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2840 [題詞](譬喩) [原文]幾多毛 不零雨故 吾背子之 三名乃幾許 瀧毛動響二 [訓読]いくばくも降らぬ雨ゆゑ我が背子が御名のここだく瀧もとどろに [仮名],いくばくも,ふらぬあめゆゑ,わがせこが,みなのここだく,たきもとどろに [左注]右一首寄瀧喩思 2841 作者:柿本人麻呂歌集,女歌,後朝 [題詞]正述心緒 我背子之 朝明形 吉不見 今日間 戀暮鴨 わがせこが あさけのすがた よくみずて けふのあひだを こひくらすかも ・・・・・・・・・・
夫が早朝にお帰りになる時の姿を よく見ずに別れてしまって 今日は一日中物足りなくさびしく暮らすのかなあ 早く今夜が来ればと待ち遠しい ・・・・・・・・・・ サ2842 作者:柿本人麻呂歌集,女歌 [題詞](正述心緒) 我心 等望使念 新夜 一夜不落 夢見<与> あがこころ ともしみおもふ あらたよの ひとよもおちず いめにみえこそ ・・・・・・・・・・
* <国語篇(その七)>より。17[12-2842]「等望使念」は、ここでは私の心はあの娘に張り付いて離れない めぐり来る一夜たりと欠かさずに 恋焦がれるこの思いを あの人に伝えてくれ 夢よ ・・・・・・・・・・ 「とまうつかひね」、「タウマウ・ツカハ・ヒネ」と訓むこととます。 「(私の心は)娘子(の上)に・情熱的に・定着している(離れない)」 * 「あらた-よ 」【新た夜】毎日めぐってくる新しい夜。毎夜。 * 「おちず」は、欠かさず。 2843 作者:柿本人麻呂歌集 [題詞](正述心緒) 愛> 我念妹 人皆 如去見耶 手不纒為 うつくしと あがおもふいもを ひとみなの ゆくごとみめや てにまかずして ・・・・・・・・・・
恋しい女が歩いている それを人が皆するようにただ見ていられようか この手で抱きしめることもなく ・・・・・・・・・・ 2844 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞 [題詞](正述心緒) 比>日 寐之不寐 敷細布 手枕纒 寐欲 このころの いのねらえぬは [しきたへの] たまくらまきて ねまくほりこそ ・・・・・・・・・・
このころの夜 寝るに寝られないのは 貴女を手枕にして 抱きしめていっしょに寝たいと 想うからこそでしょう ・・・・・・・・・・ 2845 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞 [題詞](正述心緒) <忘>哉 語 意遣 雖過不過 猶戀 わするやと ものがたりして [こころやり] すぐせどすぎず なほこひにけり ・・・・・・・・・・
忘れられるかと 人と世間話などして気を紛らせ 遣り過ごそうとしたが いっそう恋心は募るばかりだ ・・・・・・・・・・ 2846 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞 [題詞](正述心緒) 夜不寐 安不有 白細布 衣不脱 及直相 よるもねず やすくもあらず [しろたへの] ころもはぬかじ ただにあふまでに ・・・・・・・・・・
夜も貴方を想って寝られず 気も休まることがない あの時の衣は脱がずにいよう じかに逢うまで ・・・・・・・・・・ 2847 作者:柿本人麻呂歌集 [題詞](正述心緒) 後相 吾莫戀 妹雖云 戀間 年經乍 のちもあはむ われになこひそと いもはいへど こふるあひだに としはへにつつ ・・・・・・・・・・
後で逢いましょう今は私を求めないで と貴女は云いましたが こうして恋慕っている間にも 年月は過ぎてしまう ・・・・・・・・・・ サ2848 作者:柿本人麻呂歌集,異伝,うわさ [題詞](正述心緒) ただにあはず あるはうべなり いめにだに なにしかひとの ことのしげけむ[うつつには うべもあはなく いめにさへ] ・・・・・・・・・・
* 「うべ‐も」「も」は係助詞。なるほどその通りに。もっともなことに。直接に逢わないでいるとなるほどそうでしょう 現実には逢えないので夢の中で逢おうとしても それすら人目をはばかって逢おうとしないのですか 夢の中のことまで人は噂をするのでしょうか ・・・・・・・・・・ 2849 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞 [題詞](正述心緒) 烏玉 彼夢 見継哉 袖乾日無 吾戀矣 [ぬばたまの] そのいめにだに みえつぐや そでふるひなく あれはこふるを ・・・・・・・・・・
夜に見るその夢の続きを私は見たい 恋しくて涙で袖が乾く暇がないほど 私は恋しているのだから ・・・・・・・・・・ 2850 作者:柿本人麻呂歌集 [題詞](正述心緒) 現 直不相 夢谷 相見与 我戀國 うつつには ただにはあはず いめにだに あふとみえこそ あがこふらくに ・・・・・・・・・・
現実には直接に逢えません だから夢の中で貴女に逢っています 私は恋しているのだから ・・・・・・・・・・ |
・・万葉集(〃)
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譬喩 2828 人目,うわさ,比喩 [題詞]譬喩 紅之 深染乃衣乎 下著者 人之見久尓 仁寳比将出鴨 くれなゐの こそめのきぬを したにきば ひとのみらくに にほひいでむかも ・・・・・・・・・・
* 「くれなゐの」は、「べに‐ばな」【紅花】 紅花の紅色を濃く染めた下着を着たけど 人が見みたら透けてたりしてないかしら ・・・・・・・・・・
キク科の越年草。高さ約1メートル。葉は堅くてぎざぎざがあり、互生する。夏、アザミに似た頭状花が咲き、鮮黄色から赤色に変わる。花を乾かしたものを紅花(こうか)といい婦人薬とし、また口紅や染料の紅を作り、種子からは食用油をとる。エジプトの原産で、日本では山形が主産地。すえつむはな。くれのあい。べにのはな。 (出典・大辞泉)
* 「にほひ」は、視覚で捉えられる美しい色彩。サ2829 皮肉 [題詞](譬喩) 衣霜 多在南 取易而 著者也君之 面忘而有 ころもしも おほくあらなむ とりかへて きればやきみが おもわすれたる ・・・・・・・・・・
* 「しも」は、副助詞「し」に、係助詞「も」のついたもの。強意をしめす。よりによって。にもかかわらず。朝帰りしたあと下着をみたら 衣がきっと沢山あったのだろう よりによって他の男のを着てきてるじゃないか 早速自分のに取り替えてその女のことも忘れたよ ・・・・・・・・・・ * 「なむ」は、完了の助動詞「ぬ」の未然形に、推量の助動詞「む」のついたもの。推量を表す。きっと・・であろう。 * 「たる」は、完了の助動詞「たり」の連体形。 サ2830 [題詞](譬喩) 梓弓 弓束巻易 中見刺 更雖引 君之随意 [あづさゆみ] ゆづかまきかへ なかみさし さらにひくとも きみがまにまに ・・・・・・・・・・
* 「弓柄」「ゆつか」とも。矢を射るとき、左手で弓を握る部分。ゆみづか。また、そこに巻く革。弓柄を巻きかえて このまま再度射直すとも あるいは別の的を狙うとも 恋の駆け引きお楽しみは きみの意のまま ・・・・・・・・・・ * 「まきかへ]まきか・ふ〔他ハ下二〕新しく別なものを巻く。また、ほどいて新たに巻きつける。 * 「とも」(接助)は、接助「と」に、係助詞「も」の付いたもの。確定の事実を仮定の形で表し、意味を強める。 * 「中見刺」<国語篇(その七)>より<「まるで踵(きびす)を接して性関係を賞味するように」> 2831 [題詞](譬喩) 水沙兒居 渚座船之 夕塩乎 将待従者 吾社益 みさごゐる すにゐるふねの ゆふしほを まつらむよりは われこそまされ ・・・・・・・・・・
ミサゴがいる洲で夕方の満潮を待つ小舟よりも 恋人を待つ私の思いのほうこそ勝っていることよ ・・・・・・・・・・ 2832 [題詞](譬喩) 山河尓 筌乎伏而 不肯盛 <年>之八歳乎 吾竊○師 やまがはに うへをふせて もりもあへず としのやとせを わがぬすまひし ・・・・・・・・・・
* 「うえ」筌。 魚をとる道具。竹を筒状または底のない徳利状に編んだもの。うけ。山川に筌を仕掛け番をしていても守れないだろ あの娘を八年間もこっそりと横取りしてきたのだから ・・・・・・・・・・ 2833 [題詞](譬喩) 葦鴨之 多集池水 雖溢 儲溝方尓 吾将越八方 あしがもの すだくいけみづ はふるとも まけみぞのへに われこえめやも ・・・・・・・・・・
* 「まけ溝」は、水を流し出すために掘った溝のこと。葦中に鴨が多数集まって 騒いで池の水があふれたとしても まけ溝の方にひかれて 越えて行ったりするでしょうか ・・・・・・・・・・ 2834 [題詞](譬喩) 日本之 室原乃毛桃 本繁 言大王物乎 不成不止 やまとの むろふのけもも もとしげく いひてしものを ならずはやまじ ・・・・・・・・・・
大和の室生の毛桃の木が 根本から良く繁っているように 心情こめて言い交わしたんだもの 実がならないではおくものですか ・・・・・・・・・・ 2835 [題詞](譬喩) 真葛延 小野之淺茅乎 自心毛 人引目八面 吾莫名國 [まくずはふ] をののあさぢを] こころゆも ひとひかめやも わがなけなくに ・・・・・・・・・・
ま葛の這い延べるように思い広がる小野の浅茅の あの子を本気で人が引き抜いたりするか この私がいないならともかく ・・・・・・・・・・ サ2836 [題詞](譬喩) 三嶋菅 未苗在 時待者 不著也将成 三嶋菅笠 みしますげ いまだなへなり ときまたば きずやなりなむ みしますがかさ ・・・・・・・・・・
* 「なり」は断定の助動詞。三島江の菅はまだ幼い苗だよ といって時を待って放っておいたら わたしは着ずじまいになりそうだ あの娘が三島菅が笠になるまで待っていたら ・・・・・・・・・・ * 「待たば」;もし待っていたら 「待た」は、タ行四段活用動詞「待つ」の未然形。 「ば」は、仮定条件の接続助詞。 * 「着ずやなりなん」;着なくなってしまうだろう。 「着」は、カ行上一段活用動詞「着る」の未然形。 「ず」は、打消の助動詞。 「や」は、疑問の係助詞。 「なり」は、ラ行四段活用動詞「なる」の連用形。 「なん」は、強調の助動詞「ぬ」の未然形に、推量の助動詞「ん」が付いたもの。 * 「三島菅笠」は成熟した女性を喩えたもの。 2837 奈良県,吉野,女歌 [題詞](譬喩) 三吉野之 水具麻我菅乎 不編尓 苅耳苅而 将乱跡也 [みよしのの みぐまがすげを あまなくに] かりのみかりて みだりてむとや ・・・・・・・・・・
吉野川の川隈に生えている菅を 刈るだけ刈って籠にも編まないように 散らかしっぱなしにしておくのですか 添いとげるつもりはなくて ・・・・・・・・・・ 2838 [題詞](譬喩) 河上尓 洗若菜之 流来而 妹之當乃 瀬社因目 かはかみに あらふわかなの ながれきて いもがあたりの せにこそよらめ ・・・・・・・・・・
ここはあの子のいる川上だから 洗う若菜よあの子の家の瀬に寄ってほしい わたしを思い出すように寄ってくれ ・・・・・・・・・・ 2839 奈良県,五条市 [題詞](譬喩) 如是為哉 猶八成牛鳴 大荒木之 浮田之<社>之 標尓不有尓 かくしてや なほやまもらむ おほあらきの うきたのもりの しめにあらなくに ・・・・・・・・・・
(五條市の荒木神社)このようにしてまで ずっと守り続けるのだろうか 大荒木の浮田の社の標縄ではないのに 親の許しも得られずただ見守るだけで ・・・・・・・・・・ 2840 うわさ,女歌 [題詞](譬喩) 幾多毛 不零雨故 吾背子之 三名乃幾許 瀧毛動響二 いくばくも ふらぬあめゆゑ わがせこが みなのここだく たきもとどろに ・・・・・・・・・・
よほど降った雨でもないのに 浮き名の流れようときたら ごうごうと流れる滝のよう 私の元へはすっかりご無沙汰な夫は ・・・・・・・・・・ <万葉集巻第十一 完> |
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2819 枕詞,大阪府,難波,怨 [題詞](問答) 臨照 難波菅笠 置古之 後者誰将著 笠有莫國 [おしてる] なにはすがかさ おきふるし のちはたがきむ かさならなくに ・・・・・・・・・・
難波の菅笠なのに 着ずかぶらず置き古して 放っておいたところで 後で誰かが使うでしょうか そんな笠だというわけではないのに ・・・・・・・・・・ 2820 [題詞](問答) 如是谷裳 妹乎待南 左夜深而 出来月之 傾二手荷 かくだにも いもをまちなむ さよふけて いでこしつきの かたぶくまでに ・・・・・・・・・・
こんなにして 恋いしい君を待ち続けている 夜も更けて 月が夜空に出てから もう随分西に傾いた ・・・・・・・・・・ 2821 [題詞](問答) 木間従 移歴月之 影惜 俳徊尓 左夜深去家里 このまより うつろふつきの かげををしみ たちもとほるに さよふけにけり ・・・・・・・・・・
木々の間から移ろう月影にひかれて 愛しいものよともとおり惜しんで歩き回って 君さえ忘れて夜が更けてしまったのよ ・・・・・・・・・・ 2822 枕詞,異伝,序詞 [題詞](問答) 栲領布乃 白濱浪乃 不肯縁 荒振妹尓 戀乍曽居 [一云 戀流己呂可母] [たくひれの] しらはまなみの よりもあへず あらぶるいもに こひつつぞをる[こふるころかも] ・・・・・・・・・・
* 「樗領布の」は鷺の冠毛を白い布に見立てた枕詞。まるで栲領布のような白波だけれど 激しくうち寄せているので近寄りにくいなあ いい加減に機嫌を直してくれよ そんなお前でも俺は惚れているんだから ・・・・・・・・・・ 2823 枕詞,怨 [題詞](問答) 加敝良末尓 君社吾尓 栲領巾之 白濱浪乃 縁時毛無 かへらまに きみこそわれに [たくひれの] しらはまなみの よるときもなき ・・・・・・・・・・
* 「かへらまに」かえって、逆に、反対に。うそ あなたこそ白波のように 浜に寄っても来ないくせに ・・・・・・・・・・ 2824 女歌 [題詞](問答) 念人 <将>来跡知者 八重六倉 覆庭尓 珠布益乎 おもふひと こむとしりせば やへむぐら おほへるにはに たましかましを ・・・・・・・・・・
あなたがおいでになると知っていたら 雑草に覆われた庭をきれいにして 玉砂利でも敷いておきましたのに ・・・・・・・・・・ 2825 [題詞](問答) 玉敷有 家毛何将為 八重六倉 覆小屋毛 妹与居者 たましける いへもなにせむ やへむぐら おほへるこやも いもとをりせば ・・・・・・・・・・
玉を敷いた家が何になろうか たとえ八重むぐらの生い茂った小屋でも 君と一緒に過ごせるならそれでいいんだ ・・・・・・・・・・ 2826 枕詞 [題詞](問答) 如是為乍 有名草目手 玉緒之 絶而別者 為便可無 かくしつつ ありなぐさめて たまのをの たえてわかれば すべなかるべし ・・・・・・・・・・
このようにしながら 君と一緒にあり続け 気持ちを慰めて行きたいが 別れてしまったら もうどうしようもなくつらいことだろう ・・・・・・・・・・ 2827 別れ [題詞](問答) 紅 花西有者 衣袖尓 染著持而 可行所念 くれなゐの はなにしあらば ころもでに そめつけもちて ゆくべくおもほゆ ・・・・・・・・・・
* 「くれない ―なゐ」 紅〔「呉(くれ)の藍(あい)」の転〕あなたが紅の花だったなら その末摘花の汁で 衣の袖口を染め付けて 一緒について行きたいと思うものです ・・・・・・・・・・ (1)鮮やかな赤色。紅花の汁で染めた色。 (2)ベニバナ。末摘花(すえつむはな)。 |
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問答 2808 作者:柿本人麻呂歌集 [題詞]問答 眉根掻 鼻火紐解 待八方 何時毛将見跡 戀来吾乎 まよねかき はなひひもとけ まてりやも いつかもみむと こひこしわれを ・・・・・・・・・・
* 万葉人は、恋人が強く思ってくれると眉が痒くなる、くしゃみが出る、逢いたいと思い続けると相手の下着の紐がほどけるなどと考えていたらしい。眉毛を掻いたり、くしゃみをしたり、ランジェリーの紐がほどけたりしてるかい。(おまえさんに)会いたいな。わし(が来るの)を、待っていておくれ 眉を掻き、くしゃみをして、紐を解いて待っていてくれたんですか、早く逢いたいと恋しく思ってやって来た私を ・・・・・・・・・・ それを逆手にとって、恋人に逢いたいと思うとき、眉を掻き、わざとくしゃみをし、紐をほどく、そんなおまじないをかけていたのだろう。 2809 女歌 [題詞](問答) 今日有者 鼻<火鼻火之> 眉可由見 思之言者 君西在来 けふなれば はなひはなひし まよかゆみ おもひしことは きみにしありけり ・・・・・・・・・・
今日お帰りだったのですね くしゃみが止まらず 眉も痒くなってきて 思い当たることがありましたよ ・・・・・・・・・・ 2810 枕詞 [題詞](問答) 音耳乎 聞而哉戀 犬馬鏡 <直目>相而 戀巻裳太口 おとのみを ききてやこひむ まそかがみ ただめにあひて こひまくもいたく ・・・・・・・・・・
噂だけを聞いては恋してましたが 直接お会いするのにまさることはありません ・・・・・・・・・・ 2811 枕詞 [題詞](問答) 此言乎 聞跡<平> 真十鏡 照月夜裳 闇耳見 このことを きかむとならし まそかがみ てれるつくよも やみのみにみつ ・・・・・・・・・・
そんなつれない言葉を聞くなんて 明るく照らす月夜も闇夜のようです ・・・・・・・・・・ 2812 枕詞 [題詞](問答) 吾妹兒尓 戀而為便無<三> 白細布之 袖反之者 夢所見也 わぎもこに こひてすべなみ しろたへの そでかへししは いめにみえきや ・・・・・・・・・・
あの子にいつも恋してるだけ ねまきの袖を裏返して寝ると 夢に現れるというからそうしよう ・・・・・・・・・・ 2813 女歌 [題詞](問答) 吾背子之 袖反夜之 夢有之 真毛君尓 如相有 わがせこが そでかへすよの いめならし まこともきみに あひたるごとし ・・・・・・・・・・
夫が袖を裏返して眠たので見た夢だったのね 本当に逢っていたように思ったのに ・・・・・・・・・・ 2814 [題詞](問答) 吾戀者 名草目金津 真氣長 夢不所見而 <年>之經去礼者 あがこひは なぐさめかねつ まけながく いめにみえずて としのへぬれば ・・・・・・・・・・
わたしの恋は終わったのね 日々長いこと君は夢にさえ見えないで そして年は経てしまいました ・・・・・・・・・・ 2815 [題詞](問答) 真氣永 夢毛不所見 雖絶 吾之片戀者 止時毛不有 まけながく いめにもみえず たえぬとも あがかたこひは やむときもあらじ ・・・・・・・・・・
日々ただ過ぎて夢にも見えない あなたの思いが絶えてしまっても わたしの片思いが止む時はないでしょう ・・・・・・・・・・ 2816 枕詞 [題詞](問答) 浦觸而 物莫念 天雲之 絶多不心 吾念莫國 うらぶれて ものなおもひそ あまくもの たゆたふこころ わがおもはなくに ・・・・・・・・・・
悲しんで思案にふけるなんて しないでください 雲がさすらうように ためらいの心など 私は思ってもいないのだから ・・・・・・・・・・ 2817 [題詞](問答) 浦觸而 物者不念 水無瀬川 有而毛水者 逝云物乎 うらぶれて ものはおもはじ みなせがは ありてもみづは ゆくといふものを ・・・・・・・・・・
悲しんで思案にふけこむなんてしない 水無瀬川は見える川面に水がなくても ちゃんと底を伏せて流れているんだから ・・・・・・・・・・ 2818 比喩,奈良県,佐紀町 [題詞](問答) 垣津旗 開沼之菅乎 笠尓縫 将著日乎待尓 <年>曽經去来 かきつはた さきぬのすげを かさにぬひ きむひをまつに としぞへにける ・・・・・・・・・・
かきつばた佐紀沼の菅を笠に縫いつけて あでやかにかぶる日を待っているうちに いつの間にか随分年が経ってしまった ・・・・・・・・・・ |
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2796 [題詞](寄物陳思) 水泳 玉尓接有 礒貝之 獨戀耳 <年>者經管 [みづくくる たまにまじれる いそかひの] かたこひのみに としはへにつつ ・・・・・・・・・・
水中の玉に混じって岩にとりつく磯貝のように 片思いのせつない恋にしがみついたまま 年はどんどん過ぎてしまう ・・・・・・・・・・ 2797 大阪府,住吉,序詞 [題詞](寄物陳思) 住吉之 濱尓縁云 打背貝 實無言以 余将戀八方 [すみのえの はまによるといふ うつせがひ] みなきこともち あれこひめやも ・・・・・・・・・・
住之江の浜に寄せる貝殻の 実のない言葉で 私は恋をするでしょうか ・・・・・・・・・・ 2798 三重県,伊勢,序詞 [題詞](寄物陳思) 伊勢乃白水郎之 朝魚夕菜尓 潜云 鰒貝之 獨念荷指天 [いせのあまの あさなゆふなに かづくといふ] あはびのかひの かたもひにして ・・・・・・・・・・
伊勢のあまは 朝も夕べも 海に潜ぐって鮑をとるという 通い続けるわたしは 伊勢の鮑の片思いということだなあ ・・・・・・・・・・ 2799 うわさ,女歌,枕詞 [題詞](寄物陳思) 人事乎 繁跡君乎 鶉鳴 人之古家尓 相<語>而遣都 ひとごとを しげみときみを [うづらなく] ひとのふるへに かたらひてやりつ ・・・・・・・・・・
人の噂がうるさいので 古い空き家で逢ってお帰ししました ・・・・・・・・・・ 2800 女歌,自嘲 [題詞](寄物陳思) 旭時等 鶏鳴成 縦恵也思 獨宿夜者 開者雖明 あかときと かけはなくなり よしゑやし ひとりぬるよは あけばあけぬとも ・・・・・・・・・・
明け方には鶏が時を告げる ままよ 独り寝の夜が 明けようが明けまいが どうでも ・・・・・・・・・・ 2801 女歌,序詞 [題詞](寄物陳思) 大海之 荒礒之渚鳥 朝名旦名 見巻欲乎 不所見公可聞 [おほうみの ありそのすどり あさなさな] みまくほしきを みえぬきみかも ・・・・・・・・・・
大海の波が打ち寄せる荒礒のす鳥ではないが 毎朝毎朝会いたくてもあなたはいない ・・・・・・・・・・ 2802 枕詞,序詞 [題詞](寄物陳思) 念友 念毛金津 足桧之 山鳥尾之 永此夜乎 [おもへども おもひもかねつ あしひきの] やまどりのをの ながきこのよを ・・・・・・・・・・
* 「の」格助詞 主格・修飾格。体言に付いて、それ以前の語句を、あとに続く用言の比喩・例として提示する。和歌の序詞の技法はこれにあたる。「のように」の意。思っても思いに耐えかねる 夫の肌に触れることもできず 山鳥の尾のように長いこの夜を ・・・・・・・・・・ 2802S 枕詞,序詞,女歌,異伝 [題詞](寄物陳思)或本歌<曰> 足日木乃 山鳥之尾乃 四垂尾乃 長永夜乎 一鴨将宿 (柿本人麿) 万葉集2802 / 拾遺和歌集 778 / 小倉百人一首 3 ・・・・・・・・・・・・
[山鳥のながながしいしだれ尾のように] まことに長い秋の夜を [山鳥の雌と雄が谷を隔てて夜を過ごすのに似て] あなたを恋い慕いながらひとり寝するわたしであることよ ・・・・・・・・・・・・・ (夜は一人寝するといわれる)山鳥の 長く垂れ下がっている尾のように 長い長い秋の夜を わたしも一人寝るのだろうかなあ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ <『拾遺集』・巻十三・恋三・に「題知らず、人麿」> * あしひきの; 山鳥の「山」の枕詞。 * 山鳥の尾の; 山鳥はきじ科に属する野鳥。雄は尾が長い。雌雄、夜は谷を隔てて別に寝ると伝えられ、結句の「ひとりかも寝む」と関係がつく。 「の」は、共に連体修飾語をつくる格助詞。 * しだり尾の;「しだり尾」は長く垂れ下がっている尾。 * 「の」は、たとえ(・・のように)を表す格助詞。本来は主格表示。 以上三句で、「ながながし」の序詞。 ながながし夜を ひとりかも寝む; 「ながながし」は、シク活用形容詞終止形(上古における連体形代用) 「ひとり」は名詞。 「か」は疑問の係助詞で、結びは「む」。推量の助動詞「む」の連体形。 「も」は感動・強意の係助詞。 「寝」は下二段活用動詞「ぬ」の未然形。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2803 序詞,異伝 [題詞](寄物陳思) [さとなかに なくなるかけの よびたてて] いたくはなかぬ こもりづまはも[さととよめ なくなるかけの] ・・・・・・・・・・
里中で飼育されている鶏は大声で鳴くが さびしくても声をたてて泣けない隠り妻よ (集落に響く ニワトリの鳴きごえ) ・・・・・・・・・・ 2804 序詞,女歌 [題詞](寄物陳思) 高山尓 高部左渡 高々尓 余待公乎 待将出可聞 [たかやまに たかべさわたり たかたかに] わがまつきみを まちいでむかも ・・・・・・・・・・
* 「たかべ」コガモの古名。高い山をコガモが渡る 私はあなたを見通しよい小高いところで 今か今かと出て待ってるの ・・・・・・・・・・ 2805 三重県,伊勢,序詞,女歌 [題詞](寄物陳思) 伊勢能海従 鳴来鶴乃 音杼侶毛 君之所聞者 吾将戀八方 [いせのうみゆ なきくるたづの おとどろも] きみがきこさば あれこひめやも ・・・・・・・・・・
伊勢の海から鶴は鳴きながら飛んでくるという あの声のようにあなたの声が聞こえたら わたしはこんなに不安な思いで 恋いこがれるでしょうか ・・・・・・・・・・ 2806 序詞 [題詞](寄物陳思) 吾妹兒尓 戀尓可有牟 奥尓住 鴨之浮宿之 安雲無 [わぎもこに こふれにかあらむ おきにすむ] かものうきねの やすけくもなし ・・・・・・・・・・
恋しているせいか 沖の鴨が水面にゆれながら眠ているが わたしの心は安らぎもなく 妻を思って揺れている ・・・・・・・・・・ 2807 枕詞,女歌 [題詞](寄物陳思) 可旭 千鳥數鳴 白細乃 君之手枕 未○君 あけぬべく ちとりしばなく [しろたへの] きみがたまくら いまだあかなくに ・・・・・・・・・・
夜が明けるよって千鳥がしきりに鳴いている 君の手枕でもっと寝ていたいのに ・・・・・・・・・・ |



