有香

かぐはしき 花橘を 玉に貫き 贈らむ妹は みつれてもあるか 

かぐはしき はなたちばなを たまにぬき おくらむいもは みつれてもあるか
・・・・・・・・・・・
今を盛りの芳しい花橘を

宝玉として緒に貫いて造ったのは

贈るその人がやつれているため

これを身に着ければ

その精気でいっそう美しく

輝くように元気を取り戻すはずだ

あまりにも疲れ果てているあの子よ
・・・・・・・・・・・
* 「みつる」は、(自ラ下二)やつれる。疲れ果てる。
* 「ても」接続助詞「て」に係助詞「も」の付いたもの。・・ても。



1968 夏雑歌

[題詞](詠花)

霍公鳥  来鳴響  橘之  花散庭乎  将見人八孰

霍公鳥 来鳴き響もす 橘の 花散る庭を 見む人や誰れ 

ほととぎす きなきとよもす たちばなの はなちるにはを みむひとやたれ
・・・・・・・・・・・
ほととぎすがわが家の庭に来て

鳴き響かせて橘の花を散らせるのを

見るであろう人はどなたであろうか
・・・・・・・・・・・




1969 夏雑歌,恨み

[題詞](詠花)

吾屋前之  花橘者  落尓家里  悔時尓  相在君鴨

我が宿の 花橘は 散りにけり 悔しき時に 逢へる君かも 

わがやどの はなたちばなは ちりにけり くやしきときに あへるきみかも
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この家の花橘が盛りの頃にお逢いして

ご一緒に見て楽しみたかったのに

花橘の散る間は長いことでしたよ
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1970 夏雑歌

[題詞](詠花)

見渡者  向野邊乃  石竹之  落巻惜毛  雨莫零行年

見わたせば 向ひの野辺の なでしこの 散らまく惜しも 雨な降りそね 

みわたせば むかひののへの なでしこの ちらまくをしも あめなふりそね
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見渡せば向かいの野辺の

撫子の花が散ってしまうのが惜しい

あの可愛らしい撫子の花が

どうか雨よ降らないでおくれよ
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1949 夏雑歌,問いかけ

[題詞](詠鳥)

霍公鳥  今朝之旦明尓  鳴都流波  君将聞可  朝宿疑将寐

霍公鳥 今朝の朝明に 鳴きつるは 君聞きけむか 朝寐か寝けむ 

ほととぎす けさのあさけに なきつるは きみききけむか あさいかねけむ
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ホトトギスが今朝の明け方に鳴いたのを

あの方はお聞きになったでしょうか

それともぐっすりと寝ていらっしゃったかしら
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1950 夏雑歌,叙景

[題詞](詠鳥)

霍公鳥  花橘之  枝尓居而  鳴響者  花波散乍

霍公鳥 花橘の 枝に居て 鳴き響もせば 花は散りつつ 

ほととぎす はなたちばなの えだにゐて なきとよもせば はなはちりつつ
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ホトトギスが咲き匂う花橘の枝にとまって

鳴きたてるたびに花が散りゆく
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1951 夏雑歌

[題詞](詠鳥)

慨哉  四去霍公鳥  今社者  音之干蟹  来喧響目

うれたきや 醜霍公鳥 今こそば 声の嗄るがに 来鳴き響めめ 

うれたきや しこほととぎす いまこそば こゑのかるがに きなきとよめめ
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にくたらしいぞ

ろくでなしのホトトギスめ

みんなが待っているこんな時にこそ

声もかれてしまうほど 

来て鳴き響けばいいのに
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1952 夏雑歌,叙景

[題詞](詠鳥)

今夜乃  於保束無荷  霍公鳥  喧奈流聲之  音乃遥左

今夜の おほつかなきに 霍公鳥 鳴くなる声の 音の遥けさ 

こよひの おほつかなきに ほととぎす なくなるこゑの おとのはるけさ
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月がなくあたりのおぼつかない今宵

闇をとおしてホトトギスの鳴く声であろうか

遥か彼方から聞こえてくる
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1953 夏雑歌

[題詞](詠鳥)

五月山  宇能花月夜  霍公鳥  雖聞不飽  又鳴鴨

五月山 卯の花月夜 霍公鳥 聞けども飽かず また鳴かぬかも 

さつきやま うのはなづくよ ほととぎす きけどもあかず またなかぬかも
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五月の山を月が照らして
 
卯の花を浮かび上がらせている今宵

こんな夜のホトトギスの声は

いくら聞いても聞き飽きることがない

もういちどまた鳴かないものか
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1954 夏雑歌

[題詞](詠鳥)

霍公鳥  来居裳鳴香  吾屋前乃  花橘乃  地二落六見牟

霍公鳥 来居も鳴かぬか 我がやどの 花橘の 地に落ちむ見む 

ほととぎす きゐもなかぬか わがやどの はなたちばなの つちにおちむみむ
・・・・・・・・
ほととぎすよ

わが家に来て何故鳴かないのか

おまえの鳴声を待ちかねた花橘が

ただ地に地に落ちているではないか
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1955 夏雑歌

[題詞](詠鳥)

霍公鳥  厭時無  菖蒲  蘰将為日  従此鳴度礼

霍公鳥 いとふ時なし あやめぐさ かづらにせむ日 こゆ鳴き渡れ 

ほととぎす いとふときなし あやめぐさ かづらにせむひ こゆなきわたれ
・・・・・・・・
霍公鳥よ

いとう時など無いから

あやめぐさをかづらにする日には

かならず鳴き渡って来なさい
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1956 夏雑歌,奈良,懐古

[題詞](詠鳥)

山跡庭  啼而香将来  霍公鳥  汝鳴毎  無人所念

大和には 鳴きてか来らむ 霍公鳥 汝が鳴くごとに なき人思ほゆ 

やまとには なきてかくらむ ほととぎす ながなくごとに なきひとおもほゆ
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大和の方へ親しんで啼き渡って行くほととぎす

おまえが鳴くと亡き人が偲ばれることであるよ
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* 「啼きてか来らむ」は、大和の方へ行くだろうで、大和の方へ親しんで啼いて行く意となる。


1957 夏雑歌,叙景

[題詞](詠鳥)

宇能花乃  散巻惜  霍公鳥  野出山入  来鳴令動

卯の花の 散らまく惜しみ 霍公鳥 野に出で山に入り 来鳴き響もす 

うのはなの ちらまくをしみ ほととぎす のにいでやまにいり きなきとよもす
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卯の花の花が散るのが惜しいと

ほととぎすが野山を飛び回って

山彦のように鳴いているよ
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* とよもす【▽響もす】[動サ五(四)]声や音をひびかせる。



1958 夏雑歌

[題詞](詠鳥)

橘之  林乎殖  霍公鳥  常尓冬及  住度金

橘の 林を植ゑむ 霍公鳥 常に冬まで 棲みわたるがね 

たちばなの はやしをうゑむ ほととぎす つねにふゆまで すみわたるがね
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橘を沢山植えて林を造ろう

ほととぎすが年中住み着けるように 
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* 「がね」[接助・終助・接尾]動詞の連体形に付く。願望・命令・意志などの表現を受けて、目的・理由を表す。…するように。…するために。


1959 夏雑歌,奈良,叙景

[題詞](詠鳥)

雨へ之  雲尓副而  霍公鳥  指春日而  従此鳴度

雨晴れの 雲にたぐひて 霍公鳥 春日をさして こゆ鳴き渡る 

あまばれの くもにたぐひて ほととぎす かすがをさして こゆなきわたる
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降りしきっていた雨が上がり

流れる雲を追いかけるかのように

ホトトギスが春日を目指して

この上を鳴きながら飛んで行く
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1960 夏雑歌

[題詞](詠鳥)

物念登  不宿旦開尓  霍公鳥  鳴而左度  為便無左右二

物思ふと 寐ねぬ朝明に 霍公鳥 鳴きてさ渡る すべなきまでに 

ものもふと いねぬあさけに ほととぎす なきてさわたる すべなきまでに
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物思いで寝られずいる朝明に

ほととぎすが広い空を渡って行く

何ともどうしようもないということだなあ
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* 「寐ねぬ」寝られずいる
* 「さわたる」(自ラ四)は、「さ」(接頭)、広い時間・空間を越えて移って行く感じ。




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