ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

・・・万葉集(〃)

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索
1882 春雑歌,野遊び

[題詞](野遊)

春野尓  意将述跡  <念>共  来之今日者  不晩毛荒粳

春の野に 心延べむと 思ふどち 来し今日の日は 暮れずもあらぬか 

はるののに こころのべむと おもふどち こしけふのひは くれずもあらぬか

・・・・・・・・・・・・・
春の野でのんびりしようと

仲間どうしでやってきた

今日のこの楽しい日は

いつまでも暮れないままであれ
・・・・・・・・・・・・・



サ1883 春雑歌,野遊び,枕詞

[題詞](野遊)

百礒城之  大宮人者  暇有也  梅乎挿頭而  此間集有

ももしきの 大宮人は 暇あれや 梅をかざして ここに集へる 

[ももしきの] おほみやひとは いとまあれや うめをかざして ここにつどへる
・・・・・・・・・・・・・
宮仕えの大宮人は 

今日は暇であるらしい

楽しげに梅の髪飾をりして 

春日の野に集っている
・・・・・・・・・・・・・
* 『新古今集』に山部赤人の歌として、下の句を変えて、
「ももしきの 大宮人は暇あれや 桜かざして 今日も暮らしつ」(104)。
* 「百敷の」は「都」や「大宮」を言い出す枕詞。「大宮人」は「宮中にお仕えする人」。
* 「暇あるや」は、暇があると、暇があれば。



サ1884 春雑歌,移ろい,問答

[題詞]歎舊

寒過  暖来者  年月者  雖新有  人者舊去

冬過ぎて 春し来れば 年月は 新たなれども 人は古りゆく 

ふゆすぎて はるしきたれば としつきは あらたなれども ひとはふりゆく
・・・・・・・・・・・・・
冬が過ぎて春がやってくると

年月は新しくなるけれども

人は古くなっていく
・・・・・・・・・・・・・
* 「来ぬれば」;来ると。
 「来」カ行変格活用動詞連用形。
 「ぬれ」完了助動詞「ぬ」の已然形。
 「ば」恒常条件の接続助詞。
*「ども」は接続助詞・逆接(〜けれども)。



1885 春雑歌,移ろい,問答

[題詞](歎舊)

物皆者  新吉  唯  人者舊之  應宜

物皆は 新たしきよし ただしくも 人は古りにし よろしかるべし 

ものみなは あらたしきよし ただしくも ひとはふりにし よろしかるべし
・・・・・・・・・・・・・
物はみな新しいものがよいが

ただ人は古くなるのがよろしかろうぞ
・・・・・・・・・・・・・
* 「ただしく」【但しく】 (副) 「ただ」を強めた語。


1886 春雑歌,大阪,枕詞

[題詞]懽逢

佐吉之  里<行>之鹿歯  春花乃  益希見  君相有香開

住吉の 里行きしかば 春花の いやめづらしき 君に逢へるかも 

すみのえの さとゆきしかば はるはなの いやめづらしき きみにあへるかも
・・・・・・・・・・・・・
住吉の里にでかけたら

春の花が思いかけず咲いていたように

心惹かれるあなたに逢ったことだ
・・・・・・・・・・・・・



1887 春雑歌,奈良

[題詞]旋頭歌

春日在  三笠乃山尓  月母出奴可母  佐紀山尓  開有櫻之  花乃可見

春日なる 御笠の山に 月も出でぬかも 佐紀山に 咲ける桜の 花の見ゆべく 

かすがなる みかさのやまに つきもいでぬかも さきやまに さけるさくらの はなのみゆべく
・・・・・・・・・・・・・
東の春日にある三笠の山に早く月が出てくれないものか

佐紀山の辺に咲く桜の花が 

夕影に映えてはっきりと見えるように
・・・・・・・・・・・・・
* 佐保山と佐紀山の裾は、かつて平城山(ならやま)と呼ばれ 大宮人の憩いの丘だった。


1888 春雑歌

[題詞](旋頭歌)

白雪之  常敷冬者  過去家良霜  春霞  田菜引野邊之  鴬鳴焉

白雪の 常敷く冬は 過ぎにけらしも 春霞 たなびく野辺の 鴬鳴くも 

しらゆきの つねしくふゆは すぎにけらしも はるかすみ たなびくのへの うぐひすなくも
・・・・・・・・・・・・・
白雪を敷き詰めた冬は過ぎ去ったようだ

春霞がたなびく野辺に鶯の声が聞こえることよ
・・・・・・・・・・・・・
* 「しく」【敷く】 敷き詰める 
* 「けらし」 [連語]《過去の助動詞「けり」の連体形に推量の助動詞「らし」の付いた「けるらし」の音変化》確実な根拠に基づいて過去の動作・状態を推量する意を表す。

1889 春雑歌,比喩

[題詞]譬喩歌

吾屋前之  毛桃之下尓  月夜指  下心吉  菟楯項者

我が宿の 毛桃の下に 月夜さし 下心よし うたてこのころ 

わがやどの けもものしたに つくよさし したこころよし うたてこのころ

・・・・・・・・・・・・・
家の庭先の毛桃の下に月の光がさしこんで

そこがとても心地良いこの頃です 
・・・・・・・・・・・・・
* 「け‐もも」【毛桃】 桃の一品種。日本在来のもので、果実は小さくて堅く、毛深い。観賞用。
* 「した‐ごころ」【下心】 心の奥深く思っていること。心底。
* 「うたて」いつもと違って、普通じゃない、
[副] ますます。





 春相聞





1890 春相聞,作者:柿本人麻呂歌集,序詞

[題詞]春相聞

春<山>  <友>鴬 鳴別  <眷>益間  思御吾

春山の 友鴬の 泣き別れ 帰ります間も 思ほせ我れを 

[はるやまの ともうぐひすの なきわかれ] かへりますまも おもほせわれを
・・・・・・・・・・・・・
春日野の鴬が別れを惜しんで

鳴きながら別れるように

つらい別れです

私のことをずっと思っていてください

お帰りになる道中でも 
・・・・・・・・・・・・・



1891 春相聞,作者:柿本人麻呂歌集

[題詞]

冬隠  春開花  手折以  千遍限  戀渡鴨

冬こもり 春咲く花を 手折り持ち 千たびの限り 恋ひわたるかも 

[ふゆこもり] はるさくはなを たをりもち ちたびのかぎり こひわたるかも
・・・・・・・・・・・・・
春咲く花を手折り持ち 

幾たびも恋慕う

冬こもっていた春に

その春咲く花を手折っては

限りなく恋し続けることだよ
・・・・・・・・・・・・・


1871 春雑歌

[題詞](詠花)

春去者  散巻惜  梅花  片時者不咲  含而毛欲得

春されば 散らまく惜しき 梅の花 しましは咲かず ふふみてもがも 

はるされば ちらまくをしき うめのはな しましはさかず ふふみてもがも
・・・・・・・・・・・
春になると花が咲くことよりも

散ることが惜しまれる梅よ

しばらくは咲かないで蕾のままでいてほしい

可愛いあの子よ 
・・・・・・・・・・・
* 「まく」は推量の助動詞「む」のク語法。・・だろうこと。・・たりすること。活用語の未然形につく。体言化接尾語「く」がついたものとする説もある。


1872 春雑歌,奈良

[題詞](詠花)

見渡者  春日之野邊尓  霞立  開艶者  櫻花鴨

見わたせば 春日の野辺に 霞立ち 咲きにほへるは 桜花かも 

みわたせば かすがののへに かすみたち さきにほへるは さくらばなかも
・・・・・・・・・・・
はるかに見渡せば

春日の野辺に霞が立つように

美しい色に咲き誇っているのは

あれは桜の花であるなあ
・・・・・・・・・・・



1873 春雑歌

[題詞](詠花)

何時鴨  此夜乃将明  鴬之  木傳落  <梅>花将見

いつしかも この夜の明けむ 鴬の 木伝ひ散らす 梅の花見む 

いつしかも このよのあけむ うぐひすの こづたひちらす うめのはなみむ

・・・・・・・・・・・
いつになったらこの夜は明けるのであろうか

鴬が枝から枝へと飛び交っては散らしている

梅の花のありさまを早く見たいものだ
・・・・・・・・・・・



1874 春雑歌,奈良,高円

[題詞]詠月

春霞  田菜引今日之  暮三伏一向夜  不穢照良武  高松之野尓

春霞 たなびく今日の 夕月夜 清く照るらむ 高松の野に 

はるかすみ たなびくけふの ゆふづくよ きよくてるらむ たかまつののに
・・・・・・・・・・・
春霞がたなびいて今宵の月ははっきり見えないが

清らかに照らしているだろう高松の野の辺りでは
・・・・・・・・・・・



1875 春雑歌,異伝

[題詞](詠月)

春去者  紀之許能暮之  夕月夜  欝束無裳  山陰尓指天 [一云 春去者 木陰多 暮月夜]

春されば 木の暗多み 夕月夜 おほつかなしも 山蔭にして [一云 春されば木蔭を多み夕月夜]  

はるされば このくれおほみ ゆふづくよ おほつかなしも やまかげにして[はるされば こかげをおほみ ゆふづくよ]
・・・・・・・・・・・
春の夕月夜なのに木蔭が多くて暗い

はっきりしない山かげの道であることよ
・・・・・
春になると木の下闇が多くなるので

せっかくの宵の月も すっきりと姿を現してくれない

こんな山蔭にいると
・・・・・・・・・・・
* 「おほつかなし」(形)[文]ク おぼつかな・し
確かでなくはっきりしない。ぼんやりしている。


1876 春雑歌

[題詞](詠月)

朝霞  春日之晩者  従木間  移歴月乎  何時可将待

朝霞 春日の暮は 木の間より 移ろふ月を いつとか待たむ 

[あさかすみ] はるひのくれは このまより うつろふつきを いつとかまたむ
・・・・・・・・・・・
春の一日がようやく暮れて

木の間から姿を現す月が

待ち遠しことであるよ
・・・・・・・・・・・



1877 春雑歌

[題詞]詠雨

春之雨尓  有来物乎  立隠  妹之家道尓  此日晩都

春の雨に ありけるものを 立ち隠り 妹が家道に この日暮らしつ 

はるのあめに ありけるものを たちかくり いもがいへぢに このひくらしつ
・・・・・・・・・・・
春のやさしい雨なのに雨宿りして

あの娘の家に行く途中で日が暮れてしまった
・・・・・・・・・・・



1878 春雑歌,飛鳥

[題詞]詠河

今徃而  聞物尓毛我  明日香川  春雨零而  瀧津湍音乎

今行きて 聞くものにもが 明日香川 春雨降りて たぎつ瀬の音を 

いまゆきて きくものにもが あすかがは はるさめふりて たぎつせのおとを
・・・・・・・・・・・
今(今日)行って聞きたいものだ

(明日)香川に春雨が降って

たぎり高鳴る瀬音を
・・・・・・・・・・・
* 「もが」は、仮想的な願望をあらわす終助詞。
この陰鬱な気分が吹き飛ぶことだろうなあ。



1879 春雑歌,奈良,野遊び

[題詞]詠煙

春日野尓  煙立所見  ○嬬等四  春野之菟芽子  採而煮良思文

春日野に 煙立つ見ゆ 娘子らし 春野のうはぎ 摘みて煮らしも 

かすがのに けぶりたつみゆ をとめらし はるののうはぎ つみてにらしも
・・・・・・・・・・・
春日野にすっと立ち昇る煙が見える

春の野遊びに娘達がヨメナを摘んで

煮ている煙だろうよ
・・・・・・・・・・・
* 「ウハギ」はヨメナのこと。若葉をゆでて食べる、美味な食用野菜。
* 「の‐あそび」【野遊び】
1 野に出て、草を摘んだり会食をしたりして遊ぶこと。《季 春》
2 貴族や武士が野に出て狩猟をすること。 


1880 春雑歌,奈良,野遊び

[題詞]野遊

春日野之  淺茅之上尓  念共  遊今日  忘目八方

春日野の 浅茅が上に 思ふどち 遊ぶ今日の日 忘らえめやも 

かすがのの あさぢがうへに おもふどち あそぶけふのひ わすらえめやも
・・・・・・・・・・・
春日野の春浅いちがやの上で

親しい仲間がつどって

野遊びする今日の楽しさは

いつまでも忘れられないだろう
・・・・・・・・・・・



1881 春雑歌,奈良,宴席,野遊び

[題詞](野遊)

春霞  立春日野乎  徃還  吾者相見  弥年之黄土

春霞 立つ春日野を 行き返り 我れは相見む いや年のはに 

はるかすみ たつかすがのを ゆきかへり われはあひみむ いやとしのはに
・・・・・・・・・・・
春霞立つこの春日野を

みなさんと一緒に逍遙しましょう

くる年もいついつまでも
・・・・・・・・・・・


1859 春雑歌,京都府,枕詞

[題詞](詠花)

馬並而  高山<部>乎  白妙丹  令艶色有者  梅花鴨

馬並めて 多賀の山辺を 白栲に にほはしたるは 梅の花かも 

うまなめて たかのやまへを [しろたへに] にほはしたるは うめのはなかも
・・・・・・・・・・・
馬を並べて多賀の山辺を行けば

真っ白にあたりを染めあげているのは

梅の花ではないか
・・・・・・・・・・・



1860 春雑歌,比喩

[題詞](詠花)

花咲而  實者不成登裳  長氣  所念鴨  山振之花

花咲きて 実はならねども 長き日に 思ほゆるかも 山吹の花 

はなさきて みはならねども ながきけに おもほゆるかも やまぶきのはな
・・・・・・・・・・・
花が咲くだけで実はならないと知っていても

ずっと前から気に掛かってしかたがない

この八重山吹の花よ 我が恋よ
・・・・・・・・・・・
* 太田道灌(どうかん)に田舎娘が貸す蓑のない断りに、後拾遺和歌集の兼明親王の歌、「七重八重 花は咲けども山吹の みの一つだに 無きぞ悲しき」を援用した故事が有名。



1861 春雑歌,奈良

[題詞](詠花)

能登河之  水底并尓  光及尓  三笠乃山者  咲来鴨

能登川の 水底さへに 照るまでに 御笠の山は 咲きにけるかも 

のとがはの みなそこさへに てるまでに みかさのやまは さきにけるかも
・・・・・・・・・・・
高円三笠をめぐる能登川の

水底までが照り映えるほどに

三笠の山の桜が咲き満ちみちていることよ
・・・・・・・・・・・



1862 春雑歌

[題詞](詠花)

見雪者  未冬有  然為蟹  春霞立  梅者散乍

雪見れば いまだ冬なり しかすがに 春霞立ち 梅は散りつつ 

ゆきみれば いまだふゆなり しかすがに はるかすみたち うめはちりつつ
・・・・・・・・・・・
残雪を見ればまだ冬だが

とはいえ春霞が立って

しきりに梅の花が散っている
・・・・・・・・・・・



1863 春雑歌

[題詞](詠花)

去年咲之  久木今開  徒  土哉将堕  見人名四二

去年咲きし 久木今咲く いたづらに 地にか落ちむ 見る人なしに 

こぞさきし ひさぎいまさく いたづらに つちにかおちむ みるひとなしに
・・・・・・・・・・・
馬酔木(あしび)が今年も咲いたが

むなしく地に散ってしまうのか

去年見たあの人は再び訪れず
・・・・・・・・・・・



1864 春雑歌,枕詞

[題詞](詠花)

足日木之  山間照  櫻花  是春雨尓  散去鴨

あしひきの 山の際照らす 桜花 この春雨に 散りゆかむかも 

[あしひきの] やまのまてらす さくらばな このはるさめに ちりゆかむかも
・・・・・・・・・・・
裾を引く山の

やまあいに照り映えている桜花は

この春雨に打たれて散ってゆくのだなあ
・・・・・・・・・・・



1865 春雑歌

[題詞](詠花)

打靡  春避来之  山際  最木末乃  咲徃見者

うち靡く 春さり来らし 山の際の 遠き木末の 咲きゆく見れば 

[うちなびく] はるさりくらし やまのまの とほきこぬれの さきゆくみれば
・・・・・・・・・・・
待ちかねた春がやっと来たらしい

遠く山間の梢の花がつぎつぎと

咲いてゆくのを見ると
・・・・・・・・・・・



1866 春雑歌,奈良

[題詞](詠花)

春雉鳴  高圓邊丹  櫻花  散流歴  見人毛我<母>

雉鳴く 高円の辺に 桜花 散りて流らふ 見む人もがも 

きぎしなく たかまとのへに さくらばな ちりてながらふ みむひともがも
・・・・・・・・・・・
高圓山の野辺に雉は妻を呼んで鳴き

桜の花は風にのって散り漂う

だれか一緒に見る人がいて欲しいことよ
・・・・・・・・・・・



1867 春雑歌

[題詞](詠花)

阿保山之  佐宿木花者  今日毛鴨  散乱  見人無二

阿保山の 桜の花は 今日もかも 散り乱ふらむ 見る人なしに 

あほやまの さくらのはなは けふもかも ちりまがふらむ みるひとなしに
・・・・・・・・・・・
古都明日香の阿保山の

桜の花は今日には散り乱れていることだろう

賞めでる人もなくただいたずらに
・・・・・・・・・・・



1868 春雑歌,吉野

[題詞](詠花)

川津鳴  吉野河之  瀧上乃  馬酔之花會  置末勿動

かはづ鳴く 吉野の川の 滝の上の 馬酔木の花ぞ はしに置くなゆめ 

[かはづなく] よしののかはの たきのうへの あしびのはなぞ はしにおくなゆめ
・・・・・・・・・・・
カジカ鳴く吉野川の滝の上で

あなたの為に手折ったもの

馬酔木の花ですよ

大事に見てやっでおくれ
・・・・・・・・・・・



1869 春雑歌

[題詞](詠花)

春雨尓  相争不勝而  吾屋前之  櫻花者  開始尓家里

春雨に 争ひかねて 我が宿の 桜の花は 咲きそめにけり 

はるさめに あらそひかねて わがやどの さくらのはなは さきそめにけり
・・・・・・・・・・・
降る春雨に逆らいかねて

我が家の桜の花も咲きそめました

あなたも咲きそめてくださればいいのに
・・・・・・・・・・・



1870 春雑歌

[題詞](詠花)

春雨者  甚勿零  櫻花  未見尓  散巻惜裳

春雨は いたくな降りそ 桜花 いまだ見なくに 散らまく惜しも 

はるさめは いたくなふりそ さくらばな いまだみなくに ちらまくをしも
・・・・・・・・・・・
春雨よそんなにひどく降らないでおくれ

桜の花をまだ十分には見ていないのに

散ってしまうのは惜しいから
・・・・・・・・・・・


1848 春雑歌

[題詞](詠柳)

山際尓  雪者零管  然為我二  此河楊波  毛延尓家留可聞

山の際に 雪は降りつつ しかすがに この川楊は 萌えにけるかも 

やまのまに ゆきはふりつつ しかすがに このかはやぎは もえにけるかも
・・・・・・・・・・・
山に雪が降っています

でもほら このねこやなぎは芽吹いていますよ

もう春ですね
・・・・・・・・・・・
* この「かはやぎ」は「ねこやなぎ」か。やぎ【柳】やなぎ。多く他の語と複合して用いられる。
* 「しか‐す‐がに」【然すがに】
[副]《副詞「しか」+サ変動詞「す」+接続助詞「がに」》
 そうはいうものの。ではあるが。



1849 春雑歌

[題詞](詠柳)

山際之  雪<者>不消有乎  水飯合  川之副者  目生来鴨

山の際の 雪は消ずあるを みなぎらふ 川の沿ひには 萌えにけるかも 

やまのまの ゆきはけずあるを [みなぎらふ] かはのそひには もえにけるかも
・・・・・・・・・・・
山々の雪は残っているが

水かさを増した川の

岸辺沿いの草木は

まけじと新緑の芽を吹き出していることですよ
・・・・・・・・・・・
* 「みなぎら◦う」〔みなぎらふ〕【×漲らふ】
[連語]《動詞「みなぎ(漲)る」の未然形+反復継続の助動詞「ふ」。
上代語》水が満ちあふれている。
  「みいひあふ」とよめば「川がさらさらと音を立てて流れる」意。
* 「も・える」【×萌える】[動ア下一]
  [文]も・ゆ[ヤ下二]草木が芽を出す。芽ぐむ。



1850 春雑歌

[題詞](詠柳)

朝旦  吾見柳  鴬之  来居而應鳴  森尓早奈礼

朝な朝な 我が見る柳 鴬の 来居て鳴くべく 森に早なれ 

あさなさな わがみるやなぎ うぐひすの きゐてなくべく もりにはやなれ
・・・・・・・・・・・
朝ごとに見ている柳よ

鴬が居ついて鳴くように

早く生い茂ってくれ
・・・・・・・・・・・




1851 春雑歌

[題詞](詠柳)

青柳之  絲乃細紗  春風尓  不乱伊間尓  令視子裳欲得

青柳の 糸のくはしさ 春風に 乱れぬい間に 見せむ子もがも 

あをやぎの いとのくはしさ はるかぜに みだれぬいまに みせむこもがも
・・・・・・・・・・・
柳葉の糸のように細くその美しさが

春の風に乱れてしまわないうちに

見せたい子がほしいなあ いたらなあ
・・・・・・・・・・・
* 「くはし」は「細し」「美し」、精妙で美しい、麗しい。




1852 春雑歌

[題詞](詠柳)

百礒城  大宮人之  蘰有  垂柳者  雖見不飽鴨

ももしきの 大宮人の かづらける しだり柳は 見れど飽かぬかも 

[ももしきの] おほみやひとの かづらける しだりやなぎは みれどあかぬかも
・・・・・・・・・・・
大宮人がかづらにするしだれ柳は

見飽きることがありません
・・・・・・・・・・・




1853 春雑歌

[題詞](詠柳)

梅花  取持見者  吾屋前之  柳乃眉師  所念可聞

梅の花 取り持ち見れば 我が宿の 柳の眉し 思ほゆるかも 

うめのはな とりもちみれば わがやどの やなぎのまよし おもほゆるかも
・・・・・・・・・・・
梅の花を手折って見れば

わが家の美しいあの人のことが

心に満ちあふれることであるよ
・・・・・・・・・・・
* 「やなぎ‐の‐まゆ」【柳の×眉】
1 柳の枝に萌(も)え出た若芽を眉に見立てていう語。
2 《「柳眉(りゅうび)」を訓読みにした語》女性のほっそりした眉。女性の美しい眉。


1854 春雑歌

[題詞]詠花

鴬之  木傳梅乃  移者  櫻花之  時片設奴

鴬の 木伝ふ梅の うつろへば 桜の花の 時かたまけぬ 

うぐひすの こづたふうめの うつろへば さくらのはなの ときかたまけぬ
・・・・・・・・・・・
鶯が木から木へと伝う梅の花が散り始めると

桜の花が咲く頃がやってくる
・・・・・・・・・・・




1855 春雑歌

[題詞](詠花)

櫻花  時者雖不過  見人之  戀盛常  今之将落

桜花 時は過ぎねど 見る人の 恋ふる盛りと 今し散るらむ 

さくらばな ときはすぎねど みるひとの こふるさかりと いましちるらむ
・・・・・・・・・・・
桜の花はまだ散る時ではないのに

愛でてくれる人がいるうちにと思って

今散ってしまうのだろうか
・・・・・
桜花はまだ散る時ではないと思うけれど

愛でてくれる人がいるうちにというように

今こそと散り急ぐのであろうか
・・・・・・・・・・・
* 「さくら」の名前の由来については、花の咲くようすがいかにもうららかなので「さきうら」と呼び、それが「さくら」に転化したという説や、『古事記』に出てくる木花之開耶姫(このはなのさくやひめ)の「開耶(さくや)」が起源になったなど、さまざまあります。



1856 春雑歌

[題詞](詠花)

我刺  柳絲乎  吹乱  風尓加妹之  梅乃散覧

我がかざす 柳の糸を 吹き乱る 風にか妹が 梅の散るらむ 

わがかざす やなぎのいとを ふきみだる かぜにかいもが うめのちるらむ
・・・・・・・・・・・
私がかざす柳の細い枝を揺らす風が

妻のかざす梅の花も散らしているのだろうか

心のうちを乱さないでくれ 風よ
・・・・・・・・・・・
* 「か」は(係助詞)疑いの意を表す。・・・だろうか。
* 「らむ」は現在推量の助動詞、今見えないところにあるものの様子を思い描くときに用いられる。
* 「かざす」は髪に挿すこと。風流のわざ、もとは生命力にあふれた「時の」植物を身につけて、その精気で我が身の充実を願う呪術から発生した行為と言われている。
* 「柳の糸」はしだれ柳のしなやかな葉を糸に見立てた表現。
* 「乱る」は四段活用の他動詞で、現代語の「乱す」。




1857 春雑歌,枕詞

[題詞](詠花)

毎年  梅者開友  空蝉之  <世>人君羊蹄  春無有来

年のはに 梅は咲けども うつせみの 世の人我れし 春なかりけり 

としのはに うめはさけども [うつせみの] よのひとわれし はるなかりけり
・・・・・・・・・・・
毎年梅の花は咲くのに

この世の人である私には

かならずしも春は来ないのです
・・・・・・・・・・・



1858 春雑歌,比喩

[題詞](詠花)

打細尓  鳥者雖<不>喫  縄延  守巻欲寸  梅花鴨

うつたへに 鳥は食まねど 縄延へて 守らまく欲しき 梅の花かも 

[うつたへに] とりははまねど [なははへて] もらまくほしき うめのはなかも
・・・・・・・・・・・
鳥が啄むわけではないけれど

しめ縄を張ってでも守りたい

私の大事な梅の花だよ 娘よ
・・・・・・・・・・・
* 「うつたえに」はある一つのことだけに向かうさまを表す語。多く下に打ち消しや反語の語を伴って用いる。いちずに。むやみに。
後世には「松が根を磯辺の波の―あらはれぬべき袖の上かな/新勅撰(恋一)」のように肯定形と呼応する例もみられる。
* 「ま‐く」
《推量の助動詞「む」のク語法。上代語》…だろうこと。…しようとすること。


1837 春雑歌

[題詞](詠鳥)

山際尓  鴬喧而  打靡  春跡雖念  雪落布沼

山の際に 鴬鳴きて うち靡く 春と思へど 雪降りしきぬ 

やまのまに うぐひすなきて うちなびく はるとおもへど ゆきふりしきぬ
・・・・・・・・・
山際に鶯が鳴いたので

春がたしかに靡き寄っているのに

雪はまあとめどなく降ることよ
・・・・・・・・・



1838 春雑歌,茨城県

[題詞](詠鳥)

峯上尓  零置雪師  風之共  此聞散良思  春者雖有

峰の上に 降り置ける雪し 風の共 ここに散るらし 春にはあれども 

をのうへに ふりおけるゆきし かぜのむた ここにちるらし はるにはあれども

[左注]右一首筑波山作
・・・・・・・・・
峰の上に降積もった雪が

風と一緒にここまで散って来たらしい

もう春だというのに
・・・・・・・・・
* 「共」は格助詞「の」「が」を介して名詞に付き、「・・・とともに」「・・・と一緒に」の意を表す。


1839 春雑歌,地名

[題詞](詠鳥)

為君  山田之澤  恵具採跡  雪消之水尓  裳裾所沾

君がため 山田の沢に ゑぐ摘むと 雪消の水に 裳の裾濡れぬ 

きみがため やまたのさはに ゑぐつむと ゆきげのみづに ものすそぬれぬ
・・・・・・・・・
貴方のために 山の田の間を流れる 小川の縁で

ゑぐを摘んでいたら

雪解けの水で着物の裾が濡れてしまった
・・・・・・・・・
* やまだ‐の‐さわ〔‐さは〕【山田の沢】
山田の間を流れる沢。
* 愛する人のために山田の沢のゑぐを摘むと、裳の裾が濡れた(そこから涙を連想させ、なかなか逢えない心境を伝える)か、春の部立ながら、恋のイメージが濃厚。
* 「ゑぐ」は「くわい」ではないという論。
クログワヰならばヱグホルなどこそ云はめ、採(ツム)とはいはじ。然るに二処共に採(ツム)といへるを見れば葉又は茎を食用とするものにてクログワヰの如く根を食ふものにあらざる事明なり。又雪ゲノ水ニ裳ノスソヌレヌといへる、芹の季節にはかなへどおそらくはクログワヰの旬には合はじ。(萬葉集新考第四・巻10 井上通泰著)
くろ‐ぐわい【黒慈姑】 カヤツリグサ科の多年草。沼地に生え、高さ40〜70センチ。秋、茎の先に茶色がかった穂をつける。また近縁のオオクログワイをさし、塊茎を食用にする。くわいづる。くわい。《季 春》



1840 春雑歌

[題詞](詠鳥)

梅枝尓  鳴而移<徙>  鴬之  翼白妙尓  沫雪曽落

梅が枝に 鳴きて移ろふ 鴬の 羽白妙に 沫雪ぞ降る 

うめがえに なきてうつろふ うぐひすの はねしろたへに あわゆきぞふる
・・・・・・・・・
鶯が あの梅の枝で一声鳴いて

すぐ別の梢に移っていく

降る沫雪で梅も鶯も白くなって
・・・・・・・・・



1841 春雑歌,問答

[題詞](詠鳥)

山高三  零来雪乎  梅花  <落>鴨来跡  念鶴鴨 [一云 梅花 開香裳落跡]

山高み 降り来る雪を 梅の花 散りかも来ると 思ひつるかも [一云 梅の花 咲きかも散ると] 

やまたかみ ふりくるゆきを うめのはな ちりかもくると おもひつるかも [うめのはな さきかもちると]
・・・・・・・・・
お山が高いので

降ってくるのは雪だけど

お山で咲いた梅の花みたいだよ

ひらひら ひらひら
・・・・・・・・・



1842 春雑歌,問答

[題詞](詠鳥)

除雪而  梅莫戀  足曳之  山片就而  家居為流君

雪をおきて 梅をな恋ひそ あしひきの 山片付きて 家居せる君 

[ゆきをおきて] うめをなこひそ [あしひきの] やまかたづきて いへゐせるきみ

[左注]右二首問答
・・・・・・・・・
雪を置いて梅を恋することもないでしょう

雪山とともに暮らしている君は
・・・・・・・・・ 
* 「片付く」は、「山片付きて」とある。「ぴたりと接する」程の意。
* 「いえ‐い」【家居】 [名](スル)家にいること。また、家をつくって住むこと。



サ1843 春雑歌,奈良

[題詞]詠霞

昨日社  年者極之賀  春霞  春日山尓  速立尓来

昨日こそ 年は果てしか 春霞 春日の山に 早立ちにけり 

きのふこそ としははてしか はるかすみ かすがのやまに はやたちにけり
・・・・・・・・・
昨日年が改まったばかりなのに

早や春日の山には春霞が立っている
・・・・・・・・・
* 当時の儀鳳暦(陰暦の一種)では正月が二月中旬になることがあり、新暦二月五日頃の立春に新年が遅れることがあって、こうなると「年の内に春(立春)は来にけり」となる。
* 「はて」には「果」ではなく「極」も宛てられる。十二月は「極月」。



サ1844 春雑歌,奈良

[題詞](詠霞)

寒過  暖来良思  朝烏指  滓鹿能山尓  霞軽引

冬過ぎて 春来るらし 朝日さす 春日の山に 霞たなびく 

ふゆすぎて はるきたるらし [あさひさす] かすがのやまに かすみたなびく
・・・・・・・・・
長かった冬が過ぎ

やっと春が来たようです

朝日をいち早く受ける春日の山には

はやくも春霞がたなびいています
・・・・・・・・・
* 立春から春になるとした。
* 「朝日さす」は枕詞で「豊」、「春日」にかかる。
* 「時候の挨拶」的な歌。


1845 春雑歌,奈良

[題詞](詠霞)

鴬之  春成良思  春日山  霞棚引  夜目見侶

鴬の 春になるらし 春日山 霞たなびく 夜目に見れども 

うぐひすの はるになるらし かすがやま かすみたなびく よめにみれども
・・・・・・・・・
鴬のさえずる春になったらしい

春日山に春霞がたなびいているのが

夜目にさえそれとわかる
・・・・・・・・・



1846 春雑歌

[題詞]詠柳

霜干  冬柳者  見人之  蘰可為  目生来鴨

霜枯れの 冬の柳は 見る人の かづらにすべく 萌えにけるかも 

[しもがれの] ふゆのやなぎは みるひとの かづらにすべく もえにけるかも
・・・・・・・・・
冬の柳は思う人のためのかづらになろうと

新芽を鮮やかに伸ばし始めましたねえ
・・・・・・・・・



サ1847 春雑歌

[題詞](詠柳)

淺緑  染懸有跡  見左右二  春楊者  目生来鴨

浅緑 染め懸けたりと 見るまでに 春の柳は 萌えにけるかも 

あさみどり そめかけたりと みるまでに はるのやなぎは もえにけるかも
・・・・・・・・・
浅緑に布を染め上げて枝に懸けたと見間違えるほどに

春の柳は萌え出ていることですよ
・・・・・・・・・
* 「までに」は副助詞「まで」に格助詞「に」の付いたもの動作作用の程度をはっきり表す。・・・くらいに。・・・ほど。
* 「染め懸け」は「布を染めて、かけて干す」の意。
* 「〜までに」; 時間・程度・範囲などの及ぶ度合いを強調する。
 「まで」は、限度の副助詞。
 「に」は、変化の結果を示す格助詞。
* 「にけるかも」; 〜なったなあ。
 「に」は、完了の助動詞「ぬ」の連用形。
 「ける」過去の助動詞「けり」の連体形。
 「かも」は、詠嘆の終助詞。



.
ニキタマの万葉集
ニキタマの万葉集
男性 / A型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事