ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

・・万葉集(〃)

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2840

[題詞](譬喩)

[原文]幾多毛 不零雨故 吾背子之 三名乃幾許 瀧毛動響二

[訓読]いくばくも降らぬ雨ゆゑ我が背子が御名のここだく瀧もとどろに

[仮名],いくばくも,ふらぬあめゆゑ,わがせこが,みなのここだく,たきもとどろに

[左注]右一首寄瀧喩思

[校異]

[KW],うわさ,恋愛,女歌




2841 作者:柿本人麻呂歌集,女歌,後朝

[題詞]正述心緒

我背子之  朝明形  吉不見  今日間  戀暮鴨

我が背子が 朝明の姿 よく見ずて 今日の間を 恋ひ暮らすかも 

わがせこが あさけのすがた よくみずて けふのあひだを こひくらすかも
・・・・・・・・・・
夫が早朝にお帰りになる時の姿を

よく見ずに別れてしまって

今日は一日中物足りなくさびしく暮らすのかなあ

早く今夜が来ればと待ち遠しい
・・・・・・・・・・



サ2842 作者:柿本人麻呂歌集,女歌

[題詞](正述心緒)

我心  等望使念  新夜  一夜不落  夢見<与>

我が心 ともしみ思ふ 新夜の 一夜もおちず 夢に見えこそ 

あがこころ ともしみおもふ あらたよの ひとよもおちず いめにみえこそ
・・・・・・・・・・
私の心はあの娘に張り付いて離れない

めぐり来る一夜たりと欠かさずに

恋焦がれるこの思いを

あの人に伝えてくれ 夢よ
・・・・・・・・・・
* <国語篇(その七)>より。17[12-2842]「等望使念」は、ここでは
「とまうつかひね」、「タウマウ・ツカハ・ヒネ」と訓むこととます。
「(私の心は)娘子(の上)に・情熱的に・定着している(離れない)」
* 「あらた-よ 」【新た夜】毎日めぐってくる新しい夜。毎夜。
* 「おちず」は、欠かさず。




2843 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

愛>  我念妹  人皆  如去見耶  手不纒為

愛しと 我が思ふ妹を 人皆の 行くごと見めや 手にまかずして 

うつくしと あがおもふいもを ひとみなの ゆくごとみめや てにまかずして
・・・・・・・・・・
恋しい女が歩いている

それを人が皆するようにただ見ていられようか

この手で抱きしめることもなく
・・・・・・・・・・



2844 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](正述心緒)

比>日  寐之不寐  敷細布  手枕纒  寐欲

このころの 寐の寝らえぬは 敷栲の 手枕まきて 寝まく欲りこそタ 

このころの いのねらえぬは [しきたへの] たまくらまきて ねまくほりこそ
・・・・・・・・・・
このころの夜

寝るに寝られないのは

貴女を手枕にして

抱きしめていっしょに寝たいと

想うからこそでしょう
・・・・・・・・・・



2845 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](正述心緒)

<忘>哉  語  意遣  雖過不過  猶戀

忘るやと 物語りして 心遣り 過ぐせど過ぎず なほ恋ひにけり 

わするやと ものがたりして [こころやり] すぐせどすぎず なほこひにけり
・・・・・・・・・・
忘れられるかと

人と世間話などして気を紛らせ

遣り過ごそうとしたが

いっそう恋心は募るばかりだ
・・・・・・・・・・



2846 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](正述心緒)

夜不寐  安不有  白細布  衣不脱  及直相

夜も寝ず 安くもあらず 白栲の 衣は脱かじ 直に逢ふまでに 

よるもねず やすくもあらず [しろたへの] ころもはぬかじ ただにあふまでに
・・・・・・・・・・
夜も貴方を想って寝られず

気も休まることがない

あの時の衣は脱がずにいよう

じかに逢うまで
・・・・・・・・・・



2847 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

後相  吾莫戀  妹雖云  戀間  年經乍

後も逢はむ 我にな恋ひそと 妹は言へど 恋ふる間に 年は経につつ 

のちもあはむ われになこひそと いもはいへど こふるあひだに としはへにつつ
・・・・・・・・・・
後で逢いましょう今は私を求めないで

と貴女は云いましたが

こうして恋慕っている間にも

年月は過ぎてしまう
・・・・・・・・・・



サ2848 作者:柿本人麻呂歌集,異伝,うわさ

[題詞](正述心緒)

不直<相>  有諾  夢谷  何人  事繁 [或本歌曰  <寤>者  諾毛不相  夢左倍]

直に会はず あるはうべなり 夢にだに 何しか人の 言の繁けむ [或本歌曰 うつつには うべも逢はなく 夢にさへ]  

ただにあはず あるはうべなり いめにだに なにしかひとの ことのしげけむ[うつつには うべもあはなく いめにさへ]
・・・・・・・・・・
直接に逢わないでいるとなるほどそうでしょう

現実には逢えないので夢の中で逢おうとしても

それすら人目をはばかって逢おうとしないのですか

夢の中のことまで人は噂をするのでしょうか 
・・・・・・・・・・
* 「うべ‐も」「も」は係助詞。なるほどその通りに。もっともなことに。



2849 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](正述心緒)

烏玉  彼夢  見継哉  袖乾日無  吾戀矣

ぬばたまの その夢にだに 見え継ぐや 袖干る日なく 我れは恋ふるを 

[ぬばたまの] そのいめにだに みえつぐや そでふるひなく あれはこふるを
・・・・・・・・・・
夜に見るその夢の続きを私は見たい

恋しくて涙で袖が乾く暇がないほど

私は恋しているのだから
・・・・・・・・・・



2850 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

現  直不相  夢谷  相見与  我戀國

うつつには 直には逢はず 夢にだに 逢ふと見えこそ 吾が恋ふらくに 

うつつには ただにはあはず いめにだに あふとみえこそ あがこふらくに
・・・・・・・・・・
現実には直接に逢えません

だから夢の中で貴女に逢っています

私は恋しているのだから
・・・・・・・・・・


譬喩




2828 人目,うわさ,比喩

[題詞]譬喩

紅之  深染乃衣乎  下著者  人之見久尓  仁寳比将出鴨

紅の 深染めの衣を 下に着ば 人の見らくに にほひ出でむかも 

くれなゐの こそめのきぬを したにきば ひとのみらくに にほひいでむかも
・・・・・・・・・・
紅花の紅色を濃く染めた下着を着たけど

人が見みたら透けてたりしてないかしら
・・・・・・・・・・
* 「くれなゐの」は、「べに‐ばな」【紅花】
キク科の越年草。高さ約1メートル。葉は堅くてぎざぎざがあり、互生する。夏、アザミに似た頭状花が咲き、鮮黄色から赤色に変わる。花を乾かしたものを紅花(こうか)といい婦人薬とし、また口紅や染料の紅を作り、種子からは食用油をとる。エジプトの原産で、日本では山形が主産地。すえつむはな。くれのあい。べにのはな。 (出典・大辞泉)
* 「にほひ」は、視覚で捉えられる美しい色彩。



サ2829 皮肉

[題詞](譬喩)

衣霜  多在南  取易而  著者也君之  面忘而有

衣しも 多くあらなむ 取り替へて 着ればや君が 面忘れたる 

ころもしも おほくあらなむ とりかへて きればやきみが おもわすれたる
・・・・・・・・・・
朝帰りしたあと下着をみたら

衣がきっと沢山あったのだろう

よりによって他の男のを着てきてるじゃないか

早速自分のに取り替えてその女のことも忘れたよ
・・・・・・・・・・
* 「しも」は、副助詞「し」に、係助詞「も」のついたもの。強意をしめす。よりによって。にもかかわらず。
* 「なむ」は、完了の助動詞「ぬ」の未然形に、推量の助動詞「む」のついたもの。推量を表す。きっと・・であろう。
* 「たる」は、完了の助動詞「たり」の連体形。



サ2830

[題詞](譬喩)

梓弓  弓束巻易  中見刺  更雖引  君之随意

梓弓 弓束巻き替へ 中見さし さらに引くとも 君がまにまに 

[あづさゆみ] ゆづかまきかへ なかみさし さらにひくとも きみがまにまに
・・・・・・・・・・
弓柄を巻きかえて

このまま再度射直すとも

あるいは別の的を狙うとも

恋の駆け引きお楽しみは

きみの意のまま
・・・・・・・・・・
* 「弓柄」「ゆつか」とも。矢を射るとき、左手で弓を握る部分。ゆみづか。また、そこに巻く革。
* 「まきかへ]まきか・ふ〔他ハ下二〕新しく別なものを巻く。また、ほどいて新たに巻きつける。
* 「とも」(接助)は、接助「と」に、係助詞「も」の付いたもの。確定の事実を仮定の形で表し、意味を強める。
* 「中見刺」<国語篇(その七)>より<「まるで踵(きびす)を接して性関係を賞味するように」>



2831

[題詞](譬喩)

水沙兒居  渚座船之  夕塩乎  将待従者  吾社益

みさご居る 洲に居る舟の 夕潮を 待つらむよりは 我れこそまされ 

みさごゐる すにゐるふねの ゆふしほを まつらむよりは われこそまされ
・・・・・・・・・・
ミサゴがいる洲で夕方の満潮を待つ小舟よりも

恋人を待つ私の思いのほうこそ勝っていることよ
・・・・・・・・・・



2832

[題詞](譬喩)

山河尓  筌乎伏而  不肯盛  <年>之八歳乎  吾竊○師

山川に 筌を伏せて 守りもあへず 年の八年を 我がぬすまひし 

やまがはに うへをふせて もりもあへず としのやとせを わがぬすまひし
・・・・・・・・・・
山川に筌を仕掛け番をしていても守れないだろ

あの娘を八年間もこっそりと横取りしてきたのだから
・・・・・・・・・・
* 「うえ」筌。 魚をとる道具。竹を筒状または底のない徳利状に編んだもの。うけ。



2833

[題詞](譬喩)

葦鴨之  多集池水  雖溢  儲溝方尓  吾将越八方

葦鴨の すだく池水 溢るとも まけ溝の辺に 我れ越えめやも 

あしがもの すだくいけみづ はふるとも まけみぞのへに われこえめやも
・・・・・・・・・・
葦中に鴨が多数集まって

騒いで池の水があふれたとしても

まけ溝の方にひかれて

越えて行ったりするでしょうか
・・・・・・・・・・
* 「まけ溝」は、水を流し出すために掘った溝のこと。



2834

[題詞](譬喩)

日本之  室原乃毛桃  本繁  言大王物乎  不成不止

大和の 室生の毛桃 本繁く 言ひてしものを ならずはやまじ 

やまとの むろふのけもも もとしげく いひてしものを ならずはやまじ
・・・・・・・・・・
大和の室生の毛桃の木が

根本から良く繁っているように

心情こめて言い交わしたんだもの

実がならないではおくものですか
・・・・・・・・・・



2835

[題詞](譬喩)

真葛延  小野之淺茅乎  自心毛  人引目八面  吾莫名國

ま葛延ふ 小野の浅茅を 心ゆも 人引かめやも 我がなけなくに 

[まくずはふ] をののあさぢを] こころゆも ひとひかめやも わがなけなくに
・・・・・・・・・・
ま葛の這い延べるように思い広がる小野の浅茅の 

あの子を本気で人が引き抜いたりするか

この私がいないならともかく
・・・・・・・・・・



サ2836

[題詞](譬喩)

三嶋菅  未苗在  時待者  不著也将成  三嶋菅笠

三島菅 いまだ苗なり 時待たば 着ずやなりなむ 三島菅笠 

みしますげ いまだなへなり ときまたば きずやなりなむ みしますがかさ
・・・・・・・・・・
三島江の菅はまだ幼い苗だよ
 
といって時を待って放っておいたら

わたしは着ずじまいになりそうだ

あの娘が三島菅が笠になるまで待っていたら
・・・・・・・・・・
* 「なり」は断定の助動詞。
* 「待たば」;もし待っていたら
 「待た」は、タ行四段活用動詞「待つ」の未然形。
 「ば」は、仮定条件の接続助詞。
* 「着ずやなりなん」;着なくなってしまうだろう。
 「着」は、カ行上一段活用動詞「着る」の未然形。
 「ず」は、打消の助動詞。
 「や」は、疑問の係助詞。
 「なり」は、ラ行四段活用動詞「なる」の連用形。
 「なん」は、強調の助動詞「ぬ」の未然形に、推量の助動詞「ん」が付いたもの。
* 「三島菅笠」は成熟した女性を喩えたもの。
 


2837 奈良県,吉野,女歌

[題詞](譬喩)

三吉野之  水具麻我菅乎  不編尓  苅耳苅而  将乱跡也

み吉野の 水隈が菅を 編まなくに 刈りのみ刈りて 乱りてむとや 

[みよしのの みぐまがすげを あまなくに] かりのみかりて みだりてむとや
・・・・・・・・・・
吉野川の川隈に生えている菅を

刈るだけ刈って籠にも編まないように

散らかしっぱなしにしておくのですか

添いとげるつもりはなくて
・・・・・・・・・・



2838

[題詞](譬喩)

河上尓  洗若菜之  流来而  妹之當乃  瀬社因目

川上に 洗ふ若菜の 流れ来て 妹があたりの 瀬にこそ寄らめ 

かはかみに あらふわかなの ながれきて いもがあたりの せにこそよらめ
・・・・・・・・・・
ここはあの子のいる川上だから

洗う若菜よあの子の家の瀬に寄ってほしい

わたしを思い出すように寄ってくれ
・・・・・・・・・・



2839 奈良県,五条市

[題詞](譬喩)

如是為哉  猶八成牛鳴  大荒木之  浮田之<社>之  標尓不有尓

かくしてや なほやまもらむ 大荒木の 浮田の社の 標にあらなくに 

かくしてや なほやまもらむ おほあらきの うきたのもりの しめにあらなくに
・・・・・・・・・・
このようにしてまで

ずっと守り続けるのだろうか

大荒木の浮田の社の標縄ではないのに

親の許しも得られずただ見守るだけで
・・・・・・・・・・
(五條市の荒木神社)



2840 うわさ,女歌

[題詞](譬喩)

幾多毛  不零雨故  吾背子之  三名乃幾許  瀧毛動響二

いくばくも 降らぬ雨ゆゑ 我が背子が 御名のここだく 瀧もとどろに 

いくばくも ふらぬあめゆゑ わがせこが みなのここだく たきもとどろに
・・・・・・・・・・
よほど降った雨でもないのに

浮き名の流れようときたら

ごうごうと流れる滝のよう

私の元へはすっかりご無沙汰な夫は
・・・・・・・・・・


<万葉集巻第十一 完>


2819 枕詞,大阪府,難波,怨

[題詞](問答)

臨照  難波菅笠  置古之  後者誰将著  笠有莫國

おしてる 難波菅笠 置き古し 後は誰が着む 笠ならなくに 

[おしてる] なにはすがかさ おきふるし のちはたがきむ かさならなくに
・・・・・・・・・・
難波の菅笠なのに

着ずかぶらず置き古して

放っておいたところで

後で誰かが使うでしょうか

そんな笠だというわけではないのに
・・・・・・・・・・



2820

[題詞](問答)

如是谷裳  妹乎待南  左夜深而  出来月之  傾二手荷

かくだにも 妹を待ちなむ さ夜更けて 出で来し月の かたぶくまでに 

かくだにも いもをまちなむ さよふけて いでこしつきの かたぶくまでに
・・・・・・・・・・
こんなにして

恋いしい君を待ち続けている

夜も更けて 月が夜空に出てから 

もう随分西に傾いた
・・・・・・・・・・


2821

[題詞](問答)

木間従  移歴月之  影惜  俳徊尓  左夜深去家里

木の間より 移ろふ月の 影を惜しみ 立ち廻るに さ夜更けにけり 

このまより うつろふつきの かげををしみ たちもとほるに さよふけにけり
・・・・・・・・・・
木々の間から移ろう月影にひかれて

愛しいものよともとおり惜しんで歩き回って

君さえ忘れて夜が更けてしまったのよ
・・・・・・・・・・



2822 枕詞,異伝,序詞

[題詞](問答)

栲領布乃  白濱浪乃  不肯縁  荒振妹尓  戀乍曽居 [一云 戀流己呂可母]

栲領布の 白浜波の 寄りもあへず 荒ぶる妹に 恋ひつつぞ居る [一云 恋ふるころかも]  

[たくひれの] しらはまなみの よりもあへず あらぶるいもに こひつつぞをる[こふるころかも]
・・・・・・・・・・
まるで栲領布のような白波だけれど

激しくうち寄せているので近寄りにくいなあ

いい加減に機嫌を直してくれよ

そんなお前でも俺は惚れているんだから
・・・・・・・・・・
* 「樗領布の」は鷺の冠毛を白い布に見立てた枕詞。



2823 枕詞,怨

[題詞](問答)

加敝良末尓  君社吾尓  栲領巾之  白濱浪乃  縁時毛無

かへらまに 君こそ我れに 栲領巾の 白浜波の 寄る時もなき 

かへらまに きみこそわれに [たくひれの] しらはまなみの よるときもなき
・・・・・・・・・・
うそ あなたこそ白波のように

浜に寄っても来ないくせに
・・・・・・・・・・
* 「かへらまに」かえって、逆に、反対に。



2824 女歌

[題詞](問答)

念人  <将>来跡知者  八重六倉  覆庭尓  珠布益乎

思ふ人 来むと知りせば 八重葎 覆へる庭に 玉敷かましを 

おもふひと こむとしりせば やへむぐら おほへるにはに たましかましを
・・・・・・・・・・
あなたがおいでになると知っていたら

雑草に覆われた庭をきれいにして

玉砂利でも敷いておきましたのに
・・・・・・・・・・



2825

[題詞](問答)

玉敷有  家毛何将為  八重六倉  覆小屋毛  妹与居者

玉敷ける 家も何せむ 八重葎 覆へる小屋も 妹と居りせば 

たましける いへもなにせむ やへむぐら おほへるこやも いもとをりせば
・・・・・・・・・・
玉を敷いた家が何になろうか

たとえ八重むぐらの生い茂った小屋でも

君と一緒に過ごせるならそれでいいんだ
・・・・・・・・・・




2826 枕詞

[題詞](問答)

如是為乍  有名草目手  玉緒之  絶而別者  為便可無

かくしつつ あり慰めて 玉の緒の 絶えて別れば すべなかるべし 

かくしつつ ありなぐさめて たまのをの たえてわかれば すべなかるべし
・・・・・・・・・・
このようにしながら

君と一緒にあり続け

気持ちを慰めて行きたいが 

別れてしまったら

もうどうしようもなくつらいことだろう
・・・・・・・・・・



2827 別れ

[題詞](問答)

紅  花西有者  衣袖尓  染著持而  可行所念

紅の 花にしあらば 衣手に 染め付け持ちて 行くべく思ほゆ 

くれなゐの はなにしあらば ころもでに そめつけもちて ゆくべくおもほゆ
・・・・・・・・・・
あなたが紅の花だったなら

その末摘花の汁で

衣の袖口を染め付けて

一緒について行きたいと思うものです
・・・・・・・・・・
* 「くれない ―なゐ」 紅〔「呉(くれ)の藍(あい)」の転〕
(1)鮮やかな赤色。紅花の汁で染めた色。
(2)ベニバナ。末摘花(すえつむはな)。


問答




2808 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞]問答

眉根掻  鼻火紐解  待八方  何時毛将見跡  戀来吾乎

眉根掻き 鼻ひ紐解け 待てりやも いつかも見むと 恋ひ来し我れを 

まよねかき はなひひもとけ まてりやも いつかもみむと こひこしわれを
・・・・・・・・・・
眉毛を掻いたり、くしゃみをしたり、ランジェリーの紐がほどけたりしてるかい。(おまえさんに)会いたいな。わし(が来るの)を、待っていておくれ
眉を掻き、くしゃみをして、紐を解いて待っていてくれたんですか、早く逢いたいと恋しく思ってやって来た私を
・・・・・・・・・・
* 万葉人は、恋人が強く思ってくれると眉が痒くなる、くしゃみが出る、逢いたいと思い続けると相手の下着の紐がほどけるなどと考えていたらしい。
それを逆手にとって、恋人に逢いたいと思うとき、眉を掻き、わざとくしゃみをし、紐をほどく、そんなおまじないをかけていたのだろう。



2809 女歌

[題詞](問答)

今日有者  鼻<火鼻火之>  眉可由見  思之言者  君西在来

今日なれば 鼻ひ鼻ひし 眉かゆみ 思ひしことは 君にしありけり 

けふなれば はなひはなひし まよかゆみ おもひしことは きみにしありけり
・・・・・・・・・・
今日お帰りだったのですね

くしゃみが止まらず

眉も痒くなってきて

思い当たることがありましたよ
・・・・・・・・・・



2810 枕詞

[題詞](問答)

音耳乎  聞而哉戀  犬馬鏡  <直目>相而  戀巻裳太口

音のみを 聞きてや恋ひむ まそ鏡 直目に逢ひて 恋ひまくもいたく 

おとのみを ききてやこひむ まそかがみ ただめにあひて こひまくもいたく
・・・・・・・・・・
噂だけを聞いては恋してましたが

直接お会いするのにまさることはありません
・・・・・・・・・・



2811 枕詞

[題詞](問答)

此言乎  聞跡<平>  真十鏡  照月夜裳  闇耳見

この言を 聞かむとならし まそ鏡 照れる月夜も 闇のみに見つ 

このことを きかむとならし まそかがみ てれるつくよも やみのみにみつ
・・・・・・・・・・
そんなつれない言葉を聞くなんて

明るく照らす月夜も闇夜のようです
・・・・・・・・・・



2812 枕詞

[題詞](問答)

吾妹兒尓  戀而為便無<三>  白細布之  袖反之者  夢所見也

我妹子に 恋ひてすべなみ 白栲の 袖返ししは 夢に見えきや 

わぎもこに こひてすべなみ しろたへの そでかへししは いめにみえきや
・・・・・・・・・・
あの子にいつも恋してるだけ

ねまきの袖を裏返して寝ると

夢に現れるというからそうしよう
・・・・・・・・・・



2813 女歌

[題詞](問答)

吾背子之  袖反夜之  夢有之  真毛君尓  如相有

我が背子が 袖返す夜の 夢ならし まことも君に 逢ひたるごとし 

わがせこが そでかへすよの いめならし まこともきみに あひたるごとし
・・・・・・・・・・
夫が袖を裏返して眠たので見た夢だったのね

本当に逢っていたように思ったのに
・・・・・・・・・・



2814

[題詞](問答)

吾戀者  名草目金津  真氣長  夢不所見而  <年>之經去礼者

吾が恋は 慰めかねつ ま日長く 夢に見えずて 年の経ぬれば 

あがこひは なぐさめかねつ まけながく いめにみえずて としのへぬれば
・・・・・・・・・・
わたしの恋は終わったのね

日々長いこと君は夢にさえ見えないで

そして年は経てしまいました
・・・・・・・・・・



2815

[題詞](問答)

真氣永  夢毛不所見  雖絶  吾之片戀者  止時毛不有

ま日長く 夢にも見えず 絶えぬとも 我が片恋は やむ時もあらじ 

まけながく いめにもみえず たえぬとも あがかたこひは やむときもあらじ
・・・・・・・・・・
日々ただ過ぎて夢にも見えない

あなたの思いが絶えてしまっても

わたしの片思いが止む時はないでしょう
・・・・・・・・・・



2816 枕詞

[題詞](問答)

浦觸而  物莫念  天雲之  絶多不心  吾念莫國

うらぶれて 物な思ひそ 天雲の たゆたふ心 我が思はなくに 

うらぶれて ものなおもひそ あまくもの たゆたふこころ わがおもはなくに
・・・・・・・・・・
悲しんで思案にふけるなんて

しないでください

雲がさすらうように

ためらいの心など

私は思ってもいないのだから
・・・・・・・・・・



2817

[題詞](問答)

浦觸而  物者不念  水無瀬川  有而毛水者  逝云物乎

うらぶれて 物は思はじ 水無瀬川 ありても水は 行くといふものを 

うらぶれて ものはおもはじ みなせがは ありてもみづは ゆくといふものを
・・・・・・・・・・
悲しんで思案にふけこむなんてしない

水無瀬川は見える川面に水がなくても

ちゃんと底を伏せて流れているんだから
・・・・・・・・・・



2818 比喩,奈良県,佐紀町

[題詞](問答)

垣津旗  開沼之菅乎  笠尓縫  将著日乎待尓  <年>曽經去来

かきつはた 佐紀沼の菅を 笠に縫ひ 着む日を待つに 年ぞ経にける 

かきつはた さきぬのすげを かさにぬひ きむひをまつに としぞへにける
・・・・・・・・・・
かきつばた佐紀沼の菅を笠に縫いつけて

あでやかにかぶる日を待っているうちに

いつの間にか随分年が経ってしまった
・・・・・・・・・・


2796

[題詞](寄物陳思)

水泳  玉尓接有  礒貝之  獨戀耳  <年>者經管

水くくる 玉に交じれる 磯貝の 片恋ひのみに 年は経につつ 

[みづくくる たまにまじれる いそかひの] かたこひのみに としはへにつつ
・・・・・・・・・・
水中の玉に混じって岩にとりつく磯貝のように
 
片思いのせつない恋にしがみついたまま

年はどんどん過ぎてしまう
・・・・・・・・・・



2797 大阪府,住吉,序詞

[題詞](寄物陳思)

住吉之  濱尓縁云  打背貝  實無言以  余将戀八方

住吉の 浜に寄るといふ うつせ貝 実なき言もち 我れ恋ひめやも 

[すみのえの はまによるといふ うつせがひ] みなきこともち あれこひめやも
・・・・・・・・・・
住之江の浜に寄せる貝殻の

実のない言葉で

私は恋をするでしょうか
・・・・・・・・・・



2798 三重県,伊勢,序詞

[題詞](寄物陳思)

伊勢乃白水郎之  朝魚夕菜尓  潜云  鰒貝之  獨念荷指天

伊勢の海人の 朝な夕なに 潜くといふ 鰒の貝の 片思にして 

[いせのあまの あさなゆふなに かづくといふ] あはびのかひの かたもひにして
・・・・・・・・・・
伊勢のあまは 朝も夕べも

海に潜ぐって鮑をとるという

通い続けるわたしは

伊勢の鮑の片思いということだなあ
・・・・・・・・・・




2799 うわさ,女歌,枕詞

[題詞](寄物陳思)

人事乎  繁跡君乎  鶉鳴  人之古家尓  相<語>而遣都

人言を 繁みと君を 鶉鳴く 人の古家に 語らひて遣りつ 

ひとごとを しげみときみを [うづらなく] ひとのふるへに かたらひてやりつ
・・・・・・・・・・
人の噂がうるさいので

古い空き家で逢ってお帰ししました
・・・・・・・・・・



2800 女歌,自嘲

[題詞](寄物陳思)

旭時等  鶏鳴成  縦恵也思  獨宿夜者  開者雖明

暁と 鶏は鳴くなり よしゑやし ひとり寝る夜は 明けば明けぬとも 

あかときと かけはなくなり よしゑやし ひとりぬるよは あけばあけぬとも
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明け方には鶏が時を告げる

ままよ 独り寝の夜が

明けようが明けまいが どうでも
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2801 女歌,序詞

[題詞](寄物陳思)

大海之  荒礒之渚鳥  朝名旦名  見巻欲乎  不所見公可聞

大海の 荒礒の洲鳥 朝な朝な 見まく欲しきを 見えぬ君かも 

[おほうみの ありそのすどり あさなさな] みまくほしきを みえぬきみかも
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大海の波が打ち寄せる荒礒のす鳥ではないが

毎朝毎朝会いたくてもあなたはいない
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2802 枕詞,序詞

[題詞](寄物陳思)

念友  念毛金津  足桧之  山鳥尾之  永此夜乎

思へども 思ひもかねつ あしひきの 山鳥の尾の 長きこの夜を 

[おもへども おもひもかねつ あしひきの] やまどりのをの ながきこのよを
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思っても思いに耐えかねる

夫の肌に触れることもできず

山鳥の尾のように長いこの夜を
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* 「の」格助詞 主格・修飾格。体言に付いて、それ以前の語句を、あとに続く用言の比喩・例として提示する。和歌の序詞の技法はこれにあたる。「のように」の意。



2802S 枕詞,序詞,女歌,異伝

[題詞](寄物陳思)或本歌<曰>

足日木乃  山鳥之尾乃  四垂尾乃  長永夜乎  一鴨将宿

あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む 

(柿本人麿) 万葉集2802 / 拾遺和歌集 778 / 小倉百人一首 3
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[山鳥のながながしいしだれ尾のように]

まことに長い秋の夜を

[山鳥の雌と雄が谷を隔てて夜を過ごすのに似て]

あなたを恋い慕いながらひとり寝するわたしであることよ
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(夜は一人寝するといわれる)山鳥の
長く垂れ下がっている尾のように
長い長い秋の夜を
わたしも一人寝るのだろうかなあ
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<『拾遺集』・巻十三・恋三・に「題知らず、人麿」>

* あしひきの; 山鳥の「山」の枕詞。
* 山鳥の尾の; 山鳥はきじ科に属する野鳥。雄は尾が長い。雌雄、夜は谷を隔てて別に寝ると伝えられ、結句の「ひとりかも寝む」と関係がつく。
「の」は、共に連体修飾語をつくる格助詞。
* しだり尾の;「しだり尾」は長く垂れ下がっている尾。
* 「の」は、たとえ(・・のように)を表す格助詞。本来は主格表示。
以上三句で、「ながながし」の序詞。

ながながし夜を ひとりかも寝む;
「ながながし」は、シク活用形容詞終止形(上古における連体形代用)
「ひとり」は名詞。
「か」は疑問の係助詞で、結びは「む」。推量の助動詞「む」の連体形。
「も」は感動・強意の係助詞。
「寝」は下二段活用動詞「ぬ」の未然形。
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2803 序詞,異伝

[題詞](寄物陳思)

里中尓  鳴奈流鶏之  喚立而  甚者不鳴  隠妻羽毛 [一云 里動  鳴成鶏]

里中に 鳴くなる鶏の 呼び立てて いたくは泣かぬ 隠り妻はも [一云 里響め 鳴くなる鶏の] 

[さとなかに なくなるかけの よびたてて] いたくはなかぬ こもりづまはも[さととよめ なくなるかけの]
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里中で飼育されている鶏は大声で鳴くが

さびしくても声をたてて泣けない隠り妻よ

(集落に響く ニワトリの鳴きごえ)
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2804 序詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

高山尓  高部左渡  高々尓  余待公乎  待将出可聞

高山に たかべさ渡り 高々に 我が待つ君を 待ち出でむかも 

[たかやまに たかべさわたり たかたかに] わがまつきみを まちいでむかも
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高い山をコガモが渡る

私はあなたを見通しよい小高いところで

今か今かと出て待ってるの
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* 「たかべ」コガモの古名。




2805 三重県,伊勢,序詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

伊勢能海従  鳴来鶴乃  音杼侶毛  君之所聞者  吾将戀八方

伊勢の海ゆ 鳴き来る鶴の 音どろも 君が聞こさば 我れ恋ひめやも 

[いせのうみゆ なきくるたづの おとどろも] きみがきこさば あれこひめやも
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伊勢の海から鶴は鳴きながら飛んでくるという

あの声のようにあなたの声が聞こえたら

わたしはこんなに不安な思いで

恋いこがれるでしょうか
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2806 序詞

[題詞](寄物陳思)

吾妹兒尓  戀尓可有牟  奥尓住  鴨之浮宿之  安雲無

吾妹子に 恋ふれにかあらむ 沖に棲む 鴨の浮寝の 安けくもなし 

[わぎもこに こふれにかあらむ おきにすむ] かものうきねの やすけくもなし
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恋しているせいか

沖の鴨が水面にゆれながら眠ているが

わたしの心は安らぎもなく

妻を思って揺れている
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2807 枕詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

可旭  千鳥數鳴  白細乃  君之手枕  未○君

明けぬべく 千鳥しば鳴く 白栲の 君が手枕いまだ 飽かなくに 

あけぬべく ちとりしばなく [しろたへの] きみがたまくら いまだあかなくに
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夜が明けるよって千鳥がしきりに鳴いている

君の手枕でもっと寝ていたいのに
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