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1882 春雑歌,野遊び [題詞](野遊) 春野尓 意将述跡 <念>共 来之今日者 不晩毛荒粳 はるののに こころのべむと おもふどち こしけふのひは くれずもあらぬか ・・・・・・・・・・・・・
春の野でのんびりしようと 仲間どうしでやってきた 今日のこの楽しい日は いつまでも暮れないままであれ ・・・・・・・・・・・・・ サ1883 春雑歌,野遊び,枕詞 [題詞](野遊) 百礒城之 大宮人者 暇有也 梅乎挿頭而 此間集有 [ももしきの] おほみやひとは いとまあれや うめをかざして ここにつどへる ・・・・・・・・・・・・・
* 『新古今集』に山部赤人の歌として、下の句を変えて、宮仕えの大宮人は 今日は暇であるらしい 楽しげに梅の髪飾をりして 春日の野に集っている ・・・・・・・・・・・・・ 「ももしきの 大宮人は暇あれや 桜かざして 今日も暮らしつ」(104)。 * 「百敷の」は「都」や「大宮」を言い出す枕詞。「大宮人」は「宮中にお仕えする人」。 * 「暇あるや」は、暇があると、暇があれば。 サ1884 春雑歌,移ろい,問答 [題詞]歎舊 寒過 暖来者 年月者 雖新有 人者舊去 ふゆすぎて はるしきたれば としつきは あらたなれども ひとはふりゆく ・・・・・・・・・・・・・
* 「来ぬれば」;来ると。冬が過ぎて春がやってくると 年月は新しくなるけれども 人は古くなっていく ・・・・・・・・・・・・・ 「来」カ行変格活用動詞連用形。 「ぬれ」完了助動詞「ぬ」の已然形。 「ば」恒常条件の接続助詞。 *「ども」は接続助詞・逆接(〜けれども)。 1885 春雑歌,移ろい,問答 [題詞](歎舊) 物皆者 新吉 唯 人者舊之 應宜 ものみなは あらたしきよし ただしくも ひとはふりにし よろしかるべし ・・・・・・・・・・・・・
* 「ただしく」【但しく】 (副) 「ただ」を強めた語。物はみな新しいものがよいが ただ人は古くなるのがよろしかろうぞ ・・・・・・・・・・・・・ 1886 春雑歌,大阪,枕詞 [題詞]懽逢 佐吉之 里<行>之鹿歯 春花乃 益希見 君相有香開 すみのえの さとゆきしかば はるはなの いやめづらしき きみにあへるかも ・・・・・・・・・・・・・
住吉の里にでかけたら 春の花が思いかけず咲いていたように 心惹かれるあなたに逢ったことだ ・・・・・・・・・・・・・ 1887 春雑歌,奈良 [題詞]旋頭歌 春日在 三笠乃山尓 月母出奴可母 佐紀山尓 開有櫻之 花乃可見 かすがなる みかさのやまに つきもいでぬかも さきやまに さけるさくらの はなのみゆべく ・・・・・・・・・・・・・
* 佐保山と佐紀山の裾は、かつて平城山(ならやま)と呼ばれ 大宮人の憩いの丘だった。東の春日にある三笠の山に早く月が出てくれないものか 佐紀山の辺に咲く桜の花が 夕影に映えてはっきりと見えるように ・・・・・・・・・・・・・ 1888 春雑歌 [題詞](旋頭歌) 白雪之 常敷冬者 過去家良霜 春霞 田菜引野邊之 鴬鳴焉 しらゆきの つねしくふゆは すぎにけらしも はるかすみ たなびくのへの うぐひすなくも ・・・・・・・・・・・・・
* 「しく」【敷く】 敷き詰める 白雪を敷き詰めた冬は過ぎ去ったようだ 春霞がたなびく野辺に鶯の声が聞こえることよ ・・・・・・・・・・・・・ * 「けらし」 [連語]《過去の助動詞「けり」の連体形に推量の助動詞「らし」の付いた「けるらし」の音変化》確実な根拠に基づいて過去の動作・状態を推量する意を表す。 1889 春雑歌,比喩 [題詞]譬喩歌 吾屋前之 毛桃之下尓 月夜指 下心吉 菟楯項者 わがやどの けもものしたに つくよさし したこころよし うたてこのころ ・・・・・・・・・・・・・
* 「け‐もも」【毛桃】 桃の一品種。日本在来のもので、果実は小さくて堅く、毛深い。観賞用。家の庭先の毛桃の下に月の光がさしこんで そこがとても心地良いこの頃です ・・・・・・・・・・・・・ * 「した‐ごころ」【下心】 心の奥深く思っていること。心底。 * 「うたて」いつもと違って、普通じゃない、 [副] ますます。 春相聞 1890 春相聞,作者:柿本人麻呂歌集,序詞 [題詞]春相聞 春<山> <友>鴬 鳴別 <眷>益間 思御吾 [はるやまの ともうぐひすの なきわかれ] かへりますまも おもほせわれを ・・・・・・・・・・・・・
春日野の鴬が別れを惜しんで 鳴きながら別れるように つらい別れです 私のことをずっと思っていてください お帰りになる道中でも ・・・・・・・・・・・・・ 1891 春相聞,作者:柿本人麻呂歌集 [題詞] 冬隠 春開花 手折以 千遍限 戀渡鴨 [ふゆこもり] はるさくはなを たをりもち ちたびのかぎり こひわたるかも ・・・・・・・・・・・・・
春咲く花を手折り持ち 幾たびも恋慕う 冬こもっていた春に その春咲く花を手折っては 限りなく恋し続けることだよ ・・・・・・・・・・・・・ |
・・・万葉集(〃)
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1871 春雑歌 [題詞](詠花) 春去者 散巻惜 梅花 片時者不咲 含而毛欲得 はるされば ちらまくをしき うめのはな しましはさかず ふふみてもがも ・・・・・・・・・・・
* 「まく」は推量の助動詞「む」のク語法。・・だろうこと。・・たりすること。活用語の未然形につく。体言化接尾語「く」がついたものとする説もある。春になると花が咲くことよりも 散ることが惜しまれる梅よ しばらくは咲かないで蕾のままでいてほしい 可愛いあの子よ ・・・・・・・・・・・ 1872 春雑歌,奈良 [題詞](詠花) 見渡者 春日之野邊尓 霞立 開艶者 櫻花鴨 みわたせば かすがののへに かすみたち さきにほへるは さくらばなかも ・・・・・・・・・・・
はるかに見渡せば 春日の野辺に霞が立つように 美しい色に咲き誇っているのは あれは桜の花であるなあ ・・・・・・・・・・・ 1873 春雑歌 [題詞](詠花) 何時鴨 此夜乃将明 鴬之 木傳落 <梅>花将見 いつしかも このよのあけむ うぐひすの こづたひちらす うめのはなみむ ・・・・・・・・・・・
いつになったらこの夜は明けるのであろうか 鴬が枝から枝へと飛び交っては散らしている 梅の花のありさまを早く見たいものだ ・・・・・・・・・・・ 1874 春雑歌,奈良,高円 [題詞]詠月 春霞 田菜引今日之 暮三伏一向夜 不穢照良武 高松之野尓 はるかすみ たなびくけふの ゆふづくよ きよくてるらむ たかまつののに ・・・・・・・・・・・
春霞がたなびいて今宵の月ははっきり見えないが 清らかに照らしているだろう高松の野の辺りでは ・・・・・・・・・・・ 1875 春雑歌,異伝 [題詞](詠月) 春去者 紀之許能暮之 夕月夜 欝束無裳 山陰尓指天 [一云 春去者 木陰多 暮月夜] はるされば このくれおほみ ゆふづくよ おほつかなしも やまかげにして[はるされば こかげをおほみ ゆふづくよ] ・・・・・・・・・・・
* 「おほつかなし」(形)[文]ク おぼつかな・し春の夕月夜なのに木蔭が多くて暗い はっきりしない山かげの道であることよ ・・・・・ 春になると木の下闇が多くなるので せっかくの宵の月も すっきりと姿を現してくれない こんな山蔭にいると ・・・・・・・・・・・ 確かでなくはっきりしない。ぼんやりしている。 1876 春雑歌 [題詞](詠月) 朝霞 春日之晩者 従木間 移歴月乎 何時可将待 [あさかすみ] はるひのくれは このまより うつろふつきを いつとかまたむ ・・・・・・・・・・・
春の一日がようやく暮れて 木の間から姿を現す月が 待ち遠しことであるよ ・・・・・・・・・・・ 1877 春雑歌 [題詞]詠雨 春之雨尓 有来物乎 立隠 妹之家道尓 此日晩都 はるのあめに ありけるものを たちかくり いもがいへぢに このひくらしつ ・・・・・・・・・・・
春のやさしい雨なのに雨宿りして あの娘の家に行く途中で日が暮れてしまった ・・・・・・・・・・・ 1878 春雑歌,飛鳥 [題詞]詠河 今徃而 聞物尓毛我 明日香川 春雨零而 瀧津湍音乎 いまゆきて きくものにもが あすかがは はるさめふりて たぎつせのおとを ・・・・・・・・・・・
* 「もが」は、仮想的な願望をあらわす終助詞。今(今日)行って聞きたいものだ (明日)香川に春雨が降って たぎり高鳴る瀬音を ・・・・・・・・・・・ この陰鬱な気分が吹き飛ぶことだろうなあ。 1879 春雑歌,奈良,野遊び [題詞]詠煙 春日野尓 煙立所見 ○嬬等四 春野之菟芽子 採而煮良思文 かすがのに けぶりたつみゆ をとめらし はるののうはぎ つみてにらしも ・・・・・・・・・・・
* 「ウハギ」はヨメナのこと。若葉をゆでて食べる、美味な食用野菜。春日野にすっと立ち昇る煙が見える 春の野遊びに娘達がヨメナを摘んで 煮ている煙だろうよ ・・・・・・・・・・・ * 「の‐あそび」【野遊び】 1 野に出て、草を摘んだり会食をしたりして遊ぶこと。《季 春》 2 貴族や武士が野に出て狩猟をすること。 1880 春雑歌,奈良,野遊び [題詞]野遊 春日野之 淺茅之上尓 念共 遊今日 忘目八方 かすがのの あさぢがうへに おもふどち あそぶけふのひ わすらえめやも ・・・・・・・・・・・
春日野の春浅いちがやの上で 親しい仲間がつどって 野遊びする今日の楽しさは いつまでも忘れられないだろう ・・・・・・・・・・・ 1881 春雑歌,奈良,宴席,野遊び [題詞](野遊) 春霞 立春日野乎 徃還 吾者相見 弥年之黄土 はるかすみ たつかすがのを ゆきかへり われはあひみむ いやとしのはに ・・・・・・・・・・・
春霞立つこの春日野を みなさんと一緒に逍遙しましょう くる年もいついつまでも ・・・・・・・・・・・ |
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1859 春雑歌,京都府,枕詞 [題詞](詠花) 馬並而 高山<部>乎 白妙丹 令艶色有者 梅花鴨 うまなめて たかのやまへを [しろたへに] にほはしたるは うめのはなかも ・・・・・・・・・・・
馬を並べて多賀の山辺を行けば 真っ白にあたりを染めあげているのは 梅の花ではないか ・・・・・・・・・・・ 1860 春雑歌,比喩 [題詞](詠花) 花咲而 實者不成登裳 長氣 所念鴨 山振之花 はなさきて みはならねども ながきけに おもほゆるかも やまぶきのはな ・・・・・・・・・・・
* 太田道灌(どうかん)に田舎娘が貸す蓑のない断りに、後拾遺和歌集の兼明親王の歌、「七重八重 花は咲けども山吹の みの一つだに 無きぞ悲しき」を援用した故事が有名。花が咲くだけで実はならないと知っていても ずっと前から気に掛かってしかたがない この八重山吹の花よ 我が恋よ ・・・・・・・・・・・ 1861 春雑歌,奈良 [題詞](詠花) 能登河之 水底并尓 光及尓 三笠乃山者 咲来鴨 のとがはの みなそこさへに てるまでに みかさのやまは さきにけるかも ・・・・・・・・・・・
高円三笠をめぐる能登川の 水底までが照り映えるほどに 三笠の山の桜が咲き満ちみちていることよ ・・・・・・・・・・・ 1862 春雑歌 [題詞](詠花) 見雪者 未冬有 然為蟹 春霞立 梅者散乍 ゆきみれば いまだふゆなり しかすがに はるかすみたち うめはちりつつ ・・・・・・・・・・・
残雪を見ればまだ冬だが とはいえ春霞が立って しきりに梅の花が散っている ・・・・・・・・・・・ 1863 春雑歌 [題詞](詠花) 去年咲之 久木今開 徒 土哉将堕 見人名四二 こぞさきし ひさぎいまさく いたづらに つちにかおちむ みるひとなしに ・・・・・・・・・・・
馬酔木(あしび)が今年も咲いたが むなしく地に散ってしまうのか 去年見たあの人は再び訪れず ・・・・・・・・・・・ 1864 春雑歌,枕詞 [題詞](詠花) 足日木之 山間照 櫻花 是春雨尓 散去鴨 [あしひきの] やまのまてらす さくらばな このはるさめに ちりゆかむかも ・・・・・・・・・・・
裾を引く山の やまあいに照り映えている桜花は この春雨に打たれて散ってゆくのだなあ ・・・・・・・・・・・ 1865 春雑歌 [題詞](詠花) 打靡 春避来之 山際 最木末乃 咲徃見者 [うちなびく] はるさりくらし やまのまの とほきこぬれの さきゆくみれば ・・・・・・・・・・・
待ちかねた春がやっと来たらしい 遠く山間の梢の花がつぎつぎと 咲いてゆくのを見ると ・・・・・・・・・・・ 1866 春雑歌,奈良 [題詞](詠花) 春雉鳴 高圓邊丹 櫻花 散流歴 見人毛我<母> きぎしなく たかまとのへに さくらばな ちりてながらふ みむひともがも ・・・・・・・・・・・
高圓山の野辺に雉は妻を呼んで鳴き 桜の花は風にのって散り漂う だれか一緒に見る人がいて欲しいことよ ・・・・・・・・・・・ 1867 春雑歌 [題詞](詠花) 阿保山之 佐宿木花者 今日毛鴨 散乱 見人無二 あほやまの さくらのはなは けふもかも ちりまがふらむ みるひとなしに ・・・・・・・・・・・
古都明日香の阿保山の 桜の花は今日には散り乱れていることだろう 賞めでる人もなくただいたずらに ・・・・・・・・・・・ 1868 春雑歌,吉野 [題詞](詠花) 川津鳴 吉野河之 瀧上乃 馬酔之花會 置末勿動 [かはづなく] よしののかはの たきのうへの あしびのはなぞ はしにおくなゆめ ・・・・・・・・・・・
カジカ鳴く吉野川の滝の上で あなたの為に手折ったもの 馬酔木の花ですよ 大事に見てやっでおくれ ・・・・・・・・・・・ 1869 春雑歌 [題詞](詠花) 春雨尓 相争不勝而 吾屋前之 櫻花者 開始尓家里 はるさめに あらそひかねて わがやどの さくらのはなは さきそめにけり ・・・・・・・・・・・
降る春雨に逆らいかねて 我が家の桜の花も咲きそめました あなたも咲きそめてくださればいいのに ・・・・・・・・・・・ 1870 春雑歌 [題詞](詠花) 春雨者 甚勿零 櫻花 未見尓 散巻惜裳 はるさめは いたくなふりそ さくらばな いまだみなくに ちらまくをしも ・・・・・・・・・・・
春雨よそんなにひどく降らないでおくれ 桜の花をまだ十分には見ていないのに 散ってしまうのは惜しいから ・・・・・・・・・・・ |
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1848 春雑歌 [題詞](詠柳) 山際尓 雪者零管 然為我二 此河楊波 毛延尓家留可聞 やまのまに ゆきはふりつつ しかすがに このかはやぎは もえにけるかも ・・・・・・・・・・・
* この「かはやぎ」は「ねこやなぎ」か。やぎ【柳】やなぎ。多く他の語と複合して用いられる。山に雪が降っています でもほら このねこやなぎは芽吹いていますよ もう春ですね ・・・・・・・・・・・ * 「しか‐す‐がに」【然すがに】 [副]《副詞「しか」+サ変動詞「す」+接続助詞「がに」》 そうはいうものの。ではあるが。 1849 春雑歌 [題詞](詠柳) 山際之 雪<者>不消有乎 水飯合 川之副者 目生来鴨 やまのまの ゆきはけずあるを [みなぎらふ] かはのそひには もえにけるかも ・・・・・・・・・・・
* 「みなぎら◦う」〔みなぎらふ〕【×漲らふ】山々の雪は残っているが 水かさを増した川の 岸辺沿いの草木は まけじと新緑の芽を吹き出していることですよ ・・・・・・・・・・・
[連語]《動詞「みなぎ(漲)る」の未然形+反復継続の助動詞「ふ」。
上代語》水が満ちあふれている。「みいひあふ」とよめば「川がさらさらと音を立てて流れる」意。 * 「も・える」【×萌える】[動ア下一] [文]も・ゆ[ヤ下二]草木が芽を出す。芽ぐむ。 1850 春雑歌 [題詞](詠柳) 朝旦 吾見柳 鴬之 来居而應鳴 森尓早奈礼 あさなさな わがみるやなぎ うぐひすの きゐてなくべく もりにはやなれ ・・・・・・・・・・・
朝ごとに見ている柳よ 鴬が居ついて鳴くように 早く生い茂ってくれ ・・・・・・・・・・・ 1851 春雑歌 [題詞](詠柳) 青柳之 絲乃細紗 春風尓 不乱伊間尓 令視子裳欲得 あをやぎの いとのくはしさ はるかぜに みだれぬいまに みせむこもがも ・・・・・・・・・・・
* 「くはし」は「細し」「美し」、精妙で美しい、麗しい。柳葉の糸のように細くその美しさが 春の風に乱れてしまわないうちに 見せたい子がほしいなあ いたらなあ ・・・・・・・・・・・ 1852 春雑歌 [題詞](詠柳) 百礒城 大宮人之 蘰有 垂柳者 雖見不飽鴨 [ももしきの] おほみやひとの かづらける しだりやなぎは みれどあかぬかも ・・・・・・・・・・・
大宮人がかづらにするしだれ柳は 見飽きることがありません ・・・・・・・・・・・ 1853 春雑歌 [題詞](詠柳) 梅花 取持見者 吾屋前之 柳乃眉師 所念可聞 うめのはな とりもちみれば わがやどの やなぎのまよし おもほゆるかも ・・・・・・・・・・・
* 「やなぎ‐の‐まゆ」【柳の×眉】梅の花を手折って見れば わが家の美しいあの人のことが 心に満ちあふれることであるよ ・・・・・・・・・・・ 1 柳の枝に萌(も)え出た若芽を眉に見立てていう語。 2 《「柳眉(りゅうび)」を訓読みにした語》女性のほっそりした眉。女性の美しい眉。 1854 春雑歌 [題詞]詠花 鴬之 木傳梅乃 移者 櫻花之 時片設奴 うぐひすの こづたふうめの うつろへば さくらのはなの ときかたまけぬ ・・・・・・・・・・・
鶯が木から木へと伝う梅の花が散り始めると 桜の花が咲く頃がやってくる ・・・・・・・・・・・ 1855 春雑歌 [題詞](詠花) 櫻花 時者雖不過 見人之 戀盛常 今之将落 さくらばな ときはすぎねど みるひとの こふるさかりと いましちるらむ ・・・・・・・・・・・
* 「さくら」の名前の由来については、花の咲くようすがいかにもうららかなので「さきうら」と呼び、それが「さくら」に転化したという説や、『古事記』に出てくる木花之開耶姫(このはなのさくやひめ)の「開耶(さくや)」が起源になったなど、さまざまあります。桜の花はまだ散る時ではないのに 愛でてくれる人がいるうちにと思って 今散ってしまうのだろうか ・・・・・ 桜花はまだ散る時ではないと思うけれど 愛でてくれる人がいるうちにというように 今こそと散り急ぐのであろうか ・・・・・・・・・・・ 1856 春雑歌 [題詞](詠花) 我刺 柳絲乎 吹乱 風尓加妹之 梅乃散覧 わがかざす やなぎのいとを ふきみだる かぜにかいもが うめのちるらむ ・・・・・・・・・・・
* 「か」は(係助詞)疑いの意を表す。・・・だろうか。私がかざす柳の細い枝を揺らす風が 妻のかざす梅の花も散らしているのだろうか 心のうちを乱さないでくれ 風よ ・・・・・・・・・・・ * 「らむ」は現在推量の助動詞、今見えないところにあるものの様子を思い描くときに用いられる。 * 「かざす」は髪に挿すこと。風流のわざ、もとは生命力にあふれた「時の」植物を身につけて、その精気で我が身の充実を願う呪術から発生した行為と言われている。 * 「柳の糸」はしだれ柳のしなやかな葉を糸に見立てた表現。 * 「乱る」は四段活用の他動詞で、現代語の「乱す」。 1857 春雑歌,枕詞 [題詞](詠花) 毎年 梅者開友 空蝉之 <世>人君羊蹄 春無有来 としのはに うめはさけども [うつせみの] よのひとわれし はるなかりけり ・・・・・・・・・・・
毎年梅の花は咲くのに この世の人である私には かならずしも春は来ないのです ・・・・・・・・・・・ 1858 春雑歌,比喩 [題詞](詠花) 打細尓 鳥者雖<不>喫 縄延 守巻欲寸 梅花鴨 [うつたへに] とりははまねど [なははへて] もらまくほしき うめのはなかも ・・・・・・・・・・・
* 「うつたえに」はある一つのことだけに向かうさまを表す語。多く下に打ち消しや反語の語を伴って用いる。いちずに。むやみに。鳥が啄むわけではないけれど しめ縄を張ってでも守りたい 私の大事な梅の花だよ 娘よ ・・・・・・・・・・・
後世には「松が根を磯辺の波の―あらはれぬべき袖の上かな/新勅撰(恋一)」のように肯定形と呼応する例もみられる。
* 「ま‐く」 《推量の助動詞「む」のク語法。上代語》…だろうこと。…しようとすること。 |



