ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

・・万葉集(〃)

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3821,雑歌,作者:兒部女王,尺度,大阪,坂門氏,嘲笑,伝承,戯笑,恋

[題詞]兒部女王嗤歌一首(児部女王の嗤ふ歌一首)

[左注]右時有娘子 姓尺度氏也 此娘子不聴高姓美人之所誂應許下姓い士之所誂也 於是兒部女王裁作此歌嗤咲彼愚也(右は、ある時に娘子あり。姓尺度(さかと)氏なり。此の娘子(ほとめ)高き姓(かばね)の美人(うまひと)の誂(あと)ふるを聴(ゆる)さずして、下(ひく)き姓の霏士(しこを)の誂ふるを応許(ゆる)す。そこで児部女王(こべのおおきみ)、此の歌を裁作(つく)りて、その愚かなるを嗤咲(わら)った。)

美麗物 何所不飽矣 坂門等之 角乃布久礼尓 四具比相尓計六

うましもの いづく飽かじを さかとらが 角のふくれに しぐひ合ひにけむ 

うましもの いづくあかじを さかとらが つののふくれに しぐひあひにけむ

・・・・・・・・・・・・
あんなに美女はどんな男でも選べたろうに

尺度の娘は選りにもよってあんな太っちょと

どうした因縁で結婚したんでしようか
・・・・・・・・・・・・
* 美麗物 = うましもの・くはしもの。上代語で、「細やかで美しい」「すぐれて美しい」の意。くはし女(美しい女性)
 「うまし」(形シク)は、立派だ。美しい。
* 何所不飽矣 = 何所飽かじを・いづくか飽かじ<「いづく」は「どちら」の意。>
* 坂門等之 = 尺度らが・さかとらし<「尺度」は「河内国(現在の羽曳野市周辺)」に本拠地を置く氏族。「坂戸物部(さかとののもののべ)」といわれる伴部系豪族である。>「ら」は、「ら」は複数ではなく、親しみの気持ちを表わし、ややそのものを低くみるもの。自称語に付く場合は謙譲の意を表す。
*  角のふくれ = 醜男の形容<「角」は名前。 「ふくれ」は「太ったもの」「デブ」の意。>
* 「しぐひ・あふ」;「し」は接頭語か。男女がくっつきあう。かみあう。
* 「誂(あと)ふ」「誂ふ」は「結婚を申し込む」の意。
* 「けむ」は過去の推量を表す助動詞で「〜ただろう」の意。
身分の高い姿かたちのいい男と結婚できただろうに。
* 「児部女王の嗤ふ」は、人の外面をと、内面をとの、いずれをもみて「嗤ふ」ではなかろうか。[左注]の記事をそのまま受取れば、単に外面からの「嘲笑」歌でしかないが。




3822,雑歌,地名,明日香,奈良,古歌,伝承,誦詠,椎野長年,恋

[題詞]古歌曰

橘 寺之長屋尓 吾率宿之 童女波奈理波 髪上都良武可

橘の 寺の長屋に 吾が率寝し 童女放髪は 髪上げつらむか 

たちばなの てらのながやに わがゐねし うなゐはなりは かみあげつらむか
・・・・・・・・・・・・
橘寺の長屋に引き込んで抱いた女の子は

もう一人前の娘になり

髪を結ひ上げているだらうか
・・・・・・・・・・・・
* 童女 = うなゐ・八歳位の女の子の髪
  放髪 = はなり・十四〜十五歳位の女の子のお下げ髪
  「童女放髪」を一語として女の子
  髪上げ = 成人した女が髪を結い上げること
[左注]右歌椎野連長年脉曰 夫寺家之屋者不有俗人寝處 亦稱若冠女曰放髪<丱>矣 然則<腹>句已云放髪<丱>者 尾句不可重云著冠之辞哉



3823,雑歌,推敲,異伝,伝承,宴席,転用,改作,恋

[題詞]决<曰>

橘之 光有長屋尓 吾率宿之 宇奈為放尓 髪擧都良武香

橘の 照れる長屋に 吾が率ねし 童女放髪に 髪上げつらむか 

たちばなの てれるながやに わがゐねし うなゐはなりに かみあげつらむか
・・・・・・・・・・・・
橘も照れる長屋に引き込んで

抱いたあのお下げ髪の少女は

髪上げしてだれかと結婚しているだろうか
・・・・・・・・・・・・



3824,雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,伝承,誦詠

[題詞]長忌寸意吉麻呂歌八首

刺名倍尓 湯和可世子等 櫟津乃 桧橋従来許武 狐尓安牟佐武

さし鍋に 湯沸かせ子ども 櫟津の 桧橋より来む 狐に浴むさむ 

さしなべに ゆわかせこども いちひつの ひばしよりこむ きつねにあむさむ
・・・・・・・・・・・・
さし鍋にお湯を沸かせ

みなの者よ

櫟津の桧橋をコンと来る狐に

湯を浴びせかけてやろうぞ
・・・・・・・・・・・・
[左注]右一首傳云 一時衆<集>宴飲也 於<時>夜漏三更所聞狐聲 尓乃衆諸誘 奥麻



サ3825,雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,誦詠

[題詞]詠行騰蔓菁食薦屋梁歌

食薦敷 蔓菁煮将来 屋梁尓 行騰懸而 息此公

食薦敷き 青菜煮て来む 梁に むかばき懸けて 休むこの君 

すごもしき あをなにてこむ うつはりに むかばきかけて やすむこのきみ
・・・・・・・・・・・・
すごもを敷いて青菜を煮て持って来い

梁にむかばきを懸けて

あそこで寝ている奴に
・・・・・・・・・・・・
* 「むかばき」は、山野を歩く時、足に着けるもの。
* ブログ[重陽の節句を祝う]
http://blogs.yahoo.co.jp/mizunoene17/29738263.html?type=folderlist



3826,雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,誦詠

[題詞]詠荷葉歌

蓮葉者 如是許曽有物 意吉麻呂之 家在物者 <宇>毛乃葉尓有之

蓮葉は かくこそあるもの 意吉麻呂が 家なるものは 芋の葉にあらし 

はちすばは かくこそあるもの おきまろが いへなるものは うものはにあらし
・・・・・・・・・・・・
蓮の葉に乗る仏像は貴いのでしょう

蓮の葉に乗る料理も立派だ

わが意吉麻呂家にある仏像も上さんも

里芋の葉に乗ったようなものですよ
・・・・・・・・・・・・
* 蓮の葉は宴席の美女、芋の葉は自分の妻の譬。



3827,雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,誦詠

[題詞]詠雙六頭歌

一二之目 耳不有 五六三 四佐倍有<来> 雙六乃佐叡

一二の目 のみにはあらず 五六三 四さへありけり 双六のさえ 

いちにのめ のみにはあらず ごろくさむ しさへありけり すぐろくのさえ
・・・・・・・・・・・・
一二の目だけではない

五六 三四もある

双六の目の冴えは人には読めん
・・・・・・・・・・・・



3828,雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,誦詠

[題詞]詠香塔厠<屎>鮒奴歌

香塗流 塔尓莫依 川隈乃 屎鮒喫有 痛女奴

香塗れる 塔にな寄りそ 川隈の 屎鮒食める いたき女奴 

かうぬれる たふになよりそ かはくまの くそふなはめる いたきめやつこ
・・・・・・・・・・・・
香を塗りつけたように匂う

仏塔に近寄ってはいけない

厠のある川の屎を餌に育った鮒を食べる

汚い女召使がいると思え
・・・・・・・・・・・・




3829,雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,誦詠

[題詞]詠酢醤蒜鯛水ク歌

醤酢尓 蒜都伎合而 鯛願 吾尓勿所見 水ク乃煮物

醤酢に 蒜搗きかてて 鯛願ふ 吾れにな見えそ 水葱の羹 

ひしほすに ひるつきかてて たひねがふ われになみえそ なぎのあつもの
・・・・・・・・・・・・
醤と酢でのびるを混ぜ合わせ

鯛に添えて和え物を作って食べようと

ちょうど想っているのに

私にそんなものを見せるな

水葱の煮物など
・・・・・・・・・・・・



3830,雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,誦詠

[題詞]詠玉掃鎌天木香棗歌

玉掃 苅来鎌麻呂 室乃樹 與棗本 可吉将掃為

玉掃 刈り来鎌麻呂 むろの木と 棗が本と かき掃かむため 

たまばはき かりこかままろ むろのきと なつめがもとと かきはかむため
・・・・・・・・・・・・
玉掃の草をを刈って来なさい

そこの鎌麻呂さんよ

庭のむろの木と棗の木の下を掃除をしたいから
・・・・・・・・・・・・
* 「鎌麻呂」は鎌の擬人化。

<以下出典[たのしい万葉集]より転載>
* 「玉掃(たまははき/たまばはき)」は、キク科コウヤボウキ属の落葉小高木の高野箒(こうやぼうき)、またそれで作った箒のことです。山野・丘陵地に見られ、10〜11月頃に枝先に白い花を咲かせます。昔は、この枝を束ねて、儀式などに使う箒を作ったようです。


万葉集巻第十一(2351−2840)(2351〜2360)
http://blogs.yahoo.co.jp/kairouwait08/folder/1035774.html?m=lc&p=19
万葉集第巻十二(2841-3220)
http://blogs.yahoo.co.jp/kairouwait08/folder/1035774.html?m=lc&p=11
万葉集第巻十三(3221-3347S)
http://blogs.yahoo.co.jp/kairouwait08/folder/1035774.html?m=lc&p=4
・・・・・・・・・・・・

3339 狄領広島県,福山,枕詞,或本歌,調使首

[題詞]或本歌 / 備後國神嶋濱調使首見屍作歌一首[并短歌]


・・・・・・・・・・・
玉桙之ー玉桙のー[たまほこの]ー
道尓出立ー道に出で立ちーみちにいでたちー道に出て立ち
葦引乃ー[あしひきの]ー
野行山行ー野行き山行きーのゆきやまゆきー野を行き山を行き
潦ー[にはたづみ]ー
川徃渉ー川行き渡りーかはゆきわたりー川を行き渡り
鯨名取ー鯨魚取りー[いさなとり]ー
海路丹出而ー海道に出でてーうみぢにいでてー海道に出ると
吹風裳ー吹く風もー[ふくかぜも]ー
母穂丹者不吹ーおほには吹かずーおほにはふかずーのどかには吹かず
立浪裳ー立つ波もー[たつなみも]ー立つ波も
箟跡丹者不起ーのどには立たぬーいいかげんなものではない
恐耶ー畏きやーかしこきやー恐るべき
神之渡乃ー神の渡りのーかみのわたりのー海神が渡る
敷浪乃ーしき波のーしきなみのー次々に波が  
寄濱部丹ー寄する浜辺にーよするはまへにー寄せる浜辺に
高山矣ー高山をーたかやまをー高い山を
部立丹置而ー隔てに置きてーへだてにおきてー隔てた場所にある
<○>潭矣ー浦ぶちをーうらぶちをー海辺の水たまりに
枕丹巻而ー枕に巻きてーまくらにまきてー砂まみれで
占裳無ーうらもなくー心もなく 行き倒れた人だろうか
偃為<公>者ーこやせる君はーこやせるきみはー寝ている人は
母父之ー母父がーおもちちがー両親が
愛子丹裳在将ー愛子にもあらむーまなごにもあらむー愛する子供でもあろう
稚草之ー若草のー[わかくさの]ー
妻裳有将等ー妻もあらむとーつまもあらむー妻がいるかもしれない
家問跡ー家問へどーいへとへどー家を尋ねても
家道裳不云ー家道も言はずーいへぢもいはずー家路を言わない
名矣問跡ー名を問へどーなをとへどー名を尋ねても
名谷裳不告ー名だにも告らずーなだにものらずー名前をすら言わない
誰之言矣ー誰が言をーたがことをー誰かが言葉を発した
勞鴨ーいたはしとかもー不憫でならない
腫浪能ーとゐ波のーとゐなみのー一列の波長の波が立つ
恐海矣ー畏き海をーかしこきうみをー恐ろしき海を
直渉異将ー直渡りけむーただわたりけむー真っ直ぐに渡ってきたのだろうか
・・・・・・・・・・・




3340 狄領鎮魂,或本歌,羈旅,調使首


[題詞]反歌

母父裳 妻裳子等裳 高々丹 来<将>跡待 人乃悲

母父も 妻も子どもも 高々に 来むと待つらむ 人の悲しさ 

おもちちも つまもこどもも たかたかに こむとまつらむ ひとのかなしさ
・・・・・・・・・・・
父母も 妻も子どもも

今か今かと帰えりを待っているであろうに

路傍に臥せる男よ 遺族よ

悲しいことである
・・・・・・・・・・・



3341 炭・或本歌,異伝,羈旅,調使首


[題詞]

家人乃 将待物矣 津煎裳無 荒礒矣巻而 偃有<公>鴨

家人の 待つらむものを つれもなき 荒礒を巻きて 寝せる君か 

いへびとの まつらむものを つれもなき ありそをまきて なせるきみかも
・・・・・・・・・・・
故郷では家族がいつ帰るかと待っているだろうに

仲間もなくこの荒れ磯で砂にまみれて

行き倒れた君よ  哀れ
・・・・・・・・・・・



3342 炭・或本歌,異伝,羈旅,調使首


[題詞]

<○>潭 偃為<公>矣 今日々々跡 将来跡将待 妻之可奈思母

浦ぶちに こやせる君を 今日今日と 来むと待つらむ 妻し悲しも 

うらぶちに こやせるきみを けふけふと こむとまつらむ つましかなしも
・・・・・・・・・・・
海辺の砂水たまりに埋もれて臥す君よ

帰りを今日かあすかと妻君は待っているだろう

その気持ちを思えばとても悲しい
・・・・・・・・・・・



3343 炭・或本歌,異伝,羈旅,調使首

[題詞]

<○>浪 来依濱丹 津煎裳無 偃為<公>賀 家道不知裳

浦波の 来寄する浜に つれもなく こやせる君が 家道知らずも 

うらなみの きよするはまに つれもなく ふしたるきみが いへぢしらずも
・・・・・・・・・・・
浦波が打ち寄せる海岸に

無表情にうつぶせたままの男よ

家路がどこかわからないものか
・・・・・・・・・・・


3344 悲別,防人妻


[題詞]


・・・・・・・・・・・
此月者ーこの月はーこのつきはーこの月こそは
君将来跡ー君来まさむとーきみきまさむとー貴方は還って来られると
大舟之ー大船のー[おほぶねの]ー大船のように
思憑而ー思ひ頼みてーおもひたのみてー信頼して思い
何時可登ーいつしかとー何時還って来られるのかと
吾待居者ー吾が待ち居ればーわがまちをればー私が待っていれば
黄葉之ー黄葉のー[もみちばの]ー黄葉のように
過行跡ー過ぎてい行くとーすぎていゆくとーこの世から過ぎて行かれたと
玉梓之ー玉梓のー[たまづさの]ー立派な梓の杖を持つ
使之云者ー使の言へばーつかひのいへばー使者が云うのを
螢成ー蛍なすー[ほたるなす]ー蛍の光のように 
髣髴聞而ーほのかに聞きてーほのかにききてーぼんやりと聞いて
大<土>乎ー大地をー[おほつちを]ー
<火>穂跡<而 立>居而ーほのほと踏みて立ちて居てーほのほとふみてたちてゐてー御仏に頼る焔のように立っても座ってもどうすれば良いか判らず
去方毛不知ーゆくへも知らずーゆくへもしらずー行方もわからず
朝霧乃ー朝霧のー[あさぎりの]ー朝霧に
思<或>而ー思ひ迷ひてーおもひまとひてー道を迷うように思い迷い
杖不足ー杖足らずー[つゑたらず]ー
八尺乃嘆ー八尺の嘆きーやさかのなげきーひと杖に二尺足りない八尺(八坂)の
々友ー嘆けどもーなげけどもー嘆きを嘆くのだが
記乎無見跡ー験をなみとーしるしをなみとー甲斐がないので
何所鹿ーいづくにかーどこに
君之将座跡ー君がまさむとーきみがまさむとー貴方がいらっしゃるのかと
天雲乃ー天雲のー[あまくもの]ー天雲が
行之随尓ー行きのまにまにーゆきのまにまにー流れ逝くまにまに貴方を尋ねていって
所射完乃ー射ゆ鹿猪のー[いゆししの]ー矢に射られた鹿や猪のように狂ったように
行<文>将死跡ー行きも死なむとーゆきもしなむとー走り死のうと
思友ー思へどもーおもへどもー思っても
道之不知者ー道の知らねばーみちのしらねばー尋ねる先の道を知らないので
獨居而ーひとり居てーひとりゐてー私一人で暮らして
君尓戀尓ー君に恋ふるにーきみにこふるにー貴方を恋しく想い
哭耳思所泣ー哭のみし泣かゆーねのみしなかゆー声を立てて泣いてしまう
・・・・・・・・・・・




3345 悲別,防人妻


[題詞]反歌

葦邊徃 鴈之翅乎 見別 <公>之佩具之 投箭之所思

葦辺行く 雁の翼を 見るごとに 君が帯ばしし 投矢し思ほゆ 

あしへゆく かりのつばさを みるごとに きみがおばしし なげやしおもほゆ
・・・・・・・・・・・
葦が茂る水辺の方へ飛ぶ

雁の翼を見るたびに

あなたが背負っていた

投げ矢を思い出します
・・・・・・・・・・・


3346 行旅死


[題詞]

・・・・・・・・・・・
欲見者ー見欲しきはーみほしきはー見たいと思うのは
雲居所見ー雲居に見ゆるーくもゐにみゆるー雲の彼方に見える
愛ーうるはしきー愛しい
十羽能松原ー鳥羽の松原ーとばのまつばらー鳥羽の松原よ
小子等ー童どもーわらはどもー供の者たちを
率和出将見ーいざわ出で見むーいざわいでみむー率いて出て見よう
琴酒者ーこと放けばーことさけばー琴を奏でるような
國丹放甞ー国に放けなむーくににさけなむー風雅な宴会は故郷で開こう
別避者ーこと放けばーことさけばーもの忌みならば
宅仁離南ー家に放けなむーいへにさけなむー家でお籠りしよう
乾坤之ー天地のーあめつちのー天と地の
神志恨之ー神し恨めしーかみしうらめしー神が恨めしい
草枕ー草枕ー[くさまくら]ー
此羈之氣尓ーこの旅の日にーこのたびのけにーこの旅路の中でのこの日に
妻應離哉ー妻放くべしやーつまさくべしやー妻との死別をするべきでしょうか
・・・・・・・・・・・



3347 行旅死

[題詞]反歌

草枕此羈之氣尓妻<放>家道思生為便無

草枕 この旅の日に 妻離り 家道思ふに 生けるすべなし 

[くさまくら]このたびのけにつまさかりいへぢおもふにいけるすべなし
・・・・・・・・・・・
この旅路の日に
妻は死んで別れ去った
これからの家への道のりを思うと
生きている気がしない
・・・・・・・・・・・


3347S 採行旅死

[題詞]或本歌曰
[左注]右二首

羈之氣二為而

旅の日にして 

たびのけにして
・・・・・・・・・・・
旅の日で

旅の日だから
・・・・・・・・・・・


3333 奈良,大阪,福岡,羈旅,道行き,行旅死,枕詞


[題詞]


・・・・・・・・・・・
王之ー大君のーおほきみのー大君の
御命恐ー命畏みーみことかしこみーご命令を謹んで承り
秋津嶋ー蜻蛉島ー[あきづしま]ー
倭雄過而ー大和を過ぎてーやまとをすぎてー大和を行き過ぎて
大伴之ー大伴のー[おほともの]ー
御津之濱邊従ー御津の浜辺ゆーみつのはまへゆー御津の浜辺から
大舟尓ー大船にーおほぶねにー大船に
真梶繁貫ー真楫しじ貫きーまかぢしじぬきー両舷に立派な舵を貫き挿し
旦名伎尓ー朝なぎにーあさなぎにー朝の凪に
水<手>之音為乍ー水手の声しつつーかこのこゑしつつー船頭の声がひびき
夕名寸尓ー夕なぎにーゆふなぎにー夕凪に
梶音為乍ー楫の音しつつーかぢのおとしつつー梶の音をさせて
行師君ー行きし君ーゆきしきみー出発された貴方は
何時来座登ーいつ来まさむとーいつきまさむとー何時帰って来られると
<大>卜置而ー占置きてーうらおきてー夕占いをして
齊度尓ー斎ひわたるにーいはひわたるにー神に無事なお帰りをお祈りすると
<狂>言哉ーたはことかー事実とは違う話でしょうか
人之言釣ー人の言ひつるーひとのいひつるー人が言うには
我心ー我が心ーあがこころー心を尽くして慕う
盡之山之ー筑紫の山のーつくしのやまのー筑紫の山の
黄葉之ー黄葉のーもみちばのー黄葉のように
散過去常ー散りて過ぎぬとーちりてすぎぬとー命を果て散ってしまわれた
公之正香乎ー君が直香をーきみがただかをー人のけはいやようすの貴方の御噂を
・・・・・・・・・・・



3334

[題詞]反歌

<狂>言哉 人之云鶴 玉緒乃 長登君者 言手師物乎

たはことか 人の言ひつる 玉の緒の 長くと君は 言ひてしものを 

たはことか ひとのいひつる たまのをの ながくときみは いひてしものを
・・・・・・・・・・・
事実とは違う話でしょうか

人が云うことは

玉の貫く紐の緒が長いようにこの命は久しく長いと

貴方は云っていらっしていたのに
・・・・・・・・・・・



3335 狄領鎮魂

[題詞]


・・・・・・・・・・・
玉桙之ー玉桙のー[たまほこの]ー
道去人者ー道行く人はーみちゆくひとはー道を行く人は
足桧木之ー[あしひきの]ー
山行野徃ー山行き野行きーやまゆきのゆきー山を行き
直海ー[にはたづみ]ー
川徃渡ー川行き渡りーかはゆきわたりー川を行き渡る
不知魚取ー鯨魚取りー[いさなとり]ー
海道荷出而ー海道に出でてーうみぢにいでてー海路に出て
惶八ー畏きやーかしこきやー恐るべき海神の
神之渡者ー神の渡りはーかみのわたりはー渡りを受ける
吹風母ー吹く風もーふくかぜもー吹く風も
和者不吹ーのどには吹かずーのどにはふかずーのどかに吹くことはない
立浪母ー立つ波もーたつなみもー立つ波も
踈不立ーおほには立たずーおほにはたたずーいいかげんなものではない
跡座浪之ーとゐ波のーとゐなみのー 一列の波長の長い波が
塞道麻ー塞ふる道をーささふるみちをー海路を塞ぐ
誰心ー誰が心ーたがこころー誰が彼の心を動かしたのか
勞跡鴨ーいたはしとかもー志半ばで絶命した彼が不憫でならない
直渡異六ー直渡りけむーただわたりけむー困難な道のりを真っ直ぐに渡ってきたのだろうか
<直渡異六>ー直渡りけむーただわたりけむー困難な道のりを真っ直ぐに渡ってきたのだろうか
・・・・・・・・・・・




3336 溺死

[題詞]


・・・・・・・・・・・
鳥音之ー鳥が音のーとりがねのー鳥の声が
所聞海尓ー聞こゆる海にーきこゆるうみにー聞こえる海は
高山麻ー高山をーたかやまをー高い山を
障所為而ー隔てになしてーへだてになしてー隔てている
奥藻麻ー沖つ藻をーおきつもをー沖の藻を
枕所為ー枕になしーまくらになしー枕にして
<蛾>葉之ーひむし羽のーひむしはのー蛾の羽のような
衣<谷>不服尓ー衣だに着ずにーきぬだにきずにー薄い着物さえ着ずに
不知魚取ー鯨魚取りー[いさなとり]ー
海之濱邊尓ー海の浜辺にーうみのはまへにー海の浜辺で
浦裳無ーうらもなくー心もなく 行き倒れた人か
所宿有人者ー臥やせる人はーこやせるひとはー寝ている人は
母父尓ー母父にーおもちちにー母や父もあり
真名子尓可有六ー愛子にかあらむーまなごにかあらむー愛する子供もいるだろう
若○之ー若草のー[わかくさの]ー
妻香有異六ー妻かありけむーつまかありけむー年若い妻もあるだろう
思布ー思ほしきーおもほしきー心に思うことを
言傳八跡ー言伝てむやとーことつてむやとー言伝てもしたいだろうと
家問者ー家問へばーいへとへばー家を尋ねても
家乎母不告ー家をも告らずーいへをものらずー家も言わない
名問跡ー名を問へどーなをとへどー名を尋ねても
名谷母不告ー名だにも告らずーなだにものらずー名も言わない
哭兒如ー泣く子なすーなくこなすー泣いている子供のように
言谷不語ー言だにとはずーことだにとはずー言葉も発しない
思鞆ー思へどもーおもへどもー思うに
悲物者ー悲しきものはーかなしきものはー悲しいものは
世間有ー世間にぞあるーよのなかにぞあるー世の中であるよ
<世間有>ー世間にぞあるーよのなかにぞあるーこの世の中なのだ
・・・・・・・・・・・




3337

[題詞]反歌

母父毛 妻毛子等毛 高々二 来跡<待>異六 人之悲<紗>

母父も 妻も子どもも 高々に 来むと待ちけむ 人の悲しさ 

おもちちも つまもこどもも たかたかに こむとまちけむ ひとのかなしさ
・・・・・・・・・・・
母も父も

妻も子供も

今か今かと背伸びして

帰宅を待ちこがれたに違いない

その人たちの悲しさがしのばれる
・・・・・・・・・・・


3338

[題詞]

蘆桧木乃 山道者将行 風吹者 浪之塞 海道者不行

あしひきの山道は行かむ風吹けば波の塞ふる海道は行かじ 

[あしひきの] やまぢはゆかむ かぜふけば なみのささふる うみぢはゆかじ
・・・・・・・・・・・
山道を行こう

風が吹けば

波が行くてを妨げる

航道は行くまい
・・・・・・・・・・・


3329 枕詞


[題詞]


・・・・・・・・・・・
白雲之ー白雲のーしらくものー白雲が
棚曳國之ーたなびく国のーたなびくくにのー棚引く国の
青雲之ー青雲のーあをくものー青い雲が
向伏國乃ー向伏す国のーむかぶすくにのー地平線に懸かる国の
天雲ー天雲のーあまくものー天雲の
下有人者ー下なる人はーしたなるひとはー下に住む人は
妾耳鴨ー我のみかもーあのみかもー私だけなのでしょうか
君尓戀濫ー君に恋ふらむーきみにこふらむー君に恋した
吾耳鴨ー吾のみかもーあのみかもー私だけが
夫君尓戀礼薄ー君に恋ふればーきみにこふればー君を慕っているからか
天地ー天地にーあめつちにー天と地の
満言ー言を満ててーことをみててー神に誓いを立てて
戀鴨ー恋ふれかもーこふれかもー恋慕っているからか
○之病有ー胸の病みたるーむねのやみたるー胸が病んでいるような
念鴨ー思へかもーおもへかもー重苦しい想いからか
意之痛ー心の痛きーこころのいたきー心が疼く
妾戀叙ー我が恋ぞーあがこひぞーわが恋であることよ
日尓異尓益ー日に異にまさるーひにけにまさるー慕情は日々に益してくる
何時橋物ーいつはしもーいつといって
不戀時等者ー恋ひぬ時とはーこひぬときとはー恋慕わない時
不有友ーあらねどもーあらねどもー はないのだけれど
是九月乎ーこの九月をーこのながつきをーこの九月を
吾背子之ー吾が背子がーわがせこがー愛しい人の
偲丹為与得ー偲ひにせよとーしのひにせよとー思い出にしなさいと
千世尓物ー千代にもーちよにもー千代に渡って
偲渡登ー偲ひわたれとーしのひわたれとー偲びなさい
万代尓ー万代にーよろづよにー万代に
語都我部等ー語り継がへとーかたりつがへとー語り継なぎなさいと
始而之ー始めてしーはじめてしー語らい始めた
此九月之ーこの九月のーこのながつきのーこの九月が
過莫呼ー過ぎまくをーすぎまくをー過ぎようとしているのを
伊多母為便無見ーいたもすべなみーなんとも仕方がない
荒玉之ー[あらたまの]ー
月乃易者ー月の変ればーつきのかはればー月が変わると
将為須部乃ー為むすべのーせむすべのー喪の物忌みをすませ弔うことも出来なくなって どうしたらよいのか
田度伎乎不知ーたどきを知らにーたどきをしらにーなすすべも思いつかず
石根之ー岩が根のー[いはがねの]ー岩山の
許凝敷道之ーこごしき道のーこごしきみちのー荒々しい険しい道を
石床之ー岩床のー[いはとこの]ー
根延門尓ー根延へる門にーねばへるかどにー岩に根が生え延びる門から
朝庭ー朝にはーあしたにはー朝には
出座而嘆ー出で居て嘆きーいでゐてなげきー家から出ては嘆き
夕庭ー夕にはーゆふへにはー夕べには
入座戀乍ー入り居恋ひつつーいりゐこひつつー家に戻って想い出し
烏玉之ー[ぬばたまの]ー
黒髪敷而ー黒髪敷きてーくろかみしきてー黒髪を床に流して
人寐ー人の寝るーひとのぬるー人が寝るように
味寐者不宿尓ー味寐は寝ずにーうまいはねずにー恋人と寝るような楽しく寝ることが出来ずに
大船之ー大船のー[おほぶねの]ー
行良行良尓ーゆくらゆくらにーゆらゆら揺れるように
思乍ー思ひつつーおもひつつー揺れる気持ちで思いながら
吾寐夜等者ー吾が寝る夜らはーわがぬるよらはー私が寝る夜を
數物不敢<鴨>ー数みもあへぬかもーよみもあへぬかもー数えることは出来ないでしょう
・・・・・・・・・・・



3330 榛原,桜井,奈良,亡妻歌

[題詞]


・・・・・・・・・・・
隠来之ー隠口のー[こもりくの]ー
長谷之川之ー泊瀬の川のーはつせのかはのー泊瀬の川の
上瀬尓ー上つ瀬にーかみつせにー川上の瀬に
鵜矣八頭漬ー鵜を八つ潜けーうをやつかづけー鵜を沢山潜らせて
下瀬尓ー下つ瀬にーしもつせにー川下の瀬でも
鵜矣八頭漬ー鵜を八つ潜けーうをやつかづけー鵜を沢山潜らせて
上瀬之ー上つ瀬のーかみつせのー川上の瀬では
<年>魚矣令咋ー鮎を食はしめーあゆをくはしめー上流の<年>魚をくわえさせ
下瀬之ー下つ瀬のーしもつせのー川下の瀬でも
鮎矣令咋ー鮎を食はしめーあゆをくはしめー下流のアユをくわえさせ
麗妹尓ーくはし妹にーくはしいもにー麗しい妻に
鮎遠惜ー鮎を惜しみーあゆををしみー食べさせる鮎を逃すのが惜しく
<麗妹尓 鮎矣惜>ーくはし妹に鮎を惜しみーくはしいもにあゆををしみー麗しい妻に食べさせたいあゆなのに 
投左乃ー投ぐるさのーなぐるさのー 鮎を逃さないように放った矢は
遠離居而ー遠ざかり居てーとほざかりゐてー水に流れて遠ざかって行ったようにあの世へ遠ざかり
思空ー思ふそらーおもふそらー亡き妻を思う 
不安國ー安けなくにーやすけなくにー貴女を想う気持ちは穏やかでなく
嘆空ー嘆くそらーなげくそらー嘆いてみても
不安國ー安けなくにーやすけなくにー気持は穏やかでないので
衣社薄ー衣こそばーきぬこそばーこれが衣ならば
其破者ーそれ破れぬればーそれやれぬればー破けたら
<継>乍物ー継ぎつつもーつぎつつもー縫い合わせれば
又母相登言ーまたも合ふといへーまたもあふといへーまた裂け目は合うといい
玉社者ー玉こそばーたまこそばー真珠ならば
緒之絶薄ー緒の絶えぬればーをのたえぬればー紐が切れれば
八十一里喚鶏ーくくりつつー括って結びなおせば
又物逢登曰ーまたも合ふといへーまたもあふといへーまた結び合うと云うのに
又毛不相物者ーまたも逢はぬものはーまたもあはぬものはー再び逢うことがないのは
○尓志有来ー妻にしありけりーつまにしありけりー妻だけなのでしょうか
・・・・・・・・・・・



3331 桜井,奈良,亡妻歌,歌謡,山讃美


[題詞]


・・・・・・・・・・・
隠来之ー隠口のー[こもりくの]ー
長谷之山ー泊瀬の山ーはつせのやまー泊瀬の山と
青幡之ー青旗のー[あをはたの]ー青い葬旗の
忍坂山者ー忍坂の山はーおさかのやまはー忍坂の山は 
走出之ー走出のーはしりでのー稜線がなだらかに続く
宜山之ーよろしき山のーよろしきやまのー流麗なる山
出立之ー出立のーいでたちのー山の外見だけではなく
妙山叙ーくはしき山ぞーくはしきやまぞー美しい山だ
惜ーあたらしきー亡妻の眠るその<「あたら・し」[形シク]それに相当するだけの価値がある、というところから、そのままにしておくには惜しいほどりっぱだ。すばらしい。>あたら惜しい山が 
山之ー山のーやまのー墓地には
荒巻惜毛ー荒れまく惜しもーあれまくをしもー人が通わなくなり山が荒れていいくのは惜しいことだ
・・・・・・・・・・・




3332

[題詞]

高山 与海社者 山随 如此毛現 海随 然真有目 人者<花>物曽 空蝉与人

高山と 海とこそば 山ながら かくもうつしく 海ながら しかまことならめ 人は花ものぞ うつせみ世人 

たかやまと うみとこそば やまながら かくもうつしく うみながら しかまことならめ ひとははなものぞ うつせみよひと
・・・・・・・・・・・
高山と海こそは

山はこのように現実にあり

海としてあるがまま真実に存在する

ただ人は花のようにはかない

はかないのは世の人間である
・・・・・・・・・・・


挽歌




3324 奈良,皇子挽歌,献呈挽歌,枕詞

[題詞]挽歌

・・・・・・・・・・・
<挂>纒毛ーかけまくもー心に思うのさえ 
文恐ーあやに畏しーあやにかしこしー畏れおおいが  あえて言葉にして申しあげます
藤原ー藤原のーふぢはらのー藤原の
王都志弥美尓ー都しみみにーみやこしみみにー都には
人下ー人はしもーひとはしもー人は
満雖有ー満ちてあれどもーみちてあれどもー満ちあふれて
君下ー君はしもーきみはしもー君と呼ばれる人は
大座常ー多くいませどーおほくいませどー多くおられるが
徃向ー行き向ふーゆきむかふー廻り来る 
<年>緒長ー年の緒長くーとしのをながくー長い年月
仕来ー仕へ来しーつかへこしー仕え来た 
君之御門乎ー君の御門をーきみのみかどをーわが君の御殿
如天ー天のごとーあめのごとー天のように
仰而見乍ー仰ぎて見つつーあふぎてみつつー仰ぎて見ながら
雖畏ー畏けどーかしこけどー畏れおおくも
思憑而ー思ひ頼みてーおもひたのみてー行く末を頼みに思い
何時可聞ーいつしかもー一刻も早く
日足座而ー日足らしましてーひたらしましてー立派に天皇になられて
十五月之ー望月のーもちづきのー満月のように
多田波思家武登ー満しけむとーたたはしけむとー満ち足りてほしいと
吾思ー吾が思へるーわがもへるーわが思いに思ってきた
皇子命者ー皇子の命はーみこのみことはーその皇子のみことは
春避者ー春さればーはるさればー春になれば
殖槻於之ー植槻が上のーうゑつきがうへのー植槻の岡のほとりの
遠人ー遠つ人ー[とほつひと]ー
待之下道湯ー松の下道ゆーまつのしたぢゆー松林の下道を
登之而ー登らしてーのぼらしてー登って
國見所遊ー国見遊ばしーくにみあそばしー国見をなさり
九月之ー九月のーながつきのー九月の
四具礼<乃>秋者ーしぐれの秋はーしぐれのあきはー時雨れ降る秋には
大殿之ー大殿のーおほとののー御殿の
砌志美弥尓ー砌しみみにーみぎりしみみにー石畳いっばいに
露負而ー露負ひてーつゆおひてー露を受けて
靡<芽>乎ー靡ける萩をーなびけるはぎをー靡いている萩を
珠<手>次ー玉たすきー[たまたすき]ー
懸而所偲ー懸けて偲はしーかけてしのはしーしみじみと愛でられ
三雪零ーみ雪降るーみゆきふるー雪降る
冬朝者ー冬の朝はーふゆのあしたはー冬の朝には
刺楊ー刺し柳ーさしやなぎー刺し柳の
根張梓矣ー根張り梓をーねはりあづさをー根がぴんと張ったような梓弓を
御手二ー大御手にーおほみてにー御手に
所取賜而ー取らし賜ひてーとらしたまひてー取って
所遊ー遊ばししーあそばししー猟りをなさった
我王矣ー我が大君をーわがおほきみをーわが頼りとする大君は
烟立ー霞立つー[かすみたつ]ー霞立つ
春日暮ー春の日暮らしーはるのひくらしー春の日を見暮らしても
喚犬追馬鏡ーまそ鏡ー[まそかがみ]ー
雖見不飽者ー見れど飽かねばーみれどあかねばー見飽きぬほど立派だった
万歳ー万代にーよろづよにーいついつまでも
如是霜欲得常ーかくしもがもとーかくあれかしと願い
大船之ー大船のー[おほぶねの]ー
憑有時尓ー頼める時にーたのめるときにー頼みにしてきたのに
涙言ー泣く我れーなくわれーあまりの知らせに泣きはらすわれ
目鴨迷ー目かも迷へるーめかもまとへるーわが目が狂ったかと
大殿矣ー大殿をーおほとのをー御殿を
振放見者ー振り放け見ればーふりさけみればー仰ぎ見れば
白細布ー白栲にー[しろたへに]ー
餝奉而ー飾りまつりてーかざりまつりてー喪の白栲がはりめぐらされ
内日刺ー[うちひさす]ー
宮舎人方ー宮の舎人もーみやのとねりもー宮の舎人も
[一云 者]ー[一云 は]ー[は]ー
雪穂ー栲のほのー[たへのほの]ー
麻衣服者ー麻衣着ればーあさぎぬければー麻衣の喪服を着ている
夢鴨ー夢かもーいめかもー夢か
現前鴨跡ーうつつかもとーうつつかと
雲入夜之ー曇り夜のーくもりよのーやみ夜のように
迷間ー迷へる間にーまとへるほどにー惑っている間に
朝裳吉ー[あさもよし]ー
城於道従ー城上の道ゆーきのへのみちゆーもがりの城上の道より
角障經ー[つのさはふ]ー
石村乎見乍ー磐余を見つつーいはれをみつつー磐余をめざして
神葬ー神葬りー[かむはぶり]ー神として
々奉者ー葬りまつればーはぶりまつればー葬り祀れば
徃道之ー行く道のーゆくみちのー道に立っても
田付○不知ーたづきを知らにーたづきをしらにー方角もわからなく
雖思ー思へどもーおもへどもーどう思っても
印手無見ー験をなみーしるしをなみーかいがなく
雖歎ー嘆けどもーなげけどもー嘆いても
奥香乎無見ー奥処をなみーおくかをなみーきりがなく
御袖ー大御袖ーおほみそでーお袖が
徃觸之松矣ー行き触れし松をーゆきふれしまつをー国見の折に行き触れた松を
言不問ー言問はぬーこととはぬー物言わぬ
木雖在ー木にはありともーきにはありともー木ではあるが
荒玉之ー[あらたまの]ー
立月毎ーたつつきごとにー月がかわるごとに
天原ー天の原ー[あまのはら]ー
振放見管ー振り放け見つつーふりさけみつつー点を仰ぎ見ながら
珠手次ー玉たすきー[たまたすき]ー
懸而思名ー懸けて偲はなーかけてしのはなー偲ぶばかり
雖恐有ー畏くあれどもーかしこくあれどもー畏れおおいながら
・・・・・・・・・・・



3325 奈良,枕詞,皇子挽歌

[題詞]反歌

角障經 石村山丹 白栲 懸有雲者 皇可聞

つのさはふ 磐余の山に 白栲に かかれる雲は 大君にかも 

[つのさはふ] いはれのやまに [しろたへに] かかれるくもは おほきみにかも
・・・・・・・・・・・
磐余の山に 喪の白栲のように

懸っている雲は

あれは今は亡き 大君の霊魂なのかもしれない
・・・・・・・・・・・



3326 奈良,皇子挽歌,枕詞

[題詞]

・・・・・・・・・・・
礒城嶋之ー礒城島のー[しきしまの]ー
日本國尓ー大和の国にーやまとのくににー国の都なるこのヤマト
何方ーいかさまにー何と
御念食可ー思ほしめせかーおもほしめせかー思われたのか

津礼毛無ーつれもなきーゆかりもない
城上宮尓ー城上の宮にーきのへのみやにー城上の宮に
大殿乎ー大殿をーおほとのをーその御殿に
都可倍奉而ー仕へまつりてーつかへまつりてー
殿隠ー殿隠りーとのごもりー殯の宮を
々座者ー隠りいませばーこもりいませばーお隠れになっていらっしゃるので
朝者ー朝にはーあしたにはー
召而使ー召して使ひーめしてつかひー
夕者ー夕にはーゆふへにはー
召而使ー召して使ひーめしてつかひー
遣之ー使はししーつかはししー朝夕召し使っておられた
舎人之子等者ー舎人の子らはーとねりのこらはー舎人達は
行鳥之ー行く鳥のー[ゆくとりの]ー
群而待ー群がりて待ちーむらがりてまちー鳥のように群がって
有雖待ーあり待てどーありまてどーはべっているけれど
不召賜者ー召したまはねばーめしたまはねばーお召しがないので
劔刀ー剣大刀ー[つるぎたち]ー
磨之心乎ー磨ぎし心をーとぎしこころをー張りつめていた気持も
天雲尓ー天雲にー[あまくもに]ー天雲のように
念散之ー思ひはぶらしーおもひはぶらしーちりぢりになってしまって
展轉ー臥いまろびーこいまろびー伏し悶え
土打哭杼母ーひづち哭けどもーひづちなけどもー泣き濡れても
飽不足可聞ー飽き足らぬかもーあきだらぬかもー悲しみは 晴れることがありません

・・・・・・・・・・・
 
 




3327 美努王,譬喩,皇子挽歌

[題詞]


・・・・・・・・・・・
百小竹之ー百小竹のー[ももしのの]ー
三野王ー三野の王ーみののおほきみー美努王が
金厩ー西の馬屋にーにしのうまやにー西の厩に
立而飼駒ー立てて飼ふ駒ーたててかふこまー飼っている馬も
角厩ー東の馬屋にーひむがしのうまやにー東の厩に
立而飼駒ー立てて飼ふ駒ーたててかふこまー飼っている馬も
草社者ー草こそばーくさこそばー草を
取而飼<曰戸>ー取りて飼ふと言へーとりてかふといへー取ってあたえた餌はあるのに
水社者ー水こそばーみづこそばー水は
○而飼<曰戸>ー汲みて飼ふと言へーくみてかふといへー汲んであたえた水があるのに
何然ー何しかもーなにしかもーなぜ
大分青馬之ー葦毛の馬のーあしげのうまのー葦毛の馬は
鳴立鶴ーいなき立てつるーいなきたてつるーいなないているのだろう
・・・・・・・・・・・



3328  皇子挽歌


[題詞]反歌

衣袖 大分青馬之 嘶音 情有鳧 常従異鳴

衣手 葦毛の馬の いなく声 心あれかも 常ゆ異に鳴く 

[ころもで] あしげのうまの いなくこゑ こころあれかも つねゆけになく
・・・・・・・・・・・
白毛交じりの葦毛の馬がいななく声は

主人の死を悲しむ心のためか

ふだんと違う様子でいなないているよ
・・・・・・・・・・・


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